アリアは踊る   作:mera

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第二十三話

ナイトレイドが撤退した森を駆ける。

賭けてもいいですがもう向こうには察知されているでしょう。

「迎撃部隊がこっちに来ていますか。セリュー。」

「まだ、合流しようとしてる。けど森の中だから探知機の精度は低くなってるからあまりあてにしないで。」

「了解です。一旦停止して砲撃を。外さないでくださいよ。」

「外したら茶葉を一缶おごってあげる。七番。長砲身!遠視、透視起動!」

ドクターがセリューの機械化された目に再改造していると思ったら機能を追加していたのですね。

技術とスタイリッシュに終わりがないとはよく言ったものです。

それはさておき、セリューの腕が長い砲身に変わる。込められるのは榴弾。

うまくいけば一網打尽にできるのですが。

分間45発の火力投射。どうぞ存分に味わってください。

「周辺警戒は任せたから!」

「分かっています!」

砲撃音に負けないように声を張り上げながら指示を受け取る。

撃ち始めて数分後。

「来ました。数は二。片方は帝具人間です!」

「八番散布。一二番設置。コロ三番!」

ここ一体を吹き飛ばすつもりでしょうか。

「申し訳ないのですがもしかしたらアカメがいるかもしれません。暗殺者に本気で気配を消されるとこの距離では分からないのです。」

「不意を突かれないように警戒は怠らない。それでいいでしょ。」

「はい。気をつけていきましょう。」

探知機が敵の正確な場所を捉えた瞬間に仕掛けた数多の爆薬がその役割を果たす。

「やりましたかね。」

「そういう台詞を吐く時は」「大概やってないものだ。」

「わざとですよ。死んでいたら踊る相手がいないじゃないですか。」

「執行!」

私ごとセリューがスサノオとブラートを切り結ぶ。

パッチワーク。虚栄発動。

残念なことにブラートは先程の戦闘で大分疲弊していたのか。躱しきれず浅くない傷を負う。

このまま殺させてもらいましょうか。

「百人斬りに敬意を払い、百ほど斬らせてもらいましょうか。」

「させん。」

百太刀全てを防がれる。身体を大分削れたからいいのですけど。

流石に先ほどのような驚異的な再生能力はないでしょう。スサノオ。

このままコアまで削りきって差し上げます。

一瞬、力が抜ける。

視線を遮る木々がある森の中で私の中枢神経系を撃ち抜いて動きを一瞬でも止めるのはさすがです。マイン。

ですがそれも一時しのぎに過ぎません。そう何度も神がかった狙撃はできないでしょう。

一度でも外せば目の前を片付けられます。

「セリュー増援は要りませんよね。」

「アリアごと吹き飛ばしていいならね!」

「構いません。爆煙で何も見えないぐらいのをお願いします。」

「じゃあ、派手に行くよ!!コロ!六番、クラスター、直上!」

ブラートを派手に蹴り飛ばして作り出した隙に、コロの口から直接大型ロケットが発射される。

クラスターということは流石に回避に専念しますか。

感覚を研ぎ澄ませて数多の爆弾から生じる破片のうち致命傷になりうるものだけを防ぎ、弾く。

もうもうと立ち込める土煙の中気配をたよりにスサノオに斬りかかる。

帝具人間の気配は独特ですから辿りやすいです。

強化される前に斬り壊すとします。

後ろに飛び去る。なんとなく飛ばなければいけない気がしました。

「葬る!」

アカメが私の脇腹を裂いてスサノオの後ろに立つ。

村雨なら心臓ごと取り替えるだけの話で・・・・・・脇腹の傷が治らない。

「臣具。桐一文字。破壊されたと聞いていましたが。」

「革命軍が総力を挙げて直した。お前を殺すために。前回はぎりぎり間に合わなかったがな。」

「セリュー。援軍には行けそうもありません。」

「目の前のことに全力を尽くせ!!」

「そうですね。そうさせてもらいます。」

友人からの激励を受け取りながら状況を整理する。

あの二人の役割は簡単です。

スサノオがアカメを守る。アカメは隙ができるのも気にせず私に切りかかる。

確かにこれなら私の命に届きうるかもしれません。

ですが、私も身勝手に死ぬわけにはいかないのです。

それにいいこともあります。土煙があるおかげで狙撃に怯える心配がかなり減りました。

この状況下で何を成せば生き残れるでしょうか。

徐々に増える治らないかすり傷から目をそらして考える。

・・・・・・距離をとりますか。殺気の残像を前に飛ばし、自分は後ろに飛んで、十数メートルの距離を取る。

「報復絶刀!」

渾身の突きで十数メートル離れたアカメとスサノオを突き殺そうとする。当たれば爆散する威力なのですが。

まぁ、当たるまで突き続けるだけです。

三段突きと組み合わせて黙々と突き続ける。

先程から帝具人間の手足に当たる感触はあるのですが肝心のアカメには掠りもしていませんね。

気配が遠ざかっていく。逃げられましたか。

警戒は解かず、気を抜かずにおく。

ここで首をはねられるなんて無様晒したくはありませんから。

「セリュー、そちらも逃げられましたか。」

「致命傷とはいかなくてもだいぶ重傷を負わせられたと思う。少なくとも一月は動けないよ。」

「十分な収穫ですね。私は何も手に入れられませんでした。せいぜい私と相性最悪の武器を向こうが持ってることを知れたくらいでしょうか。」

治癒に集中できる環境になってようやく脇腹の傷が治る。

「一応敵の動きはまだ把握してるから追撃は続行できるけどどうする。」

「これ以上の投薬は命に関わりますし、リスクとリターンが見合わないでしょう。それにいつまでも負けを認めないのは見苦しいです。撤退しましょう。」

「了解。コロ、機動形態。あと七番。」

「持ってきたアリアカスタムを。ありがとうございます。」

マインの狙撃に備えて反撃の準備をしながら撤退の準備を進めていく。

「なるべく見通しの良いところを走りましょう。」

「了解。あれだけの腕なら森の中だろうが関係ないだろうしね。」

遭遇戦は完敗。追撃戦は惜敗でしょうか。二連敗を喫するとは後でエスデスになんと言われるやら。

「ボルスさんの遺体を収容後、ウェイブとの合流を待ち、近場の街でエスデス達と合流します。反論は。」

「ないよ。要望としては副作用が収まる一週間は安静にさせてほしいってところかな。」

「最悪の場合はパッチワークで強引に直しますからご安心ください。」

「・・・・・・ナイトレイドを壊滅させたら培養槽に入るか湯治に行こう。絶対。」

「その時は是非ご一緒させてくださいね。」

「お互い生き残っていたらね。」

軽口を叩きながら撤退していくどうやら狙撃に怯える心配はないようですね。

探知機を見張りながら以上がないかを確認する。

どうやら大丈夫のようです。

「無事に撤退できたら紅茶を入れて差し上げます。」

「美味しいのをお願い。」

「もちろんです。」

次は必ず葬って差し上げます。スサノオ。ええ、必ずです。

 




ナイトレイド対イェーガーズの第一戦の後半です。
始まりは敗北から。アリアたちには苦い戦いとなりました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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