「ここはどこだ。」
「少なくとも今さっきまでいた山ではないな。」
空を見上げながらエスデスが断言する。
つられて空を見上げるとさっきの山と星の位置が違う。
そもそも山にいたのに海辺にいる状況がおかしい。
「ふむ。星の位置から考えてあまり遠くに飛ばされたわけではないようだな。」
懐中時計を取り出して月との角度を確認して、大体の位置を割り出す。
「器用なものだな。少し島の全景を確認してくる。どこにもいくなよ。」
「ただでさえ遭難してるのに。そこまで馬鹿じゃないですよ。」
エスデスが空を駆けてる間に大体の位置を割り出さないと。
「水源の確認はできた。飢え死には避けれそうだぞ。」
「位置の割り出しも終わった。帝都南の孤島。多分この辺り。」
「危険種に乗って二日と言ったところか。…………最近休みを取れてなかったからな。この島でバカンスとしないか。」
「ウェイブとか、ボルスさんとかに迷惑ですし。アリアは昏睡状態だから休んでる暇はないんじゃ。」
「そう固い事を言うな。折角二人きりなんだ。それにセリューとボルスが居れば部隊は回る。休暇も必要だぞ。」
「えーと」
「隊長命令だ。これでもダメか。」
そう言いながら迫ってこないでください。その色々と強調されて。
「わ、分かりました。だから迫ってこないでください。」
「ん。ああ、なるほど。えい。」
抱き付かれて砂浜に押し倒される。あ、星が綺麗だな。
「どうだ。」
「どうだと言われてもその、えっと。」
「初心だな。アリアがからかいたがるわけだ。」
つまり今までのは全てからかいって事だな。良し。
「私は違うがな。私は……好きだからするんだ。」
「エスデス。何度も言ってるけどそれにはまだ答えられない。エスデスの横に立てるような男になってない。」
他人から見れば狂者の戯言に聞こえるかもしれないけど俺にだって矜持がある。好きな相手に守られてばかりだなんて情けないのは嫌だ。
「分かってるさ。タツミがそう答える事ぐらい。……タツミは私が好きか。」
「・・・・・・嫌いじゃないのは確かなんだ。俺はエスデスと一緒に居て嫌だと思ったことは無い。」
「この気持ちを少しでも分けれたらはっきりするのにな。まぁ、今の居心地も悪くはない。」
「だったら離れてくれませんか。」
「い や だ。普段我慢しているからな。人目のない所でくらい抱き付かせろ。今はそれでいい。」
普段の優柔不断を反省してお詫びのつもりで抱き返す。
思いの外華奢な身体なんだな。と思いつつ軽く抱きしめる。
周りを氷の壁が覆っていく。少しだけ肌寒い。
「これなら邪魔も入らない。それに寒ければ寄り添う理由にもなるだろう。」
「無茶苦茶だ。」
「私がそうじゃない時がひと時でもあったか。」
「ほとんどないな。」
数少ない例外にアリアにからかわれた時があるけど。
「ただ、戦いばかりが人生じゃない。それが少しだけ分かった気がする。こうタツミに抱きつかれているとな。」
「でも、やめられはしないんだろう。」
アリアのように戦うのをやめた自分なんて想像出来ないだろうから。
「ああ。だが少し立ち止まるのも悪くないと思えるようになった。走り続けていたらタツミが追いついてこれないからな。」
「どうせ、弱いですよ。俺は。」
「今はだ。すごい勢いで成長している。・・・・・・早く私の隣に来い。待ってるぞ。」
ああ、追いつかないと。エスデスやセリューさん。アリアが居る場所へ。
自分の想いを貫くために。
「俺は強くなって自分の手が届く範囲で人を救う。もしかしたらエスデスと刃を交えるかもしれない。」
「それでも構わない。言葉を交わすのと何も変わらない。その時は全力で来い。」
周りから見たらおかしな光景なんだろうな。いつか殺し合うかもしれない人と抱き合うなんて。
でも、殺し合う相手と仲が良いのはあってもいいことだろう。
アリアの影響かそう考えてしまえる。
「もちろん。エスデス相手に手は抜かない。」
「そうでなければな。・・・・・・私は不意をうつのも好きなんだ。初めてだが悪いものじゃないな。」
「いきなりキスするのはやめない。・・・・・・俺はアリアに人工呼吸とかからかいのほっぺとかで慣れてますけど。」
・・・・・・周りの気温が一気に下がる。怒らした。
「タツミには怒っていない。ただ、アリアとのかなり
アリア、ごめん。いや、アリアなら逆に喜びそうな。
「二人きりなのだから他の女の事を考えるな。」
「心でも読めるんですか。」
「まさか、ただの勘だ。」
満天の星空を二人で手をつなぎながら眺める。
「・・・・・・そうだ。アリアの口癖を借りよう。この星空は願うのにちょうどいい。」
「え。ああ、いいな。」
「「例え、歩く道が違えてもあなたが歩く道の上にたくさんの幸せがありますように。」」
「まるで恋人だな。」
「実際は部下と上司ですけどね。」
口を思いっきり引っ張られる。痛い痛い。
「野暮なやつ。」
「ごめん。」
女心は難しいなほんとに。
「まぁいい。さて、遊ぶぞ。タツミ。せっかくの休暇だからな。付き合え。」
「はいはい。分かりましたよ。」
体を休める休暇にはなりそうもないけれど楽しい休暇になるのは間違いなさそうだ。
少しでも本当に少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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