私も彼も動かない。私は待っている。彼が呼吸を整え必殺の一撃を出すのを。彼の器の底とはいかないまでもある程度は計りたいから。
来た。上段からの肩目掛けての打ち下し。剣で受け流す。あ、まずい。折れる。
何とか、剣が断ち斬られるという事はありましたが受け流しました。
剣が跳ね上げられる前に踏み抑え、柄を踏み抜く。手を砕くつもりでしたが反応が早くて逃げられましたか。ただ、このまま
あ、まだ。そう根拠なく確信する。
目をつぶるのと同時に瞼に砂の感触。目晦ましですか。せめて、足元の剣だけは蹴り飛ばす。
剣の鍔元を握られて私ごと剣を振り回す。このまま吹き飛ばされる。せめてもの反撃に肘裏を斬ろうとして防がれる。体勢を整えて切っ先のない短剣を構える。
ああ、でも見切りました。
一言で言うなら剛剣。鎧も剣も叩き斬る。対人よりも対危険種を想定していますね。
だから、簡単に躱せる。当たらなければ意味はない。当たったら防御ごと斬られますが。
本来隙だらけなのをつかせないのは偏に才能のおかげでしょう。伸び代もすさまじい。一振り前より早く、強く、鋭く。芽吹いてない。
芽吹いて間もない大木を育てられる機会などそうは有りません。
あぁ、楽しい。なんて良いものを見つけたのでしょうか。
ワルツのように舞う。斬って、斬られて、避けて、斬る。時折、
ステップの仕方を教えるように剣の振り方を教える。
「振りを小さく。危険種と違って人は固い鱗も牙も持ちません。うまく使い分けてください。」
「こんなふうに。か!!」
大振りからの返し。誘いこんで殺す気のいい一撃。刀身を殴って逸らす。
「はい。良く出来ました。」
肘を指で軽く抉る。肘の骨が見える程度の軽症しか与えられないうちに払われる。
「痛みで止まるかと思いましたが。」
「危険種の前で止まる訳にはいかないからな。顔面なしでよかった。鼻とか耳とか削ぐだろ。」
「勿論。首筋も抉りますよ。」
今度は私から
「首を折ろうとしたんだろ。」
「頭ではありませんから。地面に剣を刺して捻るなんて良く出来ましたね。」
タツミに乗られながら先程のやり取りを褒める。
「勝った。 と思ったのになぁ。」
「本当に良く出来ました。無理しないでください心臓止めたのですから。」
「ちく、しょう。」
意地で起きていたタツミが気絶したのを確認して蘇生させながら先程のやり取りを思い出す。
投げて首を折ろうとしたら剣を地面に刺して体を回転させ上と下を入れ替え回避されました。
とっさの反応は素晴らしいです。目潰しも、投げ抜けも。
試験でしたのでこのまま負けてもいいかなと思いましたが、最後まで諦めなかったタツミに倣って袖を持った手を左胸にあて地面に倒れた際の衝撃を叩き込みました。
狙ったのは心臓震盪。胸を強打して起こる。突然死の原因の一つ。
結果。思惑通りにタツミの心臓は止まりました。だから今蘇生中なのですが。
「それで何を求めてこの帝都に。タツミの腕なら一人で生きていくのは簡単でしょう。」
「村を救うために。このままじゃやっていけないんだ。」
タツミの蘇生を終え、事情を聴く。何をしたいのか知らなければ手伝いも出来ませんから。
しかし、村ですか。そこまで難しい事ではありませんね。腐りきったこの国を変えるとかだったらどうしようもありませんでしたが。
「食糧支援と減税。いや、免税特権で何とかなりますか。これは取引です。私は貴方にお金の稼ぎ方を教える。貴方は私に金貨を支払い、先程のモノを買う。他にも買いたいモノがあれば言ってみてください。食糧、肥料、銃、宝石、医薬品、権力。大体のモノは取り揃えていますよ。村の警備も付けておきます。こんなご時世ですから。」
「俺は何をすればいい。アリアさん。」
「呼び捨てで構いませんよ。そうですね。おすすめだけを聞くか。貴方が出来る事を全て聞くか。どういたします。選ぶ自由はありますから。落ち着いてください。」
「大丈夫だから全部聞かせてくれ。」
「分かりました。一つは憲兵隊に入る。隊長とは親友ですので口利きもしやすいですし、給金も強ければ非常にいいです。」
強引に入隊させるのではなく試験を優先的に受けさせてもらうくらいの便宜ならどうにでもなるでしょう。
不正を許せないあの子でもなんとかなるでしょう。
「革命軍狩りの憲兵隊。地方の出とは言え多少は知ってるんだけど、どんな部隊なんだ。やっぱり。」
「派閥に縛られず、革命軍だけを殺す部隊です。そして想像通りの虐殺者。離職率は一年で二割。その内、殆どが精神的に病んだ方々。戦死者は通算でも三桁くらいなので命の心配はいりませんよ。殲滅に慣れる必要がありますが。」
「最終手段だな。悪いけど村には代えられない。」
結構追い詰められていますね。自らと関係ない人を殺すことを嫌悪する方なら選ばない選択肢なのですが。
悪くはないのですよ。憲兵隊は。殺した数が給料に直結される素敵な市街戦限定で最強の軍隊ですから。
「賞金稼ぎ。この帝都には悪人が多いですから。表に裏に死んでほしい人には事欠きません。死ぬ確率も稼ぎもどちらも一番です。」
「アリアはそっちの伝手もあるのか。」
「昔、何の証拠もないのにブギーマンと言われる殺人鬼に誤認されたことがあります。その時知り合った方々に話してみるだけです。」
キルロイですら犯人は見ていないのにどうやって誤認したのでしょうか。
「本当に誤認なんだよな。」
いつの間にか笑みを浮かべていました。怖がらせてしまいましたでしょうか。
「そういう事になっています。本人の証言より信頼できるでしょう。」
「・・・・・・なんで儲かるんだ。なんだかあまり儲からない気がするんだが。」
「今、帝都を騒がすナイトレイドに非常に高額な賞金がかかっています。殺せれば村どころか街くらい買える程の額が。理由は聞きたいですか。」
「いや、あんまりいっぺんに聞くと大事なことを忘れそうだから、遠慮しておく。殺せば村を救えるそれさえ分からばいい。出来れば人を殺したくはないけどな。」
「ではこの話はお茶請けにでもしましょうか。最後に危険種狩り。私のおすすめはこれです。」
「やっぱりそれが一番か。どんな感じなんだ。」
「帝都周辺の危険種を重点的に狩ることで素材と報奨金を得ています。個人でやるのとは違い規模も違いますし、買い叩かれることもありません。」
個人でフェイクマウンテンの危険種遭遇率を目に見えるほど下げられる個人が数多くいる訳ありませんから。
「つまり山狩りか。村だと三人でやったって。そうだ!!サヨとイエヤスの事忘れてた。あーでも一番抜けてる俺が無事なら大丈夫か。サヨが一緒だし。」
田舎上がりの末路など大体決まっているのですが、非常に幸運な場合ですよ。今のあなたは。
私の興味は貴方にしかないのでその方々がどうなろうとどうでもいいのです。
それに見ず知らずの誰かを助けようと思うには手が足りませんから。
「話の続きをしても。」
「あ、ごめん。話を途中で遮って。多分、大丈夫だから続けてくれ。」
「貴方がそう言うのなら大丈夫なのでしょう。貴方に依頼したいのは特級危険種の処理です。手合わせをした結果、一ヶ月ほどの訓練で安全に特級中位まで単独で処理できると判断しました。」
「分かった。これからよろしく頼む。アリア。」
「はい。では、帝都郊外の私達の都市。隔離都市ティーアガルデンに案内します。と言いたいところですが帝都の私の家に案内します。予防薬を打たないと入れませんから。注射はお好きですか。」
「ちゅうしゃ。多分大丈夫。どんなのでも来やがれ!」
絶対理解してませんね。