アリアは踊る   作:mera

29 / 34
時系列的には前回に続くお話です。クロメの過去についての話となります。
楽しんでいただけるなら幸いです。


クロメの話

私の一番最初の記憶は白い部屋でお姉ちゃんに話しかけられた記憶。

 

「帝具八房中央処理装置。一応カタログにあった通りの姿に直しましたがいかがです。」

眩しさに目を細めながら自分に身体があることを確認して放心する。

手も足も内蔵も。全部切り捨てられたはずなのに。

「・・・・・・帝具八房中央処理装置。名前はないのですか。延々と部品名で呼ぶのも面倒なのですが。」

「手がある。足がある。ああ、ああぁぁぁぁ。」

涙がこぼれる。手足が無い恐怖は覚えてる。自分の意志で身動きできないあの恐怖は忘れられない。

「パッケージされていた時は殆ど人の形をしていませんでしたからね。五感はありますか。」

「ある。あるある。あるよ!見えるし聞こえるし話せる。触れる。・・・・・・痛みだってある!」

失っていたもの全てが唐突に戻ってきた。嬉しくて嬉しくてそれだけしか考えられなくなる。

「脳に埋め込まれていた外部操作用電極による副作用も回復。歩いてみて・・・・・・どうやら足に後遺症があるみたいですね。」

「やっぱり私を助けに来てくれたんだ。お姉ちゃん!」

「え。えーとカタログには・・・・・・被検体は姉へ重度の依存が見られる。ですか」

「お姉ちゃん。どうしたの。」

「いえ、名前は思い出せますか。」

「・・・・・・えっと、思い出せない。私はどうして無くしたんだっけ。なんで、なんで、なんで!!何も思い出せないの!!」

「落ち着いてください。お姉ちゃんが側にいてそれでも不安ですか。」

正面からお姉ちゃんに抱きしめられて落ち着かされる。そうだ。私にはお姉ちゃんが居る。もう大丈夫。

お姉ちゃんなら私を助けてくれる。裏切ったりしない。・・・・・・お姉ちゃんが裏切るわけないのになんでそんな事を。

「私は誰なの。お姉ちゃん。」

「私の妹です。それではダメですか。」

「そうだね。私は何者でもいい。お姉ちゃんの妹でさえあれば。」

だから私を捨てないでお姉ちゃん。もう独りは嫌だ。

「悪い夢を見ないよう同じベットで寝ましょう。今まで一緒に居られなかった分ずっと一緒にいられるようにしましょう。」

「うん。うん!」

ああ、嬉しい。お姉ちゃんとまた居られる。今度は離さない。絶対に離れない。

 

 

・・・・・・今思い返してみると色々とまともじゃない。いや、八房の中央処理装置にされる際身体をいじくりまわされたからまともじゃない方が普通なんだけど。

それから私はお姉ちゃんと四六時中一緒に居た。セリューさんとの人殺しをやめてまで私と一緒にいてくれたお姉ちゃん。

私の名前を見つけ出したり、世話を焼いてくれたり。目一杯お姉ちゃんに甘えた。

そんな風に過ごしていたある日のこと。

 

 

「クロメ。私は貴女に謝らないといけません。」

「今日のオヤツを焦がしたの。お姉ちゃん。」

「私と貴女の間には血の繋がりがありません。つまり」

話を続けようとするお姉ちゃんを抱きしめて、押し倒して遮る。

「そのことなら知ってる。でもお姉ちゃんはお姉ちゃんだよ。」

「ドクターから聞きましたか。」

「姉妹でここまで髪の色が異なることはないよね。」

流石に姉が金色で妹が黒はありえない。前々から疑問に思っていたけど、ドクターに髪の色について教えてもらってからは確信に変わった。

「ああ、当たり前すぎて見落としていました。言われてみればそうです。」

「お姉ちゃんって身内に対しては抜けてるよね。」

「私はクロメを騙していたのですよ。その事は謝らないといけません。」

深呼吸して落ち着く。とても怖い事を聞く準備をする。

「・・・・・・謝らなくていいから一つだけ偽りなく答えて」

「なんなりと。」

「どうして私を妹にしてくれたの。」

お姉ちゃんは確かに私を愛してる。それは間違いない。でもその理由がずっと分からない。

「失望されるかもしれません。随分と身勝手な理由ですから。」

「身勝手なのは私も同じ。勝手にお姉ちゃんをお姉ちゃんにしたんだから。教えて。理由を。」

「頼られるのが。依存されるのが心地よかったのです。今まで疎まれ、恨まれ、恐れられ、数多の負の感情と少しの信頼しか感じられなかった(化物)の世界で。化物()を全肯定してくれる貴女は私にとってとても甘美な麻薬なようなものだったのです。」

「そっか。そうだったんだ。」

「失望しましたか。私は私のために貴方を愛したのです。貴女に私を愛して欲しくて。結局自分のためだったのです。だから私は」

えい。と自己嫌悪に陥り始めたお姉ちゃんを叩く。

「失望なんかしない。というより逆に安心した。・・・・・・お姉ちゃんは家族が欲しかったんだよ。そして嬉しい。だって私はお姉ちゃんの家族()だってことなんだから」

「このような、このような不出来で身勝手な姉ですが側にいてくれますか。」

答えは決まってる。これ以外の答えなんてありえない。私はお姉ちゃんの家族だから!!

「私は。クロメ・トスカーナはいつまでもアリア・フォン・トスカーナの妹だよ!」

「ああ、えっと、なんと言えばいいのか。・・・・・・これからも一緒に居ましょう。私の愛しい愛しい(家族)。」

「うん!離れろって言われても絶対に離れてあげないから!!」

 

私が覚えている忘れられない記憶。本当の姉妹になったとても大切な記憶。

大好きだよ。お姉ちゃん。この世の何よりも。




クロメがアリアを溺愛する理由。
アリアがクロメを溺愛する理由。
どちらもまともではありませんが当人が幸せそうならそれでいいのではないでしょうか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。