アリアは踊る   作:mera

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前回に続くお話です。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


セリューの話 2話

「醜悪此処に極まれりだ。」

「悪が醜いなんて当たり前でしょうに。紅茶、いかがですか。」

鼠いじめに熊いじめ。キャンドハンティング。悪趣味な血塗れ遊び。

ただでさえ醜悪なそれを人間でする。全く気が狂ってる。

「人間だと思うが違うか。」

「あっていますよ。残り香で分かるなんて随分と慣れたじゃないですか。」

「慣れたくなかったけどね。これが法で裁けないなんて間違ってる。」

「ええ、間違っていますよ。盛大に。」

これも私の剣が届かない悪。私が弱いから討てない悪。

「これが武力以外の力か。アリア。これが権力(私に足りない力)か。」

「ぬふふふ。学びが早い子は長生きできますよ。この子が貴女の片割れですか。」

背後からゆっくりと。圧力を伴って誰かがアリアに話しかける。

殺気とかではない感じたことのない圧力。

「息を深く吸って吐いてください。それで大丈夫でしょう。」

「おっと、これは失礼。ついいつもの癖で。」

「大丈夫だ。彼がここの主か。」

「いえ、この国の主ですよ。私を無罪にし、私の親を押し込める手伝いをしてもらった恩人です。」

「トスカーナ家の後押しを受けられるなら安いものでしたよ。」

この国の主。つまりは

「オネスト大臣。」

「自己紹介は不要のようですね。」

たとえ大臣でもする事は変わらない。悪だと思うなら斬る。誰であっても。

足の装置を起動。備え付けられている固形燃料を爆発させて一瞬で加速して

アリアに止められる。

「随分と素直な子です。まぁ、嫌われるのは慣れていますよ。」

「貴方は悪です。私の正義がそう言ってます。」

「歪んでいますね。殺したいから殺すという方がよほど健全ですよ。まぁ、まともな人間より好みですが。」

貴方に好かれても全く嬉しくない。

一つ深呼吸。もし彼を殺せば帝都は救われる。そんな都合のいい話はない。

今まで抑えられてきたモノがあふれ出すだけだ。

なら利用しよう。情けないけど殺せないなら妥協するしかない。

「用件は。」

「人殺しを。物分りのいい子は好きですよ。」

「悪人なのですか。大臣。そうでなければ私たちは動けませんよ。」

「そこは安心していいですよ。私の元右腕ですから罪状は山のようにあります。」

「何割が濡れ衣なのか気になるところですが悪人には間違いありませんね。どういたします。」

愚問だ。相手が悪だと言うならば。私の手が届くなら殺す。それは変わらない。

悪の利益になるのがかなり気にくわないけど仕方がない。今は。

「分かっているだろう。私達はそんなに短い付き合いじゃない。」

「その通りです。さぁ、殺しに行きましょう。大臣貸し一つです。」

「ぬふふふ。分かりました。気を付けて。」

「そちらこそ、報酬を支払うまで死なないでくださいね。」

 

 

 

「随分と重装備ですね。試作品まで持ってくるとは。」

「嫌な予感がするから。後、こいつも早く使い切ってやりたい。」

背中に背負ったバッテリーを撫でる。

「中身に同情ですか。」

「少しはな。悪でも楽に死んでいいと思う。」

「やはり、私の裁きは貴女に任せましょう。」

「速やかに首を刎ねてやる。じゃあ、行くぞ。アリア。」

「……ええ、楽しみましょう。」

 

「気付かれましたか。」

「殺気の塊が居るから。気付く者は気付く。」

敵のいる方向から何かが放たれる。

「投箭と骨ですね。このままだと穴だらけです。」

どうします。そう聞かれる前に行動で答える。

装備したプロトタイプハロウィンを空に向け、引き金を引く。

閃光で視界が満たされ全ての脅威を薙ぎ払う。

「エネルギーを収束できないなら供給するエネルギー量を増やして殺傷能力を持たせる。ドクターの方針は間違っていないようです。量産できないと言う欠陥がありますが。」

「市街地では撃てないな。どっちに行く。」

「骨の方を。話が合いそうです。」

「狂人同士だからか。」

「そう言う事です。」

背中にハロウィンをしまいながら軽口を叩き、アリアと分かれる。

第二波が来る前に接敵しなければ。

「これを。」

「なんだ。」

真っ赤な液体が詰まった小瓶を投げ渡される。

「飛び切り強力で貴重な毒薬です。私の場合死ぬ半歩手前で助かりましたが。大体の人は死にますので有効活用してください。」

「上手く使う事にする。使えたらだけど。」

 

 

勘に従って腕を首の近くに寄せる。

ほぼ同時に低く響く重低音。吹き飛ばされそうになるのを脚のアンカーが止める。

ナックルダスターでも使っているのか。いや、あの勢いならどちらにせよ骨は折られていた。

反撃にブレードで斬りかかる。首筋が裂くはずの刃は首の皮膚も斬れずに止まる。

腹部を狙った打撃を防ぐ。金属でできた私の腕を歪ませる打撃。生身の部分が当たれば死にかねない。

何手か殴り合ううちに確信する。このままだと死ぬ。相手の方が格上の格闘家だ。

防戦一方(時間稼ぎ)の殴り合いから脱するために背中に背負ったハロウィンの全方位放射モードを起動。

上手くいけばこれで殺せるけど。

視界が閃光で満たされ、そこには表面が黒焦げた生物。

「いえ、修復速度から見て生体兵器。」

「そういうこと。魔獣変化 ヘカトンケイル。そっちの帝具は。」

奥から歩いて来る。自分を吹き飛ばして回避したのか。

「帝具ではなく特別な兵器です。」

「へぇ。面白いね。」

自分の勘は悪ではないと言っている。騙されているかそれとも。

「悪人には見えませんが何故ここに。」

「力は振るうためにある。違うかい。」

やっぱり善悪なんてどうでもいいと考えている獣みたいな人間。

下手な悪人より質の悪い。

「私の力は悪を殺すためのものです。引いてはくれませんよね。」

背中のバッテリーが切れたハロウィンを置く。

ポーチから薬液を取り出し首筋に打ち込む。副作用がどうとかは言っている場合じゃない。

「こんなに素晴らしい相手に会えた。そんな事はしないね。さぁ、再開だ。」

深呼吸を一つ。目的をしっかり定めよう。

「私は貴方を殺します。私の正義の為に。」

「お互い最善を尽くして殺し合おう!」

生物型帝具の突進を見切って三枚に下ろす。駄目押しに焼夷手榴弾を投げて再生を封じておく。

あれ(帝具)は問題じゃない。図体がデカいだけ。普段ならともかく薬を使った今なら容易に見切れる。

問題は本体。動きは見切れず目で追える程度。攻撃もしてみるけど全部弾かれる。

「食らえ!!」

肩に格納されている散弾銃から無数の針弾を放つ。貫通力ならこれが一番。効かなければ他の手を。

「面白いね!!」

防御の為に止まり目もつぶった。絶好の好機は逃さない。脚の加速用固形燃料を全点火。渾身の蹴りを脇腹に叩き込む。

骨を折った手応えは有った。こちらの脚も無茶な使い方をしたのでひどい事になっているけど。

蹴り飛ばした方向から視線を逸らさずに脚の燃料をリロードしておく。変形していて入りにくいのを押し込む。

「びっくり箱かい。君は。あばらを折られたのは初めてだ。皮膚も筋肉も血管も内臓も体のありとあらゆる場所を硬化出来るようになってからだけど。」

文字通りの全身硬化。ブレードが弾かれるわけだ。でも殺し方は見つけた。

ポーチから導爆線を取り出す。私の渾身の蹴りでなんとかなるならこれで切れる。

後は絶対に外さないときに焼夷手榴弾を当てるだけ。

 

「ケイル!アルファ!」

背後で燃えている帝具が空に向けて撃ち出す。投箭を真上に撃てば自分も損害を。

受けないのか。全身を硬化させて弾くから。

敵だけを弾雨にさらす。

追加の薬液を首に打ち込む。

たかが鉄の矢の雨程度、見切ってみせる。

脚の燃料を使い距離を詰める。

格闘戦を行いながら導爆線を貼り付けるタイミングを探る。

とにかく機動力で攪乱する。燃料がある限り私は空すら足場に出来る。

それを生かせ。

「直線的加速に過ぎないのなら!」

刺突を腕で受け、手首に爆導線を張り付け爆破する。

手首は千切れ跳び、痛みで一瞬の隙が出来た。後は。

「これでお終い!」

「……まだだよ。まだ殺し合いは終わらない。ケイル、狂化!!」

投げた焼夷手榴弾を残った片手で握り潰し、被害を腕だけにとどめて貴方は笑う。

帝具が咆哮を上げて足を止められ同時に空から投箭が降り注ぐ。

動けないなら避けられない。

頭だけは守れたけど内臓は何箇所か貫通するような傷を負う。

「これだから戦闘狂は嫌いです。」

「笑ってる。そっちだって戦闘狂だろうに。」

「これはやせ我慢です。」

ゴホッと咳き込むと口から血が溢れ、零れる。早く終わらせないと死ぬな。

「名残惜しいけどこれでお終い!」

心臓を狙う刺突を逸らす。逸らして腹を貫通させて捕まえる。首を右腕で捕まえ渾身の力で握りしめる。

「貴方の死で!」

右腕の固形燃料を全て点火させ爆破する。

左腕で顔と首を庇いながら、少しだけ距離を取って止めの焼夷手榴弾を投げ込む。

腹に深々と刺さった破片や貫通している穴。どれもこれも致命傷だ。

血が抜けて寒気が襲ってくる。ポーチから手さぐりでカンフル剤を取り出して打つ。

気を失ったら死まで転げ落ちる。

だってまだ

「最期の交差と逝こうか。」

貴方は生きている。もう助からない熱傷だとしてもすぐに死ぬわけじゃない。

相手は腕無しのもうすぐ死体。私は隻腕のもうすぐ死体。

僅かにこっちが有利。

「ケイル。突撃!!」

帝具の攻撃を凌いで真二つにして、再生しないように刻む。

しま、相手を見失った。いや上か背後かの二択。ああ、違う、来るなら防御の出来ない右側!

勘に頼って右側に体当たりをする。腹部に衝撃、腹にあいた穴から内臓が零れるけど気にしない。

押さえ込み、口にアリアからもらった毒薬を突っ込む。

効果は確かなようで紅い泡を吹きながら死んでくれた。

早くアリアと合流しないと死ぬ。

私はまだ世界を正義の光で照らせてない。死ぬわけにはいかない。

 

 

「パッチワーク修復開始。随分と手ひどくやられましたね。手練れでしたか。」

「強い戦闘狂は手におえない。そっちの棺桶は。」

「帝具八房を使うパーツの一つでしょうか。」

帝具八房、確か死体を八つまで操る帝具。

「数多の死体を練り合わせ一つの死体としていたようです。フレッシュミートゴーレムというものでしょうか。」

「まともじゃない。目標は。」

「貴方が遅いから殺してしまいましたよ。」

取りあえず仕事は完了。

私はよく分からない化け物と戦って帝具を回収したくらいか。

「血とか洗い流したい。家に寄らせてもらうぞ。」

「構いませんがここから一番近いセーブハウスはどこになるでしょうか。」

「把握しているだろう。」

「地下水路は複雑ですから。棺桶を運びながらだとつらいのです。」

「捨てればいいだろう。」

「この中身はきっと私を楽しませてくれるそんな気がするのです。勘ですが。」

「私に背負う余裕はない。」

「分かっていますよ。セリュー。さて行きましょうか。」

走馬灯を見た上で決めた事を言い放つ。

「これからはアリアの隣を一緒に歩く。悪を為そうとしたら止めて、いつの日か裁く。」

「まるで親しい友人の様ですね。」

「……悪い事はしたら駄目だよ。親友。」

「……善処しますよ。親友。」

軽口を叩きながら撤収する。今日も悪を一つ討てたことを誇りに思いながら。

 

 

 

 

 

 




戦闘描写が分かりにくくなってしまいました。
申し訳ありません。
セリューの戦闘が少しでも伝わっていればいいのですが。


感想を心からお待ちしております。

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