今回はセリュー視点なので混乱する方が居られたら申し訳ありません
待ち合わせ場所に着いてあの忌々しい悪を探す。
それにしてもあの悪は待ち合わせの場所を選ぶセンスが壊れてる。
前々回は墓場。前回は連れ込み宿。今回は悪趣味な見世物小屋。
「ここですよ。セリュー。」
「相も変わらず腐っているな。こんな場所を選ぶなんて。」
「合法の見世物小屋をこんな場所とは正義の味方の言葉とは思えませんね。」
「貴様の戯言に付き合うのは飽きた。悪はどこに居る。」
「悪ならここに。……焦りすぎです。今から愉快なお気に入りの見世物が始まるのです。楽しんでからでも遅くありませんよ。」
ああ、付き合わないと話す気はないという事か。面倒な。義手に仕込んであるブレードで刺し殺したくなる衝動を抑えながら横に座る。
「どんな悪趣味な見世物なんだ。」
「リボルバーに一発の弾丸を込めて引き金を引くだけの見世物ですよ。」
全く吐き気がする。人の死を見世物にするなんて。
「明日を生きるために命を賭ける少年少女。その表情は非常にそそられるものがあります。」
「生きたいと願う人間は素晴らしい。それが死ぬ瞬間もまた格別か。正気とは思えないな。」
「正気。そんな事を言うなんて正気ですかセリュー。」
ターンという乾いた音と脳をぶちまけた哀れな少年。
「見逃したな。」
「ああ、見逃してしまいました。まぁ、次があります。悪人の話をしましょうか。」
「態々その話を聞きに来ているんだ。間違いはないんだろうな。」
「今まで有りましたか。」
確かに与えられた情報に間違いはなかった。人体蒐集家、少女に大量の薬を打って遊ぶ外道。
「無かった。今回の標的は。」
「夜の住人が金塊と白い粉を交換するようです。」
「麻薬か。」
「小麦粉か砂糖だったら非常に面白いのですが。恐らく芥子系統の強力な奴かと。」
「人数は。」
「三桁は確実でしょう。大分大きな取引ですから。殺し放題ですよ。」
まるで今から遊びに行くと言わんばかりに楽しそうな声音で悪は言う。
「悪は殺す。一人残らず。何時も通りに。」
「では仮面舞踏会と洒落込みましょうか。」
「ここか。」
「そうなりますね。……随分と重装備ですね。」
「珍しくもないだろう。機関銃なんて。」
気配をたどって悪人の位置を確認していく。確かに夜に人気のない場所でこれだけ集まっている時点で怪しい。
後は確認するだけか。
手近な建物にアンカーを撃ち込み、吊り上げて上から確認する。
金と粉。情報通り。悪と判断。正義を執行しよう。
壁越しに機関銃を薙ぎ払うように撃つ。狙いは定めず薙ぎ払うように撃つ。
撃ち切った機関銃を投げ捨て、駄目押しに収束手榴弾を投げ込む。
「きさまらなに!」
足を払い転倒させ脚のターンピックで串刺しにする。
次に殴りかかってきたのを脇の下から頭にかけてブレードで刺し、斬り払う。
距離がある相手にはアンカーを柔らかい首に撃ち込んで始末する。
ブレードを格納している義手から血なまぐさい匂いがする。あれのせいでとうの昔に慣れたけど進んで嗅ぎたい匂いじゃない。
「マテ。待ってく」
命乞いは聞き飽きてる。手短に死ねるように首を刎ねる。
後、何人だ。そう多くはないはず。事前に大分殺したし、何よりあれが居る。
撃たれて呻く連中を踏み殺して楽にしてやりながら生き残りを探す。
「……ごぼじて!!もろごぼじて。がみざま!」
「何をしている。」
「遊んでいます。こうですかね、パッチワーク。自動制御、肉蛇、捕食対象自己、再生継続。ああ。素敵なインテリアです。そうは思いませんか。」
「自分の命で遊ぶのは勝手だが他人の命で遊ぶな。」
焼夷手榴弾で焼き殺しながら文句を言っておく。意味などないのだろうけど。
「あっ、……相変わらず優しいのですね。」
「悪は殺す。速やかに。それだけだ。」
逃げ出そうとした悪に追いつき胴体を串刺しにしながら答える。
「貴女は盲目の女神。片手の秤で罪を定め。片手の剣で裁く。」
「こんな血まみれな女神が居るか。それに巨悪を討つには私の持つ剣は弱すぎる。正義の柱が良い所だ。」
皮肉を唄う悪に答える。我ながら律儀なことだ。
「私にすら届きませんからね。今はまだ。人は成長しますから先の事は分かりませんよ。……これでお終いですかね。金切声の歌い手が働きすぎましたね。」
「そう言う武器を開発したのは貴様とドクターだ。……後はこの金と粉をどうするかだな。」
「金は貰っていきましょう。粉は責任もってドクターに手渡します。」
「鎮痛剤以外にしたら時は殺す。」
「そんなつまらない悪事はしませんよ。観客のいない悪事なんてつまらないでしょう。っと」
無言で足元に落ちている銃を撃つ。弾が切れるまで。
手刀で弾丸を斬り落とされる化け物め。
「お前は殺す。必ず。」
「楽しみに待っておきます。貴女の思いが私に届くその日を。ではまた、素敵な夜に。」
「また夜に。」
悪と分かれ、使った武器を回収、清掃する。
あれの言うとおりにすることが正しいとは思えない。思えないけど、確かに悪は殺せる。
一人で殺るよりはるかに効率よく。生身の手足より新しい手足の方が裁きやすい。
あれと行動するようになってから良い事ばかり。
あれは悪なのに存在を一時的にでも許そうとしている自分が居る。
情けないため息とともにひとり言がこぼれる。
「どうしたらいいんでしょうか。」
「お。セリューじゃないか。……らしくねぇな。そんな顔して。」
「隊長。いえ、あの悪との付き合い方を考えていて。」
「ああ、アリアの嬢ちゃんか。好きに付き合えばいいんじゃねえか。」
好きに。私はどうしたいんだろう。
今はあの悪を利用して他の悪を討っている。
アリア・フォン・トスカーナには利用価値がある。そして私はその恩恵にあずかっている。それは間違いない。
でもそれは悪が生きていい理由にはならない。
私は彼女が嫌いだ。当たり前の事だ。悪で人殺しで人でなしだ。好きになれるわけがない。
「私はあれが嫌いです。でも、あれとの付き合いが正義を為すのに役立つのも理解しています。」
「なら利用すればいいじゃないか。打算から始まる関係も悪かねえよ。」
「そう……ですか。でも最後に私の手で討つ。それだけは必ず。」
「成長したじゃねえか。猪だったセリューが順序立てて考えるとはよ。」
「乗り越えられない壁に当たって回り道を模索した結果です。」
殺せない悪に出会ってなし崩し的にそれと付き合う事になって、今がある。
「セリューの成長を祝って飲むか。奢るからよ。」
「隊長。お金持ってるんですか。詰所まで走るのは嫌ですよ。」
「安心しろよ。つけのきく店に行くからよ。」
安心できる要素があまりないです。
でもありがとうございます。隊長。
「飲み過ぎは駄目ですからね。隊長!」
もう一話だけセリュー視点の話が続きます。
原作セリューに近づけようとしてるのですが似ているでしょうか。