狂気表現はそこまで多くありません。
ご安心ください。
帝都の夜。それは殺人鬼たちの時間。もしくはそれを狩る正義の時間。
「行くぞ。ブギー。準備は。」
「息をするのに準備する者はいません。」
「準備は万全か。」
とても素敵な殺気を向けられる。機会があれば一緒に殺すと雄弁に語る殺気です。
「ここで始めますか。」
「救うべき人を優先する。」
肝心なことを聞き忘れました。大事な大事な飢えを満たす話です。
「殺しは。」
「屋敷の護衛は殺すな。彼らは仕方なくしてるだけだから。」
「仕方なくとも悪になれば殺すのでは。」
「どうしようもなくて人を食べさせられた。そのことは悪じゃない。体験して分かった事だ。」
「価値観って変わるものですね。」
素敵な顔で熱烈な視線を向けられる。
半年も拷問を受けさせれば変わらない訳がないですか。
「さて、月夜を舞台にマスカレイドと洒落込みましょう。」
仮面を付けて素顔がバレないよう対策しながら正義狂いをからかう。
護衛達の四肢の関節を外して無力化する。
早く目的の書庫に行きましょう。
「そっちなのか。」
「ええ、こっちです。とても素敵な狂気を感じます。」
「こっちにぞ」
「邪魔だ。」
腹部に一撃で意識を奪う。負けてられませんね。
「殺さないとは難しいものです。」
顎に軽く撫でるように一撃を当てる。これで死んだら事故だと思いましょう。
あっという間に護衛を片付け、目的地に到着する。
この匂い。確か。ああ、やっぱりここの主人は狂っています。手に取った本で確信する。
「どうした。」
「いえ、素敵な装丁の本だと思って。そこの本を手に取ってみてください。」
「・・・・・・人皮か。狂人仲間だと分かるだろう。どうやって作られた。」
厚さは薄め。手触りは滑らか。一頁、一頁の大きさは小さめ。・・・・・・素敵、素敵、素敵すぎる。
一体何人剥ぎました。
本棚一つ埋め尽くすのに何人かかるかわかりませんよ。
「おそらく生後間もない赤子の皮を剥いで作られています。ああ、素晴らしい。」
「ならどこかには供給源があるわけか。・・・・・・護衛は知っていたのか。」
「さぁ、殺しますか。私としては殺したいのですが。」
持ってきたカバンに本を詰め込む。
「何をしてる。」
「勿体無いですから。こんな素敵な物、放置できません。」
放置したら油を使って焼き払うつもりでしょう。
ダガーでの斬撃を骨で受け止める。前より鋭くなっていますね。
パッチワークで止血しながら評価する。
「血がかかったら台無しです。」
「死者の冒涜を見過ごすわけには」
「皮を剥ぐためだけに生まれたのが人間ですか。意外と面白い事を言うじゃないですか。」
「死んだ後ぐらい人間扱いしてあげたい。」
堂々巡りですね。なら、簡単です。
「力で決めましょう。」
「悪を討つ。正義執行!!」
突き出したダガーを捌き手刀で腕を切り飛ばす。次は蹴り。受け止めて捩じ切る。噛み付きは顎を外しておしまい。
「パッチワーク、修復。さぁ、楽しませてください。」
「もう終わってる。血で濡れたら台無しなんだろう。」
背後を確認すると本棚が血でべったりです。勝負に負けたですか。
白紙の一冊だけで我慢するしかありませんね。
「参りました。あ、いいのですか。仕留めるべき家主が逃げますよ。」
「また襲撃をかけるだけだ。それにもしかしたら万が一改心してくれるかも知れない。」
「本気で言っています。」
「生まれながらの殺人鬼も多少は修正出来る。可能性は零じゃない。」
移動しながら雑談を続ける。
屋敷の構造はそこまで詳しくないので早くはありませんね。本当に逃げられるかもしれません。
あ、見つけました。
「ただ、見つけたら殺す。」
「な、何者だ。何の理由があって私を」
「悪だからだ。」
「おや、この帝都で理由があって死ねますよ。運が良かったじゃないですか。」
気配から天井に三人。斬鋼糸を張り巡らして備えておく。
「お前たち。殺れ!」
想像通り血の雨が降る。窓からの月明かりもあって素敵です。
「正義執行。」
正義狂いが斬鋼糸に家主を投げつける。まだしてみたいことがあったのですが。
「生かせ。パッチワーク。首から下の修復はいりません。」
「どういうつもり。いや、製造所を聞くのか。」
「いえ、貴女に問いかけます。パッチワーク、弄べ。」
脳に直接痛覚信号を流し込む。発狂できないように。脳内麻薬が出ないように弄り回しながら。
「これ、殺したほうがいいのでしょうか。このまま生き地獄を与えたほうがいいと思いません。」
一瞬で差し出した頭を蹴り砕く。
「下らない質問を。正義の柱はただ、刃を下ろすだけだ。どんな悪でも殺す。殺してやる。速やかに。」
「それが貴女の正義ですか。慈悲深いことです。」
そう言い切れるあなたは素晴らしい。
親を私に殺されてあまつさえ、オーブンで焼いた物を無理やり食べさせてもそう言える貴女。
本当に正義に狂っているだけはあります。
だから帝都の夜を一緒に舞いたいのです。
出来ると分かっている事より不可能だと思う事をしたい。
そっちの方が楽しそうですから。
「さて、まだまだ夜は続きます。貴方が思う悪を殺して回りましょう。」
「言われずとも、行くぞ。ブギー。」
「次はこちらです。道案内は私ですよ。正義狂い。」
「アリアー。何見てるの。」
「日記と昔の殺人鬼たちの手配書です。随分と懐かしいものです。」
「無差別殺人鬼マスカレイド。確かに懐かしいね。差別はしていたけど。」
「それはどんな。」
「悪か否か。今も昔もそこは変わらないよ。決めるのは私の独善で。ひどい時は殺してから罪状を決めたけど。」
「私が殺されてない理由は。」
「簡単な話だよ。殺せないから。今も昔も見張るのが限界。いつか殺す。親友でもね。ううん、親友だからかな。」
こんなにも私を思ってくれる友人を持って幸せです。本当に
「私も貴女に殺される日を待っています。見ず知らずに他人に殺されるこの世で親友に殺される私は幸せ者です。」
だから他の誰にも殺されるわけにはいけません。エスデスにもナイトレイドにも。たとえ、最愛の妹でも。
あぁ、でも必死に手を伸ばせばあるいは届くかもしれませんよ。
私を楽しませてくださいな。
セリュー、アリアの過去編でした。
過去編だと原作セリューに近いのですよね。
アリアと帝都の闇の影響が少ないから。
今のセリューは盗賊とか殺人とかまともな犯罪だと只々淡々と処理するだけですから。
感想を心からお待ちしております。