アリアは踊る   作:mera

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タツミが帝都についたあたりのクロメちゃんと将軍の話です。
第二話が短めなので間に入れさせてもらいます。
三人称は初めてなのとキャラ崩壊などおかしい点などはご容赦ください。


第一.五話

帝国北部

氷点下の銀世界と数メートル先も見えぬ吹雪が吹き荒れる。遭難し、動くものを見たと思えば特級危険種だったなどと。死が両隣にある弱肉強食の世界。

そんな場所で生きているものが屈強でないはずがない。

ましてその中で英雄と謳われるものならば議論の余地はないだろう。

北方異民族。彼らがたった一度の戦争で滅びた事に関して彼らに非はない。

軍は精強だった。補給線は確保していた。要塞都市の内外に憂慮すべき事などなかった。

完璧だった。完全無欠だった。

もし、彼らに非があるとしたら。無理矢理にでも難癖をつけるとしたら彼らは戦うべきでなかった。艱難辛苦を耐え、革命軍などと連携すべきだった。

そうすれば、少なくとも城塞都市一つと百万を超える命を失う事はなかっただろう。

 

 

「将軍~。私の番はまだ。早く帰ってお姉ちゃんに抱きつきたい。」

「私達は戦いを楽しみに。蹂躙をご褒美にここまで来たのだ。お前が出ては詰まらん。私が戦うのと同様にな。さて、準備をするか。」

「楽しむのは良いけどあんまり遅いと蹂躙が無くなるからね。将軍は何するつもりなの。戦闘に出るつもりはないんだよね。」

「大したことじゃない。だが、向こうには立派な要塞があるんだ。それなりのものを持たなければかっこが付かないだろう。違うか。」

パチンと。将軍と呼ばれた女が指を鳴らすと前方に壁が、塔が、空堀が、橋が、門が在った。

巨大な氷の城が一瞬で現れた。

「ふむ。戦場における私の価値を例えるとこんなものか。」

「過少評価だと思うけど。戦闘中に援護射撃まで有ってやっと足が見えてくるってところかな。まぁ、早く終わりそうでよかった。……一人だけ驚いて恥ずかしかった。」

「何か言ったか。」

「なんでもない!!」

彼らの間違いはエスデス将軍に戦いを挑んだ事。北部の地理に詳しく、戦上手の部下を持ち、彼らと同等に精強。その上戦慣れした兵士達。そしてそれら全てを上回る武勇を持ち、一瞬で拠点を用意するエスデス将軍。

ただ、これだけならまだ勝てた。正面からの対決をあきらめ後方の補給線を叩き続ければいい。人は食べなければ生きていけないし、負けるであろう相手に突っ込む必要などないのだから。ただ、絶望は大挙して寄せてくる。

「じゃあ、みんな荷物の運び込んで。」

黒髪のとても暖かそうな服を着込んだ少女はそう合図する。

後ろから荷物を引いた駄獣が出来たての城に荷を運び込む。何もおかしくない。駄獣が特級危険種ワームでさえなければ。

地竜、ワイアームとも言われるワーム。彼らは飛べない。ブレスも吐けない。手足すらない。

その巨躯と鱗。後は突進だけで特級上位とされる危険種。幼体ですら砦崩しの異名を持つ。

その成体が列を成し、鎧を着込み、上には小型の機関砲が設置してある。

そんなものが物資の運搬をしている。要塞都市を落とせるような戦力が補給部隊として運用されている。

「これだけの戦力があれば城など簡単に落とせそうだな。」

「ご要望とあれば。追加料金で。あっ。トスカーナ商会、宅配サービスのご利用ありがとうございました。またのご利用を心からお待ちしております。エスデス将軍。」

「客商売は大変だな。クロメ。」

「この足で斬り合うよりは楽かな。歩くのには困らないけど。走れないから。お姉ちゃんに甘えるいい理由になるから重宝しているけど。」

「仲がいいのは良い事だな。」

「火種になるから。」

「さてな。」

 彼らの不運は後処理をトスカーナ商会に依頼し、クロメと呼ばれる少女が受けた事。

銃器と危険種討伐の熟練者が数百人。その中には北方異民族のハーフが多いため地理などもある程度分かっている。

危険種による事故も補給切れも望めない。

彼らの勝ち目はなくなった。

「将軍、壁だけ残せばいいんだよね。」

「ああ、略奪し兵が退避した後に掃討してくれ。壁さえあれば野営が簡単だからな。」

彼らの不幸はクロメと呼ばれた少女が帝具 八房の歴代最高の使い手だったという点。

彼らは生きたまま地獄を見て、地獄となった。

 




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