アリアは踊る   作:mera

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強さの理由

ある日の午後。エスデスを招いて珍しい楽器を演奏していた時の話。

「私達の強さの理由ですか。」

演奏していたアルモニカから手を離し、質問を反復する。

「そうですね。積み重ねでしょうか。」

「アリアの場合はそうだろうな。私は生まれつきだ。」

「薬でのドーピングかな。」

「積み重ね。努力の事か。」

「「「それは大前提だ。」」」

「だよな。」

努力せずに強くなるものは居ません。積み重ねとはそういう事ではなく血筋です。

「クロメがすごく物騒な事を言ってるけど。」

「仕方ない。お姉ちゃんやエスデス将軍。タツミみたいに私は才能に溢れてない。それに一番とんでもないのはお姉ちゃん。」

「才能がないって、殺気の消し方とか歩法とか色々勉強になるぞ。」

「人生の殆どかけて習得した技術を数か月で学ばれたら泣くから。大声で。恥も外聞もなく。」

それは可愛い事でしょう。タツミ頑張ってください。ぜひとも泣くクロメが見たいです。

「頑張ってください。タツミ。」

「そら、頑張るけど。危なくないのか。薬って。」

「薬は十分に人体実験してるから大丈夫。」

「……人体実験。」

「戦争で負けた異民族の末路だな。スタイリッシュの実験で使われて肥料になるまでが。最近スタイリッシュを見ないがどうした。私のデータを取らせろと言ってくるのだが。」

「ドクターは人体実験を行い過ぎ、ノイローゼになりました。働かせすぎました。反省しています。」

「負けられないな。守りたいものがあるなら。」

「負けていい戦いなどない。全力の相手をねじ伏せてこそ闘争だからな。」

エスデスが真っ当な事を言っています。そうです。必死に生きてこそ人は素晴らしいのです。

何時も全力では疲れるので適度に休みながらですが。

「まぁ、そんなわけで薬を飲んで、縋りついている。条件によってはお姉ちゃんにもエスデス将軍にも勝てるんだよ。私。……帝具頼りだけど。」

確かに三百も距離を取られると誰もクロメには勝てません。

いえ、パンプキンかアドメラクなら多少の可能性は残るでしょうか。

「次はエスデスの番ですよ。」

「まぁ、話の大きさでアリアには勝てないからな。と言っても私は本当に生まれつきだからな。そんな興味を引く話はないぞ。」

「でもタツミとお揃いです。」

「良かったね。将軍。共通点がまた一つ見つかった。」

「フフ。そうだな。お揃いだぞ、タツミ。喜べ。」

エスデス。タツミの事となると本当に同一人物か疑わなければいけない程変わりますね。慣れてきましたけど。

「いや、さすがにエスデスと同格は恐れ多いと言うか。」

「謙遜するな。私もアリアもタツミの底はまだ見えていないんだ。本当に私より強くなるかもしれないぞ。」

本当に帝具抜きのエスデスより強くなるかもしれないのがタツミの凄いところです。

本当の育てるのが楽しくてたまらない。

「と、私の話だったな。大したことではないぞ。強くなれる環境が在って、強くなれる才が私に有ったと言うだけだからな。アリアを危険種と凍土に置き換えればタツミと大して変わらないな。」

私は危険種と過酷な環境と一緒と言いますか。……昔を考えると否定できませんね。

「ちょっとした疑問なんだが、この中で一番才能があるのは誰なんだ。」

「そうですね。才能の総量という意味で受け取っていいなら。」

「アリアだな。闘争以外で勝てる気がしない。」「お姉ちゃん。何でもできるから。」

何でもは言い過ぎです。他人が出来る事が出来るだけですよ。

「少々過大な評価である気がしますが、私だと思います。積み重ねが違いますから。」

「そうなのか。積み重ねっていうと血筋か。」

「そうなりますね。九卿や三公を輩出するためトスカーナ家は凄惨な方法を取りましたから。」

「初めて聞いた時は私でも呆れた話だ。アリア(怪物)が生まれるのも無理ない事だと思うほどにはとんでもない話だった。」

話す前にこんなにハードルをあげられるとは。当たり前の理屈を我が家はしただけなのですが。

というよりエスデス。貴女は呆れた顔をした後、爆笑していましたよね。

引かれる経験はありましたが引いたのは初めてでした。

「話は八百年前。トスカーナ家が違う家名を持っていた時代。」

「八百年前は違う家名だったのか。」

「はい、一度、位人臣を極めた際封土される代わりに時の皇帝に家名を求め、守護していた土地の名を貰いトスカーナ家となりましたので。」

よくよく考えると名家の中の名家なのです。我が家は。というより早速横道に逸れかけています。

「貴族と貴族が結婚を繰り返して、ある面白い事に気づきました。天才を生み出す方法を見つけたのです。」

「随分と凄い話だな。天才を生む方法か。」

「天然のタツミに言われるとは先祖も考えていなかったことでしょう。その方法を用いて天才を作り、家を繁栄させようとした家がトスカーナ家の前身のハプスブルク家です。親子交配、兄弟交配など近親交配を繰り返し、天才を作る家の始まりです。」

「正気か。その家!」

「何を持って正気とするかは色々議論がある。この場合は簡単だ。狂っている。私なんかより遥かにな。」

「薬の方がまだまともだって思える。何度この話を聞いてもね。」

酷い言われ様です。弁護の余地などありませんが。

「ですが、一定の効果は有りました。ハプスブルク家は大繁栄をしました。一握りの天才が頂点に立ち続けることで。」

ただ、皇帝からの降嫁以外血を薄める事無かったので、膨大な数の奇形が処分されたとも聞きます。

「それから三十代ほど、少しずつ家が収束していき最期の一人が私です。」

一代の天才(突然変異)三十以上の天才(狂気の試み)には敵わない。そういう話だ。」

むしろ一代で匹敵されては祖先も無念極まりないでしょう。

「まぁ、過去がどうあろうと。私は私。そうは言ってくれませんか。タツミ。」

「……話を聞く前と今で変わったところなんてないな。」

普通この話を聞くとこのような反応ですよね。

エスデスがおかしいのです。帝国貴族はそんなに面白いのかと大爆笑するエスデスが。

「まぁ、ちょっとした話の種です。私にとっては。」

「だったら、悪い事した。いつも違うお茶請け代わりの話を用意するのが大変だって言ってたのに。」

「だから、今からのお茶会はタツミとクロメをからかい通します。」

「ちょ。巻き添えにしないで。タツミ!!」

「俺に言うなよ!!」

さぁ、お茶会を始めましょう。過去よりも今を。楽しみましょう。

 

 




アリアの強さの理由です。
サラブレッドや栽培種と同じことを人間にしたと言うだけの話ですが。
もし不快な思いをされた方が居たら申し訳ありません。


感想を心よりお待ちしております。

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