作者の考える帝国的にそんな事をしました。
「タツミ。人を脅しに行きますよ。」
「警備隊隊長の台詞とは思えないな。」
「脅さなければ死んでしまいます。折角平和に隠居しておられるのです。そのまま過ごしてほしいではないですか。」
最近ナイトレイドによる文官狩りが増えてきている。裏で糸を引くのはあの方でしょうから帝都にさえ来させなければ見逃すはず。前皇帝の忠臣を謀殺したという噂が立つのは面倒でしょうから。今まで殺していないのはそういう理由。まぁ、勝手な憶測ですがね。
「少し過激な警告だと思うけどな。相手は。」
「前宰相チョウリ様です。この状況で隠居していられる性格ではないでしょうが。家族を盾にとれば思いとどまってくれるのではと。他人を切り捨てる程度の人間らしさがある事を祈りましょう。」
「訂正、脅迫だな。そういえば、アリアは家族を犠牲にして他人を助ける話が嫌いだよな。」
「美談だと持て囃す者も嫌うほどには。」
釣り合いが取れないではないですか。ろばたの石ころと手中の宝石との交換では。
大事な者を切り捨てられる者は他人も簡単に切り捨てるでしょう。理由を与えられればすぐにでも。
「身内に甘いアリアからしたらそうかもしれないが。俺はなんとなくわかる。カッコいいじゃないか。民の為に戦う連中は。」
「男ってバカですね。でも、そういう考えは好きです。物語の中だけなら。」
「馬鹿っていうか意地だけどな。」
チョウリ様とスピアさんの一週間の行動表を持つ。
さぁ、行きましょうか。
「タツミ、変装は良いのですか。革命軍の暗殺リストに載ってしまいますよ。」
「素顔の一つも見せられないなんて。なぁ。」
素顔を見せられないパートナーなんて興ざめですね。
「余計な事を聞きました。では、参りましょうか。」
馬車に揺られながら。ある美談を思い出す。正義が悪を討つ。有り触れた美談を。
タツミが興味を持ちそうな。私が嫌いなお話を。温かいワインを魔法瓶から注ぎながらシナモンシュガーを足す。
タツミは紅茶が良いとのことなので紅茶を渡す。
「ある美談を茶菓子の代わりに。……ある街。そこの太守は極悪人でした。」
「賄賂でも受け取っていたのか。」
「賄賂を受け取るのはこの世界では当たり前。誰でもやっています。私もタツミから受け取りましたよ。賄賂を受け取る程度では小悪党と言ったところでしょう。そうではなく、その太守は領民を殺していました。狩りの一環で。隠しすらせず。」
「……太守はあくまで皇帝から街を預かってるだけだからまずいんじゃ。」
マズイどころか大罪です。そう言おうとして馬車が止まる。
「賊ですか。」
「お嬢様はお気になさらずに!!」
機関銃の掃射音。問題はなさそうですね。
「では、話の続きを。タツミの考える通りです。今すれば、三日以内に憲兵隊が処理します。大臣も話を聞いた時、羅刹を向かわせようとしていましたそうです。」
「悪人にも最低限のルールがあるんだな。」
「いえ、人数が減れば分け前は増えます。それに大臣としては庇いきれない大罪を犯した自派閥の者は切り捨てるしかありませんから。」
悪人は自分の利益に強欲ですから。善人から奪って、他の悪人からも奪う。善人から奪うより悪人から奪う方が楽なのですよ。敵を皆殺しにする気があるなら。ですけど。
「その完全に詰んじまった悪人の話がどう美談になるんだ。言っちゃ悪いが間抜けな話にしか聞こえないが。よく太守になれたな。」
「大臣の権力は部下の部下の部下まで使えますから。大臣が管理しているかは別として。」
それでもよく管理している方です。部下はきちんと大臣の命令に従いますから。自分の部下は纏めきっているのですよ。
「話がそれてる。そらしたのは俺だけど。」
「ああ、もうしわけありません。その太守の不正を許せなかった一官僚が帝具を使って討ち果たしました。」
「正義の味方が悪を討った。それも帝具に選ばれて。吟遊詩人とか大喜びだっただろうな。」
「ええ。お祭りです。一官僚が大臣の派閥の者を帝具盗んで殺しました。死んで構わない。死んでほしい人物でした。」
「ああ。でも、事故死させないと大臣とか国のメンツが立たないのか。」
「しかも、逃げ切られましてね。」
「矛先はどこに行ったんだ。美談聞いてたはずなのに背筋が寒いぞ。」
「官僚になる人は身元がハッキリしていないといけないと思いませんか。」
タツミの顔が全てを察した顔になる。
「話はおしまいです。私がこの話を嫌う理由は理解してもらえたでしょうか。」
「身内大好きのアリアからしたらな。どうなったんだ。」
「四肢鋸引き。耳、喉、目潰し。生きたまま豚に食われたそうです。」
「その結末を知っている者は。」
「美談は美しく。ですよ」
「そうだよな。」
まぁ。事前の準備の大切さ。自分の結果の影響などを考える教訓話としては有用だと思っていますがね。
馬に細工を。ワインに毒を。寝ている所に短剣を。
誰が殺したか分からないようにすればそれでよかったのに。誰に殺されてもおかしくなかった。誰かが殺したとして事故として病気として処理されたのに。目撃者がいたら誤魔化せないではないですか。
どんな理由があれ、どんな人間であれ国の定めた太守が殺されたら国が罰を与えない訳にはいかないではないですか。
どんな杜撰な管理でも帝国が誇る48の至宝を盗まれたら国が罰を与えない訳にはいかないではないですか。
「この話から学ぶことは一つ。人殺しは自然に行いましょう。事故死、病死。暗殺は最後の手段です。」
「ろくでもない教訓だ。」
それでも学んでおいて損はないのですよ。
「初めまして。チョウリ元宰相。お話の内容は理解しておられるのでは。」
「帝都に来るなという事なら聞けないぞ。儂は帝国の為に死ぬ覚悟はできておる。」
持ってきた資料を渡す。お前の行動は全て筒抜けなのだという意味を伝えるための資料を。
「手元の資料をご覧ください。ここ最近の貴方の行動と娘の行動が書いてあります。」
「それでも儂は行くぞ。」
意地になっていますね。方向を変えてみましょうか。
「分かりました。では、大臣が失脚した後に帝都に来られては。貴方が死ぬのは帝国にとって大きな損失です。」
「民は今苦しんでいるのだ!!」
「貴方が死ねば今は永遠となるかもしれません。今は耐える時だと思います。貴方は死んではいけない人です。」
「中々うまいようじゃが嬢ちゃん。儂は長くないのだぞ。時は嬢ちゃんの味方でも儂の味方ではない。最初から言っているじゃろう。死ぬ気だと。」
取りあえず本性は引きずり出した。交渉は終わり。脅迫の時間です。
「では、スピアさんを使って脅迫します。貴方が帝都に来た場合スピアさんには少々過激な目にあってもらいます。貴方と違って未来ある貴方の娘に。それでもよろしいですか。」
「…………。」
「そいつの言う事を聞く必要はありません!!父様。父様の思うが儘に」
「足の筋を絶って、趣味の悪い者たちへの土産物にしましょう。犬とまぐわらせる事が好きな趣味の悪い者に心当たりがあります。」
「それとも来る途中に出会った盗賊にくれてやるか。皮を剥いで生きたまま飾るのも悪くないな。」
タツミも脅迫に参加ですか。死んでほしくないのですね。なんだか喜劇です。優しさから脅迫するとは。
「父様!!」
「三年。三年の間帝都には赴かん。それがこちらのできる最大の譲歩じゃ。」
「警備として私の手の者をここに置きます。大臣には私から伝えておきますから一筆書いてもらっても。」
さらさらと書いてもらって。やはり綺麗な字ですね。
「はい、ありがとうございます。」
「父様!!私は大丈夫です!!」
「腕に覚えがあるようですが。帝具使いの相手は無理でしょう。こんな芸当が出来るなら別ですが。」
縮地を用いてスピアさんの後ろに立つ。振り向いたら視界に入る前に後ろへ。背弄拳と呼ばれる歩法でしたか。
あ。そうだ。ついでにタツミをからかうために手刀で服をきわどく刻んでいく。
「何をするんですか!!」
「嫌がらせですよ。首も肘の裏も目も狙わない嫌がらせです。……手刀は眼では追われていたので十分に武芸で大成できると思いますよ。」
「だからって服をずたずたにする必要はあったのかよ!!」
「年頃なのですから見たらどうです。本人も嫌がっては「嫌ですよ!!」嫌よ嫌よも好きの内と言い張る変質者の真似が」「しない!!何故、すると思った!!」戯言ですよ。」
「若いのう。儂には騒がしすぎる。」
チョウリ様、どうかご自愛ください。家族を切り捨て他人を救うような道理の合わぬことをなさらない事を祈っております。
「本当に失礼いたしました。それでは、どうかもう二度と出会わぬことを。」
「お仕事もうまくいき、何も考える必要なないときに飲む貴腐ワインは最高です。そうは思いませんか。」
「仕事が終わった瞬間に飲みだすのはダメだろ。」
行きに連れて来たものを見張り兼警備として残したら、帰りの護衛を用意していただいたので。賊は来ないでしょう。
そんな考えはあっさりと裏切られる。
「「。」」
「いつから賊の真似事を三獣士。チョウリ様なら、隠居を続けるそうですよ」
脅迫はぎりぎり間に合ったようですね。恐らく、私達が通った後にここで待ち伏せ。さて説得できるでしょうか。おそらく、殺し合う事になるでしょうが。
それを楽しみと思っては不謹慎でしょうか。
「我らが命じられた事はリストにある者の殺害。それはいかなる状況下でも遂行される。」
「もう意味がないとしても。」
「我らが主ただ一人。」
「でしたら」「ならば」
その場の誰もが武器を構える。護衛も私もタツミも三獣士も。合図を待つ。
たとえ知り合いであろうと、
「「問答は無用。」」
「さあ、踊りましょう。」「蹂躙するのみ。」