アリアは踊る   作:mera

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ブギーマンの話

ブギーマン。不気味な男。

それが、帝都に住む者が平等に恐怖する名前です。

帝都を震え上がらせた殺人鬼。

死亡、行方不明合わせて 約一万三千人。負傷者 一人。確保された遺体の数。推定 一万人。身元を確認できた人数 約七千人。

犯行は昼夜を問わず続きました。

始まりの犯行はある大通り。次々と人が倒れる。昼間の犯行であるにも関わらず目撃者は零。ただ多くの人間が何故か死にました。

次の犯行は一昼夜。刺殺、斬殺、殴殺がそれぞれ百人ずつ。殺しの練習しているような死体が量産されました。

その次は縊殺。木には人が木の実のようになりました。

殺し方は一致しない。日時は問わず。場所も人種もなく、平等に殺される。

どの犯行も共通点はただ一つだけ。

目撃者がいない事。

誰も見てない。見たといった者も正確な顔や体型を聞かれれば覚えていないと言いました。

残るのは凄惨な現場のみ。

頭を引き抜かれた死体。まるで飾付のように壁を飾る臓物。臓器を生きたまま抜き取られ放置された。殺されなかった不幸な一時的生存者。

凶行は半年の間続き、被害は広がるばかり。

犯行は時が経つにつれ凶悪化していきました。

ある親子は親の腹から内臓を取り出し、隙間を作る。骨を砕き柔らかくして親の腹に詰めた。子供は生きたまま詰められたそうです。

腹の中身を生きたまま臓物パイにされた者。

一つの区画の住人が全て挽肉に変わっていた。

人の形をした死体が後半の犯行ではほとんどなかったそうですよ。

軍も警備隊も自警団も全ての組織が協力して殺そうとしました。あの大臣と大将軍が公式に協力するほどでした。

そして、何度も事件現場にいった者に異常が起こりました。

子供に対する殺人衝動。

現場に行った者が子供を見た時反射的に殺す事例が多く報告されました。

理由は支離滅裂なものが多かったと聞きます。

殺されると思った。気付いたら引き金を引いていた。ブギーマンを居たんだ。居た、居たんだ。

そんな意味をなさない。訳の分からない理由で子供を原型が無くなるまで損壊したそうです。

ブギーマンに呪われた者。彼らはそう呼ばれました。

彼らによる被害が目立ち出した頃。ブギーマンによる凶行は終わりました。

多くの命を奪った何者かは居なくなりました。多くの爪痕と壊れた被害者を残して。

その後、帝都警備隊は重装備化を余儀なくされました。最初期は軍のアサルトライフルを。今は市街地での取り回しのよい短機関銃を。十人一組で信号銃を持っているのも名残ですね。

市民は拳銃を持ち歩くようになりました。

そんな風に帝都は変わりました。

 

 

私が逮捕された理由ですか。一応の目撃証言が私に似ていたからですかね。あくまで金髪の女の子程度の証言でしたが。

あの頃は誰でもいいから逮捕して処刑して安心したかったのでしょう。私もパイプオルガン事件やオルゴール事件が起きなければ処刑されていたでしょうね。あの頃は一日中軟禁されて退屈でした。

事態の鎮圧を図った事が藪蛇となってブギーマンが出てきたのは笑えない事態だったでしょう。

 

ブギーマンの正体ですか。

一番有力なのは内戦時に紛失した帝具使用した単独犯説。つまり精神操作系の帝具を使用したから目撃者がいない。

多くの殺人鬼が名前を使い回した複数犯説。目撃証言。方法が一定しないのは同一犯ではないから。

私の考えですか。

犯人は見えなかったのではなく、見たくなかった。覚えていないのは覚えていないのではなく覚えていたくなかった。

余りにも怖い存在(ブギーマン)だったから皆が目を逸らした。

それが答えだと思っています。親友以外誰も賛同してくれませんが。

ただ一つ確信をもって言えるのはブギーマンが舞台を降りた事だけです。

だから、安心してください。もうブギーマンはどこにも居ません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺す事が楽しかった。誰も見ていないから好都合だった。

殺した。縊って斬って刺して溺れさして殴って折って燃やして凍らせて溶かして轢いて。

本当に楽しかった。でも奪い合う事の方が素晴らしい事を知った。

一方的な片思いより両思いの方が素晴らしい。

少しだけ満たされた。余裕が出来た。

そして下らない小さな夢を見た。

 


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