ユウシャの心得   作:4月の桜もち

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前回のあらすじ


ご飯食べたよ!美味しかった!明日の朝ごはんは何かな!


その九、説明書はしっかり保存しよう。[上]

もう夜も遅い時間だったので、子供達は寝ぼけ眼で自分達の部屋へ戻った。

優子達もマグダに淹れてもらったお茶を持って部屋へ向かった。

 

「優子。そこ、危ないわよ」

「わ、かってる、よ?」

 

トレイを持ってすべてのカップを運んでいるのは優子。

なかなかに危なっかしい光景である。

廊下でフラフラとしながらもオーク製の扉の前に無事ついた。

今度は何かが飛び出してきても大丈夫なようにと優子は一歩下がる。

 

「あ、ボクが開けるよ。」

「ありが、と。アベ、べべべべ!っと!・・・セーフ、ありがとアベルくん」

 

ろうそくに火を着けトレイをテーブルに置いて、みんな好きなように座る。

斎は丸椅子に足を揃えて座っていたし、アベルと優子はベッドに腰掛けていた。剣也だけは警戒するように全員の位置が見えるドア横の壁に背を預けていた。

 

「これって砂糖入れないの?」

「どっちでもいいけどボクは入れないほうが好きだな」

 

とろみのある、黄色と緑の中間の澄んだ色をした熱いお茶を無駄に高い位置からカップの中に落としてみた。

 

「あちっ!」

「バカじゃないのか?」

 

注ぎ終わったら、陶器の白いカップを顔に近づけて香りを楽しむ。

 

「わぁ・・・なんて言うんだろう・・・すごく不思議な匂い」

「コルン茶と言うんだ。この地方の特産品だよ。爽やかな香りがするだろう?飲んでみて、びっくりするよ」

 

アベルがニコニコしながら見つめてくるのでカップに口を付けて少し傾けた。

するとどうだろう。こんなにも爽やかな香りを発しているのに味は濃厚で複雑。舌に染みわたる深い苦味があるかと思えば、吹き抜ける風のような酸味が攫っていき、喉元を通れば甘みが手を振る。飲んだ瞬間、余りの情報の多さに目が白黒としてしまった。こんなにも五感を揺さぶられるお茶を飲んだのは初めて・・・

 

「あれ?私このお茶飲んだことある」

 

ではなかったようだ。

 

「え!?待って待って、何これ恥ずかしい。びっくりするよ、とか、ごめん!今すぐ忘れて!」

 

なんだかすごく顔を赤くしているアベル。対して右上の方を見て、記憶を探っている優子。

 

(おかしい。あんな名前のお茶は聞いたことがないし、元の世界では中々味わえないものだわ)

 

腕を組んで何やら思案顔の斎。

剣也は注がれたお茶に手を伸ばすこともなく、そっぽを向いていた。

 

「貴方、このお茶どこで飲んだのかしら?」

「どこだろう・・・?わかんない、かも」

 

うーんと唸る優子の隣でのぼせたような頭を抱えていたアベルが震える声で呟く。

 

「・・・勇者の、先代の勇者の記憶があるのかも」

 

ピクリ、と話に耳を傾けていた剣也の眉が動いた。

 

「あの1つ目野郎を倒した時か」

 

斎は剣也の言葉を聞いて考えた。そして、憶測でしかないけれど、と話し始めた。

 

「サイクロプスのいた洞窟に封印されていたのは魔王の体、そして勇者の魂よ。サイクロプスを倒した時に出てきた、あの光は勇者の魂。力と、そして記憶も受け継いだのね。」

 

唸っていた優子がいつの間にか静かになり、遠くを見るような目でゆるゆると頷く。

 

「今考えると・・・なんだろう、ここに来たことがあるような・・・なんて言うんだっけ、デジャブ?」

「それは物に対して?人に対して?」

「うーん・・・どっちかなぁ・・・・」

 

色々と優子を質問攻めしても良いのだが優子が可哀想なのと、まどろっこしいのが嫌いな人がいるので簡単な質問で終わらせる。

 

「他に覚えていることはあるか」

 

優子の方を向かずに剣也が喋った。

 

「うーん・・・あ、えっと、名前かな?1つだけ、

はっきりと覚えてる単語がある」

「それは何?」

「・・・リオ」

 

斎とアベルの2人は顔を見つめ合った。さっきの仮説はどうやら間違ってはいないようだ。

 

「貴方、元の世界でその名前のものを見た、もしくは会った事があるかしら?」

「ないよ?・・・うん、ないよ」

 

確定だ。

 

「リオというのは多分、人の名前だよ」

 

多分、と言いながら確信を持ちその人物について語る。

 

「その人は先代の勇者の最初の仲間、凄腕の剣士だ。勇者とはさっきも言った通り、最初に仲間になった仲だから強く記憶に残っているんだろう」

 

さっきまでの赤面も冷めて、話し終わったあとは腕を組んで考えだした。

 

「優子、これからも勇者の魂を取り戻していけば、記憶が蘇っていくかもしれないわ。最初は混乱するでしょうけど、私達にしっかりと説明して頂戴。何か使える情報があるかもしれないわ」

 

アベルがあの状態になると話ができないことを知っていた斎が優子に言い聞かせた。素直な優子は全て話すと約束した。

 

「うん、やっぱりわからないよね。さっきの事を含め、優子達は知らないことが多い。今は時間があるから少し勉強しようか」

 

考える事を終えたアベルが優子ににっこりと話しかけるが、優子の方は勉強という単語に反応し咄嗟に首を振る。

 

「話を聞くだけよ。難しい計算をするわけではないし、今わからなくても後から体験して理解していく事だわ」

 

斎にそう諭されて、聞く態勢に入る。・・・しかし暗に勉強ができないと斎に言われ、腹が立たないのであろうか。

 

「まず何から説明しようか」

「私と貴方の事からでいいんじゃないかしら」

 

椅子に座っていた斎も、半分ほど中身の残ったカップを持って優子の隣に移動した。

 

「勇者の伝説では国一番の剣士、太陽の国の魔術士、月の姫巫女を仲間にして、魔王に挑んだとされているわ。私の家系はどうやらその姫巫女を起源としているようよ」

「斎は召喚術が使えるんだ。・・・なんて言ったらいいかな?うーんと、そう、精霊みたいなものと契約をして呼び出すんだよ」

「あの綺麗な氷の女の人とか?」

「グリアメイアね。・・・他にもウォークトゥムやダンキュイト、色々いるわ」

「1人の人間がこんなにも多くのものと契約しているのは異例の事なんだ」

「へぇ~!舞姫さん、すごいんだ」

「止して頂戴。あ、あと私の事は斎で良いわ」

「うん!斎ちゃん」

 

なんだかほんわかとした時間が流れている。剣也以外はニコニコ笑顔でお茶を継ぎ足しながら会話していた。

 

 




ハーメルンて絵載せられるんでしたっけ?今描いているんですけども、載せられたら載せようと思います。

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