サイクロプスと戦ったよ!めっちゃ怖かった!
「うぅ、ベトベトだよぅ」
ベッタリと肌に張り付く不快感に顔をしかめながら優子が泣く。
「大丈夫かい?」
「ただのかすり傷だ」
男子2人は傷の手当をしている。
「あれ、なんか煙出てない?」
美佳の指し示す1つ目の死骸からは煙がもくもくと出ている。
「生命活動が停止してこの世界に存在し続けるエネルギーが無くなったんじゃないかな」
すでに巨体に一部が灰になり、サラサラと風に流れていた。
「ん?なんか出てきたよ?」
おっかなびっくり見ていた優子が言う通り、サイクロプスの灰から薄ぼんやりと光る物体が出てきた。それはふよふよと蛍のような動きで優子に近づく。
「う、わ、わわ!」
良く分からない物体から逃げる優子。しかし、光る物体も後を追う。
「優子、止まりなさい。それを貴方の中に取り込むのよ」
「こ、これを?なんで?」
頼りない動きだが確かに優子のみを追っている。ツッと右に避けるとその物体も右に逸れる。
「それは勇者の一部、貴方の力となるものよ」
斎の説明を半分も理解していない優子がとりあえず動きを止める。対象の動きに追いついた物体がゆっくりと優子の肌に触れる。そして溶けこむようにして優子の中に消えてしまった。
「わぁーー・・・」
「どう?何か感じる?」
勇者の力を取り込んだ優子がホワンとした表情を浮かべる。
「うん、なんか力がみなぎってくる!」
そう言って嬉しそうにはしゃぐ。その姿を見て微笑ましそうにしていた美佳が、はっとして現状についてもっともな疑問を放つ。
「ねぇ、さっきからあんたら普通にしてるけど、これって異常だよね?」
突然現れた怪物、光る鳥、それに異形の貴婦人まで出てくればそれはもう異常としか言いようがない。
「ああ、ごめんね。これにはワケがあって・・・」
「うおおぉおぉおおおおおぁぁぁあああ!!」
叫び声と共に扉の向こうから現れたのは、坊主頭の少年。
「ご、剛太!」
優子の友達、金本 剛太である。
「美佳!優子!お前らこんな所に!ってこんなことしてる場合じゃねぇ!みんな逃げろ!」
声を張り上げて注意を促す剛太の後ろから屋上にいた、小柄なモンスターが襲いかかる
「!?
うわああああぁぁあああ!」
「グリアメイア!」
小柄な魔物はあともう少しで少年の柔らかい肉に鋭い爪を突き立てることができるという所で、貴婦人の冷気に当てられて氷漬けの醜いオブジェとなってしまった。
「まだ雑魚が残っているようね。グリアメイア、少し遊んで来なさい」
斎が命じると麗しい姿を翻して氷の貴婦人は体育館の外に駆けて行った。
「行った・・・?何なんだよあれ」
ぺたりと尻もちをつきながら剛太がうわ言のようにつぶやいた。
「ごめん。一人ひとりに説明してる暇がない。キミ達に今の起こっている事を説明するから、皆に伝えておいてくれるかな?」
アベルが人の良さそうな笑顔で、未だ現状を理解していない2人に説明をした。
「魔王だとか勇者だとか、そんなもの信じろっていうの?」
「キミ達が体験してきたとおりだ。実際に今起こっていることなんだよ」
幽霊がいるなんて夜中のテレビで見ても鼻で笑えるが自分の目の前に現れたら信じるほかない。
「・・・わかった。みんなに伝えておく」
「ん。じゃあボク達は優子の家に行こう」
「私の家?」
こんなに?の似合う娘がいるだろうか。
いや、いない。
「そうよ。それとも一生会えないかも知れない親に挨拶しないで良いのかしら」
「!?やだ!」
今朝挨拶したばかりだが、あれは学校に行く為の挨拶であって、今生の別れをしていたわけではない。優子の学校はそこまでの覚悟はいらないところだ。
「そう。なら早くしましょう。優子の家についたらその場で門を喚び出すわ」
斎が踵を返すと艷やかな黒髪がふわりと広がった。
「・・・行くのか?優子」
尻を払って立ち上がる剛太が、優子の覚悟を確かめる。
「うん・・・待ってる人達がいるんだもん。」
少しだけ勇者としての自覚を持った優子は最初のような考えなしではなく、確かな思いを持って応えた。
「わかった。・・・でもね、優子。これだけは約束して。」
美佳と剛太が優子の肩を掴み、しっかりと目を覗き込みながら話す。
「絶対に戻ってきて、俺たちに異世界の話をすること!いいな?」
おっちょこちょいで、おバカ、おまけに天然の、小さな友人が知らない間に成長していた事を嬉しく思う。
「うん!」
満面の笑みで小指を突き出す。美佳と剛太は顔を見合わせ、指を絡める。
「「「ゆびきりげーんまーん、うっそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった!」」」
古来より伝わる約束の儀式。
1つも間違えることなくやり終えた優子達はとても満足そうな顔をしていた。
「終わった?もう行かないと」
既に外へ向かっていた3人が優子を待つ。
「うん。それじゃあ、美佳ちゃん、剛太くん、またね!」
「またな!」
「頑張りなさいよ優子!」
大きく手を振る。優子も振り返って手を上げる。きっとこの少女は帰ってくるだろう。自分の生まれたこの町に。私達の世界に。
忘れてた!
セーフ!