やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!   作:後藤陸将

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エイプリルフール短編です。

四月から色々と環境が変わることもあってその準備に追われていたり、
信長の野望にはまっていたり、
私の新作で、ゴルゴ13と暗殺教室のクロスSS「BEST ASSASSIN」の執筆に時間を取られていたりということで、序章部分しか書けませんでした
本当ならばガメラ3で丸々一本書ききる予定だったのですが

四月も2週間ほどはPCの都合で更新はできない予定です。


特命係長ロードエルメロイⅡ世 《邪神降臨》

「ちょっと来い」

 

 ()()()桜にとって、この言葉は日常的なものだった。だが、2年前にこの土地――奈良県高市郡南明日香村に来てからというものの、何故かこの言葉を聞く機会が多くなった気もした。

 彼女の祖父にあたる間桐臓硯が9年前の冬木の大災害で亡くなったことで、その遺産を継承した義父、間桐鶴野は同時に500年の間桐の全てを継承した。故間桐臓硯は怪物として恐れられたほどの魔術師であり、当然、その中には魔術的な要素を含む遺産も少なくない。

 そして、その遺産を継承してからというものの、鶴野は実子の慎二と養子の桜を連れながら度々居住地を変えて全国を放浪した。魔術師間桐臓硯が残した遺産を狙い、他の魔術師が襲ってくるという恐怖に駆られての行動だったらしい。

 苗字を比良坂に変えたのも、魔術師の追跡を逃れるためだそうだ。間桐鶴野、間桐慎二、間桐桜の三人は冬木市の大災害に巻き込まれて死亡したことにして、冬木の災害に巻き込まれて全滅していた比良坂という一家に成りすまし、以後は各地を2年から3年の周期で転々としている。

 幸いにも、間桐臓硯が残した金銭的な遺産も莫大なものであったため、存在するのかも定かではない追跡者相手の逃亡生活も金銭的には全く困りはしなかった。まぁ、桜の知るところではこの9年間で魔術関係者からの接触は一切ないのだが。

 

 

 

 朝、起きれば家の周りでコジュケイが鳴いている。その鳴き声は「ちょっと来い」という日本語に聞こえなくもない。ウグイスが「法華経」と鳴いているといった「聞きなし」の類であるが、毎日聞いていると、不思議と自然な日本語に思えてくる。

 コジュケイの声で目を覚ました桜は、毎日目が覚めると周囲の様子を確かめるように首を回す。そして、自身に覆いかぶさっているものが無数の足をせわしなく動かすおぞましい形をした蟲ではなく、余熱を残した布団であることを知る。

 次いで、自身の周囲を囲うものが、無機質な冷たい石の壁と僅かな灯に照らされる暗い天井ではなく、日に焼けて変色した襖とやや低い木の板を張った天井であることを確認。さらに鼻で一呼吸する。鼻腔に入り込む空気は、ジメジメして、身体を芯から冷やしていく恐怖を孕んだものではない。古くなった畳が発する独特の臭いと、布団から微かに香る潜在の香だった。

 

 

 

 

「ちょっと来い」

 

 朝食後、自身を呼びつけたのは血の繋がっていない兄だ。

「桜、食事中のあの視線は何なんだよ?」

「いえ、私は別に……」

「お前の何か言いたげな視線にはもううんざりなんだ。何か言いたいなら直接に僕に言えよ!!あんな気味悪い視線を向けられてたら飯が不味くなる!!」

 言葉を濁す桜。それに対し、兄、比良坂慎二は眉を吊り上げて言い募る。

「ただでさえお前は辛気臭いのに、じ~っと見てくるから余計に辛気臭くなる。親父もいた手前、あそこでは何も言わなかったけどな、僕にも我慢の限度ってやつがあるんだ。だいたいお前は――」

 ここぞとばかりに日頃の不平不満を口にする慎二。そして、それが一段落したところで桜はようやく自身の考えを口にした。ここで自身の考えを秘したままにしておくのは別に苦でもなんでもない。しかし、このまま兄を放置しておいても彼の追及の手は緩むまい。その場合、登校時間になっても関係なくこちらを詰問するだろうから、学校に遅刻してしまうかもしれない。

 自身の本音を言ったところで彼が怒鳴り散らすのは変わらないかもしれないが、少なくともこのまま口を噤んでいるよりは進展があるだろう。こちらの意見に文句をつけて潰せれば、それで彼は満足し、追究の手は緩めるはずだ。桜はそう考えて自身の考えを口にした。

「サラダを……」

「あぁ?」

「朝食にでてきたサラダ、残してましたよね」

 桜の言葉を聞いた慎二のこめかみに青筋が浮かぶ。

「昨日の夜もそうでしたし、一昨昨日の朝食も残してました」

「うるさい!!僕が何を食べようと僕の勝手だろ!!だいたい、僕はミニトマトが嫌いなんだ!!」

 慎二は怒鳴り散らし、壁を乱暴に殴りつけた。

「二度とサラダに入れるな」

 そう言い残すと、慎二は廊下の古い床板に足の裏を叩きつけるような乱暴な足取りで去っていった。この村に来てから、少し慎二の桜に対する態度も酷くなっていた。だが、桜はそのことに気づいていない。

 慎二を見送った桜は、手首の時計に視線を向ける。そして、既に登校時間の5分前になっていたことに気づくと、少し早足で玄関へと向かった。

 

 

 

 

「ちょっと来ぃや」

 

 学校の授業が終わり、帰宅しようとしたとことで桜を呼び止めたのは、クラスメイトの知美だった。取り巻きの早苗、夏子を連れ、恫喝するかのように桜を囲う。

「すみません。私、今日は……」

 桜が低姿勢で知美に断りを入れようとするが、知美は桜の主張など一顧にしない。

「つべこべ言わずについて来ぃや」

 彼女は桜が強く抵抗しないことをいいことに、知美は桜を学校から歩いて20分ほどのところにある沢にまで強引に連れ出した。

 桜が連れてこられた渓流の畔には、表面に薄っすらと生えた苔や雑草によってその存在に気づき辛くなっている小さな祠があった。

「この社の沢には“りゅうせいちょう”が眠っておわす――お嬢様は来たばっかで知らんやろうけど、そういう言い伝えがあるんよ」

 知美は顎で桜に祠の裏の洞窟の中に入るように促す。

「“りゅうせいちょう”ってのはよく判らへんけど、この奥にそれを封印している石があるんやって。奥まで行ったっていう証拠に、それ取ってきたら見逃したるわ」

 知美はニヤリと笑う。

「取ってこれたらこの村の仲間だって認めてやらんでもない。そうしたら、おうちに帰ってもかまへん」

「……別に、仲間だとかはいいで」

「うるさい!!アンタはとっとと封印の石を取ってくればいいんや!!」

 知美は額に青筋を浮かべ、桜の言葉を遮り罵声を浴びせた。

 

 実は、知美の祖父は戦後林業で財を築いたこの土地の名士だ。そして、彼はたった一人の孫である知美を溺愛していた。だからだろう、彼は知美にねだられてるとほぼ確実に断らない。

 そのため、知美はコンビニすら存在しないこんな田舎町に住んでいながらも、テレビや雑誌でしかお目にかかれない化粧品やバッグを入手ことができた。夏休みには毎年のように祖父にねだって東京や大阪に連れて行ってもらい、都会のアイテムを買ってもらって南明日香村に帰る。

 この狭い村の中だ。広い地域にまたがって生徒が通う高等学校ならばともかく、地域の子供が通う小学校、中学校の規模は必然的に小さくなる。

 そもそも学校に通う生徒の数も少なく、その中にも容姿や能力にそれほどずば抜けた人物もいなかったため、知美はアイテムと僅かな見聞とによって周囲の田舎臭い少女とは違う都会の少女――差別化された学校のヒロイン的存在だったとも言える。

 古い言葉で言えば、まさに彼女は学校のマドンナであった。昨年の冬休み直前に比良坂桜が南明日香村唯一の中学校に転校してくるまでの話ではあるが。

 

 比良坂桜という少女は、間違いなく絶世の美少女だった。テレビでしかお目にかかれないモデルや女優にも匹敵する美しい容姿、中学生ながらに発達し、日本人ばなれした抜群のプロポーション、それに加えてあの物静かな立ち振る舞い。そのどれをとっても過疎気味の村の小さな中学校のマドンナに過ぎなかった知美とは隔絶していた。まさにその差は天と地ほどの離れているといっても過言ではなかった。

 どんなに都会のアイテムとステータスで着飾ろうと、都会波少女というイミテーションは桜という本物の美少女の前では色あせ、ただの偽者になりさがる。桜は知美の地位を脅かす存在に他ならなかったのである。

 知美は、自身が井の中の蛙であることまでであればまだ認められた。しかし、井の中の一番すら奪われる危機に座していることはできず、結果桜に対して高圧的に接した。桜を懐柔して自身の取り巻きとすることでマドンナの地位を保持する方法だってあったはずなのに、何故か彼女は桜を『潰す』以外の選択肢を()()()()()()()()

 知美自身も、何故あそこまで桜の存在が自身の神経を逆撫でするのかは分からない。思えば、転校初日からそうだった。それはまるで、生理的嫌悪感に近かった。さらに、毎晩耳元で恨み言を囁かれているかのごとく、日々彼女に対する憎しみが募っていった。

 しかし、彼女にはこれまた顔のいい兄がいた。彼女の兄は学校一の人気者で、話術も巧みということもあって、あっというまに中学校の女子のほとんどを支持層に取り込んでヒエラルキーのトップに君臨していた。

 その兄自身が妹である桜を身内として大切に扱っていたわけではないことは知っていたが、知美も流石に中学校の女子の殆どを支持層に取り込んでいる男の妹に露骨なイジメをすることはできなかった。万が一、兄が妹の保護に乗り出したら知美の形勢が悪くなるのは明白だったからだ。

 しかし、彼女の兄が中学校を卒業して村の外の高校に通うようになった今なら話は別。

 

 ――最初からこいつの存在が不愉快やった。何がお淑やかな大和撫子や、ただの根暗なデブやないか。去年はイケメンの兄貴が上の学年にいたから手を出すのは控えといてあげたけれども、兄貴が村の外の高校に行った今は関係あらへん。思う存分甚振ったる。

 

「まさか、取ってくるどころか、中に入りもしないうちからゴチャゴチャ言うんか?アンタの立場ってもんを思い出させてあげよか?」

「取ってくるつもりがあるんなら、さっさと行けよ」 

 早苗と夏子が桜を煽る。知美の取り巻きである彼女らも、知美が学園のマドンナであるからこそ、中学校内の小さなヒエラルキーの中で上位にいることができるということは自覚している。自身の保身のために、彼女たちの桜への態度は知美に倣っていた。

 知美たちの桜への要求は、完全に言いがかりだ。苛めであることに疑いの余地はない。しかし、桜はそれに淡々と従う。

 そう、それが比良坂桜にとってはいつものことだった。彼女は転校の度にその内気な性格と絶世の美貌、男性の目を惹きつける抜群のスタイルの良さからか、イジメの対象となっていた。

 これまで、彼女は髪を引っ張られようが、上履きを隠されようが、リコーダーを盗まれようが、クラスの女子全員から無視されようが、トイレの個室で水を浴びせられようが一切抵抗しなかった。如何なるイジメを試しても悉く暖簾に腕押し柳に風。あまりの無反応な態度に、しまいには苛めている方が気味悪がって根を上げるのが常だった。

 桜は、この学校でもいずれはこれまで通り苛めている方が諦めるだろうと思い、知美の要求通りに洞窟に入ることに決めた。洞窟を塞ぐ扉の前に足を踏み出した桜を見て、早苗と夏子は道を空ける。

 洞窟の入り口を塞ぐ扉は、一体いつからそこにあったのだろうか。その扉は、教科書とかで見る、南方の孤島に残って雨ざらしになっている旧日本軍の戦車のように赤錆びていてボロボロだった。

 桜は、その扉にそっと手を触れてみる。沢の近くにあるからだろうか、赤錆びた鉄と思しき扉の表面は気持ちいい具合に冷えていた。そして、桜は両手に力を籠めて扉を押してみた。ギギギ、と古びた金属の擦れる不快な鈍い音と共に、扉が僅かに動いた。さらに力を入れると、扉は意外とすんなり動き、人一人分が通るには十分なほどに開いた。

 そして、桜は夏子に渡された懐中電灯の電源を入れ、真っ暗な洞窟の中に足を踏み入れた。

 

 洞窟の中は一本道だった。懐中電灯の明かりを頼りにたどり着いた洞窟の際奥で、彼女は目的のものを見つけていた。何もないこの部屋の中央に鎮座していた一抱えほどの大きさの石。これが、知美たちの言っていた封印の石とやらなのだろう。

 石の表面を薄く覆う土を払う。土を払うと、なにやら模様のようなものが見えてきた。円形の中に六角形の模様が刻んであるその石は、亀の甲羅に似ていると桜は感じた。そして、間桐桜が石を持ち上げようと両手で抱えたその時、石が僅かに淡い光を放った。

 ――光った?

 しかし、光はすぐに収まった。桜はとくに石の発光という不可解な現象について考えることなく、懐中電灯を胸のポケットに入れ、石を抱えなおして力を籠めた。

 石は桜の細腕に抱かれて持ち上がる。とはいえ、やはり一抱えほどある石にはそれ相応の重量があった。桜は歯を食いしばり、足を引きずるようにゆっくりと洞窟への入り口へと歩き出した。

 

 

 

「大丈夫やろか……?」

 暗闇の中に姿を消した桜から視線を外し、夏子が呟いた。多少なりとも彼女の安否を気づかっているが故の言葉ではない。もしも桜が本当に封印の石を持ってきてしまえば、自分たちの立場がないからだ。

「心配あらへん。子どものときに守部の婆様に聞いたことがある。江戸の終わり頃、勧進相撲にきた力士が余興のつもりで封印の石を持ち上げようとしたけど、びくともせんかったんやって。相撲取りが持ち上げられへんかった重たい石が、あんな根暗女に動かせるわけがないやろ」

 夏子の内心の心配を察して嘲るように笑う知美。桜がどうやっても石を持ち帰ることができないことを知った夏子は安心し、早苗と一緒に笑みを浮かべた。

「お前ら、何してんねん!!」

 その時だった。沢に一人の少年が駆け込み、大声で少女たちを怒鳴りつけたのは。

 声の主は彼女達のクラスメイトの少年、守部龍成だ。この洞窟を守ってきた守部という古くから続く村で最も影響力のある一族の跡取りである。

「あの根暗女ならこの洞窟の中や。ええかっこしたいんやったら、助けたればええやろ」

 龍成の姿を見た知美はそう吐き棄て、祠に背を向けた。

「胸がデカイってだけ鼻の下のばしよって、スケベが!!家が大きいからっていばんな!!」

 龍成に罵声を浴びせて立ち去る知美。沢の出口にさしかかった時、そこに龍成の妹がいることに気づくと、知美は彼女に近寄った。

「言いつけたんか。覚えとき」

 耳元で静かにそう囁くと、知美は夏子と早苗を連れて沢に繋がる細い道へと足を向けた。

 そして、帰り道で知美はふと思う。そもそも、桜を苛める手段ならば封印の石に凝る必要はない。ふっかける無理難題ならばそれこそいくらだってある。それなのに、何故自分は守部の一族が管理している洞窟に桜を行かせたのだろうか。

 守部の一族にこの洞窟に立ち入ったことがばれれば、親に必ず連絡が行き、少なからずお小言をもらってもおかしくないはずなのに。

 しかし、知美はすぐにその疑問を思考の隅に追いやった。そんなことより、今はあの忌々しい根暗女と告げ口をした龍成の妹だ。彼女らにはいつかこの報いを与えてやらねばならないのだから。

 

 

「誰や?」

 洞窟の出口付近だろうか、光が差し込んで、暗さになれた目ならばその全体像がぼんやりと把握できるところで桜は男の声を聞いた。桜は、その声に聞き覚えがあった。

「龍成君?」

「比良坂……」

 桜の姿を目にした龍成はまず訝しみ、次いで彼女がその細腕に抱えているものに気づいて、目を見開いた。

「……あの人たちはどこですか?」

 知美たちの姿が見えないことに気づいた桜が問いかける。

「あいつらは、俺を見て逃げた。それより、それ……」

「これを、取ってきたら帰らせてくれるって言われました。でも、そう、ですか。じゃあ、返してきますね」

 桜は石を抱えたまま踵を返して洞窟の奥に戻ろうとする。しかし、その足取りは重い。

 足取りが重いのも当然だ。桜が手にしているその石は、守部に伝わっている“封印の石”なのだから。

 ――婆様曰く、勧進相撲にきた力士が、余興のつもりで封印の石を持ち上げようとしたけど、びくともせんかったって石や。女の子に持てるようなものではあれへん

 なのに、どうして彼女は両手で抱えてとはいえその石を持ち上げることができたのだろうか。龍成はなんとも言いがたい恐ろしさを感じ、背中に汗をかいた。

 しかし、流石に少女には一抱えほどの大きさの石を休憩無しで洞窟の奥に持ち帰るほどの力はなかったらしい。桜は封印の石を足元に置き、身体を伸ばして深呼吸した。汗に濡れたために透けたブラウスの下、胸のあたりを覆う薄いピンク色に気づいた龍成はとぎまぎする。

 齢15にして、日本人の平均を超えているかもしれないバスト、そして、そのバストと対比してほっそりとした肢体のまろやかな曲線に思春期の少年である龍成が惹きつけられてしまうのも、無理もないことだろう。

「どうかされましたか??」

 貴方のナイスバディに見とれて鼻の下を伸ばしていましたなどとは龍成には口が裂けても言えない。故に龍成は取りつくろうように手伝いを申し出た。

「手伝うわ。それ、重いやろ?」

「でも、これは私がやったことですし……」

「悪いけど、俺は無関係やない……うちの一族は先祖代々、ここを――柳星張の眠りを――守ってきたんや。これは、動かしちゃいけないものやって婆ちゃんが言ってた」

 石を持ち上げようとしたところで呼び止められ、顔を上げた龍成は至近距離から見た美しい形をした双丘に一瞬意識を奪われかけた。だが、露骨に視線を向けていれば桜に自身が何を意識しているのかを悟られかねない。故に彼は話を切り上げて、視線を下に向けて封印の石を持ち上げようとした。

 しかし、健全な男子中学生の龍成が封印の石を持ち上げようとしても、石はまるで強力な磁石で地面にくっついているかのようにびくともしなかった。手助けを申し出た手前、彼女が一人で抱えられなかったものを自分が持ち上げられないとなったら赤っ恥だ。

 龍成は奮闘してどうにかして石を動かそうとするが、結果は同じ。龍成が意地になって石を持ち上げようと挑戦するも、やはり石は全く動かなかった。すると、悪戦苦闘する龍成の手の傍に、桜のほっそりとした手が伸びてきた。

「私もやりますよ」

 封印の石に桜の手が触れると、さっきまでの重さが嘘のように封印の石は地面から離れた。

 龍成は目を見張り、石と桜を交互に見る。そして彼は悟った。今、自分はこの石に手を添えてはいるだけで、重さを感じていない。つまり、自分は()()()()ことには全く()()()()()()()

 この石は桜の細腕だけで持ち上げられている。否、正確に言えば、この石を持ち上げられるのは桜の細腕だけなのである。

 ――桜さんだけが持ち上げられる石、そしてそれが封印している柳星張。

 何か悪いことが起きる予感がする。龍成はそう思った。だが今は、この封印の石を元の場所に戻すことが先決だ。

 龍成は背中に疲労による汗とは違うじっとりと汗をかきながら、桜と共に洞窟の奥へと足を踏み入れた。

 

 

「もうこの祠には近づかんでくれ」

「はい、分かりました」

 封印の石を置くに返して祠に戻った桜は龍成にそう言い付けられた後に彼と別れた。

 

 ――ちょっと来い

 

 何かに呼ばれるような――後ろ髪を引かれるような感覚をどこかで感じながら、桜は沢を後にした。




いきなりガメラ3ネタになったんで、一応のQ&Aコ~ナ~


Q1 あれ?「特命係長ロードエルメロイⅡ世 《大怪獣空中決戦》」はどうなったの?
A1 そのうち書くかもしれませんが、結論から言うとこの時のギャオスは討伐されました
   ガメラの経緯とかも構想はあるのですが、なにぶん時間がないもので……

Q2 「ガメラ2 レギオン襲来」はこの世界では無かったの?
A2 ありましたよ。セブンとガメラとエルメロイ二世と自衛隊が大活躍してどうにかなったってことです。この話はレギオン襲来の数年後という設定です。
   こちらも、構想はあるのですが、時間がないものでして……

Q3 これって、続くの?
A3 ……構想はあるんですけどね、続くといいなぁ。

Q4 タイトルのエルメロイ二世は?
A4 これも構想はあるんですけどね、続けば、出番はありますよ。

Q5 比良坂綾奈は?
A5 冬木で家族全滅しました――と思いきや、実は生き残って某家の養子になりました。家族と共に逃避行には成功していたのですが、その際に墜落してきた自衛隊機の爆発に巻き込まれて彼女以外全員死亡しています。頭部に怪我をして記憶を失ってはいますが。

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