やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!   作:後藤陸将

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先日佐世保にいって護衛艦とセイルタワーを堪能してきました。
今回はゴジラに立ち向かう自衛隊ということで、その時のテンションを引き摺って祝日丸々潰して一本書きあげることができました。

ゴジラ(に立ち向かう人類)のテーマ(個人的なイメージはOSTINATOのヤツです)をBGMにして見ていただければいいなって思ってます。


「景気づけにミュージックだ!」 by戦車隊隊長

『全部隊に告げる……攻撃開始!!持てる全火力でゴジラを攻撃、ウルトラセブンとモスラにゴジラを近づけさせるな!!』

 

 司令部からの命令を受け、各部隊の指揮官は待ってましたとばかりに獰猛な笑みを浮かべる。最新鋭の88式地対艦誘導弾(SSM-1)を装備したミサイル連隊を指揮する本城一等陸佐もその一人だった。

「目標、ゴジラ。発射弾数24発。88式地対艦誘導弾(SSM-1)……撃てぇ!!」

 本城の魂の咆哮と共に、西日本からかき集められた74式特大型トラックから次々と88式地対艦誘導弾(SSM-1)が放たれる。冬木の北西に展開された捜索・標定レーダー装置JTPS-P15から送られた目標の位置情報に基づいてプログラミングされた経路に従ってミサイルはゴジラに迫る。

 対艦ミサイルとしては唯一地形回避飛行能力を有する88式地対艦誘導弾(SSM-1)は慣性誘導に従って山間部を縫うように未遠川に沿って南下し、ついに24本の槍はゴジラの姿を弾頭のレーダーで捉えた。

 

 

 ゴジラを狙うものは陸上自衛隊の誇る長槍だけではない。日本海で伝説となった帝国海軍の後継たる海上自衛隊もまた、ゴジラを討ち果たさんと鋭いハープーン()を構えていた。

「こちらチドリ、目標を捕捉した。目標の位置は、2.8.7.8.1」

 艦隊をゴジラの視線から見える水平線の下に隠して熱線の直撃を避けるため、ゴジラと護衛艦隊の間の距離は40km以上あった。しかし、ゴジラから艦隊が見えないのだから、当然ゴジラも艦隊側から見れば水面下だ。

 そのため、目標を捕捉できない艦隊に変わり、先ほど立花海将を「くらま」に送り届けたSH-60J(シーホーク)が冬木の上空に向かい目標観測を行っている。護衛艦の戦闘指揮所(CIC)とSH-60Jはデータリンクで繋がっており、データリンクによってSH-60Jの捉えたレーダー画像は直接護衛艦で把握することができるようになっていた。

 「くらま」のレーダー画面に映るゴジラの影を見て、立花は静かに闘志を燃やす。

「艦隊に告ぐ……対地戦闘用意!!対艦ミサイルでゴジラをウルトラセブンから引き離せ!!」

「対地戦闘用意!!」

 立花の命令に従い、対艦ミサイルを装備していない「くらま」と「あまつかぜ」を除く各艦では艦長が対地戦闘用意を告げる。さらに砲雷長がそれを復唱した。

「対地戦闘用意。ハープーン戦」

「ハープーン攻撃はじめ。目標ゴジラ。発射弾数二発」

 各艦では速やかにハープーンに搭載されたコンピューターに目標位置が入力される。日頃の訓練の成果もあって、淀みの無い動きでハープーンの発射準備が完了した。

「ハープーン発射用意よし」

 対艦ミサイルを装備している10隻から続々とハープーン発射準備完了の知らせが旗艦に伝えられる。全ての艦から発射準備完了の知らせが届くまでにはほとんど時間がかからなかった。

「立花海将、本艦と「あまつかぜ」を除く全ての艦で準備が整いました」

 「くらま」副長、宮下二等海佐からの報告を聞いた立花は静かに頷いてマイクを手にする。

「攻撃開始!!」

 落ち着いた、それでいてどこか力強い声で立花は命令した。命令を受けた各艦では、艦長たちが間髪いれずに号令を出す。

「ハープーン発射はじめ!!」

「ハープーン一番、発射用意……撃てぇ!!」

 砲雷長が艦長の命令を復唱し、ミサイル員が冷徹にトリガーを引く。さわかぜの後部甲板に設置されたMk13GMLS単装発射装置から1発、そして他の9隻の護衛艦の4連装艦対艦ミサイル(SSM)発射筒からも続けざまに2発ずつ、計19発のハープーンがゴジラを討ち果たさんとして放たれた。

 発射筒後部から白煙を舞い上げ、船体を震わせながら大鯨を仕留める銛の名を冠するミサイルが翼を展開して飛翔する。尾部に取り付けられた固体燃料ロケットエンジンから火をひき、白煙を噴出しながら夜空を上昇する姿はまるで昇り竜を思わせる。

 しばらく上昇を続けていた19発のミサイルは固体燃料ロケットエンジンを切り離してサステナーのターボジェットエンジンに点火、コンピューターにインプットされたプログラムに従って高度を下げ、海面から数mの超低空を水平飛行するコースを取る。

 インプットされた目標位置まで慣性誘導で飛翔するハープーンの速度はマッハ0.85に達する。発射から僅か2分程でハープーンは慣性誘導から終末誘導に切り替わり、搭載されたレーダーを作動させて飛翔方向の左右45°の範囲を索敵してゴジラを捕捉した。

 ゴジラは人間と異なりミサイルの欺瞞などしない。当然のことながら、ハープーンは真っ直ぐに鯨を仕留めんとする銛の如くゴジラに殺到した。

 

 

 陸から迫る24発の88式地対艦誘導弾(SSM-1)と海から迫る19発のハープーン。総数43発の対艦ミサイルの直撃を受ければ、あの史上最強最大の戦艦大和ですら沈みはしなくとも間違いなく戦闘不能となるだろう。ゴジラとて多少の負傷は免れないはずだ。

 陸上部隊、護衛艦隊、司令室の誰もがゴジラに殺到する対艦ミサイルを固唾を呑んで見守っていた。

「弾着まで5……4……3……2……」

88式地対艦誘導弾(SSM-1)、目標に接近します!!」

 先にゴジラと距離を詰めたのは、88式地対艦誘導弾(SSM-1)だった。護衛艦隊よりも先にミサイルを発射したいうこともあるが、そもそもゴジラと40km離れた護衛艦隊よりも近くにミサイル連隊がいたのであるし、ミサイルの飛翔速度にも大差は無い。となれば、先に88式地対艦誘導弾(SSM-1)がゴジラに迫ることができたのも当然のことだろう。

 そして、遂にゴジラに24発の88式地対艦誘導弾(SSM-1)が次々と突き刺さる。信管が作動し、黒いゴジラのゴツゴツとした表皮に鮮やかなオレンジ色の爆炎がまるで花火のように連続して奔騰する。

 88式地対艦誘導弾(SSM-1)の弾頭は堅い弾殻で覆われており、敵艦の外版を突き破って敵艦内部で炸裂する半徹甲榴弾なのだが、ゴジラの表皮は軽量化のために薄く軽くなった外版しかもたない現代の軍艦よりも遥かに堅く、とても貫通することなどできなかったために表皮で起爆したのである。

 さらに、88式地対艦誘導弾(SSM-1)の射程距離は150kmを越える。今回は僅か数十kmという距離で放たれたために余ったミサイル内部のターボジェットの燃料にも引火し、より大きな威力を発揮した。高熱と爆風、爆発の圧力で凶器と化した弾殻の破片がゴジラの表皮を襲う。

 連続した爆発によって生じた煙に包まれてゴジラの姿が見えなくなった。

「やったか!?」

 司令部のモニターに映し出されたレーダー画面では88式地対艦誘導弾(SSM-1)の軌跡を示す光点が全てGと表記された地点で消滅していた。レーダー画面と光学映像を交互に見た麻生が叫んだ。

 だが、煙が晴れて効果確認がされる前にレーダー画面には新たに19の光点が出現する。護衛艦隊が放った19発のハープーンがゴジラに追い討ちをかけるかのように殺到したのだ。

「ハープーン、目標に接近します!!」

 着弾と同時に弾頭に搭載された高性能爆薬、オクトーゲンが起爆する。

 ゴジラの体表に生まれた炭素の沸点にも匹敵する熱量をもったオレンジの光が溶岩のようにゴツゴツした表皮を焼き尽くそうとする。同時に凄まじい圧力を伴った爆風をあちこちに浴び、まるでヘビー級のボクサーのストレートを四方八方から叩き込まれたかのようにゴジラは着弾の度によろめいた。

 そして、ゴジラは爆発によって生じた黒煙のカーテンに囲まれて再び姿が見えなくなる。

88式地対艦誘導弾(SSM-1)、命中20、至近弾4!!」

「ハープーン、命中14、至近弾5!!」

「合計34発の対艦ミサイルが命中し、残る9発が至近弾、か……これだけの火力をその身に受ければ、いくらヤツでも無傷ではいられまい」

 司令部にいた麻生はその顔に満面の笑みを浮かべながら光学映像を映し出しているモニターを眺めている。しかし、その隣に佇む黒木の顔は先ほどと全く変わらない。

「まだです。この程度では……」

 その時、ゴジラを撫でるように海風が吹き、黒煙のカーテンが薙ぎ払われた。カーテンの裏に隠されていたものが顕になり、それを目の当たりにした司令部の人間は絶句する。

 

 ――ゴジラは無傷だった。

 

 三列になった鋭い鋸状の背びれも、たくましい脚と腕も、怒りに燃える凶相を浮かべる顔も、どこにも傷らしい傷はない。炭素を一瞬で昇華させる熱と鉄をも切り裂く爆風を浴びたはずのゴツゴツした岩肌のような黒い肌にも火傷ひとつなかった。

「馬鹿な……」

 麻生は目の前の光景が信じられずに唖然としている。司令部の人員の大半も麻生と同じ表情をしていた。彼らを正気に戻させたのは、これまでとなんら変わらずに冷静に振舞う黒木の命令だった。

「対戦車ヘリコプター隊に出撃命令、戦車部隊は前進し射程に入り次第各自射撃を開始。特化連隊も戦車部隊が射程距離に入るまで砲撃でヤツを引きつけて下さい。ヤツに息つく暇を与えては駄目です」

「メーサー部隊は山肌に展開、戦車大隊が距離を詰めたら援護射撃を開始するように通達してください。ミサイル連隊と護衛艦隊には第二派ミサイル攻撃の準備を命じます」

「小松基地に連絡、例の二人組みの出撃を要請してください」

 矢継ぎ早に繰り出される命令に慌てて司令部の隊員たちも対応する。各部隊に指示を出す中で、次第に隊員たちにも普段の冷静さが戻ってきた。

「護衛艦隊旗艦「くらま」より入電。第二派攻撃の準備完了」

「対戦車ヘリコプター隊離陸開始。5分で作戦宙域に到着します」

「特化連隊、砲撃開始しました」

 先ほどの御通夜のような空気は払拭され、司令部に戦意が再び灯る。まだ自衛隊の四半世紀ぶりの実戦は始まったばかりだった。

 

 

 

 爆炎と黒煙を振り払って怒りの咆哮をあげるゴジラ。その視界の端の森で突然赤みがかった光が不規則に連続して灯る。光に反応してゴジラが振り向くのと、ゴジラの正面にオレンジの炎の華が咲き誇るのはほぼ同時だった。

 ゴジラの視界の端に灯った光の正体は75式自走155mm榴弾砲、203mm自走榴弾砲、155mm榴弾砲(FH-70)の発射炎だ。冬木市郊外の森の中で擬装を施されてギリギリまでその姿を隠していたのである。

 因みに、自衛官たちが知る由も無いことであるが、この森はアインツベルンという魔術師の一族が管理している森であった。通常ならば如何に精密な誘導機器があったとしても森の中に進むことはまずできない。

 しかし、キングギドラとモスラの戦闘の流れ弾が城を半壊させた影響で森の結界がほぼ壊滅していた。そのため、魔術とは縁のない自衛隊でも森の中に布陣することができたのである。

 緩やかな曲線軌道を描きながら155mm榴弾と203mmが次々とゴジラの体表で炸裂する。息つく間もない砲弾の嵐に晒されたゴジラも思わずたじろぐ。至近弾となった榴弾も少なからずあったが、地面で炸裂した榴弾の爆風はゴジラの足元を揺らし、地面を抉り柔らかくする。足元がふらついたゴジラが立っていることもできずに前のめりになって倒れこんだ。

 さらに、自衛隊の攻撃は続く。砲撃の嵐によって倒れこみ、断続的に身体を爆風で揺さぶられて立ち上がれなくなったゴジラの背後に24機の対戦車ヘリコプターAH-1S(コブラ)が迫る。

 ゴジラとの距離が3000mを切ったところでAH-1S(コブラ)は機体両側のスタブウィングに左右それぞれ4発ずつ合計8発搭載されているBGM-71 TOWを立て続けに発射する。

 BGM-71 TOWは半自動指令照準線一致(SACLOS)を誘導方式として採用しているため、前後に席があるタンデムコックピットの前部座席に座る砲手(ガンナー)が照準にゴジラを捉え続けている限り、TOWは目標に正確に誘導される。

 ただ、TOWは砲手(ガンナー)が誘導中は撃ちっぱなしのミサイルと違って着弾まで誘導し続ける必要があるため、誘導中は敵にとっては格好の獲物となる危険もある。また、ミサイルも有線による誘導を受けるためにその射程は3000mと短く、発射母機であるAH-1S(コブラ)は通常かなりのリスクを伴う。今回はゴジラが砲撃の嵐に拘束されていたからこそ、TOWをお見舞いすることができたのである。

 24機のAH-1S(コブラ)から放たれた計192発のTOWはゴジラの脇に次々と命中。四つんばいになっていたゴジラは横殴りの爆風に晒され、再度地に伏せることを強いられる。

 ゴジラに反撃の余裕がないと判断した対戦車ヘリコプター部隊はさらに砲撃に巻き込まれないギリギリまでゴジラとの距離を詰める。そして今度はスタブウイングからJM261ハイドラ70ロケット弾を発射した。ロケット弾に内蔵された9発のM73 MPSM高性能炸薬擲弾が吐き出され、ゴジラの背中で炸裂する。榴弾による砲撃の嵐も加わり、ゴジラの周りは花火大会のクライマックスもかくやといわんばかりの光と爆発音のカーニバルとなっていた。

 そして遂に戦車部隊がゴジラを主砲の射程距離に納める。最初に射程距離も移動速度も旧式の74式戦車を上回る最新鋭の90式戦車が搭載する44口径120mm滑腔戦車砲がゴジラを射程に捉えて火を吹く。主砲から装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)がマッハ4以上の速さで吐き出された。

 装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)は装甲を貫くことに特化した弾丸であり、ゴジラの強固な表皮を貫通することでダメージを与えることを目的に今回の作戦に投入されている。

 ゴジラの表皮には生半可な熱や爆風が通用しないことは1954年の東京上陸時の戦いやアメリカの原子力空母が撃沈された事件で判明していたため、ゴジラに爆発とは違う方向でダメージを与える方法も用意していたのだ。

 砲口から飛び出した直後に空気抵抗と遠心力によって装弾筒(サボ)が分離し、細い矢のような形をした弾芯だけが残って目標へと飛翔する。2000mの距離から放たれて厚さ460mmの均質圧延鋼装甲(RHA)を貫通するタングステン合金製の矢が次々とゴジラの表皮に叩き込まれた。

 それに少し遅れて距離を詰めた74式戦車の51口径105mmライフル砲L7A1が火を吹く。こちらの主砲から吐き出されたのは粘着榴弾(HEP)と呼ばれる砲弾だ。

 粘着榴弾(HEP)は目標の表面に着弾した際に内部の炸薬が目標の表面にへばりつき、一瞬送れて炸裂する弾丸だ。装甲を貫通することはできないが、炸薬が起爆した際に発生する衝撃波が目標の装甲を伝わり、装甲の裏側を剥離飛散させ、剥離した装甲の裏側の破片によって内部に損傷を与えることができるのが特徴である。

 粘着榴弾(HEP)はゴジラの体表は堅牢でも、その内部に衝撃を与えることで傷を負わせられるかもしれないとの考えから今回の戦闘で74式戦車に搭載された。

「いけるか……?」

 ゴジラの体表に粘着榴弾(HEP)装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)が次々と着弾する光景を見た戦車部隊の指揮官、加茂直樹一等陸佐が言った。

 ゴジラは上からの大口径榴弾の雨霰と横からの粘着榴弾(HEP)装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)の連打を受けて立つこともままならないらしく、まるでアルコールを摂りすぎて立ち上がることができない酔っ払いのように地面をのたうちまわっている。

 加茂はこの光景を見て、自分たちの攻撃が効いているとは思えなかった。ゴジラがダメージでのたうちまわり苦しんでいるが故にあのような醜態を晒しているのなら、先の対艦ミサイル攻撃もかなり堪えたはずだ。対艦ミサイルの集中砲火を受けてピンピンしている相手に対して楽観的な想定は論外だと彼は考えていた。

「よし……距離を詰めるぞ!!第1戦車大隊は目標との距離1500まで前進する!!そこなら流れ弾の心配もない!!第3並びに第10戦車大隊は東進し、丘陵地に身を隠しながら攻撃を」

「か、加茂一佐!!ゴジラの背びれが」

 命令を下そうとした時、副官の柘植二佐が慌てた様子でモニターを指差す。それに釣られて前線の様子を写したモニターに目をやった加茂は目を見開いた。ゴジラの背びれには怪しく光る青白い光が灯り、息を大きく吸い込んだかのごとく胸も膨らんでいる。

「まずい!!第1戦車大隊はすぐに後退するんだ!!」

 加茂の後退命令は間に合わなかった。倒れこみながらもその口を戦車部隊のいる方向に向けたゴジラは口から怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を吐き出し、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)は第1戦車大隊が布陣を舐めるかのように蹂躙した。

 第1戦車大隊の74式戦車、90式戦車は凄まじい熱量に晒され、一瞬装甲が装甲で真っ赤に染まった後に搭載していた弾薬の誘爆により炎と黒煙を吹き上げる。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の軌跡を辿るかのように、第一戦車大隊の断末魔の爆炎が奔騰した。

 

 

「第一戦車大隊……損耗70%との報告です」

 報告をあげるオペレーターの声は恐怖からか微かに震えていた。

 軍隊においては、戦闘担当の6割の損耗で組織的抵抗能力の喪失、つまりは「全滅」と定義される。ここに、第一戦車大隊は全滅した。しかし、司令部では多少の同様はあっても先ほどの対艦ミサイル攻撃の後のように諦観が蔓延してはいなかった。それは、彼らには欠片も動揺も見せずに冷静沈着に指揮を執る黒木の姿が見えていたからだ。

「加茂一佐に第一戦車大隊の残存を纏めて北部丘陵地に一時撤退させて下さい。ミサイル連隊と護衛艦隊には3分後に対艦ミサイルの第二派攻撃を開始してもらいます。それに伴い、5分後には自走砲部隊に一時砲撃中止の通達を」

 何事にもうろたえずに最善を尽くそうとする黒木の姿勢は、ここに至り司令部の隊員に信用だけではなく心から信頼を寄せられるものとなっていた。しかし、その信頼と信用を寄せられる黒木の内心は、既に達観していた。

 ――我々がいくら足掻いたところで勝ちはない。

 それが、黒木の出した結論だった。対艦ミサイル34発の直撃を受けてかすり傷一つつけることができない怪物に対して残存の火力を1発も漏らすことなく直撃させたとしても、致命傷には遠く及ばないことを彼は確信していたのだ。

 しかし、彼は自分たちの「勝ち」はないと結論付けていても、「負け」を結論付けてはいなかった。確かに自衛隊ではゴジラを倒すことはできないが、ここには自衛隊だけではなく、『我々を守ってくれる仲間』がいるのだから。

 黒木はメインモニターの隅に映し出されたウルトラセブンとモスラの姿に視線を移す。かつて東京を襲撃して甚大な被害を出したモスラを今度は味方と判断することは、黒木にとっては非常に迷った上での決断だった。

 防人が一度自分の国の首都を破壊した敵を味方だと判断することは非常に難しい。相手が人間であればまだ情勢の変化や対話によって色々と割り切ることができるが、相手がこちらの理解の及ばない怪獣となれば話は別だった。

 ウルトラセブンを味方としたのもまだ非常に難しい判断だった。誰も空想のヒーローが現実に現れるなんて事態は理解できなかったし、空想のヒーローだからという理由で味方だと決め付けることなどリアリストたる軍人にはできないことだ。しかも、そのヒーローと対話する手段もないとなれば尚更のことである。

 黒木はリアリストとして徹している指揮官としては柔軟に事態に対応している方だろう。

 そして、モスラとウルトラセブンを味方だと信じた黒木は、ゴジラにこれまで軽傷とはいえ手傷を与えてきた彼らと共に戦えばゴジラを撤退させるだけの傷を負わせることができると考えていた。

 この攻撃も、ウルトラセブンとモスラが再び立ち上がるまでの時間稼ぎでしかない。それを今の段階で口にすれば士気の低下は避けられないため、これを口にするのはこちらの戦力が半壊し、士気が崩壊しかけた時だと黒木は決めていた。最後の希望をチラつかせることで奮起を促すことができるからだ。

 しかし、いくらゴジラの注意を引きつけられたとしても、結局はゴジラに傷を与えることができるのは彼らしかいない。他力本願――それも、空想のヒーローや別の怪獣をあてにすることなど自衛官にあるまじき考えだが、それは黒木の最後の希望だった。

 

 ――立つんだ、ウルトラセブン

 

 ゴジラを引きつけるためにこれから数百、数千の自衛官が戦死するだろう。黒木はその犠牲を無駄にだけはしたくなかった。




イメージはVSビオランテのサンダービーム作戦です。
あのテーマの中で自衛隊の攻撃がメーサーのアップから始まるシーンがもう、初めて見たときはシビレました。

因みに、現実ではハープーンを対地攻撃に使用するのはまずないでしょうが、拙作では海自の出番をつくるために敢えてハープーンを出しました。
拙作の設定では、敏捷に動き回るガイラやサンダのような怪獣へ命中させることはまず不可能だが、鈍重なゴジラやモスラ(幼虫)に対してならば当たるぐらいには対地攻撃の精度も上がる改造をハープーンに施しているということで。
対怪獣を考えると、対地攻撃も手段の一つとして海自も保有すべきだろうと考えたからです。


今回登場した人物の元ネタ紹介

加茂直樹一等陸佐……GATEより第一戦闘団隊長
柘植二等陸佐……同じくGATEより第一戦闘団副隊長

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