ただ、予想以上に長くなったので分割して載せます。
ウルトラセブンは体内放射を浴びて激痛の奔る身体に喝を入れて立ち上がり、ファイティングポーズを取る。しかし、その堂々たる姿とは裏腹に、圧倒的な実力差を見せ付けられたその心には不安が燻っていた。
――果たして、勝てるだろうか。
セブンはそう思わずにはいられなかった。この敵は、強い。それこそ、かつて戦ったキングジョー以上のパワー、かつてウルトラの星を存亡の危機にまで陥れたベリアルにも匹敵する邪悪さ、熱線の威力もかつて戦った強敵たちをも上回る。
いくらモスラという頼もしい味方がいたとしても、これまでに大したダメージを与えることができでおらず、加えてあちらの一撃は1発1発が下手をすれば致命傷になりかねない破壊力を有している。
自分たちが絶望的なほどに不利であるということは否定できない事実であった。セブンは、半ば敗北を覚悟しかけていた。しかし、その時彼の耳に強い思いの篭った声援が聞こえてきた。
「負けないで!!ウルトラセブン!!」
セブンは声の聞こえてきた方に視線を向ける。そこにいたのは赤みがかった髪をした少年だった。この火災の中を必死で潜り抜けてきたせいか、その服のところどころには煤がまみれており、煙を吸ったのかはたまた疲労からか立っているのも辛そうだ。しかし、疲弊しているはずの少年の瞳には消えることのない希望が輝いている。
何故、この少年は自分自身が絶望の淵にあっても心の中に希望の光を灯していられるだろうか。セブンの視線は少年の目の中の光に自然と吸い寄せられる。そして、セブンは理解した。少年の瞳の中の光――その正体は、少年の目に映る自分の姿そのものだった。
少年には、今ここで戦っているウルトラセブンが希望だった。いつもは画面の向こう側から声援を送ることしかできなかったヒーローが、今目の前にいる。自分たちを守ろうと必死で戦っている。少年は、いつも画面の向こうのウルトラセブンの勝利を信じるのと同様に、目の前のウルトラセブンの勝利を信じて応援するのだ。
平和を守り、悪には絶対に負けない無敵のヒーローをこの少年は信じている。助けを求める人がいる限り、明日への希望を棄てずに全力で生きようとする人々がいる限り、ウルトラマンは絶対に負けやしないのだと、少年は疑わなかった。
――何を弱気になっているウルトラセブン。ウルトラ兄弟の名が泣くぞ!!こんな小さな子供が自分を信じているのに、諦めていいはずないだろう!!
セブンは一瞬敗北を考えた自分を叱咤して気合を入れなおす。勝ち目のあるなしではない。そこに自分の勝利を信じてくれる人がいて、守りたい人と守りたい星がある。ならばそれだけで、勝てる理由になる。それが、ウルトラマンだ。
今まで地球を守ってきたウルトラマンたちは皆、彼らの祈りを、応援を、信頼を背に戦ってきた。そして、地球を守り続けてきた。自分も同じだ。ならば、ここで諦める道理など存在しない。
――それに、ここで情けなく諦めてみろ。
セブンの心に再度闘志が激しく燃え上がる。身体には少なくないダメージが蓄積しているというのに、その眼に沸き立つ気炎は先ほどまでとは比べものにならないほどに大きく、その堂々たる姿から溢れる気迫は、彼の不退転の決意を思わせる。
セブンの発している気迫に気がついたゴジラは振り向きながら身構える。元々ゴジラは動物的な勘や本能といったものがとても鋭い怪獣だ。立ち上がったセブンの姿に、これまでのセブンとは違う油断できない何かを感じたのだろう。
立ち上がったセブンは、先ほど負ったダメージなどなかったかのようにキレのある動きでゴジラに迫る。そして、ゴジラの鋭い爪を掻い潜り肉薄、そのまま連続ストレートをゴジラの鳩尾に叩き込んだ。
セブン渾身の連続ストレートもゴジラの強靭な外皮と再生能力の前では一分足らずで完治する程度のダメージしか与えられなかったが、内臓に連続して響く打撃の衝撃に流石のゴジラも一瞬ばかり怯む。怯んだ隙を見逃さなかったセブンは、さらにゴジラの喉に肘打ちを叩きつける。
突然の逆襲にゴジラも一瞬揺らぐが、すぐにお返しだと言わんばかりにセブンに噛み付かんとする。しかし、ゴジラの牙がセブンの肩を捉える前にセブンはバックステップで離脱していた。
そして、頭を突き出す形となったゴジラの顔にアッパーを叩き込んで吹っ飛ばす。顎にクリーンヒットしたセブンの拳によって身長60m、体重30000tの巨体が宙に浮き、瓦礫の山となった市街地跡地に叩きつけられた。
――さあ来い、ゴジラ!!さっきまでの私と同じだと思うなよ!!この少年のように、私を信じてくれる人が、護るべき人がいる限り私は必ず勝つ!!
自衛隊は、突然の怪獣複数体襲撃という考えうる限り最悪の有事を全力で迎え撃つつもりでいた。対怪獣有事を想定して防衛省内に設置されたヤングエリート集団、特殊戦略作戦室の指揮のもと、陸・海・空全自衛隊の総力が冬木市に結集されている。
冬木市の北側、海には最新鋭のイージス護衛艦を含む12隻の護衛艦からなる艦隊が待機しており、クルーも日本海海戦に臨まんとするかつての大日本帝国海軍聯合艦隊が如く意気軒昂と肩を張っている。
航空自衛隊も築城基地や小松基地でも各地の部隊から支援戦闘機をかき集め、いつでも近接航空支援が可能な態勢を整えている。さらに、小松には今回の作戦の切り札とも呼べる秘密兵器を装備したインテークに新撰組のダンダラ模様をペイントされているF-4EJ改がある。
陸上自衛隊にも抜かりはない。西部方面隊を主力とした部隊は冬木市を包囲する形で布陣を終えている。
冬木市の東側、新都のさらに東側にある小高い丘を挟んだ向かい側には、機体両側のスタブウィングに左右それぞれ4発ずつ合計8発のBGM-71 TOWを装備した
一方、反対側の冬木市の西側、円蔵山や郊外の山道には陸上自衛隊の虎の子とも言える最新鋭兵器90式メーサー殺獣光線車4両に、退役を間近に控えた旧式の66式メーサー殺獣光線車がパラボラアンテナ状のメーサー発射器を標的に向けている。
また、郊外の森の中で擬装を施された75式自走155mm榴弾砲、203mm自走榴弾砲、
冬木市の南、未遠川の上流では河川敷を74式戦車や最新鋭の90式戦車が威圧感のある牙を擡げながら射点目指して前進しており、そのさらに後方にある隣の市では地形回避飛行能力を有する世界屈指の高性能ミサイル、
如何なる演習でもお目にかかることはないだろう戦力だ。自衛隊設立から40年近くが経過しているが、自衛隊がまさに総力戦とも言えるほどの戦力を集めたことは1954年のゴジラ上陸以後は一度もなかったことである。
しかし、いつでも攻撃できる布陣が整っているにも関わらず、未だに全部隊には攻撃命令は出されておらず、大怪獣バトルを尻目に『総員待機』の命が下されているだけであった。
「攻撃はまだですか!?」
「……まだ命令がない!!」
――既に準備は整っているのに何故まだ攻撃できない!!
本城も、若い隊員と同様に我慢していた。移動中に不幸にもゴジラの熱線の流れ弾が直撃したことで壊滅した部隊がいたことも報告されているし、こうしている間にも冬木市では逃げ遅れた民間人が命の危険に晒されているのだ。
熱線の直撃の可能性は限りなくゼロに近い場所で味方や民間人の犠牲を黙って見過ごすことは、防人であることを誇りにしている彼にとっては屈辱でしかない。本音を言えば、彼は今すぐにでも「攻撃開始」の命令を下したい衝動に駆られていた。しかし、自衛官である以上命令は絶対だ。独断専行は決して許されることではない。
故に彼は歯を食いしばり、グローブ越しにでも爪が食い込みそうなほど強く拳を握り締める他なかった。
『橘海将!!攻撃準備はできています!!』
『このまま目を瞑ってあの怪物を放っておきたくはありません!!』
攻撃命令が下されないことへの不満は、海上の護衛艦隊でも同じだった。艦隊指揮を執る橘海将が乗りこんだ旗艦くらまにも、僚艦から次々と通信が入る。
「まだだ……耐えろ」
橘とて、本心で言えば攻撃命令を出したい。艦橋からは、水平線の先の灯る赤い光――冬木を焼く業火が見える。これを見てなおも剣を抜けない事実は、防人としては耐え難いものだった。
「我々の戦力も有限だ。それを踏まえたうえで、特殊戦略作戦室は作戦を練っている。我々はそれを信じるしかない」
橘はじっと赤く染まった水平線を見つめ、その時を待ち続ける。
「黒木特佐……全部隊が攻撃命令を待っています!!」
冬木市の円蔵山を挟んだ隣の市にある学校の校庭、そこに自衛隊は臨時の作戦指揮所を置いていた。この場所は山の裏であるために熱線などの攻撃が直撃する可能性は限りなく低く、それでいて前線から近い場所にあるため、指揮には絶好のポイントだった。
当然のことながら、指揮官である黒木もヘリコプターでこの地に乗り込み直接指揮を執っていた。自衛隊の布陣は全て彼が攻撃計画だけでなく移動手段や所要時間までも考慮して作成したものである。
その無駄のなく最大限の効率を実現した布陣は、この場にいる将官たちをも唸らせる非常に優秀なものであった。しかし、それほど優れた布陣を敷いているのにも関わらず、黒木は一向に攻撃開始の命令を出そうとしない。
現場の部隊からは先ほどから引っ切り無しに攻撃開始を求める意見具申が司令部に届けられているが、黒木はそれらを全て拒否していた。
「今攻撃を開始したところで、勝ちはありません。機を待って下さい」
黒木はただそう返すばかりだ。苛立ちを抑え切れなかったのか、西部方面総監の麻生孝昭陸将が黒木に迫った。
「黒木君、何故まだ攻撃命令を出さないんだ?」
麻生の問いに、黒木は淡々と答える。
「はっきり言って、現状我々が有する戦力で3体の怪獣を同時に撃滅するこは不可能です。しかし、怪獣たちは今、我々のことなどそっちのけで乱闘中です。同士討ちをさせれば、生き残った一体も相応に消耗することでしょう。その消耗した一体をこちらの総力で叩いて撃破します。同士討ちが終わるまで我々は手出し無用です」
理屈では、正しい。麻生もそれが理解できないわけではない。苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべて口を噤む。
「どの怪獣が生き残ろうと、生き残った怪獣が我々の敵になるだけです」
そう言うと、黒木は円蔵山の山頂に陣取った偵察部隊が送ってきた前線の映像を写したモニターに視線を移した。
モニターには、何度跳ね返されても愚直にゴジラに挑み続けるウルトラセブンとモスラの姿が映し出されていた。しかし、モニターを見つめる黒木の顔に、僅かにこれまでになかった迷いの表情が現れていたことをこの場で見抜けたものは誰一人としていなかった。
セブン優性――に見えるかもしれないけど、ゴジラの堅くてほどほどに弾力ある表皮と再生能力のせいで、これほどキックやパンチをくらわせても実質ほぼゴジラノーダメージという悲しい現実。
そして登場人物紹介のコーナー
赤毛の少年……一体どこの士郎君なんだろーなー(棒)
やっぱり、彼は冬木の災害に巻き込まれる運命からは逃れられないようです。
本城一等陸佐……GMKでゴジラの熱線にも堂々と向かい合った某格闘家が演じていた地上部隊指揮官です
麻生孝昭陸将……平成VSシリーズの名脇役、Gフォースの麻生司令官です。元々は自衛官だったらしいので、ここにいれてみました