やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!   作:後藤陸将

27 / 46
予告通り今回は冬木の怪獣プロレスになります。

ゴジラ・モスラ・ウルトラセブン・ガイガン・メガニューラ
生き残るのは誰だ!?


切嗣はアハト翁に怒っていいと思う

 近くにいるものの耳朶を打つどころか身体そのものを物理的に震わせるほどの、日常ではありえない超重量の物体が正面衝突する衝撃音が絶え間なく響く夜の街。その中心には音源にしてこの災害の元凶たる怪物たちがいた。

 溶岩が固まった黒くゴツゴツした岩のような表皮を纏った二足歩行の肉食恐竜を思わせるフォルムの怪獣の名は、ゴジラ。アメリカが南太平洋ラゴス島で行った水爆実験の影響で島に生息していた太古の生き残りの恐竜が巨大化し、さらに大東亜戦争で死んだ数知れぬ犠牲者達の無念と憎悪の受け皿となることで生まれた怪獣王である。

 その正面でチェーンソーのような形状をした両手を前に構えている異形の生物の名はガイガン。遠い外宇宙に住む生命体が機械と生物を融合させて生み出したサイボーグ怪獣だ。

 両者は睨みあう形で距離を取っている。しかし、不意にガイガンが動いた。胸部から回転して突撃する血濡れの刃(ブラッディ・スライサー)を射出し、ゴジラの頭部を狙う。顔面を狙われたゴジラは反射的に右腕を振るい、回転して突撃する血濡れの刃(ブラッディ・スライサー)を地面に叩き落した。

 回転して突撃する血濡れの刃(ブラッディ・スライサー)は防がれたが、これもガイガンの計算の内だ。咄嗟に顔面に迫る飛び道具から身を守ろうとすれば、多くの生物は頭を動かして避けるか、頭の前に手や武器などを出して盾にしようとする。頭を動かして体勢が崩れても、頭の前に盾を出して視界が一部制限されたとしても、それは追撃の好機に他ならない。

 ガイガンは回転して突撃する血濡れの刃(ブラッディ・スライサー)の射出と同時に全力で飛ぶ。ステータス上、ガイガンがゴジラに優るものは敏捷しかない。スピードだけを頼りにして斬りつけると同時に離脱する一撃離脱以外にガイガンがゴジラに太刀打ちする方法はないのだ。

 ゴジラの岩肌のような肌と猛スピードで肉薄したガイガンの両腕の高速回転する刃が激突し、巨大な火花がゴジラの体表からまるで血潮のように溢れ出る。しかし、その見かけの派手さに比べてゴジラが負った傷は軽微なものに過ぎない。

 Aランクの宝具による斬撃でもExランクの耐久のあるゴジラに深く斬りこむことは難しい。さらに、ゴジラには宝具『不滅のゴジラ細胞(イモータル・セル)』がある。ゴジラの体表に刻まれた浅い傷も、数分もあれば完治してしまうほどの再生能力をゴジラは有しているのだ。

 傷つけることも簡単ではなく、さらにどうにかして傷をつけたとしても浅い傷なら数分で完治してしまう。ガイガンの機械の部分は、既にこの戦いに勝機がないことも計算できていたが、その機械の部分が命令に疑問を持たずに従うことをガイガンに強いる。勝てないことを理解していながらも敵に挑むガイガン。その胸中には負けるために戦うという矛盾に対する疑いは一切ない。

『セイバー、ルーラーとライダー、アサシンと共闘してバーサーカーを討ち取れ』

 一撃離脱に成功してすかさず残心を取ったガイガンの脳裏にマスターからの念話が響く。ガイガンに搭載されたセンサーが近づきつつある巨大な2体の飛行物体と、ゴジラの周囲に群がりつつあるアサシンの群隊を捕捉する。

 先ほどまで敵であったサーヴァントとの共闘を命じられたガイガンは、即座に3体のサーヴァントを攻撃不可目標に設定した。

 ガイガンとモスラ、ウルトラセブンが並び立ち、正面で堂々と構えるゴジラを見据える。それに対し、4体のサーヴァントを相手にするゴジラの表情には変化はない。肉食獣を思わせる鋭い眼光を4体の獲物に向けるだけだ。

 そして、ゴジラは第二ラウンドの始まりを高らかに告げるかのように、臓腑を振るわせる咆哮を放った。

 

 

 最初にゴジラに立ち向かったのは意外なことに4体のサーヴァントの中で最も非力で脆弱なアサシンだった。いや、正確にはアサシンの宝具といった方が正しいだろう。アサシンの宝具『|増えよ、地に満ちよ、我が血肉を分けた同属よ《オーバーグロース・ドラゴンフライ》』によって産み落とされたメガニューラたちがゴジラの顔面に群がっていく。

 メガニューラたちはゴジラの表皮に取り付くと、その尾部の針をゴジラの表皮に突きたてた。だが、ここで彼らにも予想できなかったアクシデントが起こる。海老や蟹の甲殻が砕け散るような軽い音と同時に、ゴジラの表皮に突きたてた針が砕け散ったのだ。

 考えてみれば至極当然のことだが、Eランクの宝具、しかも増殖力とエネルギー吸収、供与能力以外に誇るものもなく戦闘力も三流魔術師に撃退されるほどに低いメガニューラの針が、Exランクの耐久を誇るゴジラの表皮を抜けるはずがなかったのである。ただ、メガニューラにはその当たりのことを詳しく理解できるだけの理性など存在しなかったため、それが分からなかった。

 本来であれば彼らのオツムの足りない分はマスターが補佐しなければならないのだが、マスターたる言峰綺礼自身、サーヴァント同士の戦闘には余り積極的ではなかった。衛宮切嗣と一対一で対話する機会を作ってくれればそれでいいとしか考えておらず、アサシンの戦闘の結果には殆ど興味を抱いていなかったのである。

 彼らのオツムの足りなさ故にただ表皮にひっつくことしかできなかったメガニューラたちだったが、これは少なくとも無意味なことではなかった。ゴジラは表皮に纏わりついた数千ものメガニューラに煩わしさを感じ、ガイガンらに向けていた注意を一瞬弱めてしまった。

 その好機にモスラが攻撃に加わる。瞬時にゴジラの背後に回りこんで額から鎧・クロスヒートレーザーを放ち、無防備な背中に次々とレーザーを叩き込んでいく。絶え間なく放たれる鎧・クロスヒートレーザーの衝撃に耐えかねたゴジラは体勢を崩してしまう。

 体勢を崩して前のめりになったゴジラに対し、左側からガイガン、右側からセブンが同時に迫る。そして、体勢を立て直そうとする度に叩き込まれる鎧・クロスヒートレーザーの衝撃でふらつくゴジラに対して両サイドから攻撃を叩き込んだ。

 ガイガンは命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)による乱撃をお見舞いし、その反対側ではセブンがその拳でゴジラの身体を連打する。3方向からの息もつかせぬ連続攻撃にゴジラもたまらずに倒れこんでしまう。それにまきこまれて少なくないメガニューラが押しつぶされて死んでいたが、この場の誰もがそのようなことは気にしていなかった。そのようなことを気にしていられるほどの余裕が無かったというのが正しいのだが。

 体勢を崩してうつぶせになる形で倒れこんだゴジラに対し、セブンは首元に馬乗りになって頚部に繰り返し侵略者切り裂きし正義の刃(アイスラッガー)を叩きつける。ガイガンは背びれを繰り返し斬りつけ、モスラはガイガンの反対側から鎧・クロスヒートレーザーを放ち続けた。

 文字通り袋叩きの構図であったが、袋叩きをしている3体のサーヴァントは誰もが必死だった。特に、馬乗りになって頭を殴りつけているセブンは一番危機感を感じていた。袋叩きにしている今でなお拭いきれないゴジラから発せられる衰えることなき凄み、威圧感がセブンの戦士として培った経験と直感を通じて警鐘を鳴らしていた。

 ミサイルで粉々にされても一晩で再生し、頭と翼はアイスラッガーを跳ね返すほどに頑丈だったギエロン星獣ですら、頚動脈を掻っ切るのにここまで侵略者切り裂きし正義の刃(アイスラッガー)で繰り返し切りつける必要はなかった。

 これだけ侵略者切り裂きし正義の刃(アイスラッガー)で斬りつけているというのに、未だに頚動脈を断ち切れずにいることもセブンに焦燥感をもたらす。ゴジラの背びれが発光していることに気がついたガイガンらがうつぶせに倒れるゴジラから即座に距離を取るが、焦燥感からゴジラから距離を取る判断を一瞬躊躇させてしまったセブンは、ゴジラから離脱するタイミングを誤った。

 ゴジラの頭部からセブンが離れたタイミングと、ゴジラがその全身からエネルギーを解放したタイミングは僅差だった。セブンはゴジラから発せられた熱に焼かれながら衝撃波に吹っ飛ばされる。

 3万5000tのセブンの巨体を吹っ飛ばしたそれの正体は、体内放射というゴジラの技であった。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の発射寸前に口を閉じ、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を体内に逆流させた上で魔力放出(放射線)のスキルによって身体から一度に放射するというものだ。

 射程距離は極めて短いが、密着している相手にはダメージを負わせつつ確実に弾き飛ばすことのできる技であり、多数に囲まれた時や動きを封じられた時には起死回生の一撃となりうる。平行世界では、ゴジラはビオランテやキングギドラ、モスラなどといった強敵相手にこの技を使用し、形勢を逆転させた実績もある。

 体内放射を喰らったセブンはそのダメージにしばし立ち上がることができず、ビルの残骸の上で悶えている。尚、ゴジラに取り付いていたメガニューラはこの体内放射の余波で98%が消滅していた。残るは二桁のメガニューラだけであり、彼らはゴジラの注意をひきつけるために健気にゴジラの周囲を旋回していた。

 しかし、健気に周囲を飛びまわるメガニューラにイラつきつつも、ゴジラはメガニューラに殆ど注意を向けなかった。怒りに燃えるゴジラの視線の先にいるのは、倒れ伏すウルトラセブンの姿だった。

 この僅かな間に不滅のゴジラ細胞(イモータル・セル)によってゴジラの頚部に刻まれた無数の切り傷は表面上は治りつつあった。少なくとも出血は既に収まっているらしく、ガイガンに切りつけられた背びれの傷もほとんどが小さくなっている。

 先ほどの袋叩きによって負わされた傷など殆ど気にする様子を見せないゴジラはその背びれから稲妻のごとき光を発し、大きく息を吸い込んだ。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の発動前の予備動作に他ならない。標的はおそらく、ゴジラの怒りに燃える瞳に写る赤い影――ウルトラセブンに違いない。

 ゴジラの背びれの発光を見たモスラとガイガンは即座に動く。ここでセブンを失えば、自分たちの勝算は皆無となることは言うまでもないことだからだ。体当たりで熱線の軌道を変えさせようとゴジラに突進するモスラとガイガンだったが、背後の敵の存在にゴジラは気づいていた。

 ゴジラが背後から迫る自分たちの存在に気づいていると判断したガイガンはギリギリで速度を僅かに緩め、モスラの後ろから追撃するポジションを取った。ゴジラの怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)で迎撃されたときには、モスラを盾にして離脱するためであった。

 自分より遥かに耐久の高いモスラであれば、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の一撃くらいになら耐えうるだろうし、口がこちらを向いた瞬間に回避することもモスラならば不可能ではないとガイガンは考えていたからだ。

 先ほどから脳から置き換えられた機械では処理できない『非論理的な畏怖』とも言うべき感覚が警鐘を鳴らしているが、それをガイガンは敢えて無視し続けている。計算できないことを追究する余裕は今のガイガンにはないのだ。

 ゴジラが振り向いた瞬間に上空に飛び出せば、モスラを標的とした怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を確実に回避できるとだろうとガイガンは結論付けていた。

 そして、ガイガンの予想通りにモスラの身体がぶつかる直前にゴジラは大きく身体を捻り、モスラの胴体ほどの太さがあろう巨大な尾をモスラに叩きつけた。モスラは身体中をキングギドラの引力光線すら跳ね返す堅牢な鎧で覆っているが、ゴジラのExランクの怪力に半回転した尾が生み出した遠心力、そしてその重さが加わった一撃となると話は別だ。

 モスラはまるでスラッガーの金属バットが叩きつけられたボールのように弾き飛ばされ、冬木大橋に衝突した。全長665m、片側二車線三径間連続中路アーチ形式の大橋は衝撃で橋脚ごと吹き飛び、アーチを形作っていた鉄骨も組細工のようにバラバラに崩れていく。建材も、強固な橋桁もモスラの巨体によって押しつぶされ、原型を留めないままに水中に没していくこととなった。

 さらに、冬木大橋を吹き飛ばしただけでは勢いを殺しきれなかったモスラは未遠川を斜めに横断する形で地表と川底を抉り取りながらさらに数百mほど滑走し、未遠川から漏れ出した水と合わせて周囲に甚大な被害を与えていた。

 そして、モスラを盾にして尻尾の一撃を何とかやりすごしたガイガン。しかし、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)による迎撃を想定して後ろに下がっていたところにゴジラが放ったのは怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)ではなく尾による一撃だった。

 こちらの2体を纏めて怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)で攻撃してくることを予想していたガイガンの読みは外れた。ガイガンの目の前には、綴じた口から溢れんばかりの光を発し、震えんばかりの殺気を放つ凶悪なる獣の顔がある。

 初撃に怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を想定して上空に飛び上がっていたが故に、予想外の二撃目に対する迅速なる回避は不可能。ゼロコンマ数秒後に放たれる怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)をゴジラが外す可能性は0%。ガイガンの行動をつかさどるコンピューターは自身の(全壊)という結論を瞬時に導き出していた。

 僅かに残された生物的な部分が発していた警鐘はこのことだったのだとガイガンはここで初めて理解する。しかし、ガイガンはただその結論を受け止め、諦めも後悔も怒りも悲しみもなく、ただ機械的に訪れるであろう(全壊)を待つ。

 

 ガイガンが自身の(全壊)という結論を出した0.1秒後、ガイガンの頭部に内蔵された視覚センサーは青白い光に埋め尽くされ、同時にガイガンのコンピューターは凄まじい熱量によって焼失した。

 青白い光の筋に飲み込まれたガイガンの頭部。光が消えた後に残されたのは、頭のあった場所から黒煙を上げ、首の付け根がトーチのように燃え盛る鋼の躯だけであった。




セイバー脱落。うん、アハト翁が悪いね。こんな中ボスクラスのやつの触媒を自信満々に用意していた時点で戦犯です。

ギロンの方がまだマシ……いや、五十歩百歩か。本気で勝ちたいならザムシャーをセイバーで召喚すべきでしたね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。