やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!   作:後藤陸将

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海のところは84年の自衛隊マーチをBGMにして書きました。
出撃準備だとこの曲なイメージがあるので。

また、陸の場面はガメラ2の戦車部隊移動のところを聞いてました。

そして、ごめんなさい。大怪獣バトルは次回にお預けです。次回こそは、次回こそは冬木をリングにした怪獣ファイトをやりたいです。


Gフォースは何処にありや?全世界は知らんと欲す。

 星屑が輝く夜空の下、日本海の荒波を進む特徴的な船団があった。

 闇の中に浮かび上がるどこか武骨さを感じさせるシルエットだけで、それがただの船団ではないことが分かる。ほぼ全ての艦に見受けられるまるで鉄塔を思わせるようながっしりとした筋交いのつくりの高いラティスマストがその印象をさらに強めているように思える。

 この日本海の荒波、さらに見通しのきかない夜間にも関わらず、文句の付け所がないほどに精確な艦隊運動をしていることからも乗組員たちもそんじょそこらの船員とは違うということが分かる。

 昼間であればはっきり見えただろうが、その船は船体をグレーの塗料で染め、普通の船であればまず備え付けていることはありえない物干し竿のような砲を持ち、艦尾には日の丸から十六条の旭光が出ている意匠の旗が掲げられていた。

 そう、この船団を構成している船は全て『戦う』ために建造された船、軍艦――護衛艦だった。この船団こそ、日本国の海を護る海上自衛隊が有する艦隊なのだ。

 

 

 

 夜の日本海を進む艦隊の編成は、以下の通りとなっている。

 

第二護衛隊群(佐世保)

旗艦     くらま

第47護衛隊 あまぎり やまぎり さわぎり

第44護衛隊 やまゆき まつゆき

第62護衛隊 さわかぜ こんごう

 

第三護衛隊群(舞鶴)

第63護衛隊 あまつかぜ しまかぜ

第42護衛隊 はまゆき

 

 

 

 時間が許す中で海上自衛隊がかき集め、冬木まで回航できた艦は、海上自衛隊の最新鋭イージス護衛艦「こんごう」を筆頭に、第三世代対空誘導弾搭載型護衛艦である「はたかぜ」型護衛艦や大型ヘリ3機を搭載できる「しらね」型護衛艦などを含めた12隻だ。

 尚、第42護衛隊にはもう一隻、みねゆきが所属しているのだが、みねゆきは現在、ゴジラを追跡して冬木に向かっているため、みねゆきとは現地で合流する予定となっている。

 呉や横須賀にも有力な護衛艦を有する艦隊があるのだが、防衛省は呉や横須賀からではとても間に合わないと判断したため、彼らは怪獣の連続襲来という機に乗じて国土を脅かさんとする不届き者に目を光らせるという理由もあって日本の近海に出撃した上で待機となっていた。

 

 

 第二護衛隊群の旗艦くらまに一機のヘリコプター、SH-60Jが接近する。SH-60Jは、米軍が採用しているSH-60Bをベースに開発された海上自衛隊がHSSー2Bの後継機の主力哨戒ヘリとして配備を進めているヘリコプターである。

 SH-60Jはくらまの後部に設置された飛行甲板に向けて発着艦指揮所の管制官の指示に従ってゆっくりと降下し、機体下面に設置されたプローブを艦の飛行甲板上に設置されたベア・トラップにむかって降ろす。パイロットは機体を細かく操作し、プローブを寸分の狂いなくベア・トラップに押し込んだ。プローブを固定され係止された機体は見事な着艦を決めた。

 そして、着艦したSH-60Jの側面に設けられたドアが開き、そこから数人の男が降りてきた。その男たちを、艦のクルーたちが敬礼と共に出迎える。それに敬礼に答え、サングラスをかけた男が一歩前にでた。

「海上自衛隊舞鶴地方総監、立花泰三海将だ。黒木特佐の命令により、私が第二護衛隊並びに第三護衛隊の指揮を執ることになった」

「艦橋で崎田艦長がお待ちです。立花海将の指揮下に入ることを、光栄に思っております」

 立花はそれまでつけていたサングラスを外し、鋭い眼光を顕にする。

「くらまを旗艦とするが、場合によっては艦砲射撃を行うために前に出る可能性もある。火災に備え、艦内の可燃物を可能な限り排除せよ」

「了解!!」

 くらま副長、宮下二等海佐に可燃物の廃棄を命じた後、立花は崎田艦長の待つ艦橋へと向かった。

 

 立花の乗り込んだ旗艦くらまのマストに、3つの赤い桜が描かれた旗――艦に艦隊の指揮官たる海将が乗り込んだことを知らせる海将旗が掲げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬木へと続くある国道。ここにもいつ終わるかも分からない道を歩く避難民達がいた。人々が俯きながら進むその列は、まるで葬列のようであった。国道には等間隔で設置された街灯とガードレールしかなく、街灯の黄色い光も絶望に染められた人々の心を照らすことはできなかった。

 その中には、寒さと疲労に耐えつつ、痛くなった耳を小さな両手で覆いながら母と共に進む少女もいた。少女は赤いセーターを着て黒髪のツインテールを上下に揺らしながら歩いている。

 しかし、この少女が他の子供達と違うのは、何も考えずただ惰性で足を動かす子供や泣きべそをかきながら歩く子供と違い、己の強い意志によって足を動かそうとしているところであった。その眼には気高くあろうという強い意志は、同世代の小学生のそれとは隔絶したものが感じられる。

 俯き暗い表情を浮かべている周囲の空気にも流されずに気丈に前を見据え、隣を歩く母への気遣いも忘れずに歩く。少女――遠坂凛は、10歳にも満たない幼い身にして既に『常に余裕を持って優雅たれ』という家訓に忠実な次期頭首に相応しい淑女の片鱗を見せる少女であった。

 とはいえ、その胸中には冬木に残っていた小学校の同級生や先生、間桐の家に養子に行った自分の実の妹、冬木で起こっている戦争に参戦している敬愛する父親の安否に対する不安が渦巻いており、時折その不安が顔から窺えるあたりまだまだ淑女に成りきれない雛鳥にすぎないようだ。見た目は子供、頭脳は大人な名探偵ほどではないが、十分に大人びていることには違いないのだが。

『この度のゴジラを含む複数の怪獣の襲来は、我が国の基本的生存権の重大な危機と認め、また、憲法9条のもとにおいて許容されている自衛権を発動するにあたっての条件、すなわち、わが国に対する急迫不正の侵害で……』

 隣を歩く若者が手に持っているラジオから冬木に関する情報が聞こえてくる。それを聞いた凛の母、葵が不安げな表情を浮かべながらポツリと呟いた。

「時臣さんは大丈夫かしら……」

「お父様なら心配ありません!」

 凛は母を励ますように自身ありげな口調で言った。

「お父様なら、必ず勝てます。だって、遠坂の当主なんですから!!」

「そうよね、時臣さんですものね」

 葵も凛の自信満々の笑みに釣られるように笑顔を浮かべる。しかし、実のところ、凛は口では父の勝利を自信ありげに言ってはいるものの、その胸の内は不安でいっぱいだった。

 今、冬木の地では7人の魔術師が命を賭けた闘争をしている。凛も、聖杯戦争の概要ぐらいは父から聞かされていた。そして、冬木の聖杯戦争と冬木の怪獣の同時多発的出現に関係があることが分からないほど凛は幼くない。

 本来、聖杯戦争における戦場は冬木に限定されているはずだ。だが、冬木に隣接する市に属する禅城の館までもが避難指定区域になっている。たった7人の魔術師による闘争によって一つの市に留まらず、一つの県が戦場と化しつつあることなど尋常では無い。凛も子供ながらもそのことは何となく理解していた。

 そして、その尋常ではない闘争――否、戦争に父が参加しているという事実は、幼いながらも聡明な凛の脳裏に考えたくない仮説を浮かび上がらせる。『父、遠坂時臣がこの戦争を拡大させているのではないか』という仮説である。

 ラジオから聞こえきた情報によれば、現在冬木市には分かっているだけでも4体を超える怪獣が出現しているという。その中の1体が時臣の召喚した怪獣ではないという保障がどこにあるというのか。

 もし、その仮説が真実だったとすれば、凛の父、遠坂時臣は勝利のために怪獣を召喚し、数え切れない人を巻き込み、少なからざる無関係の一般人の命を奪っていることとなる。現在進行形で凛の、母――葵の、妹だった桜の、親しかった友人や先生、近所の人々の命を脅かしているのは、時臣ということにもなるのだ。

 凛は頭に浮かんだ仮説を振り払うように頭を振った。何を馬鹿なことを考えているのか。そうだ、あの偉大で、優しくてかっこよくて、魔術師としても完璧な父がこの街を戦場にして、多くの人間を危険に晒しているはずがない。そんな、優雅の欠片も感じない悪行を、尊敬する父が行うことなど考えられないことだ。

 ラジオは、出現した怪獣は5体だと言っていた。ならば、怪獣を召喚したのは、父の足元にも及ばない粗野で能力の無い魔術師たちに決まっている。きっと父はあの戦場の中で、怪獣を召喚して冬木を戦場にした不埒な輩から冬木を護るために今も戦っているに違いない。

 魔術師としても女性としても未だ一人前に程遠いこの雛鳥のような少女に、自分の父がこの災害を引き起こした張本人であると考えさせることはとても難しいことである。

 脳裏を過ぎった考えたくない考えを振り払うかのように大きな歩幅で一歩を踏み出し――凛は妙な振動に気づく。

 地面を規則的に伝わってくる人の足とは全く違うパターンの振動、そして、耳に聞こえてくる金属の板を連続的にコンクリートに叩きつけているような音とたくましさを感じるほどに低く重いエンジンの排気音。次第に大きくなる音と、列の前の方から聞こえてくるどよめき。

 年相応の背丈しかない凛は周囲の人間に視線を遮られているため、周囲の人間が何故どよめいているのかその理由が分からない。

 しかし、音源が近づいてくるごとに凛の周囲にもどよめきが連鎖し、凛の耳にも人々のどよめきの詳細が聞き取れるようになった。

「おい……自衛隊だぞ」

「あんなにたくさんの戦車がいるなんて」

「でも、勝てるのか?自衛隊は」

 凛は人々の隙間から、反対側の車線に視線を移す。当初から規制が敷かれており、車道の反対側は避難民の通行は禁止され警察官が交通整理をしていたため、反対側の車線はこちらの混雑ぶりが嘘であるかのようにがらんとしている。

 しかし、それは突然凛の視界に飛び込んできた。

 鉄の香まで感じられそうなほど巨大で重厚な鉄の塊、その上体から突き出した獰猛な牙を思わせる砲身――そこには陸上自衛隊が誇る最新鋭戦車、90式戦車の姿があった。

「すごい……」

 魔術の、神秘の欠片も篭っていないただの鉄の塊であることは凛とて理解している。しかし、それでも凛は魔術師の卵でありながらも自身に比べて圧倒的に大きく力強いその姿に心強さを感じずにはいられなかった。

 だが、人々の隙間から見える堂々たる鉄の騎馬の隊列は戦車だけで終わりではない。戦車の列が途切れたと思うと、次に凛の視界に飛び込んできたのは、先ほどのオリーブグリーンの戦車より一回り以上大きな無機質な金属色の巨体だった。台車に乗せられている直径3mを超える巨大なパラボラに、凛は目が釘付けになる。

 凛には知る由もないことだが、その金属色の巨体の名は、90式メーサー殺獣光線車という。1961年にロリシカ国からモスラ抹殺のために供与された原子熱線砲を元に作られ、66年の人型巨大生物、ガイラとの戦いで初めて実戦投入された66式メーサー殺獣光線車の後継である。

 冷たさすら感じさせる無機質な金属色に染められた全体に、科学の力を誇示するかのように鎮座する巨大パラボラ。科学の力を誇示するかのようなその超兵器の姿を見た凛は、それが如何なる原理で動き、どのやって怪獣を倒すのか全く理解できないながらも、畏怖せずにはいられなかった。

 魔術が至高のものであると教えられてきた凛がこれほどに科学の底力と恐ろしさを感じたのは、初めての経験だった。

 

 

 

 

 避難民の列を横目に進む90式メーサー殺獣光線車の牽引車の中、そこに陸上自衛隊の家城茜三等陸尉の姿があった。

 名神から吹田を抜けて中国自動車道へ、そしてこの冬木に向かう国道まで到達した。自衛隊車両に占拠された中国自動車道の姿にもこの国の直面している危機を実感させられたが、眼下に見える避難民の姿にもまた、別のものを実感させられると茜は感じていた。

「まるで出エジプト記だな……」

 家城と同じ光景を目にしている90式メーサーの砲手が呟いた。

「聖書ですか?」

 特定の宗教を信奉していない家城には、聖書に関しては一般教養レベルの知識しかないために彼の発言の意図が分かりかねた。それに気づいたのだろう。砲手は苦笑しながら続けた。

「私も、高校時代の授業で習っただけなんだがな。モーセという名前を聞いたことがあるだろう?」

「海を割ったという伝説のある人でしょうか?」

「そう、そのモーセだ。彼は、エジプトで迫害されていた同胞であるヘブライ人を率いてエジプトを脱出して安住の地として神から示されたパレスチナへと向かった。それについて色々と書かれているのが出エジプト記だ。怪獣という恐怖から逃れようとする避難民の列はまるでエジプトを発ったヘブライ人たちのようだと私は感じたんだよ」

 しかし、ここで砲手はその顔を僅かにしかめた。

「ただ、出エジプト記のヘブライ人と違って、彼らにはパレスチナもなければ彼らを率いて神の救いを与えるモーセもいないんだよな」

 避難民の不安な旅路。その苦労を察した家城の胸にもなんとも言いようのない感情がこみ上げて来る。

「……この世界には、救世主なんて都合のいいものはいないでしょう。ならば、彼らは都合のいい救世主の手ではなく、私達の手で救えばいい。そのためにいるのが、自衛隊(私たち)でしょう」

 教科書でしか見たことのない巨大怪獣との戦い、しかも、怪獣は1体ではなく、最低でも5体だ。その中には、自衛隊が手も足もでなかった怪獣の王、ゴジラもいるという。それに対して家城も恐怖が無いわけではない。

 だが、彼女は自衛官だ。この国を守る道を選び、そのために日々鍛錬を重ねてきた。この年にして最新鋭の90式メーサー殺獣光線車のオペレーターに選ばれていることからも、彼女の優秀さが分かるだろう。たとえ敵が何者であろうと立ち向かわんとする覚悟も、敵を打倒するための技量も家城茜には十分に備わっていた。

「彼らの絶望を取り除き、何時の日か彼らをあの地に帰す。私達が成すべきことであり、私達にしかできないことです」

 家城は、もう横を見なかった。彼女の目に映るのは、遥か前方にある討ち果たすべき脅威が蔓延る地だけだった。

 

 

 

 地上には日本が巨大怪獣を討ち果たすべく研究を重ねてきた最新鋭戦車にメーサー車。海上には防人の使命を果たさんと静かに敵を見据える護衛艦隊。空には一発逆転の可能性を秘めた秘密兵器を抱えた空の勇士たち。

 陸・海・空。日本国を脅かす脅威を排除すべく、全自衛隊の総力が決戦の地、冬木市に集結しようとしていた。 




元ネタ解説

立花泰三海将(GMKより立花泰三准将)
やっぱ、海上部隊の指揮官はこの人でないと駄目ですね。ゴジラシリーズでは艦隊指揮官の中で一番の名将だと思います。ゴジラシリーズ全体で見ても、彼と黒木特佐はずば抜けた名将ですし。

宮下二等海佐(GMKより宮下中佐)
GMKではあいづの副官でした。自分の中ではスーパーガッツの副隊長なイメージが強いのですが。

家城茜三等陸尉(G×MGより家城茜三尉)
作中では99年に房総半島に上陸したゴジラに対して90式メーサー車に乗って戦っているので、90式メーサー出せるなら彼女も出そうと思いました。

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