やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!   作:後藤陸将

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お久しぶりです。
今回は難産でした。


守護神獣VS恐怖の大魔王

 スペースゴジラとウルトラセブンが死闘を演じているのと同じ頃、未遠川を挟んだ反対側でも死闘の幕が開こうとしていた。

 対峙するは、金色の三頭龍と、虹色の守護神獣。平行世界でも雌雄を決した二大怪獣が、この冬木の地でぶつかるのだ。

 

「令呪を以って命じる!!モスラよ、究極の姿へ進化せよ!!」

 ウェイバーの令呪によって、冬木の夜空に舞い上がった虹色の蛾が光に包まれる。そして、光の繭を突き破って白銀の鎧を身に纏った神々しい翼が現れた。これこそがライダーの切り札、一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)である。

 鎧モスラは自らの意思で敵へと向き直る。敵は、生前に己をも下して地球の生命を滅ぼしかけた世紀末に襲来した恐怖の大魔王。しかし、護るものがある限りモスラは何者にも恐れずに立ち向かう。それが、自身を救って海に散った母との約束であり、地球の守護神たる己の使命であるが故に。

「必ず勝て!!モスラ!!」

 マスターの声援とエリアス三姉妹の祈りを受け、鎧モスラは金色の三頭龍へと向かっていった。

 

 

 キングギドラは、目の前に現れた仇敵を憎しみの篭った目で見据えた。生前に自分を葬った憎き蛾の姿を忘れるはずがない。しかも、火山に落とされたり必殺技を喰らったりと二度も殺されているのだ。顔が三つあるからといって仏のように三度まで微笑んでくれるはずがない。そもそも、キングギドラにとって歯向かうヤツは全て敵Or食糧だ。宇宙規模の大量虐殺の実行犯の辞書には容赦のよの字もない。

 今度こそは、あの忌々しい蛾を討ち滅ぼす。そのために、キングギドラは自身の宝具王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)を通して魔力を身体に充填させる。さらに、催眠術で下僕とした愚かな召喚者にさらに魔力を貢ぐように命令することで万全の態勢を整えた。

 王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)に囚われた罪のない子供達が悲鳴をあげてもがき苦しむが、そのようなことはキングギドラの関心の外にあるものだ。人間が魚を釣って食べるように、食材と捕食者の間に情が生まれることはない。

 当然のことながら食材と捕食者の関係はキングギドラを召喚したマスターにも適応される。哀れ、遠坂時臣という男は一切の自由意志を奪われ、ただキングギドラに魔力を供給するための行動を取り続けるだけの人形と化した。彼は家宝のルビーを含めた屋敷中の宝石を戸惑うことなくキングギドラに供給する魔力として消費していく。

 そして、供給される大量の魔力を充填したキングギドラは挨拶代わりにといきなり自身の最強宝具、宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)を解放、首を撓らせることで光線の網でモスラを捕らえようとした。

 縦横無尽に暴れまわる宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)に対し、モスラは緩急を織り交ぜた動きで回避する。生前であれば自身の纏う鎧にとって宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)は豆鉄砲のようなものであった。

 しかし、キングギドラは鎧モスラの防御力の高さを生前に痛いほど理解させられている。そのため、キングギドラは予め時臣にかけた催眠術において、こちらからの命令に応じて令呪を使えという指示を刷り込んでいた。

 そして時臣はキングギドラからの念話の通りに令呪を二画行使した。その命令の内容は「モスラを打倒せよ」。二画の令呪のアシストを得たキングギドラの能力は大幅なパワーアップを遂げ、キングギドラはモスラにも通じうる矛と盾を得た。

 結果的に言えば、サーヴァントという枠に嵌められた今では鎧の防御力と宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)の差は縮められたことになる。

 そもそも、モスラは同属がこの世界に出現した歴史があるが故にある程度の知名度補正を受けているが、キングギドラはマスターの力量と魔力供給の潤沢さにおいてモスラを遥かに凌いでいる。サーヴァントという同じ土俵に立たされたことで、かつてのキングギドラとの戦いのような一方的な戦闘展開は無理となってしまっていた。

 生前であればキングギドラが全力でも傷一つつけることのできなかったモスラの鎧も、モスラの相対的な宝具化による弱体化とキングギドラの令呪によるドーピングによって傷つけられる存在になってはいるのだが、一方でキングギドラの引力光線もまた生前ほどの威力はないという状態だ。

 サーヴァントシステムはキングギドラに恩恵のみをもたらしたわけでもないのである。

 まず、生前であれば息をするように吐くことができた引力光線が宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)という宝具扱いになったために非常に燃費が悪くなった。王者の輝光結界(ギドラ・オーラ)もキングギドラの意志に関係なく常時展開されているので、維持にも魔力を消費する。

 時臣というオツムの出来はともかくとしてマスターの素質としては一級品の魔力タンクを持ちながらも宝具の連発はできなくなっている。王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)を通じて徴収した魔力と時臣の宝石を含めてもせいぜい、この戦いで撃てるのは9回といったところだろう。

 敵はモスラだけではない。自分に喧嘩を売ってきた結晶の蜥蜴に、自分と決して相容れない光の巨人、そして、本能が盛んに警鐘を鳴らす西方の『何か』。難敵との連戦が予想できる中、この戦いで宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)を乱発するわけにはいかなかった。

 次に、マスターの存在だ。傀儡にしているとはいえ、時臣も名義上はキングギドラのマスターである。彼が殺されればキングギドラはバックアップが受けられなくなり弱体化を余儀なくされる。単独行動スキルがアーチャーにはついているが、ただでさえ燃費の悪いキングギドラがどれだけの間単独で行動を続けられるかは分からない。

 しかも、キングギドラはこれまで何かを『守りながら』戦いをしたことなど一度もない。そんな必要など一度もなかったし、キングギドラはその数千万年に及ぶ生涯において敵と食糧、傀儡、興味も持てない虫けら以外の存在とであったことすらなかった。

 そのマスターという自分の弱点を自分の外にむき出しにしている状態は、『護る』という概念が辞書にはないキングギドラにとっては最大の足かせであったと言えるだろう。実際、キングギドラは遠坂邸に篭城させている自身の生命線(マスター)への不安からその近くからあまり離れられないでいる。そのため宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)を撃ち終えた後、モスラが宙を自在に舞いながら攻撃を加えてくるのに対し、その場から飛び立てないキングギドラは防戦を強いられていた。

 敵がモスラということもあり、キングギドラは生前のように自分と直接には戦うことなく勝利を得ようとする可能性を強く警戒していた。それが故のキングギドラに全く似つかわしくない戦い方であった。

 しかし、慣れない戦い方などするものではない。モスラの放つ光線もモスラ自身が宝具と化しているためか生前ほどの威力はなく、王者の輝光結界(ギドラ・オーラ)を突破できてもさほどダメージを与えられないが、一方的に攻撃を受ける状況というものはキングギドラを苛立たせていた。

 こちらは燃費の関係で攻撃できず、あちらは攻撃をしてくるものの少し痛いぐらいの攻撃しかしてこない。だが、それでも自分が一方的にネチネチと嬲られる状況というものに変わりはなかった。圧倒的な力で立ち塞がる敵を例外なく蹂躙してきたキングギドラにとって、これは屈辱以外の何物でもない。

 ここで宝具をバカスカと撃てばガス欠、飛んでやつと空中で戦えば自身の生命線(マスター)を危険に晒すこととなる。しかし、かといってこのまま嬲られ続けることもまた我慢ならないというジレンマにキングギドラはさらにフラストレーションを高めていた。

 

 

 

「拙いね……」

 ライダーのサーヴァントの一人、ベルベラは険しい表情を浮かべながら呟いた。

「何が拙いんだ?モスラはアーチャーを押しているじゃないか。それに、生前にモスラはあのアーチャーを一度倒しているんだろう?」

「拮抗してるから拙いのさ。こんなことも分からないのかい?」

 相変わらずの毒舌でベルベラはウェイバーをこき下ろしながら説明を始めた。

「モスラはアタシ達の宝具だ。宝具を使えば当たり前のことだけど魔力を消費する。アンタの雀の涙ほどの魔力じゃ到底賄いきれない量の魔力をね。今はアタシ達の自前の魔力を回しているから大丈夫だけど、モスラはもって後十分しか戦えない。ダメージを負えば、戦闘可能時間はもっと短くなるよ」

「そんな……!!」

「それに、生前の勝敗ってやつをサーヴァントになった今になって頼るのは愚かなことさ。アタシ達も、キングギドラも生前ほどの力は出せないし、同じサーヴァントという土俵ではアタシ達の差は勝敗が分からなくなるまでに縮まっている。エクセル・ダッシュ・バスターはキングギドラの攻撃力が上がってモスラの防御力が下がっている以上、引力光線のカウンターをもらう可能性が高くて使えないから決め手に欠けるしね……それで、どうすんだいクソガキ」

 ベルベラに尋ねられたウェイバーは顎に手を当てて考えるが、この状況を打破できるような素晴らしい策がポンポン浮かんでくるわけでもない。とりあえず、視線を戦場の方に向けながらウェイバーはただ観察を続けていく。

 自身の魔術師としての力量はとても誇れるものではないことは、ウェイバーとて自覚している。何れは家の歴史などに関係なく、個人の実力で魔術師が評価される時代が来ると信じてはいるが、今の自分がその評価に値すると思うほどウェイバーは自惚れてはいなかった。

 故に、彼はとにかくアーチャーを観察する。その一挙一動に目を凝らし、綻びを探す。自分にできることはそれしかないと知るが故に、ただ観察に没頭した。

 そして、その違和感に気がつく。

「……どうして、動かない?」

 そう、キングギドラは羽があるにも関わらずに何故か飛ばない。戦いでは上を取ることがセオリーであるのに、敢えて下を取ってモスラが額から放っている鎧・クロスヒートレーザーを受け続けるその意図はどこにあるのか。モスラを追い払っているその様子は非常に鬱陶しそうであるにも関わらず、何故キングギドラはひたすら耐えているのだろうか。

 地上から空中のモスラに攻撃したことは一度だけ。その時は三本の首から放つ金色の光線を一発放ったが、それ以降は撃っていない。主観が入るが、あの威力を見る限りあの光線は最低でもAランク、いやA+ランクの宝具と考えられるため、消費魔力を抑えるために使用を控えているという推測ができる。

 唯一の対空迎撃が可能な宝具の使用を控えながら、かつ空中戦を避けて地上での防御に甘んじている理由として、飛ぶことが不可能なのか、その場を離れられないかということが考えられる。

 しかし、飛ぶことが不可能ということは考えにくい。キングギドラは召喚直後に悠々と飛翔していたし、このまま地上で嬲られ続けるよりは攻撃の回避のしようがある。では、その場を離れられないとして、離れられない理由はどこにあるのか。

 その時、ウェイバーは気がついた。キングギドラの3つの頭の内、左右のどちらかの首が頻繁に後方を確認しているということに。さらに、キングギドラの後方の地区はキングギドラの前方の地区に比べ、遥かに攻撃による被害が小さかった。

 ウェイバーの中で全てが繋がる。飛び立たずに攻撃に耐える姿、殆ど被害の出ていないキングギドラ後方の市街地――そこから導き出される答えは一つ。キングギドラには後方の市街地を守らねばならない理由があるということだ。

 ではその理由は何なのか。そこに考えを巡らせようとした時、ウェイバーの背に寒気が奔る。ここ数日ルーラーと血の滲む特訓をしたことで覚醒した危険を予知する本能が身体をプッシュした。

 戸惑うことなくライダーたちを乱暴に鷲掴みにしてリュックに放りこんでウェイバーは駆けた。既にその背後には金色の光が迫っている。

 突然の蛮行にベルベラが抗議の声を挙げようとするが、その前に大地が爆ぜ、轟音と衝撃波が先ほどまでウェイバーがいたはずの場所を薙ぎ払う。衝撃で跳ね飛ばされたウェイバーは地面を数回回転し、身体のあちこちを打ち付ける。

 咄嗟にウェイバーによって守られたものの、モルやロラは凄まじい衝撃によってリュックの中で目を回していた。尚、ベルベラはジェットコースターもかくやという凄まじい運動の末に頭をリュックの中の小物にぶつけてノックアウト状態にあった。

「い……一体なんなの!?」

 リュックからヨロヨロとロラが這い出し、辺りを見渡して絶句する。先ほどまで自分たちがいたあたりは綺麗に抉られており、円蔵山はその中腹に巨大なクレーターを刻んでいた。

「分かったぞ……」

 頭を飛び散った礫で傷つけたのか、倒れ伏せていたウェイバーは額を伝う血液を拭いながら頭を上げる。

「モスラは、宝具をカウンターで当てにきてると考えて地上に留まるキングギドラに対して切り札を使おうとしなかったんだろうけど、それは違った。あいつは、マスターを護るためにあそこを離れられなかったんだ。だから飛ぶこともできずにあの場でモスラの攻撃に耐え続けていた。おそらく、キングギドラのマスターは、スキルの催眠術であいつの傀儡になっているんだろう。ロラ、キングギドラの催眠術はどれぐらい人の行動を操れる?」

「……キングギドラの催眠術は強力よ。対象者は完全に自我を喪失して、操られていたときの記憶は残らない。だけど、催眠術の対象者は複雑な思考を伴う行動はできないわ。例えば、『ある人を殺せ』って命令された場合、正面から殺そうとするだけで、トリックとかを講じた計画殺人は無理よ」

「ということは、キングギドラのマスターは魔力供給をすること以外には具体的な行動を命じられていない。おそらく、マスターをこの混乱の最中にある冬木の街に放りだしてアクシデントが起きることを防ぐためにキングギドラはマスターを移動させていないんだ。だからマスターの下を離れられなくて、その場から飛び立てなかった」

 そして、キングギドラもウェイバーとほぼ同時に気づいたのだろう。自分にもマスターがいるように、宝具であるモスラにはサーヴァントとしてエリアス三姉妹がいて、そのマスターがいることも。

 自分にとってマスターが弱点であるように、目の前のモスラの弱点もまたマスター。マスターであれば自分の宝具、宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)で消炭にすることは容易い。また、宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)が直撃しなくても、大抵の人間は余波で粉々だ。そうキングギドラは考えたのだろう。

 しかし、キングギドラは知る由もないことだが、ウェイバーは大抵の人間ではなかった。

 まず、その幸運値はサーヴァントで当てはめれば評価規格外。触媒に使ったインファント島の石版を使って召喚できるのはモスラの巫女かモスラそのものであるが、幾多の平行世界のモスラの内、間違いなく最強と称されるモスラを従えるエリアス三姉妹を召喚できたことや、モスラが幼虫で他のサーヴァントに狙われれば太刀打ちできない数日間はルーラーの庇護を受けることができたところからも、その類稀なる幸運値の高さが窺える。

 そして、ルーラーの特訓を受けたウェイバーは、素質があったのか数日の特訓でその実力をメキメキと伸ばしている。

 明らかに速度を出しているジープに追われ、鉄製のブーメランに狙われ、目隠しをされた状態でボールを投げつけられたりという明らかにメガヌロン対策以上の回避、逃走対策訓練を受けたことによって、ウェイバーはメガヌロン以上に恐ろしい敵の攻撃からも逃れられるようになっていた。

 キングギドラの宝具による攻撃を本能的に察知したウェイバーはキングギドラの口に光が満ちる前に駆けだし、窪地に身を伏せることで宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)をやり過ごしたのである。

 キングギドラはおそらく、サーヴァントの気配を探知してこちらの位置を掴んだのだろう。星と星の距離が非常に長い宇宙空間で活動していたキングギドラがこの手の気配を読む感覚において他のサーヴァントよりも秀でていたとしても不思議ではない。

 ただ、細かい位置まではは分からなかったのだろう。なんとなく、円蔵山の中腹にいるくらいしか分からなかったキングギドラは、その周辺の広範囲を殲滅するために敢えて三本の首で別々の目標を狙ったようだ。そのため破壊は広範囲に広がったものの、ウェイバーたちを襲った衝撃は本来の威力の三分の一ほどしかなかった。

 如何に逃亡と回避に秀でていようと、三本の首から放たれた宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)が一箇所に着弾していればウェイバーも死は免れなかっただろう。

 とはいえ、あちらが無鉄砲に撃っていればそのうちにこちらが致命的な傷を負う可能性も十分ある。その前にキングギドラを撃滅することは急務であった。

「使うか?いや……」

 ウェイバーは自身の右手に刻まれた令呪を見やる。既に一画消費されており、これ以上消費すれば、残りのサーヴァントとの戦いに支障をきたす公算が大だ。ウェイバーの身体からはガンガン魔力が吸い上げられているが、その殆どが一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)の現界維持コストと鎧・クロスヒートレーザーに当てられている。ウェイバーのマスターとしての素質の低さではモスラの必殺技をそう何度も使うこともできないのだ。

 ウェイバーは自身の無力さに歯噛みしながら、少しでも安全な場所に移動するべく腰を曲げながら動き出した。

 しかし、キングギドラは待ってはくれない。先ほどの宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)で仕留め切れなかったことを悟ると、大きく翼を広げて羽ばたき、ついにキングギドラは飛翔した。距離を詰め、ライダーの気配を確実に察知してつぶすつもりだとウェイバーは即座に看破したが、彼にはどうすることもできない。

 円蔵山中腹で暴れまわられれば、こちらが無事でいられる保障などない。宝具を使われずとも、怪獣が至近距離で足踏みすることによる衝撃と翼から放たれる暴風だけでウェイバーたちには命の危険があるのだ。

 モスラもキングギドラの意図に気づいて体当たりを食らわせて足止めを図るが、キングギドラはモスラがマスターを護るために体当たりにくることまで計算ずくであった。首だけ器用に向きを変えてモスラに向き直ると、カウンターの宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)をお見舞いする。

 宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)の直撃を至近距離で喰らったモスラは吹き飛ばされ、そのまま大地に叩きつけられる。仰向けに叩きつけられ、その衝撃で悶えるモスラ。

 その隙をキングギドラが見逃すはずがない。身体をモスラに向きなおさせると、再度口内に金色の光を溜め始めた。全力全開の宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)を叩き込んでモスラに引導を渡すつもりだ。

 そして、キングギドラはその3つの口からまばゆいばかりの光の奔流を吐き出した。この瞬間、キングギドラは勝利を確信する。

 だが、彼は見誤っていた。聖杯戦争において、最も勝利に不可欠なものはサーヴァントの性能と潤沢な魔力供給ではなく、マスターとサーヴァントの息のあった連携にあるということを。そして、モスラには得がたい機転のきくマスターがおり、マスターとサーヴァントの連携も非常によいものであった。

 

 

「令呪をもって命じる……」

 ボロボロになりながら円蔵山の中腹に立ったウェイバーはその右手を夜空に掲げながらその手に刻まれた聖痕に秘められた魔力を解放する鍵となる呪文を唱えた。

「キングギドラの後方に転移しろ!!」

 ウェイバーの熱い思いの篭った叫びは彼の右腕の令呪一画の消失と引き換えに、宝具を使った直後の完全に無防備になったキングギドラの背後にモスラを転移させる。サーヴァントの意志と一致した令呪の行使は、時として如何なる魔術を以ってしても成しえない奇跡を現実のものとするのだ。

 背後を取られたことに気づいたキングギドラは慌てて首を捻って迎撃しようとするが、宝具使用中のために首は動かせない。先ほどまで地面に横たわり決定的な隙を晒していたモスラと、隙だらけの怨敵を討ち取るべく全力の一撃を叩き込もうとしていたキングギドラの立場は、瞬き一つにも満たない刹那の間に完全に逆転していた。

 敗者となるであろう立場にあるのは、キングギドラで、勝者たりうる立場にいるのがモスラだ。当然のことながら、キングギドラがそうであったようにモスラが決定的なチャンスを逃がすはずがない。

 モスラの身体が眩い光に包まれながら一筋の矢のようにキングギドラへと向かっていく。それはまるで夜空を翔ける彗星のようであった。その光の矢を遮るものは何もなく、そして、モスラの乾坤一擲の一撃(エクセル・ダッシュ・バスター)は、その航跡に光のレールを残しながらキングギドラの身体を何の抵抗もなく貫通した。

 光の矢にその胴体を貫かれたキングギドラの身体はまるで激しい揺れに襲われた砂の城のように綻び、粉々になりながら崩れていく。その視線の先には、一切の油断も驕りも見せずに残心をするモスラの姿がある。

 キングギドラが三つの口から全ての生物の背筋を凍らせる凄まじい迫力を帯びた咆哮を響かせる。それは、聖杯戦争に勝ち残れなかったことに対する悔恨の叫びか、それともモスラに対する恨みの叫びか、同じ敵に三度も殺された屈辱に対する憤怒か。キングギドラが今際の際に何を思ったのかは誰にも分からない。

 

 これでキングギドラの聖杯戦争は終わり、キングギドラは敗者としてこの混沌の舞台を去るということは決定した。

 一方で、モスラは勝者として舞台に残る。しかし、戦いはまだ終わっていない。これで二体のサーヴァントが脱落したが、人類の守護者であるライダーとルーラーは大きく消耗していた。

 

 本当の地獄の幕はまだ開いていないということは、このときはまだ誰もが知る由もなかった。




聖杯戦争という利点を活かす頭脳プレーを見せたグランドギドラさん。
結果としてモスラとの力量差は士郎マスターのアルトリアとイリヤマスターのディルムッドぐらいまで縮まったんですが、マスターの令呪の使い方を誤りました。

ウェイバー君の勝因は、7割幸運で、弾の特訓と生来の機転のよさ、ギドラのマスターという存在に対する油断が一割ずつってところですかね。

この時点でモスラは令呪二画失って引力光線モロにくらって満身創痍ですけどね。

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