やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!   作:後藤陸将

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お久しぶりです。
忙しい毎日です……


「特殊戦略作戦室の……アイツしかいないでしょう!!」

 対ゴジラ邀撃作戦の指揮を取っている市ヶ谷の司令室は混乱の真っ只中にあった。

 多少の混乱は止むを得なかっただろうし、防衛省も予測はしていた。およそ四半世紀ぶりの巨大生物の日本本土襲撃、それも、1954年に戦災から復興したばかりであった東京を一夜にして火の海へと変えた日本怪獣史に残る無双の大怪獣『ゴジラ』の襲撃だ。しかも、日本海に侵入され、原発を襲撃されるまで海上自衛隊の対潜網にも引っかからなかったのだ。無理もない。

 しかし、市ヶ谷の混乱振りは事前の予想をはるかに上回るものであった。情報が錯綜し、この国で今何が起きているのかも正確には把握できない状態だ。

 その原因は、この国で現在起こっている天変地異にも等しい大怪獣総攻撃にあった。

 

 

緊急発進(スクランブル)した築地基地所属の二機のF-15が冬木市上空でレーダーから消滅しました!!」

「レーダーが冬木市上空に二体の巨大生物を確認しました!!二体とも、全長50m以上です!!」

「冬木市から巨大生物の飛翔を確認!!先の二体の巨大生物とは別の個体が、マッハ1のスピードで東に移動しています!!」

 次々ともたらされる情報……いや、凶報に司令部は騒然としていた。

「一体どうなってるんだ!!……この国は、怪獣だらけか!!」

 航空自衛隊の三雲空将は、空自のF-15が二機撃墜に加えて常識を疑う怪獣の異常発生という事態に苛立ち頭を掻き毟った。その隣では、日野垣書記官が頭痛を堪えるように顳顬を抑えていた。

「現時点で、未確認情報を含めて我が国の領土、領海に怪獣が6体……こんな事態、想定外だ」

 しかし、誰もが凶報に頭を抱え、司令部の人員が次々と入ってくる情報の処理にてんやわんやな状態の中で、その中心にいる若い男は欠片も動揺を見せていなかった。その男こそ、この自衛隊の対ゴジラ邀撃作戦の指揮を任された男、黒木翔特佐である。

 彼は防衛省に設置された対巨大生物作戦本部の人間である。彼らはヤングエリート集団と呼ばれており、ゴジラ等の巨大生物の出現の際には自衛隊の指揮権を持つのだ。

 

「やむを得ません。大阪以西の部隊は全て、冬木市に回しましょう」

 志村陸上幕僚長が部隊を二分し、半数をゴジラに、半数を冬木に当てることを山地統幕議長に提案する。しかし、その意見は矢継ぎ早に各部隊に指揮を飛ばしていた黒木によって否定された。

「待って下さい。間に合いません」

「そんなことは分かっているよ!!しかし、我々自衛隊が護るべき国民が危険に晒されているのだ。行くしかないだろう!!」

 山地は怒鳴りながら黒木に答えた。彼とて、戦力の分散は戦略上愚の骨頂であることは理解している。しかし、だからといって護るべき国民を取捨選択するという考えをとることは国民を護る自衛官の役割を誇りとしている彼にはできなかった。

「まずは情報を収集し、状況を把握することが先決です。ですが、陸自の西部方面隊と第13、14旅団は鳥取で待機してもらいましょう。一乗谷に向かっている全ての部隊も、京都に回します」

「一乗谷に全部隊を集結させる予定ではなかったのかね?」

 日野垣の問いに男は頭を横に振る。

「元々、一乗谷に部隊を集結させようと判断した時は、敵がゴジラだけに限定されていました。しかし、現状では我が国に怪獣が少なくとも4体、いや、未確認の怪獣を含めればそれ以上に存在する可能性が高いといわざるを得ません。もしも、一乗谷でゴジラを討てたとしても、そこからさらに冬木市に部隊を移動させる余裕はないでしょう。ゴジラを倒すことができたとしても、残る5体の怪獣を野放しにしてしまえば無意味です」

「ならば、どうするんだ?」

 山地の問いに、黒木は淡々と答えた。

「作戦を変更します。ゴジラを冬木市に誘導し、同時に我々は陸・海・空全自衛隊の総力を冬木市に集結させ、態勢を立て直してゴジラを待ちましょう。冬木市に全ての怪獣が集結したところで自衛隊の総力を持って殲滅するのです。幸いにも冬木は海に面し、周囲を山に囲まれた地形ですから冬木港には護衛艦隊、山の影に自走砲部隊、攻撃ヘリ部隊を配置することが可能です。加えて怪獣たちの同士討ちを狙えれば、さらに高確率で怪獣を掃討できます」

 怪獣を6体も冬木市に集める彼の作戦では、冬木市が灰燼に帰すのは必然だ。発生するであろう人的、物的被害を想像した山地たちの顔が青ざめる。

「……このまま一乗谷でゴジラの撃破に成功したとしても、6体の怪獣を放置すれば我々に勝ちはありません。しかし、今、冬木に戦力を集結させることができれば、勝つ算段はできます」

「それじゃ、冬木はどうなるんだ!!あそこは中核市だぞ!?20万人以上の国民がいるんだ!!」

「私の仕事は敵に勝つか負けるかです!!」

 山地の反論に対して黒木が返した言葉によって、騒々しかった司令室から一瞬人の声が消えた。

「……住民の退避のために可能な限り総攻撃は遅らせますので、住民の避難をよろしくお願いします」

 それは、事実上冬木市を見捨てるという宣告したに等しい。山地はその戦略を聞いて激昂しそうになった。

 戦略上は間違ってはないことを理性は主張するのだが、国民を護る防人としての自負が、責任がそれを否定しようとするのだ。

 この作戦を否定したい。批判するのは簡単だが、対案もない批判はただの癇癪にすぎない。そして何より、より多数の国民を生かすためには、少数の国民の切捨てもやむをえないということが頭では理解できてしまう。

 故に、山地は顔を真っ赤にして立ち上がりながらも、黒木に何も言うことができずに静かに腰を降ろすしかなかった。

 

 

 

 

「どうしろっていうんだよ、これぇ!?」

 冬木市円蔵山の中腹で、ウェイバーは目の前の光景に頭を抱えていた。川を挟んで、一方には三つ首の黄金の龍、対岸には街を結晶で覆った巨大な怪獣。先ほどまで一緒にいたルーラーは、上空を飛行していた戦闘機が制御を失って落下したのを見るや、すぐに赤いメガネをかざして赤い巨人に変身して結晶の街を作り出した怪獣と相対していた。

「マスター!!あの結晶の怪獣はルーラーに任せて、私たちはキングギドラを倒しましょう!!」

「キ……キングギドラ?モルはあの怪獣を知っているのか?」

 ウェイバーの問いにモルは首を縦に振る。そして、ベルベラがいつもの尊大な態度で説明を始めた。

「あの金ぴかの三本首の名前は、宇宙超怪獣キングギドラだ。1億3000万年前に地球に飛来して、恐竜を絶滅させたやつだ。宇宙での生物の大量絶滅の例は少なくないけど、その半数以上はあいつらギドラ一族の怪獣の仕業だって言われてる。前にモスラがこいつを倒したことがあるけど、そもそもヤツは人間がサーヴァントとして制御できるような存在じゃないんだ。ほっとけば、この星が死ぬ」

「1億3000万年前に地球に飛来したときには、ガイアのSOSを受けて駆けつけた月のアルティメット・ワンさえも破ったと伝えられているわ。それに、キングギドラは生命エキスを喰らいます。あのドームを見てください」

 ロラが指差す先には周囲を覆っている巨大なドームが見える。あの場所は、確か冬木のセカンドオーナーである遠坂の屋敷があった場所だ。

「あのドームは、キングギドラの宝具です。キングギドラはドームを介して囚われている子供達の生命エキスを喰らうことができるのです」

「じゃあ、あの中には……」

「間違いなく、キングギドラが集めた子供達がいます。ですから、一刻も早くあのドームを破壊しなければなりません!!そして、モスラはかつてキングギドラを破ったことがあります。モスラを呼びましょう!!」

 ウェイバーはロラの提案に頷いた。彼自身に魔術師には似合わない人道的な感情があったということもあるが、生命エキスを吸収したキングギドラが強化されることは必然だからだ。生前に勝っているのであれば勝算は十分にあるし、キングギドラの強化はまず間違いなく自分にとっての害となるとウェイバーは確信していたため、やられる前にやるべきだとウェイバーは即決した。

 実際、彼の懸念の通り、このキングギドラにとってモスラとは自身を成長前を含めて二度も殺している不倶戴天の敵であり、真っ先に抹殺する対象に他ならなかった。弾の非人道的特訓を受けたウェイバーは、その辺りの危機感知能力が数日前に比べて格段に向上していたようだ。

「よし、ライダー!!モスラを」

「待ちな、ガキ!!」

 だが、そこでベルベラがウェイバーに待ったをかける。

「ベルベラ、急がないと子供達が!!」 

「落ち着きな、ロラ。このままモスラが戦ってもキングギドラには勝てないよ。今のままのモスラじゃ駄目だ。もう一段階、モスラが進化しないと戦いにもならない」

 ライダーをウェイバーが召喚してから今日で5日目だ。モスラは命の水賜わりし守護神獣(レインボーモスラ)にまで進化しているが、命の水賜わりし守護神獣(レインボーモスラ)では成長したキングギドラに手も足もでないことは歴史が既に証明していた。キングギドラを倒せるのは、一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)だけなのだ。

「でも、だからといって後二日もキングギドラを放っておくというの!?その間にどれだけの罪のない子供が犠牲になるか……それに、ルーラー一人であの怪獣たちと戦わせるつもり!?」

 しかし、ロラの糾弾にも、ベルベラの態度は変わらない。

「だったら、このまま命の水賜わりし守護神獣(レインボーモスラ)に無駄死にさせるかい?モスラを失ったアタシたちは、そこのマスターより腕が上の魔術師には勝てないんだ。無駄死にさせるなんてゴメンだね」

 宝具であるモスラは、ベルベラ、モル、ロラの三人が召喚の意志を持たなければ召喚できないことになっている。ベルベラの意志が不一致となれば、モルとロラの二人ではモスラを召喚できないのだ。

 何とかしてベルベラに納得させようとロラとモルは説得を続けるが、ベルベラは全く聞く耳を持たない。

「キングギドラを潰すことにアタシは反対はしないよ。だけどね、人間のガキ共のためにキングギドラを潰せるチャンスを失うことには同意できない。後二日おとなしく待つんだね。そうすればアタシもモスラの召喚に異議は唱えない」

「でも!!それじゃ間に合わないのよ!!ベルベラも召喚の時に感じたでしょう?私たちがこの聖杯戦争に呼ばれたのは、間違いなくガイアかアラヤの抑止が関わっているの!!私たちの使命は怪獣に聖杯を取らせないことなのよ!!」

「ガイアは別に人間のことなんか気にしていないさ。それに、怪獣たちを殲滅するのがガイアの意志なら、ここでモスラを無駄死にさせる方がガイアの意志に反しているんじゃないのかい?アラヤの意志にしても、確実にキングギドラを倒す方がより多くの人間共を救えるはずさ。ま、アタシはそもそも抑止に素直に従うつもりは毛頭なかったけどね」

 姉妹の言い争いは次第にヒートアップし始める。いい加減頭が痛くなってきたウェイバーは、我慢ならなくなって口を挟む。

「お前ら、もういい加減にしろ!!」

 ウェイバーの癇癪交じりに叫びに、ベルベラは白い眼を向ける。

「喧しいよ、ガキ。いくらマスターとはいえ、アタシの意志を曲げられる筋合いはないよ。それとも、アンタには腹案でもあるのかい?」

 ベルベラの追求に一瞬怯むウェイバーだったが、彼の妙にピンチに限って機転の利く頭脳は、ここで彼に一つの妙案を示してくれた。

「……ないようだね。だったらアンタは」

「も、勿論腹案がある!!」

 数秒の沈黙の後に慌てたように口を開いたウェイバーをベルベラは胡散臭げに見るが、ウェイバーはそれに構うことなく右手の甲をかざした。それを見たベルベラは露骨に顔を顰める。

「ハン……なるほどねぇ。令呪でアタシに同意させようってのか。不愉快だけど、これならアタシも従わざるを得ない。お前が切り札をこんな下らないことに使うバカだってのは誤算だったよ。最低限のオツムはあると思っていたけど、過大評価だったみたいだね」

 モルとロラも僅かにその額に皺をよせる。意見の不一致があるとはいえ、姉の意志を無理やり曲げられるというのは彼女達にとってもあまり気分のいいものではなかった。しかし、ウェイバーは彼女達の想像を否定した。

「……勘違いするな。僕はこれでベルベラの意志を曲げようって思っているわけじゃない。コイツで命の水賜わりし守護神獣(レインボー・モスラ)一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)にするんだ。ベルベラは、モスラに勝ち目があればいいんだろう?令呪を使えばモスラを一段階進化させることならできるはずだ」

 ウェイバーの提案を聞いたモルとロラは顔に喜色を浮かべる。その一方で、ベルベラは苦虫を噛み潰したような顔をする。彼女は本心ではそもそも人間を助けたくなかった。しかし、先ほど自分で「勝ち目がない」ことを引き合いに出してモスラの召喚を否定した以上、モスラに勝ち目があるならば召喚を否定することはできない。

「分かった……モスラを呼ぼう。本当は人間のガキなんて放っておきたいけど、そうするとキングギドラが強化されてしまう。仕方ないから助けてやるよ」

「……助けるのは私達じゃなくて、モスラじゃない」

 ベルベラの台詞にモルがつっこんだ。

 

 

 エリアス三姉妹が、地球のため、子供達のためにモスラへの祈りの歌を捧げる。

 それは、争いのない永遠の平和を約束された地、インファント島に伝わる守護神との対話の唄。文明を進みすぎた科学によって失った太古の民が、モスラと、島の平和と、繁栄を祈るためにつくり、何千年も伝えてきた希望の唄。

 

 3人の巫女は唄う。

 

 長女は平和を脅かす敵と相対し、恐怖を乗り換えて己の命を賭けて戦う勇気を掲げる。次女は如何なる逆境を乗り越え、理想を現実にするために古より伝え続け、時には自ら生み出す知恵を讃える。三女は地球に、平和に、そして生きとし生ける全ての生命に対する愛を謳う。

 

 知恵と愛と勇気。3つがそろうことで、彼女たちは星と平和を護る本当の強さを得る。そして、その本当の強さが奏でる調がモスラの心を振るわせるのだ。

 

 今、下僕の祈りと三重奏を奏でる唄に応え、虹色の翼を掲げた平和を護る守護神獣が蘇った。




「誰が指揮を?」
「特殊戦略作戦室の……アイツしかいないでしょう」

対ゴジラ作戦なら、彼以外に指揮は任せられませんよ。
しかし、この聖杯戦争では黒木さんも頼りないって思えてしまう異常さ……



ついでに、元ネタ解説

黒木翔特佐……ゴジラVSビオランテより
志村武雄陸上幕僚長……ゴジラVSビオランテより
山地統幕議長……ゴジラVSビオランテより

日野垣真人書記官……ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃より
三雲勝将空将……ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃より

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