IS 一夏の彼女は副担任   作:陸のトリントン

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今回はかなり駆け足になってしまいましたが、銀の福音戦スタートです。


第29話

臨海学校 二日目

 

今日は屋外でISのデータ収集なんだが・・・

 

「ラウラ、何があった?」

 

「嫁と一緒に朝を迎えたら、教官にぶたれた」

 

簪と裸で寝てた事に激怒したと言うが、まあ・・・人のことを言えないからこれ以上の言及はよそう。俺もラウラの気持ちは分かるし。

 

「織斑、後で屋上に来い」

 

千冬姉・・・それ、脅迫です。

 

「専用機を持っている生徒は別グループでデータ収集をする」

 

専用機持ちとそうでないグループに分かれたんだが・・・

 

「何で箒がいるんだ?」

 

「わ、私も知らん!」

 

俺から声を掛けられたのが久々なのか顔を赤くしたが、別に好意を持って掛けたわけじゃない。

 

「ああ、それはだな・・・」

 

「ちいーーーちゃ・・・」

 

「バァァァストキック!」

 

「ぐぼらっ!」

 

ウサ耳を付けた女性が不機嫌な千冬姉のバーストキックで吹っ飛ばされて岩盤に叩きつけられた。

 

「ちーちゃん、酷いよ!この束・・・」

 

「サンダァー・クロォゥッ!」

 

「いだだだだだ!最後まで喋らせて!」

 

全速力で戻ってきて喋ろうとしたら今度はサンダークロウだ。容赦なさすぎだよ千冬姉。

 

「ああ、痛かった。はろー、箒ちゃ・・・」

 

「専用機が出来たんだな!」

 

「おお!私が最後まで言わずに言いたいことが分かるなんて、さすが愛しの箒ちゃん!」

 

「で、私の専用機は!」

 

俺はその二人のやりとりを見てあまりいい気分になれなかった。シスコンとかそういうのではなく、昔の自分を見ていて不愉快な気持ちになると言った所かな。

 

それに・・・

 

 

 

「マドっち!落ち着いて!」

 

「そうだよ!止まって!」

 

「お願いだから!」

 

「退かぬ!媚びぬ!省みぬ!」

 

 

 

束を見つけたマドカはキャラ崩壊を起こしてる。それほど、束に対する憎悪があるのが窺える。千冬姉もあまり良い顔をしてない。

 

篠ノ之束、ISの開発者で千冬姉を変えた元凶、マドカの殺すべき目標。俺から見たら・・・エゴが増大された何かかな。

 

「さっそく箒ちゃんの専用機のごとーじょー!」

 

そう言い、ポケットからリモコンを取り出し赤いボタンを押した。

 

すると、空から金属の塊が落ちてきた。激しい轟音と衝撃が砂浜に響き渡り、その瞬間扉らしきものが倒れそこから現れたのは・・・

 

「これが箒ちゃんの専用機である第四世代IS『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

第四世代!?そんなの作って一体何がしたいんだよ!

 

「さあ、箒ちゃん!今すぐ最適化(フィッティング)をするから乗って。すぐに終わるから」

 

箒は束の言葉通りに紅椿に乗り、作業を始めるが・・・

 

「後、いっくんの白式も調べたいから見せて」

 

「あ、はい・・・」

 

俺は白式を展開した。

 

「じゃあ、うりゃあ!」

 

白式の装甲にコードを挿し、紅椿の最適化、白式の解析を同時に開始した。

 

「おやぁ・・・このフラグメントマップのパターンは見た事ないね。いっくんが男の子だからかな?」

 

興味津々とディスプレイに表示されるデータを見てる束を見て、俺は何か寒気を感じた。まるでこれから嵐が吹き荒れるんじゃないかと思わせる、そんな悪寒だ。

 

「どうして・・・俺はISに乗れるんですか?」

 

「ん~それは私にもさっぱり分からないなぁ。ナノ単位まで分化すれば分かると思うけど」

 

「ナノ単位・・・」

 

「にゃはははは~!冗談だよ!ISは自己進化するように作ったし、こういう事もあるよ。わっはっはっ!」

 

この人とはこれ以上関わりたくない。

 

「降りて大丈夫ですか?」

 

「ん?いいよぉ。それにしても、いっくんどうしたの?」

 

「いや・・・今日はちょっと体調が悪くて・・・」

 

俺は即座に千冬姉にアイサインを送り、助けを求めた。

 

「織斑。お前は砂浜で少し休め。体調が良くなったら戻ってこい」

 

ありがとう千冬姉。

 

「山田君、織斑を・・・」

 

「ちーちゃん、ストップ!」

 

「・・・どうした?」

 

「いっくんの体調不良の原因が分かった!」

 

あなた()が原因です。

 

「何だ?言ってみろ」

 

「そこにいる・・・」

 

「山田君、織斑のことを任せた」

 

「ちょっと!?最後まで・・・」

 

「悪いが、お前の戯言に付き合える心の余裕は無い」

 

俺は後ろで千冬姉の覇気を感じながら、一人静かな砂浜へ歩んで行った。

 

途中、後ろからマドカの叫び声が聞こえたが・・・そっとしよう。

 

 

 

「はぁ・・・」

 

俺は、静かに砂浜で寝そべり青空を眺めていた。篠ノ之束、専用機、第四世代。多分、この三つが俺を不愉快にしてる原因だろう。

 

専用機を見た箒の笑顔を見て、俺は実感した。

 

あれは昔の俺の成れの果てだ。

 

専用機、しかもすべてのISを上回る第四世代を見て喜んでる箒の姿なんて昔の俺そのままだった。

 

篠ノ之束は家族が引き裂かれた原因を作った人。束がいなければ、千冬姉は普通にOLか剣道道場の師範をやってただろうし、マドカは普通の女子高生として生きていただろう。

 

「何で暗い気持ちになるんだ?」

 

昨日まで楽しく過ごしていたのに、束が来てから突然気持ちが暗くなるんだ。

 

「一夏君・・・」

 

「真耶」

 

ジャージ姿の真耶が心配そうにやって来た。心配そうに来ても仕方がない。

 

「一夏君。束さんが怖いの?」

 

「・・・そうかもしれない。千冬姉とマドカを変えた張本人なのに平然としてるのが怖かった」

 

俺は体を起こし、静かに波打っている海を眺め始める。

 

「家族を滅茶苦茶にしたのにISと箒と自分のことしか考えていない。自分だけの世界にしか目を向けず、周りの事なんて気にしない。誰かが傷ついたって、誰かが死んだって、自分の世界の住民じゃなければ特に気にもしない。理屈だけ並べて自分の世界のために動く、そんな人に・・・」

 

真耶は言葉を遮るように俺を正面から抱きしめた。

 

「一夏君、怖がらなくていいよ。一夏君は一人じゃないよ。織斑先生もいるし、マドカさんだっている。クラスメイトの皆がいて私がいる。皆がいるから今の自分がいるって言ってくれたよね。だから、怖がらなくていいのよ」

 

「・・・もう少し、このままにしてくれないか?」

 

「いいよ」

 

波の打つ音に耳を澄ましながら、俺は真耶に抱きしめられた。温かく、優しく、心地良い真耶の抱擁に俺は時間が止まって欲しいと願った。

 

だが・・・

 

 

 

「いーーーっくん!」

 

「きゃあっ!」

 

「うわぁ!」

 

 

 

現実は非常である。

 

「いっくん!非常事態だよ!早く早くぅ!」

 

「ちょっと待ってください!非常事態って!?」

 

「それはちーちゃんが説明するから、さあさあ!」

 

乱入してきた束に引っ張られ、俺は千冬姉から説明を聞いた。

 

 

 

アメリカとイスラエル共同開発した軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が突如、謎の暴走を始めたのだが・・・

 

 

 

「何で一番近くにいるという理由で俺達が戦わなければならないんだ!そういうのは軍が何とかしないのか!?」

 

そう、銀の福音の現在地は俺達が泊まってる旅館近くを飛んでいる。それだけの理由で軍が俺達に暴走したISを止めてくれと頼んできたのだ。これじゃあ、ロボットアニメでの腐敗した軍と変わらないじゃないか。

 

「織斑、落ち着け。そんな理由でお前たちを戦わせるわけにはいけないと思っている。今から、私が直々に交渉をしてくる」

 

さすがの千冬姉もこの頼みには不服を感じている。だが・・・

 

「だが、このまま見逃すとは考え難い・・・」

 

「近くに専用機が集まってる所ってここしかないから・・・」

 

「ですが、スペック上では私たちのISを遥かに凌駕しています」

 

「だとすると、対抗できるのは紅椿ぐらいしか・・・」

 

あの四人(箒とセシリアと鈴とシャルロット)は真面目に考えてるが、俺達は軍の尻拭いをさせられそうになってるんだぞ。

 

「私だけでも構わない。これは軍の犯した失態だ。軍の失態は軍人が何とかするのが世の常だ」

 

ラウラは自分の立場を理解しているのか、自分以外の戦闘を望んではいないようだ。ただ、簪はラウラに戦って欲しくないのか少し慌てている。

 

「なら、ここは私が・・・」

 

「ちーちゃん、すとっぷ、すとーぷっ!」

 

千冬姉(SHINOBI)が自ら立候補しようとした時、束が待ったをかけた。ただ、その表情はまるで行って欲しくないというか、千冬姉が行くと物凄く都合が悪いという顔をしていた。

 

「この私に良い考えがあるんだよ!」

 

「とりあえず聞こう」

 

「箒ちゃんといっくんの二人で・・・」

 

「却下だ」

 

「ちょっと!?」

 

「性能だけに頼った戦いでは限界がある。ここは私が・・・」

 

そう言い、千冬姉は剣狼と呼ばれてる剣を持ち打鉄に乗り込もうとしている。うん、千冬姉が圧勝する姿しか思い浮かばない。

 

「学園にも軍にもこの作戦、通しちゃったよ?」

 

束の発言に周りの空気が固まった。

 

「貴様ぁ・・・!」

 

「現行ISを上回る紅椿と最大の威力を持つ白式のタッグなら・・・」

 

「身内を戦場に投げ出して何とも思わないのか!」

 

「大丈夫!だって私とちーちゃんの妹と弟だよ!」

 

どういう理屈だよ。

 

「それに、紅椿のフィッティングの際に白式とのコンビネーションプログラムを組み込んだから、問題無しだよ!」

 

何を言ってるんだよ!千冬姉、何とか・・・

 

「・・・織斑、篠ノ之。直ちにISを展開し、銀の福音の暴走を阻止しろ」

 

千冬姉の苦し紛れの命令により、俺と箒は銀の福音と戦うことになった。千冬姉の表情は教師としての面影はなく、己の無力さに悔しがってる顔だった。

 

 

 

 

 

 

『一夏・・・大丈夫か?』

 

「最悪だ」

 

俺は紅椿の背中に乗り、任務が始まるまでプライベートチャンネルで千冬姉と話していた。さすがの千冬姉も俺の事を心配している。それはそうだ、身内が暴走したISを止めるとはいえ戦場に赴くんだ。心配の一つや二つは持つだろう。

 

『すまない、私がもっと早く対応すればよかったものを・・・』

 

「気にしなくていいよ。俺が無事に帰ってくることを祈ってるのが分かっただけでも嬉しいよ」

 

『そうか。無理だと思ったらすぐに引き返せ。あいつのことだ。紅椿が破壊されないように何かしているはずだ』

 

「千冬姉、これって・・・」

 

『たぶん、あいつが篠ノ之に華やかなデビュー戦をさせるために引き起こしただろう』

 

「勝手な都合で振りまわして・・・」

 

心の底から怒りが湧き上がってくる。

 

『もうそろそろ作戦開始だが、何か言いたいことは?』

 

「マドカはどうしたんだ?」

 

『あいつは三人(相川と谷本と布仏)に任せてある。あの三人ならきっと正しい道へ導いてくれるだろう』

 

「そうか。マドカには普通の一生徒として生きて欲しいよ」

 

『そうだな。そろそろ時間だ・・・生きて帰って来てくれ』

 

「ああ」

 

千冬姉はオープンチャンネルに切り替え、作戦開始の号令をかけた。

 

 

 

 

 

 

「一夏・・・」

 

私は剣狼を見つめ、自分が出来る事考えていた。

 

SHINOBI、天空宙心拳、この二つを持ってしても弟を戦場に赴かせたしまった。

 

天よ地よ、火よ水よ、心あらば答えてくれ。

 

「このまま私は剣狼の導きに従っていいのか?かけがえのない家族を戦いに赴かせ、それを待つことしかできない私は剣狼を持つ資格があるのですか?師匠・・・」

 

私の問いに答える者はいない。師匠も今はどこかの星で悪と戦っている。私は・・・

 

「教官!」

 

「どうした?」

 

ボーデヴィッヒの様子がおかしい。まるで言いたくない事を言わざる得ない事に苦しんでいる表情をしている。

 

「報告します。作戦は・・・織斑一夏の撃墜により失敗しました」

 

「何!?山田先生は!?」

 

「即座に救助へ向かいました」

 

「今すぐ救護装置の設置に取り掛かれ!私は原因究明に取り掛かる!」

 

「了解!」

 

私は落ちに落ち込んでる篠ノ之が戻って来たのを確認した後、私は紅椿の戦歴データを見た。

 

「私はどうすればいい・・・」

 

 

 

 

 

 

剣狼よ・・・私を・・・一夏を導いてくれ。




次回は、様々な人の視点から見た一夏撃墜後の話を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

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