「いい空だなぁ」
「どうしたのですか? いきなり気持ち悪いことを言わないでください」
「地平線の彼方までずうぅっと緑が広がってて、空は見事に青く晴れ渡ってる。それ以外は景色を邪魔するやつはいない。風も穏やかでぽかぽかするし、一眠りするには最高だよ」
「逆に言えば、障害物が一切無いので、格好の的になりやすいです。しかも何も無いので助けも呼べませんし」
「……」
「早く行きましょう。道草を食っている暇はありません」
「そんなにせかせかしてると、いい死に方しないよ? たまにはのんびりとしてるのも気持ちいいもんだ」
「あなたの場合はいつもぼけているではありませんか」
「うるさい。もう決めたんだ」
「何を、ですか?」
「旅人らしく、葉っぱでもくわえてお昼寝する!」
「その必要はないですよ」
「? なんで?」
「頭は働いていないので、疲れていませんから」
「ははぁん……、なるほどな……。お前の頭の中もそうしてやろうか? 永遠に頭を使うことができなくしてやろうか?」
「構いませんが、どこかの誰かさんが困ることになると思いますよ」
「……誰でもいいから、殴らせてくれ……フラストレーションたまりまくりだ……!」
「なら、昼寝はいりませんね?」
「いや、寝るぞ! オレは世界が滅びようとも寝てみせる!」
「どうぞ、お好きにしてください。寝ぼすけさん」
「あぁ。そうさせてもらう。……おやすみ」
「お休みなさいです」
「…………」
「ダメ男?」
「………………」
「ダメ男?」
「………………」
「まさか、本当に眠っているのですか?」
「………………」
「どうやら本当みたいですね」
「………………」
「それでは、子守唄でも歌いましょうか」
「…………」
「ふっふっふ、ふぅ~ふっふ、ふっふっふ、ふぅ~ふっふ、ふっふっふ、ふぅ~ふっふぅ~ふ、ふふ~ふぅ~……」
「…………」
「ふっふっふ、ふぅ~ふ~ふっふふ、ふぅ~、ふぅ~ふっふっふぅ~、ふ~ふぅ~ふぅ~ふ~ふ~ふ~ふぅっ、ふぅ~……」
「…………」
「ふっふっふっふ~ふ~ふ~ふ~ふ~ふ~ふ~ふ~ふ~」
「“ふ~ふ~”うるさい! 静かに、」
「ふっふっふっふっふ~っふっふ、」
「お前はいつまでやってんだよ! 子守唄じゃなかったのかよ!」
「おや、お昼寝はどうしたのですか?」
「うるさくてできるかっ!」
「うるさいのは、ダメ男の方です。鼻歌で子守唄をしていただけなのに人のせいにしますし、クレームをつけてきますし」
「明らかに寝かす気なかったろ! イライラさせてたんだろうが!」
「はて、何のことですか?」
「…………胃に……穴が開きそうだ……」
「大丈夫です。その時は病院に行けば、」
「ストレス性のなっ!」
「意外に面倒で貧弱な男ですね。さすがはダメ男です」
「おっ。そうか」
「名案ですか?」
「あぁ。お前……オレに寝られると寂しいから、オレのお昼寝を邪魔してるんだろ?」
「な、何をとんちんかんなことを言うのですか?」
「わかりやすっ。珍しく動揺してるな」
「動揺などしていません!」
「じゃあ何で子守唄なんてものをしてたんだよ?」
「それは、ですね。つまりですね」
「早く言えよ~」
「え、えっとですね」
「図星なんだろ~?」
「データ保護のために
「あ、切れた……。やろ……でもこれでお昼寝できるな。じゃあ改めておやすみ」
「夜に眠れなくなって、寝不足になっても知りませんからね」
「あ、起きてたの?」
「ぷちっ」