「はぁ……なんかよく分からんかったな。歩き損だよ」
「こういうこともありますよ。気を取り直して行きましょう」
「やたらと優しいな。……さては裏があるな?」
「せっかく落ち込んでいると思っていたのに、心配して損しました」
「あんなことで落ち込まないよ」
「相変わらず嘘が下手ですね」
「ウソじゃないしっ」
「あの、申し訳ないんだが」
「ん? こんちは」
「こんにちは」
「中々のイケメンですね……」
「お前は黙ってろ……」
「近くに国か村かないか?」
「村ならある。ここを真っすぐ行けばな。何かあったのか?」
「実はバギーがガス欠になってしまって。もし持っていたら燃料を分けていただきたい」
「こんな森の中でガス欠って、運が悪いな。しかもオレも持ってないから、さらに不運なもんだ」
「そうか……。時間を取らせて申し訳なかった」
「うーん……オレが知ってるとこだと、この先の村と南へ五十キロほど先にある国だけかな」
「……」
「もしかして、そっちに行こうとしてた?」
「……」
「そりゃそうだよなぁ。……それじゃ、頑張ってな」
「あのイケメンを置き去りにする気ですか……?」
「他の人に構ってられないだろ……?」
「そんな薄情な人だとは思いませんでした……。……このクズ人間……」
「オレにどうしろってんだよ……! その国まで往復して燃料運べってかっ……?」
「既に自明のことではありませんか……。さすがに頭が回りますね……」
「そういう時だけ褒めんなっ……! あからさまにおだててるだけだろうがっ……」
「では、お願いしますね……」
「……」
「どうしたんだ? どこか具合でも悪いのか?」
「あぁいや、考え事だよ。……ここであんたを見捨てても薄情だし、ちょっとだけ協力するよ」
「! いいのか?」
「旅は道連れなんとやらだ。っていうか、そうしないと嫌な気配がするんでね」
「?」
鬱蒼とした廃村だった。和風な家が点在しているものの、人の気配は全くない。森の葉っぱが厚いのか、ここだけ小暗かった。
そこをとある二人が散策している。一人は真っ黒のセーターにダークブルーのジーンズ、そして薄汚れた黒いスニーカーの男だ。セーターの
もう一人は緑のセーターを着た青年だった。腰に刀を提げている。
「なんか不気味だな」
「そうですね」
彼らは単独行動で探索している。緑の男の乗り物がガス欠を起こし、この廃村で燃料探しをしていた。
「早くここを出たいな」
「何か感じますか?」
「あぁ。ぞくぞく感じる。多分良いことじゃないだろうな」
「そうですね。しかしこんなところに燃料なんてあるでしょうか?」
「あると信じるしかないだろ? そうじゃなかったら、絶賛往復マラソンをせにゃならんからな」
「あのイケメンの方にはそんなことをさせるわけにはいきませんしね」
「面食いなやつ」
「基準は低いですよ? 普段から醜い顔を見ていると、審美眼が衰えますからね」
「……燃料見つけたら
一方の緑の男は、
「……見つからないな……」
真面目に探していた。
「こうなったら歩いて取りに行く、……?」
何かに気付いたようで振り返る。
「おーい、こっち来てくれー」
黒い男が呼びかけた。声の聞こえる方へ向かうと、
「ちょっとこれ見てみて」
家の陰にあるようで、そちらに回り込む。
「これ、トラクターみたいなんだけど、大丈夫かな?」
「……臭いから考えると使えそうだが、もしかすると混合型の可能性もある。が、現状では贅沢は言っていられない。使ってみるよ」
「あ、あの」
「!」
女の“声”。誰もいないその“声”に緑の男は、
「誰だ!」
刀を抜いた。
「! カタナかよ……」
黒い男は緑の男よりも、刀の方に驚く。
「じゃなくて、心配しなさんな。今の声はこいつだよ」
首飾りを緑の男に見せた。
「すみません。言いたいことがあったので、つい」
「……なるほど」
「え?」
すっと刀を鞘に戻す。
黒い男が説明していないのに、やけに納得していた。
「それで、言いたいこととは?」
「えっ、あっあぁ、この乗り物の燃料は臭いと色と粘度から、一般的に使用されるバギーと同種の燃料であると考えられます。旅人様が所有しているバギーの種類にもよりますが」
「……そういうこともできるのか。すごいものだな」
黒い男が持っていた容器にその燃料を入れ、しっかりと蓋を閉める。それを持って緑の男についていった。
「! これがバギーか」
バギーが停車していた。森の中というより、森の入り口に停められている。座席には、
「犬?」
真っ白な犬がお座りしていた。
「利口な犬だなぁ。しかも大きくてかっこいいし」
「……」
犬は黒い男に笑いかけている。
緑の男は慎重に燃料を注入していく。特有の臭いが立ち込める。
「あのさ、一つ聞いていい?」
「いいよ」
「どうしてこいつが話すとこ見ても、あんまり驚かないんだ?」
「不思議なことだったかい?」
「あぁ。こいつを紹介すると、ほとんどがびっくり仰天するからさ、気になったんだ」
「……そうだな。似たような体験をしたことがあるから、だと思う」
「へぇ。こういうの持ってる人、いるのか。ぜひとも会いたいもんだ」
「難しいかもしれない。その人は旅人なんだ」
「だとすると、そう
「でも、お互いに生きている限り、いつかは出会える」
「かっこいい……」
「はいはい、
補給が完了した。緑の男がエンジンを掛けると、
「おっ!」
鈍い音が鳴り始めた。そして一定のリズムを刻む。
「ありがとう。助かった」
「いえいえ。こっちも安心したよ」
「助けてもらったお礼に、一つ助言を送りたい」
「? 何?」
「南の方にある国だが、そこは行かない方がいい。そこもきっと滅びてるだろうから」
「……なるほど。肝に
「……良かったですね」
「あぁ。燃料も補給できたし、目的も果たせた」
「はい。それで、これからはどうしますか?」
「×はこれからどうしたい?」
「××様の思うがままに」
「そうだね」
一台のバギーは道なりに進んでいく。
「意外に役に立ったな。この看板」
「そうですね」
黒い男は廃村の前に立っている看板を見下ろしていた。
「あの人の分もつけとくか」
「はい」
黒い男はナイフを取り出し、看板の後ろに傷をつけた。そして来た道を戻っていった。
出会いと別れは尽きぬもの、水霧です。……すみません、すべりました。(改訂済みです)
いかがでしたか? 本章では新キャラ主体の物語に挑戦しました。いっぱい楽しめたのであればとても嬉しいです。
さて、この“あとがき”からは水霧の小言にちょっと付き合ってください。言うて見れば、本章の感想みたいなものです。
ダメ男以外の主人公を書くのはとても新鮮でした。
実質、キャラが四人分(うち一匹)増えることになりますから、その設定を決めるのがとても大変でした。特にハムスターであるクーロは人間と違った視点で書かなくてはならないので一苦労です。ハムスターを飼ったこともないので生態も全く知らず、ペットショップの店員さんに聞いたり、動物の本を見たりと……。それでも不完全なところが多いと自己採点しています。ハムスターなのに目が見えるの? とツッコむ方、ホントに許してください……弱い者いじめいくない(泣)
ナナ&ディンは“その後”の話ですね。書いていて思いましたが、この二人はお話の時系列がはっきり分かってしまいますね(笑)
水霧のせいなのですが、そのへんも含めて読んでいただければ幸いです。どうか温かい目で見守ってください……(泣)
ちなみにですが、ナナの持っていた“ソウドオフ・ショットガン”は水霧が一番好きな銃であります。とある暗殺ゲームで見惚れてしまいました。形がこう……ごく単純で、二発しか装填できないという点になぜか惹かれてしまいました。なので、どうにかして誰かに使わせたかったのです。ダメ男は狙撃が下手だから無理だし……(笑)
また、ハイルが持っていた銀銃は“ハードボーラー”という銃です。映画やゲームでもよく登場する、高名な銃だと聞きました。これもとある暗殺ゲームで見惚れたクチです(笑)
ということで“あとがき”はここでお開きにしましょう。次章もお楽しみくださいね。ありがとございました!