フーと散歩   作:水霧

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おわり:しろいあさ

 十字架の(わき)にある黒いテント。そこから十代中頃の少女が出てきた。黒いショートヘアに小麦色の肌、幼い真ん丸の目付きが特徴的だった。上着にグレーの肩掛けを羽織っているだけで、裸身を晒しているというほど際どい。足には真っ白な包帯が巻かれていた。

「ん……」

 今日は晴れたようで、建造物から光が差し込む。温かいはずなのに、どこか心虚しさを覚えてしまう。

 明順応で目を渋らせる女の子。数秒してから、

「?」

 何かが身体を包む。黒くて柔らかい。思わず身に寄せる。

「お前さんはまた……。ほら、これ着て」

 男が話しかけてきた。柔らかい何かは黒いセーターだった。

「思い出したか?」

「……」

「まぁそれは後にして、ご飯にするか……。腹減ってるよな?」

「……」

 小さく横に振る。

「よしよし。今から作るから適当に時間潰しててくれ。あんまり遠くに行くなよ」

「……」

 じとっと男を見る。しかしそれに全く意を介さない。特に何か反応することなく、隅っこで床いじりを始める。

「よし、できたぞ。こっち来な」

 少女はとことこと寄ってくる。

「さすが空気が読めない男です」

「子供のくせに朝ごはん食べないとか身体に悪いだろうが」

「あなたみたいに野生の珍獣ではないのですよ。ましてや女の子はとても繊細なのです」

「繊細っていう言葉に逃げてるだけだろっ」

「……」

 きょとんとしていた。男とは明らかに違う“声”、それもどこにもいない女と言い争っていたからだ。

「……あ、ごめんごめん。食べていいよ」

 少女にお皿を取り寄せて渡した。もくもくと食べている。

「例によってポテトサラダですね。犬のエサを食べさせるなんて最低です」

「ポテトサラダとその発案者に全力で謝れ」

「あなたが作った料理が犬のエサだと言っているのです。誰もポテトサラダを(けな)してはいません」

「それならよろしい」

「偉そうですね」

 少女はもくもくと食べている。

「……して、お前さんは誰なんだ?」

「……」

 またしても横に振る。

「記憶喪失ですかね」

「この街が荒れてたのと関係あるのかな?」

「かもしれませんね。一時的に記憶喪失になっているのでしょう」

「それは厄介だな……」

 男は困り果てた顔を一切せず、マイペースで食事にありつく。

「何か覚えてることないか?」

「……」

 目を伏せ、必死で頭の中を検索している。

「無理はしなくていいからな」

「……こっち……」

「?」

 少女は空の皿を置くと、男のセーターを着て、引きずりながら奥へ進んだ。男はリュックから黒いジャケットを取り出して着込んだ。

 十字架の両脇に二つのドアがあり、その右の部屋へ入る。机や本棚、テーブルと普通の一室だった。先ほどのフロアと同じ作りでとても明るい。

 さらにドアが続いていた。少女は慣れたように奥へ進み、男は付いていく。

「! これは……」

 いきなり、コンクリート壁に囲まれた部屋に出た。入り口脇に上下ボタンが付いており、下のボタンを押すと、

「う、ひょう!」

 なんと部屋が動き出した。男は特有の浮遊感を感じ、

「うえっ」

 吐きそうになる、のを必死で留めた。

「エレベーターですか。それよりも、こんなに崩壊しているのに電気が通っているのですね。おそらくは自家発電だと思いますが」

「そうなのか?」

「当たり前です。あなたの頭には何も通っていないので、分からないと思いますけどね」

「今返事しただろっ」

「空返事だと思いました」

「オレだってそのぐらい……ぐぐぐ……」

 衝動を押さえている表情をじっと見る少女。心なしか不思議そうだった。

 エレベーターが止まり、ドアが開く。

「えっ? そっちかいっ!」

 反対側に。

 ふあっ、と暖気が漂うのを感じる。男は少女をちらりと見やる。寒さで震えていなかった。セーターを抱きしめ、その感触に浸っている。

「へんたい」

「違うって」

 ドアの奥には研究所の景色が広がっていた。えげつない蛍光灯の明かりがちかちかと点滅し、くすんだ水色のゴム床は(へこ)みや亀裂が激しい。壁も切り傷や赤いシミが至るとこにできており、何かの液体が飛び散っていた。そして異臭、

「!」

 それも覚えがあった。いや、似ていた。

「お前さん、ここにいたのか?」

「……」

「図星か。ここの薬品か何かに浸かってたんだろうな。ろくなもんじゃなさそうだ」

 少女はふらふらとまた歩き出した。男は残党がいないか注意する。

 通路は左右と一直線。少女は迷うことなく、直線通路を選んでいった。その行き止まりに分厚そうな金属製の扉があった。脇には謎の機械が赤く点滅している。

「何か分かるか?」

「逆に分からないのですか?」

「頼むからイジメないでほしい……」

「さて、これはセキュリティロックですよ。ここに溝がありますよね? 専用カードを通して、鍵を解除する仕組みになっているのです」

「……って、そんなもん、持ってないんだけど」

「弱りましたね」

 がちゃん、と物音がした。

「あぁ~、なるほど」

 男は納得した。

「元から開いてるってやつか」

 少女が平然とドアを開けたのだった。

「まるで防犯の意味が無いですね。“バカラの不貞腐(ふてくさ)れ”です」

「“宝の持ち腐れ”な。きっと壊れてるんだよ」

「あなた並みに使えないゴミですね」

「お前もゴミにしてやろうか?」

「その間にあなたは少女に不適切な、」

「ごめんなさい、その話を本当に引きずらないでください。一部の方から非難がきてるんです」

「それ、私のこと?」

「それは、……!」

 はっとすると、少女がいなかった。急いで中に入り、追いかける。

「ん?」

 その必要はなかった。

「……この部屋は?」

 少女の前にはカプセルがあった。既に割れており、中の液体が溢れて床に広がっている。

 男は周りを見た。真っ白の壁と床に白色灯という眩しい部屋だ。カプセル以外は特に汚れていたり壊れていたり、傷がついていたりしない。とても綺麗だった。

 少女はカプセルを指差す。

「……この中にいたのか?」

 こくりと頷く。

「地上も地下もあれだけ荒れてるのに、ここだけ大丈夫だ。まるでここだけ大切にされてるような……」

「この子はVIPということでしょうか? 要人の娘かあるいは、」

「娘を薬漬けにするか?」

「大病を患っていたとしたらどうです?」

「……考えられなく、もないか。ただ、ここだけじゃ情報が少なすぎる。もっと他も当たろう」

 男は歩き回った。膨大な数のカプセルが設置された部屋、医療用具満載のガラス張りの部屋が大量に並ぶ部屋、リング状に何個も広がる机がある部屋。途中でベッドがある部屋を見つけたので、そこに少女と余分な荷物を置いていく。

 少女と“声”はその部屋でお喋りした。と言っても“声”がほぼ一方的に話しかけるだけだが、主に旅の話をしていた。さほど興味は無いようだった。

 男が戻ってきた。

「どうでした?」

「何にも。ただ、やたらと広いとこだなってことしか」

「本当に節穴ですね」

「うるさい」

 部屋にある椅子に座る。

「で、何か他に思い出したか?」

「…………おにいちゃん」

「? お兄ちゃん、か」

 大きく縦に振る。

「……おにいちゃん……うぅ……」

 これ以上は話さなかった。思い出せないようだ。

「お兄ちゃん、ねぇ。……お兄ちゃんを探してみるか?」

「ふざけて提案しているわけではないですよね?」

「当たり前だ。こんな状況でふざけてる場合じゃないだろ」

「すみません。しかし、その、あの」

 “声”は言葉を濁していく。

「まだ探しきれてないところもあるしな」

「……」

「君はどうしたい? 望みとあれば、ここから連れ出していけるけど……」

「……いい」

 小さく断る。

「でも、“たすけて”って言ってなかったか? 近くの街で生活できるくらいまでなら面倒見るよ。もちろん、きちんとした方法と立場でな」

「いい」

 今度は力強く。

「ここに思い入れがあるみたいですね。では現実的な話をしましょう」

「! 余計なことすっ、」

「こんなところを裸足でかなり出歩きましたね? 足の裏を切ったせいで破傷風菌と呼ばれる菌が侵入している可能性が高いのです。その潜伏期間は約一日から六十日。おそらく地上に出てから日が浅いために、症状が出ていないだけでしょう。発症すれば、とても強烈な全身痙攣とその反動による脊椎骨折、自律神経障害が現れます。しかし、意識はしっかりしているためにその苦しみをずっと味わうことになるのです」

「?」

「まとめると、あなたは死にます」

「……そう……」

 眉一つ乱さずに軽く返した。

 男はため息をついた。

「……まぁ、あくまでもほっといたらの話だ。幸か不幸かガス壊疽(えそ)ではなかったし膿も少なかったし。でもそれだけは別で、しかもオレは満足に薬を持ってないんだよ。助けを求められた以上、見殺しにしたくない。……それでもここにいたいのか?」

「……うん」

「!」

「子供だからよく分からないのでしょう。ここは多少強引にでも引っ張り出すしかありませんね。この国を出ないと死ぬのですよ? いいのですか?」

 “声”が少女に(さと)すも、

「やだ。ここにいる」

 意志は堅かった。

「どうしてここにいたいんだ? 病気になってなくても人はいないし住むところもない。とても生きていける環境じゃないぞ?」

「わからない……。でも、ここにいなきゃいけないきがする……」

「お兄ちゃんを待ってるのか?」

「わからない、けど……だめ……ここにいなきゃ……」

「……」

 男は額に手を当てため息をつく。

 女の子のきりりとした表情を見るや、荷物から色々と取り出した。

「これは一週間分の非常食と水、痛み止めだ。あと少ないけど服といらない靴も置いてく。水が足りなくなったら、教会を出て右に行った三軒目の家に行け。そこがダメでも、ここも水は一応通ってるから。非常食をケチれば二週間はもつだろう」

「!」

「何を考えているのですかっ?」

「あとコンパスとライト、簡単だけど地図も書いといた。ここに置いとくよ」

「……いいの?」

「あぁ。その足の手当に、手持ちの抗生剤を大量にぶち込んだんだ。それに懸けるしかない。それに、無理やり連れだしても逃げられちゃおんなじだ。なら、ここで最善の方法を取ったほうがいい。上手くいけばお前さんの目的も達成できるだろうし」

「……」

「最後にもう一度だけ聞く。ここにいるんだな?」

「……うん」

「そうか……」

 男は荷物を整えて持ち上げると、女の子を残して、

「……ごめん」

 部屋から出て行った。

 

 

 雨は降りそうにないが、厚い雲が光を遮っている。暖かいところから出てきたために、外は一層寒く感じた。

 入り組んだ路地を歩いていく男。ここも瓦礫や亀裂で荒れており、気をつけながら進む。

「どういうことですか? きちんとした理由がなければ二度と口を聞きませんよ」

「理由? 簡単だ。あの子を死なせたくないから」

「ならば一緒に連れていけばいいでしょう? 今までもそうしてきたでしょうに」

「……それは無理だよ」

「なぜですか?」

「あんな表情した子はテコでも動かないよ。お前が一番知ってるだろ? 何を言っても言うことを聞かない強情っぱりだ」

「そっ、それとこれとは話が違います。あの時は自分でも何とかできた状況でしたが、今回はどうすればいいのか分からないのです。しかも記憶も失い、病気の疑いもあります。ここは強引にでも連れ出すのが最良の方法だったはずです。珍しく判断を間違えましたね」

「だってそうするしかないだろう? 心変わりの時間を取るために、食料その他を限界まで渡したんだ。それでもダメなら……いや、あの子に生きようって意志があるなら、自然とあそこから離れるはずだ。次の国まで歩いても一週間はかからない距離だからな」

「そこまで考えているなら、これ以上は責めません。もはや、死しても自業自得と言い聞かせるしかありません」

 ある広場に着いた。そこは門前広場で、門はばきばきに折られていた。その奥に長閑な景色が見えている。

 広場は瓦礫よりも異臭と染みが酷かった。ある一点が大きく抉られており、焦げ跡の周りには赤いものがばらけて散っている。さらに門の縁も飛び散ったような跡がまざまざと残っていた。

「……ちゃんと綺麗なままだったら、いい国だったんだろうな」

「そうですね」

 門の方へ行くと、足元に川が流れていた。そして半分に折れた分厚い板が流れ沿うように、こちらの崖岸(がいがん)に中央から寄り添っている。

 男はその板に片足を乗せ、

「よっと!」

 反対の足で蹴った。弧を描くように板が半回転し、少し届かないので、

「うおっ」

 男がジャンプして、反対岸に着地した。

「器用なものですね」

 男は振り返る。こちら側も同じように赤い染みが飛び散っていた。中よりも酷く、川の方へ滴っている痕もある。そしてぽつぽつと小さく何かがめり込んでいた。

「戦争……にしてはスケールは小さいよなぁ……」

「それならば城壁が崩れていますからね。内乱でしょうか」

「かもな。こんな綺麗な道路もないだろうし」

「はい」

 男は歩き出した。

 曇り空の下、平原を二分割するように、綺麗に舗装された道路が伸びている。車二つ分ほどの幅で、とても歩きやすかった。

「遺体はどこに持っていったのでしょうかね?」

「国外だろ? あそこ、墓地なかったし。教会があるのに墓地がないってのもちょっと不思議だったけど」

「そうでしたか。しかしスペース的に無理だったのではないでしょうか。あれだけ密集した国です。墓地に使う土地がなかったのだと思います」

「少なくても国の近くにないな、うん」

「そうだとしたら、あなたの鋭敏な感覚が察知するでしょうから」

「おい、もう思い出させるな」

「分かりました。それにしても、墓地がないとは、よく気付きましたね」

「そりゃな。大切な所だからな……」

 

 

 一日目、曇り。朝食を軽く済ませた少女は街を徘徊(はいかい)した。瓦礫の山と異臭に慣れたものの、心が存在しないような錯覚に陥る。黒い男が残してくれたサイズの合わない服と靴。服は拾ったロープを軽く縛り、靴は中に紙くずを入れて調節する。少女なりの工夫だった。出会うまでは残骸の破片が足に刺さってとても痛い思いをしたが、それも心配することはなくなった。街を五分の一ほど歩き回って疲れてしまったので、拠点である十字架のある建造物に戻る。誰も見当たらなかった。

 二日目、曇り時々晴れ。一日目の五割増しの朝食となった。この日も街の探索をするが、目的は違った。後々困ることになる食料と水の探索を主眼に置く。水は黒い男の言う通り、教会を出て右に進んだ三軒目の家にあった。奇跡的に壊れていないようで、捻ると綺麗な水が出てくる。カルキの臭いもわずかにするので飲水としても大丈夫だ。食料の方は街中では食べられなかった。電気がどこも通っていないのか、食料保管庫が全てやられていた。腐臭がする。探索は街全体の五分の一にも満たずに終わった。

 三日目、晴れ時々くもり。お腹が空く。黒い男がくれた食料を根こそぎ食べ尽くしたい欲求に駆られる。しかし、それを我慢して水を多めに飲むことで飢えを(しの)いだ。人探しと食料探しの二つを視野に探索する。街中は人どころか動物の一匹すら見当たらない。血痕や肉片だけしか見かけない。いや、生物といえば、それに集まる蝿くらいかもしれない。この分だと食料も無事ではないだろう。早めに切り上げて拠点で休むことにした。晴れていたので星が綺麗だった。

 四日目、晴れ。黒い男が置いていった食料の袋に全てを詰め込む。おそらく、何日かかけて拠点を移しに行くのと大規模な探索をするのだろう。水を口に含ませながら進むが、結果は相変わらず。思った以上に見返りがなかった。拠点を北の端っこから西の方へ移した。これで五分の二を制覇する。新拠点は被害の少ない家にした。幸い異臭も汚れも少なかった。ありがたいことにベッドもあった。今日の成果はこのベッドで決まり。岩のように硬い長椅子から卒業だ。

 五日目、曇り。お風呂が使えるか試すが、案の定無理だった。ただ、ベッドのおかげか身体がそこまで痛くない。朝食も比較的軽く摂るだけで済んだ。しかしベッドの心地良さが身体から離れられない。代わりに家にあった本を読み込み、一日を過ごしてしまう。この少女は年齢のわりに中々聡明なようだ。

 六日目、雨。弱い雨だが、雨漏りが酷い。幸い、ベッドには雨水は落ちてこなかった。出掛けるのは無理なので、雨水で洗ったバケツや桶といった器を雨漏りの場所に置く。暇な時間は読書をした。食事は夜に軽く済ませるに留まった。

 七日目、雨。昨日の雨が続いている。大量に溜まった雨水は浴槽に入れ、スポンジで清掃するのと身体を流すのに使った。なんと石鹸まで備わっていた。遺憾なく使わせてもらい、身体を洗った。綺麗になったところで再び雨水を溜め、残りの時間を読書に費やす。浴槽を洗って疲れたのか、早めに床に就いた。食事は夜に軽く済ませた。

 八日目、雨。腹痛に見舞われる。寒気と震えが止まらない。食欲はないが水を多めに飲んだ。少女には原因が何か分からなかった。家の中にある毛布をありったけかき集め、ベッドにて養生する。

 九日目、曇り。雨が止んだ。しかし出掛けようにも不調が続く。動悸(どうき)が激しく、やけに汗が出てくる。養生と思い、食料を多めに食べる。今度は下痢を起こした。腹が苦しいようだ。

 十日目、曇り時々晴れ。思うように身体が動かない。全身に鋼を取り付けたように硬くなっていた。そして異様に(だる)い。熱っぽい。声が出ない。

 十一日目、晴れ。両腕が胸の前で縮こまり、縛られたように固定していた。そして仰け反るような体勢。高熱と息苦しさで意識が朦朧としているくせに、痛みははっきりしていた。全身が雷で貫かれているように激痛が走る。

 少女はようやく悟った。“声”が言っていた病気が発症したのだと。

「ぐ……ひゅぅ……ひゅぅ……」

 滝のように流れていく汗。

「い……あ……けっ……」

 痛みが激しい。視界が虚ろ。

「……し、……にたく……ないよ……」

 熱い涙が目尻から垂れ落ちる。

「たっすけて…………あ…………」

 なぜか天井を見入る。

「大丈夫か!」

「お、にいちゃん……?」

「くそ! 早く病院行くぞ! 早く医者に診せないと!」

「お、にぃちゃ……ん……たっすけて……」

「大丈夫だ! お兄ちゃんがついてる!」

「う、ん……ずっと、さがしてたんだよ……。でも、よかったあ……」

「だめだ! 目を閉じるんじゃないぞ! オイラをちゃんと見ろ! アカリ!」

「あ……あ、かり……?」

「しっかりしろ! アカリ!」

「……あ、あた……し……アカリ……」

 震えながら伸ばした腕は、

「手……ほら、分かるだろ? お兄ちゃんはここにいるぞ!」

「うん……」

 ばたりと落ちた。周りには誰もいなかった。

 

 

 


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