ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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ごーこんきっさ編―④

階段を降りるとその先に合ったのは先ほど見たばかりの重厚な扉と迷宮の先へと伸びる道であった。扉の方は押しても引いても開く気配がない。

 

「この扉も開かない……。ということはきっと」

 

『ええ。その扉の先からシャドウの反応があります。上の物と同様の試練かと思います』

 

「ねぇ、風花。男子チームはどんな様子?」

 

『えっ!?……えっと、その……』

 

「山岸先輩?」

 

優ちゃんが疑問を浮かべながら尋ねると風花は再度口ごもった。代わりに答えたのは現在男子チームを担当している久慈川さんであった。

 

『男子チームはその部屋にある“移動床”のあるフロアでシャドウの群れと戦闘中だよ!敵は上の階層で戦ってきたシャドウばかりだから問題ないんだけれど、この“移動床”が厄介だね』

 

久慈川さんと風花の話によれば、移動床に足を乗せてしまうと自分の意思とは関係なく、移動床の示す先へ強制的に運ばれてしまうらしい。誤って足を乗せてしまった天田くんの後を追って総司くんと荒垣さんがチームから分断された先にシャドウが待ち構えており、助けに行こうとした花村くんたちにも背後からシャドウが襲いかかってきたらしい。下手に移動しようとすると移動床に足を乗せて、強制移動を余儀なくされてしまうようだ。

 

『わぁっ、すごい!総司くん、フロアの移動床の位置と行き先を把握したみたいでシャドウの群れを翻弄しているよ!今も移動床に乗りながら、銃を撃ってシャドウを倒してる』

 

久慈川さんが興奮した様子で伝えてくる。総司くんは今回、右手に片手剣、左手に小型銃を装備した状態で迷宮に挑んでいる。そして、彼がつけているペルソナは前回の女王の側近であったF.O.Eを倒した時に得た「リョウマ」という、幕末維新の英雄らしい。最期は暗殺されてしまったらしいけれど。

 

『フロア内にいたシャドウは全部倒しきったみたいだよ。やっぱり若いと柔軟性があるみたい……はっ!?私はまだピチピチの“女子高生アイドル”なのに~~!!』

 

『うわっ、りせちゃん。落ち着いて…………』

 

通信は頭を抱えるような発言をする久慈川さんを慰める風花の発言を最後に通信は切れた。私は呆然としながら周囲を見ると、千枝ちゃんと雪子ちゃんが肩を竦めていて、優ちゃんが遠い目をしていた。

 

重厚な扉が開かないのを確認していたので先に進むと男子チームが苦戦することになった移動床のフロアについた。

 

「……なんか、動いてんね」

 

「本当ですね。空港でよく見かける歩く歩道のようなものでしょうか?」

 

「私もテレビで見たことある。おっきな駅とかにもあるやつ」

 

「そうか、君たちの街には無いのか。正式にはトラベレーターと呼ぶ」

 

進行方向から左の方へ向かう移動床。千枝ちゃんと白鐘さん、そして美鶴先輩が会話している。男子チームの先頭にいた天田くんはこれに乗って移動してしまったのだろう。私はそう思って、移動床の示す先を目で追っていくと出口にシャドウが待ち構えていた。

 

「あれって、【自律のバザルト】だよね」

 

「岩の前に赤い仮面があって、上に手が生えていますし間違いないかと」

 

私の問いに千枝ちゃんたちと会話していた白鐘さんが頷いた。1階の重厚な扉の先にいた仮面が黄色い【無為のバザルト】でなくてよかった。上の階で戦うことになったシャドウは【石化】攻撃を頻回に行ってきて厄介だった。それに比べると自律のバザルトであれば電撃攻撃や光攻撃を行えば倒せるし。

 

「それにしてもこの床を攻撃に使うって、総司くんって凄いね」

 

「アイギス、白鐘。同様なことは可能か?」

 

「可能かどうか、いっちょ試してみるであります」

 

「え、ちょっと?」

 

アイギスは私たちの制止の声を無視して移動床に飛び乗った。彼女の体は移動床の示す方へ勝手に流れて行く。その上で両手に内蔵されたガトリングを使い先制攻撃を仕掛けるが、待ち構えていたシャドウが多すぎる。だが、彼女がつけているサブペルソナは全体に電撃攻撃スキルを与えることができる【カイチ】だ。これはエリザベスの依頼で合成することになったペルソナで、羊の頭にユニコーンのような一本角を持つペルソナだ。

 

「召喚シークエンス、パラディオン!“マハジオ”」

 

アイギスは移動床の上でペルソナを召喚した。金色の装甲を持つ、紺色のワンピースを着たような姿のパラディオン。の上に小さな羊のようなものが見えた。その羊の一本角からバチバチと放電したかと思うと、移動床の先で待機していたシャドウたちに電撃攻撃を仕掛ける。弱点での攻撃スキルを受けたシャドウたちは一様に、身を崩してダウンしている。

 

「ああ、もう!あの子はこういうところがあるから!」

 

「攻撃を寄せ付けない鋼鉄のボディを持っているのも考え物っていうことですか」

 

額を押さえつつ呆れたように話すゆかりと、アイギスの言動を見た白鐘さんが頷きながら考察している。その2人の会話に混ざろうと思い振り向くと、彼女たちの後ろに大きなハートが3つ浮かんでいるのが見えた。さっき、風花たちとの通信した時、彼女たちは何を言った?私は咄嗟に召喚器を取り出し、こめかみに宛がう。そして、すぐに引き金を引く。

 

「ゆかり、白鐘さん!2人とも伏せて!オルフェウス、“マハガル”」

 

私が装備しているサブペルソナの【カーリー】のスキルが発動すると同時に2人はしゃがみ、彼女らに襲いかかろうとしていたシャドウたちに疾風属性のスキルが衝突し暴風が吹き荒れる。

 

「助かりました、結城さん」

 

「山岸先輩、こいつの弱点は?」

 

『敵は【ソウルダンサー】3体です。弱点は氷と闇。全体に打撃攻撃をする『なぎ払い』と、皆さんの動きを阻害する『茨の足枷』というスキルを使ってきます』

 

私たちに避けるという手段を失くさせて、自分たちは悠々と攻撃してくるってこと?なんて嫌らしい攻撃をしてくるシャドウなんだろう。というか……

 

「ねぇ、風花。そこまで分かっているってことは、総司くんたちはどこまで進んでいるの?」

 

『えっとね、湊ちゃん。怒らずに聞いて欲しいんだけれど、鎖で封鎖された扉の前まで進んでいるの』

 

「「はやっ!!」」

 

『これ系統の謎解きに関して、総司くんがめっきり強いのは不思議の国のアナタの迷宮で立証されているでしょ。フロア内をくるりと見渡しただけで、正解の道筋を導き出しちゃうんだから』

 

『今は、封鎖された扉付近でレベル上げしているよ』

 

「することがなくなっちゃったー」と久慈川さんは笑っているけれど、ちょっと待って欲しい。この階層に来たタイミングは男女チームともに一緒だったはずだ。そして、さっき移動床を使って総司くんがシャドウを攻撃できたっていう話を聞いたと思う。

 

「ねぇ、風花。その封鎖された扉があるところは、ここから近いの?」

 

『もう一部屋、移動床のあるところを抜けた先です。あ、けどちゃんと部屋の探索はお願いしますね。湊ちゃんたちが今いる部屋にひとつ、その先の部屋にショートカットの先にひとつ宝箱があるはずですから。男子チームは……』

 

『宝箱から飛び出したシャドウとご対面!飛び出した直後に放ってきたスキルに腰を抜かした真田先輩と完二の姿、是非ともお姉ちゃんに見せたかったなぁ』

 

久慈川さんのちょっとサド気を感じるような発言はスルーしつつ、私は移動床に乗って移動する。風花の話によると最初の移動床のある部屋は向き的にどうしようもないので、さっさと次の部屋に移動する必要があるとのこと。

 

「扉を通ったら、そのまま直進して移動床に乗るっと」

 

「ちょっと待て、湊。全員でとは言わないが、数人で移動した方がいい」

 

美鶴先輩に肩を掴まれ、私は立ち止まる。見れば、他の皆も心配そうに私を見ていた。私は自分が風花たちからの通信を聞いて焦ったことを鑑み、皆に謝る。そこで美鶴先輩の言うように二手に分かれて探索をしようとしたのだが、

 

「あれ?私の“肉ようかん”がない!!」

 

肉ようかん……。肉とようかん?

 

「え、何よ。その組み合わせ?」

 

「え、そっちにはないの?」

 

千枝ちゃんとゆかりの発言が交差する。互いに互いの発言を心底、不思議に思っているような様子だ。私は優ちゃんと雪子ちゃんに話を聞く。

 

「八十稲羽にはそんなのが売っているの?」

 

「いや、まぁ……。マニアの方にはウケているんじゃないかな」

 

「似たような商品で肉ガムってのがあるけど、そっちはダイエットにはもって来いみたいよ。肉の味はするのに、食感はガム。肉の脂や匂いまで再現されているのに、舌触りはクッチャクッチャとしたガムそのもの。思い返しただけで、鳥肌が……」

 

「食べた事あるの!?」

 

「うん、すごく……不味かった……」

 

食べた時のことを思い返していったのか、優ちゃんの瞳から次第に光が失われていく。彼女の向こうでは肉ようかんの良さを千枝ちゃんが眉に皺を寄せた面々に語っているが、優ちゃんの様子を見る限り、碌なもんじゃなさそうだ。

 

「でも、おっかしーなー。確かにポケットに入れてたと思うんだけどなー。むー、もしかしたら、誰かが盗ったのかも」

 

腕を組んでこんなことを言い始めた。そんな千枝ちゃんの言葉を聞いた私たちは心の中で思った。「んな訳あるか!」と。アイギスが千枝ちゃんに近づき尋ねる。

 

「誰か思い当る人物がいるでありますか?」

 

「んー……。花村とか」

 

千枝ちゃんの中で、花村くんはどういった評価をされているのか不安になる一言であった。八高メンバーって皆、仲が良さそうだけれど、実はそんなことはないのだろうか。

 

「いや、陽介たちが千枝の肉ようかんを欲しがることはないでしょ。というか、陽介たちには“買ったけれど食べきれなかった残りの肉ガム”を私が食べさせたことあるし。私の前で食べていたってこともあって、「美味しい」って言うしかなかっただろうけれど、美味しいって言った陽介と完二には2枚ずつ、残りは全部クマに食べさせたから」

 

『フッ』と綺麗な顔で笑う優ちゃん。成長した彼女が笑うと非常に綺麗っていう言葉が似合うのだが、笑う理由が理由なので笑えない。

 

何、成長した優ちゃんは「女番長」の他に「女王様」っていう属性も持っているの?

 

とりあえず、千枝ちゃんの肉ようかんに関してはエリザベスさんに依頼して調べてもらうことになったようだ。調べるのはきっと私たちなのだろうけれど。

 

男子チームが発見したが、出て来たのはアイテムではなくシャドウであった宝箱。私たちに出て来たのはシャドウではなく、普通に防具アイテムと武器アイテムであった。この迷宮は男子に何か恨みがあるのではないかと思うくらい、私たちには優遇措置が取られている気がする。そうしてようやく、男子チームが待っている鎖で封鎖された扉がある部屋についた。

 

手前にはパワースポットが設置されており、アイテム回収も忘れずに行っていると風花から男子チームも用意が出来たと通信をもらう。鎖で封鎖された扉がある部屋に足を踏み入れるとあの機械音声が聞こえて来た。

 

【迷える子羊さんたちの登場だ。新たな階でもこんにちは】

 

「待って下さい。あなたは何者なんですか?」

 

聞こえてくる機械音声に向けて白鐘さんが問いかける。だが、

 

【君たちは死の第二問をくぐりぬけ、それでも歩みを進めた勇者たちだ。その栄誉を称え、とびきりの第三問が用意されているぞ。覚悟して答えるのだ】

 

「……ダメですね。会話になりません」

 

機械音声は淀みなく言葉を続けた。白鐘さんの言葉にはまったく耳を貸さずに。

 

「問題に答えるしか先に進む道はない……ということでしょうか」

 

【それでは、第三問だ】

 

~Q.二人きりで過ごすなら……~

 

出された選択肢は「喫茶店でまったりと」「遊園地で大盛り上がり」「熱気立つ大浴場でぶつかり稽古」の3つ。

 

私はポロニアンモールの外れにあるコーヒーの美味しい喫茶店『一期一会』を思い浮かべながら「喫茶店でまったりと」を選んだのだが、『ぶふぅっ』と噴き出す音に驚いて振り向いた。そこにいたのは四つ這いになって床をドンドン叩きながら大爆笑する雪子ちゃんの姿。

 

「熱気立つ……あははは!大浴場で……ふくく。ぶつがり稽古……あははは!!」

 

「彼女はどうしたんだ?」

 

「あー……見ないでやってください。偶々、見たことがあるんですよ、私たち」

 

美鶴先輩があまりの変わりように引きながら、千枝ちゃんに尋ねている。千枝ちゃんは頭を抱えながら悶えているが、いったい何を見たのだろうか。

 

そんなこんな会話をしながら扉の先を行くと、例の地図を完成させないと開かない宝箱を発見する。そういえば、さっきからひしひしとプレッシャーを感じる。そのプレッシャーの主は、風花だった。

 

『湊ちゃん、もうそろそろ地図を更新してもらえませんか?出来ないなら、一度ヤソガミコウコウに戻って、総司くんに手伝ってもらって書きあげてくれませんか?』

 

「あはは……、この階層を終えたら一回戻るよ」

 

『約束ですよ、周囲の状況を書き記すのはリーダーとしての責任ですよ』

 

私は苦笑いしながら風花に弁明した。今の所、厄介なのは移動床の所だけなので、あとは道なりに進むことで行けている。ショートカットもちょいちょい開通させているので、問題ないかと思っていたが、やっぱり駄目か。

 

迷宮をそのまま進んでいると少し開けたところに出たので、女子会も兼ねつつ休憩をすることになった。こんな風に男子メンバーがいないっていうのは、今後あるかも分からないし丁度いい。ちなみに男子チームも同じ所で休憩をしているらしい。学校のことや、放課後に何をしているのかを話していると通信を担当している風花と久慈川さんの心の声が聞こえて来た。

 

『うわぁ……総司くん。(そのデザートはどこでゲットしてきたんですか?)』

 

『ごくっ……。(宝石みたいに輝く果物!その果物の甘さを殺さない程度に仕立て上げられた生乳から作られた生クリームで作ったパンナコッタって、美味しいに決まっているじゃん!!)』

 

『『ガタッ』』と立ち上がったのは玲ちゃんと美鶴先輩である。玲ちゃんなんぞ、両手に持っていたドーナツが床に落ちるのも憚らず、おもむろに立ち上がって両手を天に向かって突き出した。

 

「わたしもたべたーい!!」

 

「ぐぉおおおお!!忘れていた!鳴上と別チームということは、こういうことだと!!」

 

誰もいない壁に向かって咆哮する美鶴先輩は完全に総司くんの料理に餌付けされてしまっていることが窺える。まぁ、黄金米に始まり、宝石メロンにサファイヤマンゴー、ルビーイチゴといった市場に滅多に出回らない高級果実の栽培方法の確立、その果実の良いところを完全に引きだして作るデザートを片手間で作ってしまうという化け物的な料理の腕。

 

それと、人の胃袋をがっちり掴む料理を作る上で最も必要な味覚。彼が食べるものは高級店であろうが、人に知られずひっそりとやっているような隠れ家的なお店であろうが、絶対においしいものだ。彼がふらっと出かけて買ってくるお菓子は確実に美味しい。

 

「…………」

 

「いきなり落ち込みだしてどうかした訳?あんたも総司くんが持ってきたデザートが食べたいの?」

 

「ううん。それもそうだけど、自分の料理に対する語彙の少なさに絶望して」

 

「あー……。うん、それは仕方ないよ」

 

私の肩をぽんぽんと叩くゆかりもまた遠い目をしていることから、彼女も私の意見を笑って流すことが出来ない問題だったようだ。

 

「ふーかちゃん!善に、善に総くんのデザートもらっておくように言って!」

 

『ふぁっ!?ふーかちゃん……可愛い。あ、でも、そのデザートは総司くんが天田くんとクマさんとで全部食べちゃったよ?』

 

「がーん!!」

 

「何で、そこでクマが出てくるの!?」

 

『なんか、エリザベスさんの依頼の後で仲良くなったって……』

 

久慈川さんの話を聞いた優ちゃんがぎりぎりと歯軋りしている。彼女をなだめようと近づくと彼女が何かを話していることに気付いた。

 

「くそっ、あの淫獣め。奈々子だけじゃ飽き足らず兄さんまで……。フッ、校舎裏でどんな目にあわせてやろうか」

 

私はそっと気配を殺しながら優ちゃんの傍から下がる。彼女の背中から噴き出る不機嫌オーラがまるで魔王のような恐ろしいオーラだったから。

 

「ねぇ、千枝ちゃん。優ちゃんは何で、クマくんをあんなに嫌っているの?」

 

「いや、嫌っている訳じゃないんですよ。ただ、奈々子ちゃんと仲良くなるのが、優よりもクマくんがスムーズだったのが癪に障っているだけで」

 

「奈々子ちゃんか……、そう言えば千里さんは元気にしている?結局、タイミングがなくて総司くんにお守り渡せないままなんだけれど」

 

「うえっ!?……あ、いや……。千里さんは去年の冬に……」

 

そう言って目を伏せた千枝ちゃんの様子を見て、私は唇を噛んだ。なんて不謹慎な質問をしてしまったのだろうと。千枝ちゃんは千里さんの葬式にも参列したらしいが、その時の優ちゃんはまるで幽鬼のようだったと語った。なんだか、微妙な雰囲気になってしまった休憩は、肩を落とした美鶴先輩が力ない様子で「先に進むか」と言ったことで終わらせ、迷宮の先に進むことになった。

 

扉を開け、先に進むと青い馬に跨った桃色のキューピッド、F.O.Eのいる部屋についた。玲ちゃんがそのF.O.Eを見てお洒落だと呟いたが、いつもの元気は無い。これは由々しき事態だ。こんな姿の彼女を善くんに見せる訳にはいかない。そんな風に思っていると目の前が壁だった。

 

『ゴツン!!』

 

と、音が鳴るほど額を打ち付けた私はその場で蹲る。

 

「湊さん、タルタロスを含めて、通算10回目の行き止まり激突であります。1位の順平さん26回、2位真田さんの17回に次いで3位の記録であります」

 

アイギスがそんなことを言いながら私を介抱してくれるけれど、そんなことよりも傷薬が欲しい。ぶつけた額を擦りながら立ち上がると千枝ちゃんたちがアイギスに尋ねていた。

 

「そんなしょうもないデータを取ってどうすんの?」

 

「わたしの蒐集したデータは、風花さんのパソコンのデータベースに逐次、送られています」

 

『そうです。皆さんのデータを収集して、次回の作戦の参考にしています』

 

「コンピュータに強いってすごいね。どうやって勉強したの?」

 

『あのね、昔から自然と興味あったっていうか、元々コンピュータが好きでいじっている内に、機械の中身も気になって、解体したり……』

 

「解体って、すごっ……」

 

「手先が器用なんだね、きっと」

 

そんな会話から何故、あんなことになったのか。私には分からない。総司くんも、荒垣さんも、天田くんだって、「もう大丈夫だ」って太鼓判を押していたのに……。犠牲になった順平や花村くんたちの冥福を祈るばかりだ。

 

それはさておき、迷宮を進み続けると例の鎖で塞がれた扉に辿りついた。何の変哲もない部屋であることを再度見渡していると機械音声が聞こえて来た。

 

【まだまだ先は長いようだぞ。計画的に、そして衝動的に、運命の糸を手繰り寄せるのだ。それでは第四問だ】

 

~Q.好きな人に思いの丈をぶつけるには?~

 

出された選択肢は「勇気を振り絞って告白」「河原で殴り合う!」「夏祭りの後に半裸で抱きつく」の3つ。

 

最後の選択肢は一体なんなのだろう。ほぼセクハラではないか。選べるのは間違いなく、一つ目の「勇気を振り絞って告白」だろう。そう思っていると、ゆかりが隣でぽつりと呟いた。

 

「うわー、最後の奴。……湊なんかがやっちゃいそうだなー」

 

「な、……なんでっ!?」

 

「うわ、聞いてた」

 

私はゆかりに掴みかかる。いくら何でも、これは聞き捨てられない。私はそんな痴女じゃないもん!!

 

「好きになった男の子には無理やりにでも迫っちゃいそうだなって思っただけよ。他意はないから」

 

「むしろ他意だらけじゃない!」

 

「総司くんには、深夜の寮の屋上でノーブラTシャツの格好で迫ったんでしょ?」

 

「迫ってない!!相談にのってもらっただけ!!」

 

『ぎゃーぎゃー』言い合う私たちを見かねて美鶴先輩が間に入って止めた。うぅ……傍から見れば私はそんなエッチに見えちゃうキャラなのだろうか。なんだか不安になってきた。

 


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