ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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ごーこんきっさ編―②

とりあえず、この世界の謎を紐解くために結成された月高メンバーと八高メンバーの混成チームは、リーダーを私が、サブリーダーを優ちゃんが務める事となった。優ちゃんは終始不満げだったけれど、総司くんが笑顔で『がんばって』と告げると満面の笑みで頷いていた。それを見て一言。

 

「まるで主人と犬だな」

 

「言い得て妙なのは同意っす」

 

荒垣先輩と巽くんの2人がしみじみと頷いていた。

 

バックアップを担当する風花と久慈川さんだが、優ちゃんをそれぞれ『サブリーダー』、『お姉ちゃん』と呼ぶという。久慈川さんが優ちゃんをそう呼ぶようになった訳は今度、改めて聞くことにしよう。そして、善くんと玲ちゃんだが、迷宮を進む上でやはり不安が残るようだ。しかし、先ほどの校庭での会話を思い返した玲ちゃんが勇気を振り絞った声を張り上げた。

 

「れっつ、ごーこん!」

 

ただ、その掛け声はどうなのかなぁ……。

 

 

 

“ごーこんきっさ”迷宮内は、ショッキングピンクを基調とした非常に目にチカチカする内装であった。その他にはハートを模った物やフリルの装飾もあるけれど、やはり目に付くのは毒々しいほどのピンクだ。もしもそれを狙って誰も来ないように計算された物であったのなら、花村くんは策士ということになるけれど。

 

「あれ?私たちがやった合コン喫茶と内装が違うね」

 

「へー、センスいいじゃない。何だか、可愛いし」

 

千枝ちゃんとゆかりがほぼ同時に話し、お互いを見て苦笑いを浮かべた。

そして、私たちは迷宮内に入ってからの違和感に気付いた。

 

「男子たちがいない?」

 

「あ、ホントだ。一緒に入ったはずの花村や完二くんたちがいない!」

 

入る時には一緒に入って来たはずのメンバーがいないことで警戒心がマックスまで上がった私たちはそれぞれ、いつでもペルソナを使えるようにして周囲を警戒する。私はナビゲートを行う風花に連絡を入れる。

 

「風花、聞こえる?どういうこと?」

 

『私たちも混乱しているんですけれど、同じ場所に男子メンバーと女子メンバーが分かれて存在しているみたいなんです』

 

『お姉ちゃん、男子チームも混乱しているよ』

 

開始早々に男女別々に分断されてしまうとは思いもよらなかったが、あちらには全ての属性に対応出来る総司くんとコロマルがいる。滅多なことにはならないだろう。

 

「風花、男子チーム内で仮のリーダーを決めさせて。いきなり分断されはしたけれど、探索を進める分には問題ないよね」

 

『はい。善くんは玲ちゃんが傍にいないので、少々苛立っていますが大丈夫です』

 

目下、彼の一番の敵であるクマも幸い“男”に分類されているからあちらにいるようだしね。

 

『あのリーダーさん。男子チームの伊織先輩、総司くん、天田くんの3人から伝言だよ。「この手の分断をされた時は、分かれたそれぞれのチームが一緒に罠を解除したり、扉を開けたりする必要がある」だって』

 

その3人に共通するのは趣味がゲームであることだが、一応気に留めておくことにしよう。何せ都合よく、少し進んだ先に扉があるからね。

 

『男子チームが扉に到達しました。力自慢の真田先輩と荒垣先輩、巽くんの3人で押したり引いたりしていますがビクともしません』

 

「湊、これは骨が折れそうだな」

 

美鶴先輩が私を労わるように声を掛けてくる。確かに、美鶴先輩という枷が外れた真田先輩が自重するとは到底思えない。むしろ男子チームにいるのはその勢いに乗っちゃいそうなメンバーばっかりだ。

 

『えっと、リーダー。男子チームのリーダーの件ですが9人中4人の票を集めた総司くんに決まりました』

 

「その内訳は?順平がすごくごねそうだけれど」

 

『はい。その順平くんと乾くん、あと善くんとコロちゃんが総司くんを推薦しました。花村くんは傍観に徹していましたが、総司くんがゆ……鳴上さんのお兄さんってことで納得したようです……うぅ』

 

風花が優ちゃんと呼ぼうとした瞬間、彼女が突然舌打ちした。風花はそれを聞いてすぐに訂正する流れとなったが、私たちはとことん優ちゃんに嫌われてしまったらしい。理由が検討もつかないので後手後手であるが、なんだかちょっと腹が立ってきた。

 

【ようこそ、迷える羊さんたち。ここは2年2組の出し物だ】

 

すると突然、機械音声が聞こえて来た。

 

「な、なんだ!?」

 

警戒を解いていた私たちは再度、密集して背中合わせになり周囲を警戒する。

 

【はじめましての人も、はじめましてじゃない人も、どうもどうもこんにちは。ここは、簡単な質問に答えるだけで“運命の相手”が見つかってしまう、最新技術を駆使した出し物なのだ。君はやってもいいし、やらなくてもいい】

 

「な、何よそれ!っていうか、結局やるしかないじゃん!」

 

機械音声に対して千枝ちゃんが吼える。玲ちゃんは顔をまるで熟れたリンゴのように真っ赤に染めながら、指をつんつんして何度も何度も頷いている。彼女の意中の人は、男子チームで別の意味で吼えていそうだけれど……。

 

機械音声が流れなくなって時間が経ったので、私たちは男子チームが力押しでも開かない扉の前に立った。するとナビゲータの久慈川さんより、扉の向こう側にシャドウがいることを忠告される。

 

それを聞いていた白鐘さんより、前回の迷宮に出て来たシャドウよりも強い相手が出てくると考えて、しっかりと準備をした上で開けた方がいいと提案を受ける。私はその意見に頷いたのだが、

 

『ああっ!?真田先輩が突撃しちゃった。敵シャドウは7体、情欲の蛇4体と静寂のマリア3体です』

 

風花の悲鳴染みた言葉に私はその場でずっこけた。ゆかりは咄嗟に天を仰ぎ、美鶴先輩は怒髪天を突くような感じで怒りの雄叫びを上げる。

 

「明彦ぉおおお!」

 

「アイギス、美鶴先輩を押さえて!風花と久慈川さんは男子チームのナビに集中して」

 

美鶴先輩はそのままだといもしない男子チームの幻影に向かって、扉に突撃していきそうな雰囲気であったので、咄嗟にアイギスに拘束させる。そして、新しい迷宮内での最初の戦闘なのでデータ取りも含め、しっかりとナビと解析を風花と久慈川さんに依頼する。

 

『了解しました』『うん、分かったよ』

 

2人はそれぞれの役割に分かれ、男子チームのナビを行っているようだ。

 

「はぁ……真田先輩か」

 

「ブレーキ役がいないっていうのがキツイよね。総司くんじゃ、厳しいかも……」

 

私とゆかりがそんな会話をしていると、男子チームが戦闘を終えたのか風花の声が頭に響いて来た。

 

『男子チーム戦闘終了しました。【情欲の蛇】は弱点が火と光です。雷と風に耐性があります。バインドボイスという麻痺攻撃をしてくるので気を付けてください』

 

『【静寂のマリア】はね、氷と光が弱点で火と雷と風に耐性があるよ!そして、火と風の全体攻撃をしつつ仲間の攻撃力を上げてくるから、気をつけてね』

 

「となると、情欲の蛇は雪子ちゃんがスキルで攻撃、静寂のマリアは美鶴先輩と千枝ちゃんが攻撃の軸になるね」

 

「直人、ハマとムドが使えるでしょ。どんどん、狙っていいから」

 

「分かりました、優さん」

 

白鐘さんに指示を出す優ちゃん。そっか、白鐘さんは光と闇属性攻撃が使えるのか。覚えておかなきゃ。

 

「他のメンバーは弱点で怯んだシャドウを武器で攻撃していくよ。男子チームとは違うってところを見せつけよう!」

 

私たちは扉を開けてシャドウたちと戦う。事前に敵の情報を受けていたこともあり、危機に陥るなんてことはまったくなく、無傷で勝利した私たち。そんな戦いを終えた美鶴先輩がふとした疑問を千枝ちゃんたちにぶつけた。

 

「君たちは、銃を使わないんだな……」

 

「銃……は、僕は使いますが?」

 

「いや、銃型の召喚器のことだ。我々は“召喚器”を自らにつきつけ、己の意思で引き金を引くことでペルソナを召喚する」

 

私たちはそれが普通だと思っていたので、総司くんや千枝ちゃんたちが、ペルソナが描かれたカードを握りつぶしたり、蹴ったりすることでペルソナを発動させるのに違和感があるのだ。

 

「召喚器が銃を模しているのは、“死”を意識するため。己の死と向き合うからこそ、潜在的な力を引き出すことが出来る。……召喚器はそのための装置だ」

 

美鶴先輩の力強い言葉に圧倒されたのか、雪子ちゃんが呆然と呟く。

 

「死を意識……なんだか、すごい……」

 

「さっき、ちらっと話題に出ていた影時間って、そんなにヤバいの?」

 

千枝ちゃんが不安そうに私たちを見てくる。優ちゃんの話によれば、影時間は10月、つまり私たちの時間軸に置いては来月には問題解決となるらしい。

 

「そうだね、もしも影時間に出てくるシャドウがそのまま、街の人たちを襲ったらまずいことになるのは間違いないよ。私たちの街だけじゃなくて、世界規模でやばくなると思う」

 

「つまり、結城さんたちは世界を救うために活動しているってこと?」

 

「なんか、映画みたい……」

 

雪子ちゃんと千枝ちゃんがそれぞれ感想を述べる。白鐘さんは私たちの言葉をじっと聞いているだけで何も言わずにいる。そして、私たちの活動に参加していた優ちゃんであるが、能面のような無表情でただただ前を見据えているだけであった。

 

話を切り上げて先に進むと青い棘が床から突き出た部屋に出た。迂回すれば通れるようになっているが、これは一体どういう意味があるのだろうか。

 

「待て、湊。どうせ、あっちが何かするに決まっている」

 

「私の計算によると真田さんが25%、クマさんが35%、順平さんと花村さんが14%ずつと巻き込まれる可能性を考慮して総司さんと荒垣さんが1%ずつとなっているであります」

 

遠い目をした美鶴先輩とアイギスの分析を聞き、あり得そうだと思っていたら案の定、男子チームをナビゲートしていた久慈川さんから通信が来た。

 

『あー、その青い棘は皆の心の力を削るみたいだよ。突っ切ろうとしたクマに引っ張ら

れて、総司くんが巻き込まれちゃった』

 

そんなオチだろうなと思っていたら、久慈川さんの通信を聞いている内に鬼の形相になっていた優ちゃんが、今にも噴火しそうな火山のような静けさと猛々しさを孕んだ迫力のある声で久慈川さんに向かって告げた。

 

「りせ。あとでクマに校舎裏に来るように言っておいて」

 

『はーい。分かったよ、お姉ちゃん』

 

そう言って久慈川さんは通信を切った。私たちはクマくんに訪れる運命に静かに十字を切ったのだった。青い棘を避けつつ先に進み、宝箱からホバーサンダルという名前のアイテムを手に入れた。それは数歩の間、その場から浮いた状態で歩けるというもの。これを使えば青い棘の上も歩けるみたい。その後、あからさまに置かれた巨大な指輪のモニュメントがショートカットということに気付いた私たちはそれを開通させる。そして、男子チームにそれを伝えようと風花に通信を入れるが返事が中々帰ってこない。

 

どうしたのか、首を傾げつつも先に進んで行くと、地図を完璧に書きあげないと開かない宝箱があった。今の状況では当然開かないので地図に書き残して後にする。

 

「あれ、地図は私が持っているってことは、男子チームはどうやっているんですかね」

 

「そうだな。あの青い棘にさえ気をつければいいのだ。そう苦労していないのかもしれないな」

 

私の疑問に美鶴先輩はすこし考えた後に返答してくれた。私もそれに頷き返し、先に進む。ちゃんと地図を埋める様に横道に入ってパワースポットでアイテムを手に入れたり、シャドウの群れと戦ったりしながら。そして、今までとは違う雰囲気の扉の前まで来たところで通信が回復した。

 

『皆さん、すみませんでした。男子チームがショートカットの抜け道を使った時に両方向から不意打ちを受けまして、今まで戦闘のナビに集中していました。どちらも十数体の大群で』

 

「そ、そうなの!?皆は無事?」

 

『はい。けど、探索は続行不可能と判断した総司くんがカエレールを使用し、一時帰還しています』

 

「男子メンバーが追い込まれるって、相当な数の敵が出て来たってこと?」

 

『ううん。たまたま相性が悪かったの。分断されたメンバーの風属性スキルが扱えない方(伊織・真田・荒垣・巽・クマ・天田)に独占のクピドが18体現れて、弓とブフの波状攻撃を仕掛けてきたの。その所為で真田先輩が早々にダウン!』

 

『総司くんとコロちゃんがいる方(総司・コロマル・花村・善)には全ての属性に耐性を持つレアシャドウの『財宝の手』が10体出たんです。いつものように逃げずに何故か積極的に攻撃してきたんですよ』

 

風花たちの通信を聞きつつ、確かにそんな事態に陥ればバックアップをしている風花たちも慌てるよなと納得はするけれど、その間私たちにはバックアップがいなかったことになる。何事もなかったのは不幸中の幸いといえるが、進み方を考える必要があると思われる。

 

『それで、レアシャドウたちをスキルで行動不能にさせた総司くんがすぐさま一掃した後、分断されて危機に陥っていたメンバーたちの下に行き花村くんと一緒に独占のクピドの群れを殲滅したんですよ』

 

「待って、風花。『財宝の手』ってあれでしょ。私たちが攻撃しても軽々避けるし、攻撃が当っても全然怯まないアレだよね。アレを瞬殺したって、嘘でしょ!?」

 

『私もりせちゃんも目が点になったよ。何度も目をこすって、頬を引っ張り合って、これは現実なんだって認識したらしたらで、もう絶叫したんだから!』

 

「総司くんはどうやって倒したの?」

 

『えっとね、まず財宝の手を混乱させます。そして、あとは物理攻撃で』

 

「「「えー……」」」

 

ゆかりや千枝ちゃん、雪子ちゃんが同時に信じられない物を聞いたと言わんばかりの言葉を発した。私はあらゆるペルソナの情報を思い浮かべる。全体に混乱効果を与えるスキルはテンタラフーくらいだが、10体にまとめて効くだろうか。詳しい話は総司くんに聞かねばならないだろう。

 

『あ、皆さん。男子チームが復帰して今、皆さんがいる位置まで来ましたよ』

 

風花の言葉を聞いて、私が扉に触れると勝手に開かれていく。その部屋には鎖で封鎖された扉があった。白鐘さんが罠かもしれないと注意を促してくる。すると聞き覚えのある機械音声が流れて来た。

 

【ようこそ、迷える羊さんたち。ここは“運命の選択部屋”なのだ】

 

「最初の扉の時に言っていたアレか。胡散臭いにもほどがあるけど」

 

優ちゃんの言葉に私たちは苦笑いを浮かべる。

 

【これから運命の質問が出されるぞ。フィーリングか直感で答えよう。質問はいくつかあるぞ。最後まで答えると、君の運命の相手がゲットできてしまうのだ。では早速、第一問だ】

 

~Q.愛があれば、年の差はおろか性別も関係ない?~

 

「いや、さすがに同性はちょっと嫌なんだけど」

 

私が小さく呟いたその横で、

 

「全く関係ないであります!」

 

「ちょっ、アイギス!?」

 

とんでもないことを口走るロボが1体。ゆかりがツッコムけれど後の祭り。扉を封鎖していた鎖は跡形もなく消え去り、そこには白い扉だけが残った。

 

「こ、この場合。アイギスの意見が採用されちゃうんでしょうか?」

 

「いや、私に聞かれても分からん」

 

私と美鶴先輩は、自分は間違ったことを言っていないと主張するアイギスに食ってかかるゆかりを見ながら、大きくため息をついたのであった。


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