ペルソナQ ~資質ゼロだったはずの少年の物語~   作:甲斐太郎

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幕間③

『わらしべ対決』にて玲ちゃんの望んだ『大きく美味しい』食べ物を用意して、憎き恋敵である善との勝負を引き分けたクマは、まだ満足に話せていない月高の女の子たちと一時のアバンチュールを過ごすために校舎内を歩きまわっていた。

 

「むむむ、ゆかりちゃんや風花ちゃんはいったいどこにいるクマか……」

 

『キュッピーン』とキグルミの目を光らせるという器用なことをクマがしていると、先ほどの対決でお世話になった人の姿を発見した。クマは邪魔にならない程度の速度で“彼”に近づいて行く。

 

「シーフー、どこに向かっているクマか?」

 

「あ、クマさん。お疲れ。うん、ちょっとね」

 

そう言って総司が視線を向けた先には、先ほど女王を倒してクリアしたばかりの迷宮、『不思議の国のアナタ』の教室があった。クマは教室と総司を交互に見て、不安そうに尋ねる。

 

「ここに何か用があるクマか?1人で行くのは危険クマよ、せめてりせちーか風花ちゃんのナビがいないと……」

 

「ねぇ、クマさん。男が女性に隠れて特訓するのって、そんなに駄目なことかな?特訓して強くなれば窮地に陥った女性を華麗に助けてカッコいいところを見せつけられるようになるってことなんだけれど」

 

「クマも行くクマ!」

 

「ありがとう!クマさんなら、きっと“そう言ってくれる”と思ったよ。この特訓のことは僕とクマさんだけの秘密だからね」

 

総司はそう言って笑うと右手を差し出してきた。クマは自身の邪まなる欲望を顔に出さないようにしながら、彼の手を握った。そして、迷宮に突撃しようとして呼び止められた。

 

「ちょっと待った、クマさん。クマさんって、電撃属性が苦手でしょ?レベルをあげて電撃耐性を持ったコロポックルのカードだよ。サブペルソナとして使って」

 

「おおー。クマのキントキドウジの弱点まで調べておいてくれるなんて、さすがシーフークマ。一生、ついて行くクマよ!」

 

「いくらなんでも大げさだよ、クマさん。あ、クマさんは僕のペルソナについて聞いている?」

 

「勿論クマ。本来のセンセイと同じように色んなペルソナを使えるクマよね?」

 

「うん。けどね、結城先輩や優たちにも見せてないペルソナもあるんだ。スキルが微妙であったり、使い所が無かったりしたのもあってね。そういったペルソナのレベルを上げて、戦力になるようにしておきたいんだ。結構、作業のようにシャドウを倒すのを繰り返すことになると思うけれど、クマさんは大丈夫?」

 

総司が前もって目的を話してくれたことに、クマは彼が自分を信頼してくれているのだと嬉しくなった。正直に言えば、今すぐにでも小躍りして喜びを体現したかったのだが、そんなことをすれば、騒ぎに気付いた他のメンバーが寄ってくるかもしれないと思い自重することにした。全ては秘密の特訓で強くなって、玲ちゃんやゆかりちゃん、アイギスといったメンバーからちやほやされるのを夢見て。

 

「問題ないクマよ!コロポックルのカードはありがたく使わせてもらうクマ!」

 

そう言ってクマは総司が持っていたコロポックルのカードを受け取るとキグルミの顔の下にあるジッパーを横にずらし、開いた空間にカードをいれた。すると自身のキントキドウジの他に、もらったコロポックルの力が流れ込んでくるような、不思議な高揚感に包まれた。

 

「これでクマには怖い物はないクマ!シーフー、今すぐにでも特訓に出発するクマか?」

 

「うん、頼りにしているよ。クマさん」

 

そう言った総司は右手に月高の桐条美鶴が扱うような片手剣を、左手には八高の白鐘直人が使っている小型の銃を装備していた。クマはその不思議なスタイルに呆然とする。

 

「あ、この装備の仕方が気になる?実はね、女王の取り巻きのF.O.Eを倒した時に手に入れたペルソナがね、『リョウマ』っていうペルソナだったんだ。……ほら」

 

銃をホルダーになおした総司はペルソナカードをその手に出現させて、クマに見える様に差しだした。カードには紺色の着ものを羽織った若い青年が描かれている。確かに描かれている青年も今の総司のように右手に刀、左手に銃を持っている。

 

「僕には扱えない武器はないんだけれど、得意と呼べる武器も無いんだ。けれど、武器と一緒に描かれているペルソナをつけている間は、その描かれている武器に近い物が得意になるみたいなんだ。今回はこのリョウマを基本にして、色んなペルソナのレベルをあげようと思っているって訳」

 

「なるほどクマ~」

 

「あ、この情報もクマさんだから教えたんだから、皆には内緒だよ」

 

総司はそう言ってお茶目にウインクしてくる。クマはそれを見て“ときめき”はしなかったものの、総司が自分に寄せる信頼の大きさは、八高メンバーの誰にも負けない物だと思った。信頼されるということがどれだけ自分に自信をくれるのか、クマはそれを実感していた。

 

「ここでしゃべっている時間がもったいないクマ!シーフー、行くクマよ!!」

 

「うん、秘密特訓開始!」

 

クマは総司と並んで迷宮内に足を踏み入れる。それと同時に思うのだった。

 

『どうして、センセイはいるのに、センセイのお兄さんである総司はクマたちがいるところにいないのか』

 

『遠くの方にいるにしてもセンセイの口から一言も総司の話が出なかったのは何故なのか』

 

そんな疑問がクマの心に宿ったのだが、それはすぐに掻き消えた。なにせ……

 

「クマさん、あのF.O.Eに急襲をかけるよ!」

 

「うおおお、シーフー落ちつくクマ!それで5体目クマよー!?」

 

各フロアにいるF.O.Eを見つけては嬉々として突撃していく総司を窘めたり、パワースポットでアイテムは拾わずに近寄ってきたシャドウを返り討ちにしたり、まとまって行動しているシャドウの群れを見つけた時なんてもう先回りするために迷宮内を全力疾走したり……。絶望している暇がないくらいに戦闘漬けであった。

 

「もう……死ぬクマ……」

 

総司との秘密特訓を行って憧れのハーレムをと邪まなる野望を抱いて不思議の国のアナタの迷宮に潜ったクマは、息も絶え絶えに転がっていた。ちなみに場所は巨大な女王がいたフロアでシャドウに襲われる心配はない。なので、クマは一時の平穏に身を任せていた。

 

「やっぱり、……僕の予想通りだ」

 

が、突然の総司の喜悅の声に驚いてクマは顔を上げた。彼の視線を追うと女王がいたフロアの前に何か大きなモノがあるのに気付く。クマはじっと目を凝らす。すると、それが巨大なシャドウであることに気付いた。

 

「どっひゃあああ!?な、な、なんじゃありゃあああ!?」

 

「クマさん、あれが僕らの秘密特訓パート①の最終目標『金甲蟲』だよ。レベルは23、HPは2500。使用スキルはなぎ払い、アサルトショット、剛殺斬、メッタ突き、ポイズンブレス。有効な攻撃は火炎属性、電撃属性、状態異常全般、封じ全般だよ」

 

どうして総司がそんな緻密な敵の情報を知っているのか、クマには全然見当もつかなかったけれども、このままだと彼はあの巨大な敵に挑むことだけは分かったクマは必死になって思い留まらせようと声を張り上げる。

 

「いやいやいやいや、無理無理無理無理!絶対にやめた方がいいクマよ、シーフー!!」

 

キグルミの中でクマは、涙とか鼻水とか冷や汗とか他にも色々な体液を垂れ流しながら、総司に縋りついた。すべてはキグルミの中のことなので総司には迷惑が一切かからないようになっている。そんなクマの内情を知らない総司は、クマに向かって慈愛に満ちた表情で言葉を紡いだ。

 

「クマさん、この特訓をやり切って他の皆と合流した時のことを思い浮かべてみて。他のメンバーとは一線を隔す実力を見せて、シャドウ相手に活躍をするクマさん。向けられるのは羨望と嫉妬の眼差しだよ。嫉妬の視線を向けてくるのは当然男性陣、羨望の眼差しを向けてくるのは勿論、言わなくても分かるでしょ?」

 

「ふおおおおお、やる気が漲ってきたクマー!!」

 

先ほどまでの醜態はなんだったのかと第三者がいれば確実にツッコミを入れたであろうクマの変貌に総司は満足そうに頷いている。

 

ただ人はそれを『洗脳』と呼ぶということを、クマは知らなかった。

 

「それに深く考えなくていいんだよ、クマさん。金甲蟲もここに来るまで戦ってきたF.O.Eと同じ。動きを封じて、状態異常で弱らせ、弱点攻撃で止めをさせばイチコロさ」

 

「クマはシーフーを信じて進むクマ!」

 

クマはびしっと総司に向かって敬礼する。総司も腕を組んでうんうんと頷いている。

 

「うん。それじゃあ、クマさんは離れた位置からコロポックルのジオで攻撃して。金甲蟲の前には僕が立つからさ」

 

そう言うと同時に総司は金甲蟲に向かって駆けた。そして、冬眠しているかのように身動きひとつしない金甲蟲に向かってペルソナのスキルを発動させる。

 

「アオアンドン、ナイアーム!」

 

総司が降魔させたのは長い黒髪の鬼女であった。クマは総司が召喚したペルソナを見てブルリと身体を震わせる。あのペルソナを総司が召喚すると、たちまち敵シャドウは弱弱しい攻撃しか繰り出せなくなるからだ。スキルの効果が発現したかどうかは、敵の身体に巻きつくように現れる赤い鎖の有無を見ればいい。今回もまた。“運”がいいようで金甲蟲の身体には赤い鎖が巻きついていた。

 

金甲蟲は苦しげな叫びを上げながら近くにいた総司に攻撃を仕掛ける。だが勢いよく振り下ろしたはずの巨大な角は彼が掲げた片手に易々と受け止められる。攻撃を受け止められ、ガラ空きとなった金甲蟲の眉間に、総司の持つ銃が向けられる。

 

「ペルソナチェンジ、オチムシャ。ポイズマ」

 

総司が銃の引き金を引くと同時にペルソナが変わった。幽鬼のように力ない蒼白い顔、至る所に矢や斬られた痕があるボロボロの鎧を着た武者が浮かび上がる。そのペルソナが絶叫すると金甲蟲の眼前に紫色の靄が掛った。敵シャドウに毒という状態異常を起こさせるスキルが発動したのだ。

 

「クマさん、攻撃して!」

 

「分かったクマよ!ゴー、キントキドウジ、“ジオ”!」

 

クマの背後に自身のペルソナが浮かび上がる。金太郎をモチーフとし、斧の代わりにトマホークミサイルを手にしているキントキドウジ。の肩に『ちょこん』とふきの葉を持ったコロポックルが座っている。そのコロポックルがふきの葉を持っていない方の手を上げると、金甲蟲の頭上に雷が落ちた。

 

弱点である電撃スキルの攻撃を受けた金甲蟲は苦しそうにもがくが、アオアンドンのスキルによって巻きついた赤い鎖によって身体は締めつけられたままだ。もがけばもがくほど苦しさは倍増するのだろう。加えて毒の状態異常まで付加されているのだ。クマはその様子を見て、敵ではあるが同情してしまった。立場が違えば、自分がこんな攻撃をされていたかもしれないと震えあがる。

 

「クマさん、ぼーっとしていないで攻撃を続けるよ!」

 

「わ、分かってるクマ」

 

総司に促され、クマはジオを撃ち続ける。総司はナイアームの効果が解けたらアオアンドンを使ってかけ直し、毒が切れたらオチムシャを使ってかけ直す。そして、クマの度重なるジオ攻撃に力尽きた様に金甲蟲がダウンしたのを見た総司は、その場から少し離れる。そして、声高々に宣言する。

 

「ペルソナチェンジ、モードレッド」

 

銃をホルダーにしまった総司は上段に片手剣を構える。すると剣先から柄にかけて赤い雷が迸るのをクマは目撃する。

 

「クラレント!」

 

総司はそう言うと同時に上段に構えていた片手剣を金甲蟲に向かって投げた。金甲蟲に向かって真っすぐ飛んだ片手剣は角に突き刺さる。そして、赤黒い雷が総司の投げた片手剣を発端として発生し金甲蟲を攻撃する。断末魔を上げて、金甲蟲は黒い霧となって消え失せるのを確認した総司とクマはハイタッチを交わした。

 

「倒せたクマー!!」

 

「だから、言ったでしょ!クマさん」

 

クマは今の戦いで得た経験値でキントキドウジが成長したのを確認し、喜びの声を上げる。そして、成長したコロポックルの異変にも気付いた。

 

「あれ、コロポックルもレベルが上がって新しいスキルを覚えたみたいクマ」

 

「え?」

 

「これは心の力を回復する気功(中)クマ!これをユキちゃんやゆかりちゃんに渡せば、ムフフフ……」

 

心の力を消費して魔法スキルを扱う彼女たちに気功(中)を持つサブペルソナをあげれば、きっとなんらかのご褒美がもらえると妄想を膨らませるクマであったが、

 

「クマさん、秘密特訓のことを話すつもりなの?」

 

と、聞き覚えの無い冷たく感じる総司の抑揚が全く無かった言葉に動きを止めざるを得なかったクマ。自身の背後に立っている総司が今、どんな表情をしながら自分を見ているのか分からないため、ガチガチと歯を鳴らすしかない。

 

「え、えっと……。と、当分の間は、せ、成長したコロポックルはクマが持っておくクマ!そして、出しても問題なくなった時にセンセイに渡すことにするクマ。だから、シーフーとの特訓のことを話すつもりはないクマよ」

 

クマは必死に考えながら言葉を紡いだ。背後に控えていた総司からのプレッシャーが徐々に消えて行ったことに心の底から安心したクマは、自身が選びとった選択肢は間違っていなかったとほっとした。

 

以前、命を軽んじる発言をした久保美津雄に対して優が“キレた”姿を見たことがあったクマは、「やっぱりシーフーとセンセイは血の繋がった兄妹クマ」と心の中で何度も頷いたのであった。

 

金甲蟲を倒し終えたので後は帰るだけであったのだが、総司に確認したいことがあると言われ一度階段を上ったクマは総司に尋ねる。

 

「何か忘れ物クマか?」

 

「うん、ちょっとね。……たぶん、“もういい”かな」

 

総司が小さく何かを呟いた。それを聞き取れなかったクマは首を傾げ、尋ねようとしたが総司は昇ったばかりの階段を降りて行ってしまう。その行動に意味はあるのかと疑問に思いながら、その後を追ったクマは驚愕した。総司と2人で倒したはずの金甲蟲が、女王がいたフロアの前に復活していたのである。

 

「そんなバカなクマっ!?」

 

「ふむふむ、これは使える。……けど、荷物も山になっているし、回復アイテムも残り少ないし、クマさん。今日の所は帰ろうと思うけれど、いいかな?」

 

「勿論クマ!帰ってゆっくりするクマ!」

 

クマは総司が帰還するという言葉を発するまでビクビクしていた。もう一度、やるって言われたらどうしようと思っていたのだ。総司が荷物からカエレールを取り出している最中、クマは考えていた。

 

今度、総司と秘密特訓をする際には何が何でも陽介と完二を巻き込もうと。総司が望むのは女性陣に知られずに強くなるってことだから、陽介や完二を巻き込む分には構わないはずと高を括って。

 

カエレールを使って“ヤソガミコウコウ”に戻って早々、総司は手に入れた素材を売りにテオドアの工房に向かって行った。クマはそれについて行くほどの体力が残っておらず、廊下の隅の方に行っておもむろに転がった。

 

「これは、本当になんとかせんといかんクマー……」

 

そう呟いたクマは静かに目を閉じるのであった……。

 




~総司のペルソナリスト~

paluさま案
愚者リョウマ(坂本竜馬) レベル20

無効 光 闇
弱点 斬

使用スキル
ガルーラ、スクカジャ、スクンダ、メディア、マハスクカジャ(22)、マハスクンダ(24)、斬撃見切り(26)、勝利の雄叫び(30)、真・斬撃見切り(34)

※オリジナルF.O.Eの『女王を守る兵隊さん』を倒した際に手に入れたペルソナです。スキルの『勝利の雄叫び』を見て、『欲しい!』と思った総司くんは湊や優に隠れてペルソナのレベル上げをするために、仲間集めを目論むのでした。



公孫樹さま案
恋人アオアンドン(青行燈) レベル13

耐性 火 闇
弱点 氷 光

使用スキル
アギ、突撃、スクンダ、ナイアーム(15)、ムド(16)、デビルタッチ(18)

※百物語で百の物語を語った時に現れるとされる日本の妖怪です。ペルソナQを攻略する上で必須な封じ系のスキルを扱えるペルソナが欲しかったので、一部スキルを変更させていただきました。


赤 有馬さま案
刑死者オチムシャ(落武者) レベル23

耐性 闇
弱点 光

使用スキル
スマッシュ、剛殺斬、ムド、デビルタッチ(24)、ポイズマ(25)、淀んだ空気(29)

※ヨシツネやベンケイ、ヨイチといった源氏平氏の武者がいるなら、落武者がいるのは当然でしょうね。


younoさま案→円卓の騎士はどうですか?ということなので……。
皇帝モードレッド レベル20

耐性 斬 雷
弱点 貫

使用スキル
剛殺斬、残心剣、ジオンガ(22)、タルカジャオート(23)、スクカジャオート(24)、クラレント(28)(敵単体に電撃属性の小ダメージを3回与える 消費体力10%)、クラレント・ブラッドアーサー(ゲーム上の表記はクラレント改)(42)(敵単体に電撃属性の大ダメージを3回与える 消費体力25%)

※円卓の騎士より、父であるアーサー王に対し反旗を翻した叛逆の騎士です。完全に型月のモードレッドを参考にしているので、後にスキルが進化します。

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