私がボッチなのはどう考えても『神(アイツ)』が悪い!   作:ふぬぬ(匿名)

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夏休みくらいの第二話

 ▼ボッチと地獄先生

 

 夏休みも近いある日のこと。

 学校の廊下で後輩とすれ違った。

 学校の後輩ではない。堕天使としての後輩だ。

 

 ア・ザ・ゼ・ル!!

 

 ここで会ったが……。えーと、何年目だ?

 とにもかくにも、うらみはらさでおくべきか。

 この私がひとりぼっちで堕天して寂しく悲しく過ごしていたというのに、アザゼルの野郎は『神の子を見張る者(グリゴリ)』とか言って集団で堕天使になりやがって!

 うらやま……群れないと何も出来ないゴミクズが!

 フヒヒヒ、なんだかしらんが復讐の相手が自分からやって来やがった。

 神の子を見張る者(グリゴリ)の奴らめ。堕天使仲間のはずなのに捕らわれの姉上様を助けに来るどころか、率先して凍結封印しやがったそうじゃねーか。

 ハーデスのジジイが近くで独り言をブツブツ言うからさ、イロイロ知ってるんだぞ!

 あの骨ジジイは私に興味津々に違いないな。ちょくちょくやってきては、いろいろブツブツ言っていくからな。

 まったく……ガイコツとか趣味じゃないけど、次に会う機会が会ったらちょっとくらいは優しくしてやろう。

 クフ、くふふふ。

 後ろへと振り返る私。

 

「ふひっ!」

 

 向こうもこっちを見ていた。

 目が合ってしまった。

 口を半開きにして、間抜けな表情を見せているゴミ野郎。

 

「うっお。……あーと、今日赴任してきた教師でアザゼルという者だ。見慣れないとは思うが、不審者じゃねーからな? だから、その、なんだ……。まぁ、これからよろしく頼むわ」

 

 くそっ、ダメだ。

 にらみ付けてやろうと思うのに、他人の顔を長時間見るとか出来ない。

 

「……ょ……し、く」

「……おう。じゃあな」

 

 よろしくしてんじゃねーよ! 私!

 だが、あれだ。久しぶりに話をしたな。

 三日前に、コンビニで華麗に箸を請求したとき以来か。

 だからって、ちょっと嬉しいとか思ってなんかないしな!

 だいたい、不審者じゃねーからとかおかしいだろ。お前が不審者じゃなくて、誰が不審者だよ。むしろ不審者の総督だろうが!

 というか、あれだよな。堕天使で一番は、私のはずだよな。最初で最古なわけだし。

 なんでなの? なんでアザゼルが総督なわけ?

 おかしいよね、おかしいよな。

 私が総督だったら、今頃――。

 

『堕天使総督バンザーイ!』

『流石は総督! 神も魔王も敵ではありませんな』

『ルシファーから奪ってきた、あの女はどうしますか? 見せしめに処刑しましょうか?』

 

 それを殺すなんてとんでもない!

 

『まぁ、待ちたまえ諸君。彼女は魔王にだまされていただけなのだ。それに彼女は私の友達だからな! 私に任せたまえ』

『総督がそう言われるのでしたら……』

 

 私に向けられる感謝と尊敬の眼差し。

 

『やっぱり私にはあなたしかいないわ! それをあんな男について行ってしまったなんて。なんてバカだったんでしょう……』

『なに、怒ってなんかいないさ。私は寛大だからね。これからは、ずっと一緒さ』

『うれしい!』

 

 それでもって、ひっしと抱きついてきたりなんかして――。

 

「うへへ……」

 

 やっべ、こりゃほんまボッチもんやで。

 

 

 

 部長と顧問の会話――。

 

 

「アザゼル! 彼女に一体なにをしたの!」

「なにもしてねーよ」

「ウソを言わないで! 廊下の真ん中で放心状態になってるじゃないの」

「いや、挨拶しただけなんだが……」

「挨拶しただけで、あんな顔になるわけないでしょうが!」

「なんなんだよ。ったく……」

 

 

 

 

 

 ▼ボッチのかかる病

 

 私はいつも前髪で右目を隠している。

 別にキタ〇ーに憧れているわけではない。

 (ニュクス)の息子が身体の中に入っていて、「ペルソナー!」とか言ったりはしない。

 どうでもいいが――夜の息子が中に入っているってなんかエロいな。

 別に眼帯で隠してもいいのだが、それだとなんか中二病みたいだしな。

 

 鏡を見ると、見事なまでの真っ赤に充血した右目が映っている。

 モーセジジイの魂とってこいやーと、(アイツ)のパシリに使われた結果がこの様だよ。

 あのジジイ、死にたくないからって私の目に杖をぶち当てやがったんだよ! 

 めちゃくちゃ痛かったんだぞ! 目はデリケートな器官なんだから大切に扱いましょうって習わなかったのかよ! くそ忌々しいな。

 お陰で本体の目は未だに見えないし、この人間ボディでも右目はこんなだし……。

 まぁ、体育休むときには毎度お世話になってるんだけどな。

 あれだ。とある魔法学校の英雄少年で、ドラゴンが結膜炎に弱いのはきっと私のせいだな。

 さすがだな、私は……。なんか泣けてきた。

 

 うーむ。

 やはり、前髪が長すぎるのは不気味だろうか。

 中二病っぽいからとやめていたが、眼帯もありかもしれない。

 いやいやいや。

 ここはどうだろうか。ちょっと冒険してみるのもいいかもしれない。

 サングラス!

 それは、大人のアイテム。

 サングラス!

 それは、ちょっと悪い感じのオサレアイテム。

 サングラス!

 それは、けびょ……。止むに止まれぬ事情により、学校を休むことになった日の正午に見るアイテム。

 

 やばいな、これは。

 まだ想像の段階だが、これはモテる!

 世の男どもはクールな大人の女に弱いに違いない。

 ククク、病気を理由にすれば学校でもつけていられるかもしれないし。

 そうなれば一躍有名人確定だな。

 まったくこんなことを考え付く天才は誰だよ。フフフ、私だよ!

 でも、店まで出向いて買うのは恥ずかしいから……。この雑誌についてるの頼んでみようかな……。

 ジャンフ〇とかの一番後ろのカラーページに載ってる商品って、なんかかっこいいよなー。

 

 

 後日――。

 

 ねんがんのサングラスがとどいたぞ。

 着けてみたけれど。

 何かが違う。

 致命的に違う。

 なんだろうか……このコレジャナイ感は。

 

「ふっ……」

 

 手の中のサングラスを見つめ、ため息をひとつ。

 そして、そっと机の中に仕舞いこむ。

 

 ひとつ、大人になった気がした。

 

 

 

 

 

 ▼ぼっちの夏休み

 

 

 暇だ。

 人間としての家族と離れた一人暮らしは気楽でいいのだが、いかんせん暇だ。

 朝、昼、晩。一日中誰とも話さないのはいい。学校があったときでもそんな感じだったし。

 でも他人の会話を聞くことさえなくなると、自分ひとりが世界から切り離されてしまったかのようだ。

 ちょっと詩的な表現をしてしまったぞ。流石だな、私は。

 

 本当は暇じゃないんだ。

 朝、昼、晩。誰にも邪魔されないのをいいことにずっとずっとゲームをしているのだ。

 食事、ゲーム、食事、ゲーム、食事、ゲーム、少しだけ睡眠、ゲーム、面倒なので食事を抜いてゲーム。

 我が親友が主人公となっているこの乙女ゲー。すごいよな、見た目"は"ほんとよく似てるし。性格はこんなんじゃないけど。

 このゲームやたらと攻略対象が多い。初期状態で76名、さらに周回を重ねることで増えること増えること。

 私の時間をどれだけ奪い取るつもりなんだ!

 リリーとイケメンをくっつけてはベッドに送り込む、その繰り返しなんだが、なかなかどうしてこれが楽しい。

 

 ああああ、私のリリーがあんなヤツにあんなことされて……。

 なにこのサイズ! 無理無理無理しんじゃう!

 

 やっぱ受身に回る選択肢を選んだほうが、背徳感が高まって興奮するな。

 そして……フフフ。

 攻略サイトによればサマエルルートがあるはずなんだ……。

 ヤンデレのサマエルさんに出会うのだ。

 そうしたら、そうしたら……。

 たまんねぇなぁ、もう!

 

 と。

 いかん、いかんぞ、いかんぞこれは。

 このままでは去年と同じになってしまう。

 休み明けに、「夏休みどこいったー?」とか周りが言い合っている中で、一人だけずっと家から出ないでゲームばっかりしてましたとかは実にマズイ。

 もしかしたら訊かれるかもしれないじゃないか。

 そのときになんて答えればいいんだよって話だ。

 海に行って日焼けしておけばいいだろうか?

 山登りとか?

 どこかに旅行もいいな。

 

 …………。

 

 ひとりでかよ……。

 ダメだ! "誰と"行ったとか訊かれるんだよ、ついでに!

『海水浴行って来たよ。……ひとりで』

 ダメダメダメ! そんなの寂しいヤツとウワサされてしまうに違いないじゃないか。

 

 なにゆえ人は他人の行動を知りたがるのか。

 

 別にどうだっていいだろ、私が休みの日になにやってたってさ。

 言ってやろうかな。

 兵藤とかはそういうこと堂々と言ってるし。

 

『毎日乙女ゲームをやりつづけていたぜ。もちろんR18のやつを』

 

 ってな!

 

 うん、無理。

 そんなことが言えるなら、こんなことになってないし……。

 どうすればいいんだ、どうすれば、どう、どう……。

 

 とりあえず、散歩に行こう。

 食料が残り少ないから補給しないといけないしな。

 

 

 

 

 私の目が悪いのか、はたまた頭がおかしくなったのか?

 知らない建物が急に建っておりますよ。

 ここの家、いつの間に改築したんだ?なんかスゲーでかくなってるんですけど。

 というか周りの家はどこに行ったんだ?

 どういうことなんだ。最近の建築技術は数日で町並みを変えてしまうのか?

 

 あっ、二階のカーテン開いてるな。

 

『イッセーの看病は私がするの!』

『リアスだけなんてズルイですわ』

『わ、わたしもしますー』

 

 どういうことだ……。学校で見たような姿、聞いたような声の女共が半裸とか全裸で騒いでいる。

 

『イッセー。大丈夫、きっとすぐによくなるわ。だからそんな弱気にならないで』

『あらあら、こういうイッセー君もかわいくていいですわ』

『ううう、わたしの力がもっと強ければ……。ごめんなさい、イッセーさん』

 

 その豪邸の表札を見ると、兵藤と書いてあった。

 ふっ。

 そういえば夏休みの前あたりから、ずっと休んでいる変態がいたな。

 ついに逮捕されたのかとばかり思っていたが、寝込んでいたのか。

 それにしてもアルジェントとそういう関係なのは知っていたが、他に二人も連れ込んでいるとか……。

 いや、あれだ、私なんてここ数日で、数十人の男をとっかえひっかえしたわけだし?

 

 ……。

 

 リア充め。いい気味だ! いっそ死ね!

 

『ちょっと! イッセー! イッセー! しっかりしなさい!』

 

 あー、暑いな。

 頭に血が昇ったせいで余計に暑い。

 

「アイスでも買うかな……」

 

 コンビ二遠いな。

 

 

〇ソーナ会長はゲームで勝ったそうです。

 

 

 

 

 ▼ぼっちと転校生

 

 

 新学期が始まったが、夏休みに心配したようなことにはならなかった。

 誰も話しかけてこないしな。

 訊かれないから答える必要もない。

 いや、いいんだ。

 訊かれたって、まともに答えられなかったし。

 

 それよりも重大な問題は、突如教室内に出現した誰も座っていない席の方だ。

 教室の一番後ろ、窓に一番近い位置。いわゆる主人公席。

 

『転校生が来るらしいよ』

『なんか外国人なんだって』

『私とちょっと見たけど、すごいの!』

 

 転校生らしい。

 私の情報網にはなにも引っかかってこなかったけどな!

 

「あー、もう知ってるやつも居ると思うが、このクラスにまた転校生だ。なんか多い気がするが気にするな。よくわからんがうちのクラスに集まってくるらしいからな」

 

 教師がなにやらブツブツ言ってやがる。

 この男、危ない薬でもやってるのだろうか?

 

「あー、入ってきてくれ」

 

 転校生ね。

 なんかさっき騒いでるのがいたけど。どうせ、いじめられっ子とかが転校して逃げてきたとかそういうオチで地味なのが――。

 

 あの人は!

 

「ヴァーリ・L・シファーだ。よろしく頼む」

 

 あのときのイケメン様!

 トラックから助けてくれて、それで、それで、顔が近くにぃぃぃぃ!

 くはぁっ。

 ヤバイ、思い出したら。ヤバイ。

 耳まで赤くなってるのがわかる。

 こんなところ見られたら、さらに恥ずかしいぞ。

 

「あー、シファーは、夏休み前に赴任してきたアザゼル先生の息子さんでな。あの先生もなんかおかしいというか……。まぁ、それはいいか。とにかく仲良くやってくれよ」

 

 うわー。うわー。

 ヴァーリって言うのか、名前。

 あれ? 今こっち見た?

 見た。見られた?

 私、大丈夫か? 変じゃないか?

 ああ、髪とかボサボサだし。

 うがー!!!

 

 

 

――お猿と白龍

 

「ヴァーリよぉ。なんで禍の団(カオス・ブリゲード)こなかったんでぃ?」

「三すくみの会談前に体調を崩してな。かなり厳しい状態だったんだが……」

「天下の白龍皇さまも病気には勝てなかったってか」

「いや、原因は不明だったんだ。呪いの類をかけられたのではないかとサハリエルが言っていたがな。とにかくそういうことでアザゼルに看病されるはめになったんだが……そのときのアザゼルの顔がな……」

「顔が?」

「父親とはこういうものなのだろうかと、そんな風に思ってしまったのさ」

 




サングラス:これを書いたころはお昼の番組やってたんです。

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