『怠惰』なリアスは苦労が少ない。   作:ふぬぬ(匿名)

5 / 6
私は苦労が少ない。(最終巻)

 

 私は苦労が少ない。

 

 

 夏休みのある日、レイヴェルがこう言った。

 

『おねえさま、一緒におでかけしませんか?』

 

 面倒くさい、と返したところ。

 

『あら、ダメですわよ。以前お誘いしたとき、今回は面倒だからまた今度とおっしゃったではありませんか。またの今度とは今のことですわ。約束、守って下さいますわよね?』

 

 レイヴェルはこういうことを言うから困る。

 また今度はいつかそのうちであって、今でも今日でも明日でもないのですよ?

 義妹はかわいいが、だからと言ってなんでも言うことを聞いてやってはダメなのだ。そんなことをしていては働かないダメ悪魔になってしまう。

 現にレイヴェルと来たら眷族を集めもせず、かといって誰かの眷属になってレーティングゲームに出るでも無し。毎日楽しくわがまま放題。

 まったく誰に似たのだか。

 出かけるということは、お化粧を頑張らないといけないわけで。

 私は兄上と違って制御が甘くて、破壊力だけは高いから大変なのだ。

 パワータイプと言われているのに、魔力の量は兄上の方がずっと上とはどういうことなのか。普通はテクニックタイプの方が低いものじゃないんですか?

 もう、面倒くさいな。

 今日の容姿はどんな風にしようかな。

 いつもはライザーの好みで変えているのだけれど。

 今日はレイヴェルにおまかせでいいかな。

 

『やっぱり私のものと似たようなドレスが似合う姿に……。でも、ああいうのもいいですわね。でも、でもこういうのも……』

 

 義妹にまかせたら余計に面倒なことになった。

 

 

 ずっと昔のある時、"革命の指導者(サーゼクス)"がこう言った。

 

『ああ、グレイフィア、グレイフィア! なぜ君は、ルキフグスなんだ? あの者たちと縁を切り、家名を捨てて共にきてくれ! もしもそれが嫌なら、せめて私を愛すると誓ってくれないか。そうすれば、私もグレモリーの名を捨てて、君にふさわしい名を名乗ろう』

 

 無言のままの"宰相の娘(グレイフィア)"。

 "サーゼクス"の言葉が続く。

 

『私にとって敵なのは、君の名前だけ。たとえルキフグス家の者であっても、君は君だ。「ルシファー」 ――君が共にあるのはその名前しかないのか? ああ、ただその名前に縛られて。ただその名前のために君と一緒になれないなんて。 君がルキフグスの名を捨てられないのなら、私が君のルシファーとなろう。光をもたらすものとなり、光避ける君の盾となろう、そして、私のこのグレモリーの名前の代わりに、君の全てをくれないか』

 

 兄上役の言葉に答える義姉上役。

 

『あなたの名前、たしかに頂戴いたしました。ただ一言、私に命じて下さい。そうすれば、私はあなたのもの。新しいルシファーと共に歩む、あなたのルキフグスとなりましょう』

 

 初めて見たときは意味がわからなかった。

 二回目は感動した。

 三回目のときは、これが人間の作品のパク……いや、よそう。面倒なことは考えたくない。

 

 兄上と義姉上のラブロマンスを元にした演劇。

 レイヴェルに連れ出されて見たのだけれど。

 新作やら、新解釈やら、主役が交代したからとか、ことあるごとにグレモリー家の面々は招待を受けているのですよ?

 興行収入の一部がグレモリー家に流れてくることもあって断りづらいらしく、面倒なことに私まで出かけなくてはならないことがある。

 私はこれで七回目だけれども、父上たちは何回息子のラブロマンスを観てきたのだろうか?

 正直、もううんざりです。

 当の兄上達に聞いてみると、あんなに甘いものではなかったと言うし。

 レイヴェルに聞いてみると、すごい回数を観ていた。

 好きなひとは何回でも観たいとは聞いた事があるけれど、理解に苦しむものがある。

 まぁ、他の同期たちがやってることに比べたら、全然面倒ではないのでいいのだけれど。

 でも、やっぱり劇場まで来なくてもいいやと思う。

 

 

 同期の若手悪魔が集まったとき、ルシファーさまがこう言った。

 

『集まった若手の悪魔同士で、レーティングゲームをしてもらう』

 

 私もですか? と挙手すると。

 

『リアスは眷属と合わせても二名しかメンバーがいない。それではさすがにゲームにならないから、参加させられないな』

 

 ルシファーさまから、試合への参加を却下されてしまった。

 とてもとても悲しいことです。

 まぁ、そうですよね?

 "王"と"兵士"の二名だけでレーティングゲームとか無理に決まってるじゃないですか。

 やった、これで夏休み中ゴロゴロし放題だ。八月の終わりまで寝て過ごせるなんて、なんて素敵なことだろう。

 よくよく聞けば、今後も相手を変えながら何試合もやっていくそうで……。

 ソーナたちは大変だなぁ。

 今まででも、忙しい忙しい言っていたのにさらに行事が追加されるとか。

 でも、ほらソーナは将来的には、学校を造って経営しながらシトリーの当主としての仕事もこなし、レーティングゲームも頑張った上に、レヴィアタンさまの相手もすると言う忙しい日々が待っているのだ。

 それを思えば、人間界に居る間なんて楽勝楽勝。

 でも、私だったらそんなのやりたくないや。

 やっぱり面倒なことはしないのが一番。

 

 

 

 パーティのあった日、白音がこう言った。

 

『捕まえました』

 

 何を? と聞き返したところ。

 

『にゃはは、ゴロゴロしているだけで美味しいご飯と、お給料にありつけて、さらに強い子種がもらえるかもしれない所があると聞きまして』

 

 白音のお姉さんらしい。

 連行されていったけど大丈夫なのだろうか?

 

 どうも事前にある程度話がつけてあったらしい。

 白音は働き者だな。

 取引とか、禍の団(カオス・ブリゲード)の情報とか言っていたけれど、私にはあんまり関係ないのかな。

 白音の姉は働き者ではなかった。

 でも、気が合うというかなんというか。やりやすい相手ではある。

 一緒にボーっと月光浴(ひなたぼっこ)していたら朝になっていたこともあった。

 聞いてみたら、はぐれる前は“僧侶”だったとか。

 すでに駒が使われている場合はどうするのだろうとか。前の主の駒が効果を残しているのなら、そこに“戦車”重ねたらつよいのかなとか。

 いろいろ考えたけれど。面倒だから“僧侶”を二つ押し込めばいいや。

 でも、やっぱり不安だからアジュカさんに聞いてみよう。

 

 

 

 大学を卒業した日、婚約者がこう言った。

 

『ならばこう命じよう、我が"王妃(クイーン)"となれ』

 

 さて、宰相の娘(グレイフィア)はここでなんと返したかな?

 いろいろなパターンがあるのだけれど、そのまま真似るのもどうかと思うので。

 

「私もあなたに命じましょう。我が"王配(クイーン)"となれ、と」

 

 そう返した後、思わずふたりで笑ってしまった。

 トレードの手間までかけて、ユーベルーナを"女王"ではなく"僧侶"にしたときからずっと考えていたのだろうか?

 人間のものを真似た劇、その劇を真似たプロポーズ。

 受けた相手の返答は、これまた人間を真似た"配偶者(クイーン)"の証の交換。

 私も大概だと思っているけれど。ライザーも結構面倒くさがりよね。

 もっとオリジナリティを出してくれても良かったんですよ?

 それでも、うん。

 兄上の恋愛劇から引っ張ってくるってどうなのかと言おうかと思ったけれど。

 でも、やっぱり嬉しいからいいや。

 

 

 

 長い年月が過ぎたある日、子供たちがこう言った。

 

『母上、私たち兄弟姉妹でチームを作ってゲームに出ることにしました』

 

 気をつけてね、と返すと。

 

『大丈夫ですよ! 私は母上の滅びの力と、父上の不死身の力をもっているのですよ? グレモリー家の次期当主と、その弟妹なのですから』

 

 まったく、眷属を集めるのが面倒だからって身内で固めることは無いのに。

 誰に似たんでしょうね?

 我が家は子供が多い。

 私が産んだ子は多くないが、ライザーの子供が多いのだ。

 よくよく考えたら当たり前なのかな。

 何もしなくても上級悪魔になれるのは、私の子だけだから。変な悪魔の眷属になるよりも、身内で固めた方が確実ではある。

 あの子達が昇級して上級悪魔になれば、任せられることも増えるだろう。

 そうしたらライザーの手も空いてくるだろうし、しばらくふたりで旅行にでも行こうかな。

 

『ああー、黒火の頭が吹き飛んだー!』

 

 練習で大怪我しても、治療しなくていいっていいわよね。

 やっぱり、不死身の子供達は手が掛からなくていいや。

 

 

 

『怠惰』な私は子供がいっぱい、しあわせいっぱい。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告