『怠惰』なリアスは苦労が少ない。 作:ふぬぬ(匿名)
私は魔力が少ない。
夏の始めのある日、ソーナがこう言った。
『レヴィアタン様に授業参観のこと話したのは、あなたですか?』
そうだよ、と返したところ。
『なぜですか! 先日の件は緊急事態で仕方が無かったとしても。なぜ授業参観のことまで話してしまうのですか!』
ソーナはおかしなことを言う。
レヴィアタンさまは、セラフォルーさんで、ソーナのお姉さんなんですよ?
学校生活を体験したいって言ったのはソーナなのだから、授業参観に家族が来るのは当たり前じゃないですか。
他の模範になる生徒会長さんが、家族に秘密にしておくとかよくないと思います。
というか、毎回聞かれるのが面倒なので学園の年間スケジュールを渡したのだけれど。いろいろ考えて、行事の日程を組んで、日程表を作って満足そうにしていたのはソーナだったのに忘れてしまったのだろうか?
まさかソーナも父上や義姉上と同じ病気なのだろうか。
父上、義姉上、ソーナと次々にかかってしまうなんて、なんて恐ろしい。
ソーナが重症にならないうちに、またライザーに薬を頼まないといけないな。生徒会長がダメになったら私の出番が来てしまうかもしれないじゃないか。
万能の治療薬というくらいだし、効果あるよね? フェニックスの涙。
一度自分でも試してみようかな。
でも、やっぱり値が高いからやめておこう。
夏の始めのある日、椿姫がこう言った。
『とても忙しいのです』
うん知ってる、と返したところ。
『とても忙しいのです。ええ、とてもとても……』
言いたい事があるのならはっきり言えばいいのに。
言葉にしなくては伝わらないことってたくさんあるのです。副会長さんのコミュニケーション能力に問題があっては困るな。
"王妃(クイーン)"は"王"と共に王冠を頂く者なのですよ?
他の駒とは役割が違って、言うことを聞くだけの部下ではないのだ。隣に立って相談、忠言し"王"を支えるのが役割。
"王(ソーナ)"がボ、物忘れしたらフォローをし、道に迷っていたら一緒に考え、家族に不義理な行動を取っていたら正してあげるのが役目ではないだろうか?
まったく、"椿姫(クイーン)"も困ったものだな。
椿姫がしっかりしてくれないから、私がソーナに絡まれてしまうのだ。
一言いってやろうかと思ったけれど。
でも、やっぱり反撃されそうなのでやめておこう。
夏の始めのある日、兄上がこう言った。
『三すくみの会談をこの学園で執り行おうと思っていてね』
聖書関連ならヨーロッパでやった方がいい、と返したところ。
『たしかに、それもそうだね。聖書に関わる勢力の会合としてはそちらの方がふさわしいな』
たまに兄上もおかしなことを言う。
天使も悪魔も堕天使も、本場は西洋なんですよ?
わざわざ日本の神々との間で調整してまでして、ここでやる必要なんて無いと思う。
それにミカエルとかアザゼルなんかが近くに来たら、いつ光の槍が飛んでくるかとビクビクしながら過ごさなきゃいけないじゃないですか。
四六時中気を張ってるなんて面倒なこと、私には耐えられません。
そりゃあ、兄上くらいに強ければ光の槍なんて怖くないのかもしれない。
なんと言っても悪魔の中に三名いるという超越者の中でも一番なのだから。
ライバルのアジュカさんを押しのけて魔王筆頭のルシファーになったし。もうひとりの超越者は辺境に追いやったって言うし。
そんな最強悪魔の兄上なら、天使長も堕天使総督も平気なのかもしれないけれど、私程度ではそんな風には思えないな。
練習すれば強くなれるとか。
リーアには才能があるとか言われたけれど。
でも、やっぱり兄上には遠く及ばないや。
幼い頃のある日、兄上がこう言った。
『リーア、魔力を操る練習をしようか』
なんのために? と聞き返したところ。
『滅びの魔力は強力だ。私はその力を自在にコントロールすることで、現在の魔王の地位にまでなったんだ。だからリーアも練習しよう』
私は兄上が大好きだ。
兄上こそが私の目標なのですよ?
だから、どうか兄上の全力を見せてもらえないだろうか。
尊敬する兄上、偉大なる簒奪者、現代最強の悪魔。兄上のことならいくらでも話していられる。
だから、その力を見せて欲しいと願ったのは間違いではなかったはず。
だけど、ああ、だけれども、あんなことを頼んだから面倒なことになったのだ。
力の差がありすぎた。同じ親から生まれた兄妹なのに、どうしてこんなに違うのだろうか? 私と兄上の何が違ったのだろう?
兄上と比べたら私なんて無能と同じじゃないだろうか。
幼い頃のある日、わたしはいろいろなものをなくした。
その中には自信だったり、やる気だったり、そんな風に言われるものも含まれていたのかもしれない。
あの日の前に戻れたらなんて、そんな風に思うこともあるけれど。
でも、とりあえず面倒だから今のままでいいや。
幼い頃のある日、母上がこう言っていた。
『私はあの子がなぜああなったのか……わかりません』
それに対して変異体、悪魔と言っていい存在なのか悩むと、返答があった。
『なぜ、ああなってしまったのでしょうか? 人の形をした滅びのオーラ、ただ在るだけで周囲を消し去るもの』
父上、母上なにを言っているのですか?
誰がなんなのですか?
人の形をした滅びのオーラ?
ただあるだけで周囲を消し去るもの?
わからない、わからない。
それはいったいなんですか?
あの子って誰ですか?
ウソだ。
本当はなんだかわかってる。
それは兄上のこと。
それは私のこと。
兄上と同じになれて嬉しい気持ちもある。
でも、やっぱりいつもお化粧して生きるのは面倒くさい。
数年前のある日、ライザーがこう言った。
『実際のところ、君の相手が務まるのはフェニックス家の者くらいかもしれない』
そうでしょうね、と返したところ。
『正直、俺も怖いと思っているところがある。グレイフィア様という前例があるにしても男女の差もあるしね』
義姉上はすごいと思う。
兄上の真の姿はああなんですよ?
そういうことをするときに、うっかり興奮しすぎてしまったら? それで化粧がはがれてしまったら?
子供が出来たとして、その子もそうだったら?
恐ろしい想像はいくらでも出来る。
兄上は魔王なのだ。強くて、ルシファーで、まぁカッコいいと言ってもひいきではないと思う。
だというのに、ハーレムが当たり前の悪魔男性としては珍しい一夫一婦の関係。
いろいろあったのだろうな。
ライザーも勇気があると思う。
私もそうだったわけで、子作りするには入れないといけないわけで、もしかすると消滅してしまうかもしれないわけで……。
不死身のライザーが居てくれて良かった。
本当に良かった!
やっぱり、私の相手はライザーしかいないや。
私の魔力は兄上の半分しかない。