翌朝、E組の皆はわかばパーク保育施設に足を運んでいた。
昨日、渚達が怪我を負わした老人……松方と言う人はわかばパークを経営している園長だった。
入院費等は烏間先生に払ってもらう事になったが松方が退院するまでの2週間、E組の皆でボランティアして賠償分の働きが認められれば今回の件は無かったことにすると言う事で話が纏まった。
「みんなー!園長先生はおケガしちゃって暫くお仕事が出来なくなりました。
その代わりにこのお兄ちゃんやお姉ちゃん達が何でもしてくれるとの事で来てくれました!
みんな仲良く出来るかなー?」
「「「「はーい!!」」」」
保育施設の従業員の言葉に子供達は手を挙げて大きな声で返事をしE組の皆の元に駆け寄ってくる。
「まったく……何で私ら無関係の生徒まで連帯責任かねぇ」
子供達に髪を弄られながら「魔女だー」何て言葉を無視しながら狭間は愚痴を溢す。
「……面目ねぇ」
流石の寺坂も今回の件は堪えたのか突っ返すような言葉ではなく素直に謝罪の言葉を口にする。
「私達ももっちりとビンタされたよ。
全員平等に扱わないと不公平だからって」
「ご、ごめんよ」
原の言葉に今回の言い出しっぺの岡島は申し訳無さそうに謝る。
「気にしないで。
他人に怪我を負わせる事とか予測できなかった私達にも非があるし」
「……そーね、私にも監督責任あるかもね…おもしろサーカス団の調教師として」
神崎の言葉に賛同するように狭間は言い吉田、村松、イトナ、寺坂の4名をジト目で見る。
「大事な時期に本当にごめん……」
「ま……テスト勉強なんて家でこっそりやればいい。
クラスの秘密を守るための必要経費だと思えば安いものさ」
磯貝の謝罪に竹林は気にしない素振りで言う。
しかし良いことを言ってるのだが子供達がズボンを脱がしパンツ一丁にされて台無しになる。
「で、何やってくれるわけおたくら?」
皆で話し合ってる時に不意に少女が近寄ってきて言ってくる。
「大勢で押し掛けてくれちゃって……減った酸素分の仕事くらいはできるんでしょーねぇ」
((((((何か物凄いとんがった子もいらっしゃる!!))))))
その少女を見て一同は声に出さずにシンクロさせる。
ふと楓は子供達がコソコソと話しているのを耳にする。
どうやらあの少女は小学校5年のさくらと言う名前で学校を2年も行っていない子でこの施設のお局様的存在らしい。
「おい……あれ」
「は、はい!」
さくらがそう言うと年下の子が素早く箒を渡してきた。
「先ずは働く根性があんのかどうか試してやろーじゃないの!!」
さくらは箒を手に持ちながらそう言うと先ずは弱そうな渚に目をつけて走りだし箒を振りかざそうとした。
ベキィ!!
しかし箒は渚に当たることはなかった。
直前で床が抜けてしまい落ちてしまった。
「アハハ!無様に落ちてやんの!」
不意に聞こえた笑い声。
楓は聞き覚えのある声に振り向いてみるとそこには唯が腹を抱えて笑い飛ばしていた。
「あ、あの人は!」
「唯一、さくら姐さんと対等に話し合える唯姫だ!」
「おいこら、何サボってんだよ」
子供達の言葉の後に楓は呆れた声で話しかける。
「いやぁ~、学校の授業って簡単すぎて暇だから時々ここに来てんのさ。
ほら私って天才だからさ学校に行く意味ってあんま無いわけさ」
唯のあっけらかんとした口調に楓は思わず頭を抱える。
基本、育ての親である源三郎は孫娘に非情に甘い。
本来であるならば学校には確りと通わせるべきなのだがテストの点が良いのもあって特に何も言わない。
「って、話し込んでないで助けなさいよ!」
「嫌だね。引っ張り上げる労力が惜しいし何より無様な姿が面白いから放置に限る」
「後で覚えてなさい!」
「だが断る!」
唯とのやり取りにさくらはキーと言いながら床をバンバン叩く。
そんなさくらを無視し唯は楓達、E組の方を向く。
「にしてもヘマやらかしたな~お前たち」
唯の言葉に楓と華鎌は頭を掻きながらアハハと笑って誤魔化すような仕種をする。
一方の渚達は苦虫を噛み潰したような顔をして俯く。
「唯ちゃんが知ってるってことはもう他所の奴等にも知られてる感じ?」
「んにゃ、この話が出回る前に火消ししといた。
情報が馬鹿みたいに出回る心配は無い」
「そりゃあ助かる」
楓と唯が話しているのを聞いていた一同。
「あのガキ、九重と知り合いか?」
「えぇ。彼女は情報屋等をしていて楓や私も良く頼らせてもらってるんですよ」
寺坂の呟きに華鎌はそう答えると「あんなガキが……」と驚く寺坂。
他の面子も似たような表情をしながら楓と唯のやり取りを見る。
「因みに彼女は情報屋の中でもトップの実力を持つ子で、今日までの間に唯ちゃんを嘗めた輩は姿を見せなくなった何て言うのも稀にあります」
「え……?」
「と言っても殺しはしてませんよ?その人の預金残高を全て無くし路頭に迷わせたり、ありもしない冤罪を擦り付けて牢屋に入れたり、その人物を恨んでる人達に情報を安値で売り付けて報復させたりとしてるだけです」
((((充分危険だって!!))))
華鎌の言葉に一同は声を出さずに突っ込みをする。
「それにしても…………」
華鎌の言葉を聞いていた磯貝は周囲を見渡す。
1歩でも動けばギィっと酷く軋む床、壁は皹だらけで天井も所々傷んでいる。
バキッ!ととてつもない音が聞こえて振り向くと先程のさくらと同様、子供が床に填まっている姿を見かけた。
「この建物、その……老朽化がかなり……」
「お金が無いのよ」
磯貝の言いづらそうにしていると職員の人が答える。
「うちの園長、待機児童や不登校児がいれば片っ端から格安で預かってるから職員すら満足に雇えず本人が一番働いてるわ」
職員の言葉に渚達は園長の松方がこれでもかと言うぐらいの荷物を運んでいた事を思い出す。
それと同様にこのわかばパークには欠かせない重要な戦力を潰してしまった事を自覚する。
「落ち込んでる暇はありませんよ。
2週間の期間に30人も人手があります。
あの教室で習った事を生かせば色々な事が出来る筈ですよ。
反省するのは良いことですが問題はその後のリカバーをどうするかです」
手をパンパンと叩きながら華鎌は皆に向かってそう言う。
徐々にだが皆の目にはやる気が出てきており、話し声が聞こえてくる。
「よし手分けして松方さんの代役を務めよう。
先ずは作戦会議だ」
磯貝の持ち前のリーダーシップでそう仕切ると皆は行動に移すのだった。
「もうやめて!!TERASAKAのライフはもう0よ!!」
子供たちを楽しませようと言うことで茅野・華鎌・カルマ・寺坂は狭間に簡単な台本を書いてもらい劇をすることになった。
内容は悪物を決闘者で倒すと言う物語。
ヒロイン役の茅野は迫真の演技で主人公の華鎌にしがみつきながら止めようとする。
「話して下さい!!まだ私のターンは終了してません!!
手札から魔法カード、バーサーカーソウルを発動します!!
このカードはモンスターカード以外のカードが出るまで何枚でもドローし、攻撃力1500以下のモンスターはその数だけ追加攻撃ができます!!」
茅野の制止を振り払って華鎌は大きな声でそう説明する。
「1枚目ドロー!!……モンスターカード」
そう言うとモンスター役のカルマは悪の決闘者役の寺坂に向かって1発殴る。
「グハッ!…………おい!台本には軽めって書いてるだろ!」
本気で殴ってきたカルマに小さく怒鳴りつける寺坂。
しかしカルマはニヤニヤと笑みを溢しながら素早くその場から離れる。
その後も2枚目、3枚目……と引いてくるカードは全てモンスターカードでその度にカルマは楽しそうに寺坂を攻撃していく。
「10枚目……ドロー!!」
そう言い引いたカードの柄は緑…魔法カードだ。
寺坂もそれを見てもう終わったと安堵の息を吐いてると……「モンスターカード!!」と叫ぶ声が聞こえて「は!?」と声をした方を振り向く。
そこは子供達がいる観客席で、前列にいる子供が「モンスターカード!!」と叫んでいる。
すると子供たちから「モンスターカード!!」「モンスター!」とコールしている。
「では要望にお答えしましょう!10枚……モンスターカード!!」
「おい!!」
華鎌の言葉に寺坂は怒鳴りつける反面、子供たちからは「「わぁーっ!!」」と拍手喝采が聞こえてくる。
その後、20枚目まで続き耐えれなくなった寺坂はその場に倒れる
「こうして悪の決闘者は倒されて町は平和を取り戻しましたとさ……めでたしめでたし
どう楽しかったかな~?
面白かったら皆はーくしゅー!!」
劇をそう言って閉めた茅野は皆にそう聞いてみると「「楽しかったー!!」」と元気に答えパチパチと拍手も聞こえていて茅野は御満悦だ。
「はーい、みんなー!おやつ出来たよー!」
劇が終わったのを見計らってなのか原と奥田が人数分のプリンを持ってやって来る。
「わーい!」と言いながら原達に集まってくる子供たちに「はい」と言いながらプリンを次々と渡していく。
「カルマ君たちもど、どうぞ!」
「奥田さんありがとー!」
奥田はそう言うとカルマ達にも渡す。
プリン好きの茅野は我先にと奥田に礼を言い2つ手に取る。
「おい!何でテメーだけ2つも取ってんだよ!?」
寺坂は茅野に向かってそう言うと1つ奪い取ろうと手を伸ばすが、その手は払い除けられる。
華鎌は何かを察したのか素早くプリンを1つ受けとり距離を取って美味しく食べ、カルマはスプーンを口に加えながらスマホで撮影を始めていた。
「…………グルルルル」
獣のように唸る茅野。
しかし負けじと寺坂もプリンを奪おうとする。
「奥田さん、これ預かってもらって良い?くれぐれも誰にもあげないでね」
茅野の言葉に奥田は必死に首を縦にふる。
「ガウッ!!」
「ちょっ!!離せ!!…………噛みつくな!!引っ掻くな!!」
「あー次はプロレスしてるー!!」
「男のやつよわっちー!!」
獣化茅野は迷うことなく寺坂を襲い、子供達はプロレスだと勘違いしてはしゃぎ回っている。
「ギャーーー!!」
獣に襲われた寺坂は為す術もなくただ絶叫するのだった。