体育祭の当日…………
快晴の青空の下、椚ヶ丘中学校では体育祭の競技100メートル走が行われていた。
『100メートルはA、B、C、D組がリードを許す苦しい展開!!負けるな我が校のエリート達!!』
現在、木村が持ち前のスピードを生かして本校舎の生徒達を大きく突き放し楽々とゴールしていく。
「今更だけど体育祭でも相変わらずのアウェイ感だな」
放送部の実況を聞いていた杉野が思わず苦笑いを浮かべながらそう呟く。
中村も呆れた口調で「E組って言えよ」と漏らしていて近くにいたE組生徒達は苦笑いする。
「味方ならうちらにもいるじゃん」
そんな杉野達に岡野はほれと指を差している。
其処には変装をした殺せんせーがカメラを激写している姿が目に映っていた。
「おぉー!!カッコいい木村君!!もっと笑いながら走って!!」
興奮しながらシャッターを押す殺せんせーに一同は苦笑いする。
すると…………
「陽菜はまだなのか!?早くこのカメラに愛する娘を記録してやるんだー!!」
離れた所からとても大きな声で叫んでる男性の姿があった。
暫し叫んでいると「ごふっ!?」と苦しそうな声を上げて静かになっていった。
「…………恥ずかしい」
声の主は陽菜乃の父親だったようで陽菜乃は恥ずかしさからか顔を真っ赤にしながら俯かせていた。
「聞こえなかった事にしよう」
「…………うん」
頭を撫でながら楓はそう言うと陽菜乃はコクンと頷く。
「あらあら~昼間から随分とイチャイチャしてるんですのねぇ~」
突如聞こえてきた声に皆は驚く中、楓と華鎌は揃ってタメ息を吐いて楓は後ろを振り向く。
「めぐ姉、何でここにいるのさ」
楓がめぐ姉と呼ぶその人……コードネーム蜚蠊こと沖めぐみがそこにいた。
「みんなで楓達の応援しに来たんですよ」
楓の疑問に答えたのはめぐみではなく少し離れた位置にいたアリスでその後ろには芋蟲こと稲生美樹や兜虫こと甲本咲和がいた。
「こんにちは烏間先生、殺せんせーいつも楓がお世話になってます」
アリスは烏間先生と殺せんせーの方を向いて頭を下げる。
「どうも」
「これはこれは担任の殺せんせーです」
烏間先生がペコリと頭を下げて軽く挨拶をし、殺せんせーは礼儀正しく挨拶をしてアリス達を見る。
「ヌルフフフ、皆さん中々の殺気を秘めてますねぇー。どうしますか今、ここで私を殺りますか」
「それも楽しそうですね」
殺せんせーの言葉にアリスは口に手を当てながらクスクスと笑う。
渚達はここで暗殺が行われるのかと思いハラハラしながら見る。
「でも辞めときます」
しかしアリスの言葉に一同はえっ?と声を漏らす。
「まず私達は誰からも殺ってくれと依頼されてません。それに私達は体育祭を見に来ただけです。
応援はしても不粋な事はしませんよ」
アリスはそう言うと鞄かビデオらカメラを出して撮影の用意していく。
「え?何を撮るの?」
「勿論、体育祭ですよ。これまで楓の行事は仕事で誰も見れませんでしたからね、中学最後の体育祭は撮ろうと思いさっき買ってきたんですよ」
楓の疑問に淡々と答えるアリス。
楓はカメラを奪おうと動くが咲和に関節を決められてそのまま地に伏せられる。
「あきらめな♪」
「嫌だあぁぁあ!!」
「あぁ…………録画されるなら是が非でも勝たないとねぇー」
「そうですね。あっ、一応目玉は棒倒しなのでそこの撮影はしっかりお願いします」
騒いでる楓を無視してカルマの言葉に同意する皆……
華鎌は美樹の膝の上に座りながらアリスにそう言うと「わかってますよ」といい他の競技も撮影していた。
「あっ、すいません。次の二人三脚リレーに楓君も出るんで連れてっても良いですか?」
「ん?そうなの」
陽菜乃がそう言うとパッと楓の腕を離して首根っこを掴んで陽菜乃に渡す。
「さぁて大人は1杯引っ掛けますわよ」
めぐみがそう言うとビニール袋から缶ビールとつまみを取りだし口に入れる。
それに釣られるかのように咲和や美紀もビールに手を伸ばしてプルタブを引き開けてグイッと喉を潤す。
「おいおい……この人達かなり自由すぎるぞ……」
杉野の呆れた呟きに誰も否定するものはいない。
こう言うことに厳しい華鎌は美樹の膝の上でデレデレして宛にはならない。
「私達は何も見てない…………それでいい?」
片岡の呟きに皆は頷き競技に集中するのだった。
二人三脚リレーの参加者は楓&陽菜乃ペアー、渚&茅野ペアー、前原&岡野ペアー、矢田&木村ペアーだ。
皆は其々の位置に着いて足に紐を巻き付ける。
「よしっ、俺達は最初だからいっちょ頑張るか」
「うん!お母さんもアリスさんもカメラで撮影してるから恥ずかしい姿は見せれないもんね~」
思い出させないでくれ……と楓は顔に手を宛ながら恥ずかしそうに言う。
時間になり第1走者はスタート地点に立つ。
「位置に着いて…………よーい…………どん!!」
教師がそういって空に向けていたピストルをパン!と鳴らすと皆一斉に走り出す。
このリレーは100メートルを二人三脚で走り次のグループにタッチをして走るリレー形式。
走り出しで最初の出す足を間違えたのか転ぶグループもいる中、楓と陽菜乃ペアーはいい出だしで走り出せた。
お互いの腰に手を当ててリズミカルに走る事が出来て1位をキープしている。
「エンドの分際で1位を走ってんじゃねぇー!」
そう叫びながら走っているのはA組の瀬尾&モブ女子ペアーだ。
瀬尾ペアーは怒濤の勢いで楓と陽菜乃の後ろに迫っている。
そんな中、楓は陽菜乃の顔やE組の顔、本校舎のモブの顔を見合わせているのに陽菜乃は疑問を抱いていた。
「どうしたの?」
「いや……どうして本校舎のモブ達はあんなに残念な顔が多いんだろうなって。E組の皆がレベル高すぎだろって思ってさ」
全く競技と関係ない事を考えていたことに陽菜乃は苦笑いしている反面、モブがそれを聞いて憤慨していた。
「私がこんなのに劣るって言うの!?」
「お、おい!!急にペースを上げるな!!」
モブが叫びながらペースを上げようとするのを瀬尾が注意するが時既に遅し……足並みが揃わなくなりもたついて逆に速度がダウンしてしまいそのまま楓と陽菜乃は次の走者、前原&岡野ペアーにタッチをして託していた。
前原と岡野も軽快な走りでトップを独走していてこのまま次の木村&矢田ペアーに繋がると思っていた矢先…………
「セクハラ!!」
「あぁ!?」
前原が岡野の腰に手を当てようとした時、岡野が叫びながらその手を叩き口論をしていた。
そのためか後続の集団に追い付かれてしまい混戦の中、木村&矢田ペアーにタッチをして託していた。
木村は矢田に合わせるように動き、いいペースで走っている。
「おぉ…………やっぱり凄いな」
そんな木村と矢田の走ってる姿を見て岡島は嬉しそうに声を漏らす。
しかし岡島が見ているのは矢田の胸…………
走っているとプルンプルンと動いていてその度に岡島はウヘヘ……とゲスな笑い声をする。
それを知った参加していない女子達はイスから一斉に立ち上がり、そのイスを持って岡島を殺すつもりで殴り付けていた。
「ヌルフフフ……岡島くんもまだまだですねぇー。
…………これは後で確り保存しときましょう」
そんな岡島を余所に殺せんせーは静かにカメラのシャッターをきる。
余談だが数日後、そのカメラとフィルムは木っ端微塵に破壊されて教壇の上に置かれていたのはここだけの話…………
そんなこんなで外野では少々騒ぎがあったもののラストの渚&茅野ペアーにタッチをして走り出そうとした時…………
「巨乳なんて……巨乳なんて皆敵だーー!!」
「急に何言い出してんの!?」
矢田の走りを見ていた茅野は血の涙を流しながら怒りを爆発していて走ることすら儘ならなかった。
結果として二人三脚リレーでE組はビリとなり皆は暴れる茅野を抱えるように持ち運びそそくさとE組の席に戻るのであった。