翌日の放課後、イトナは机に座りながら物凄い集中で何かを作っていた。
「見ての通り、ラジコンの戦闘車だ」
渚の質問にイトナは簡潔に答え、手を動かしながら口を開いていた。
「昨日1日、あのタコに勉強漬けにされてストレスが溜まって腹が立ったからこいつで殺してやる…………」
イトナはそう言うと慣れた手つきで電子部品などを繋ぎ合わせてラジコンを組み立てていく。
その光景に男子の殆どが釘付けになっていた。
「すごいなイトナ……自分で考えて改造してるのか」
磯貝はイトナの作業を感心しながら見て呟く。
「親父の工場で基本的な電子工作は大体覚えた。こんなのバカな寺坂以外誰でも直ぐに出来る」
イトナの毒舌に寺坂は苛立ちの視線を向けていたがイトナはそれを無視して作業を続けていた。
男子の皆は触手を持ってた頃のイトナとは違い、皆は驚きを隠せずにいた。
その頃、職員室では昨日イトナの学力を計るためにしたテストの結果を見て頗る機嫌が良く、ご満悦な表情をしていた。
「学校に通ってなかった分、勉強の遅れはありますが……これなら2学期の期末までには追い付けそうです」
「意外だな…………触手を振り回す彼には高い知能は感じなかったが」
烏間先生はパソコン作業をしながら軽く驚いた用に呟く。
「……それは恐らく触手のせいでしょう。殆どのエネルギーを触手に吸い取られるため人間としての能力が著しく低下していたのでしょう。
ですが触手を引き抜いた今、彼は本来の能力を取り戻しました。
…………まぁ、触手を注入される前にシロさんから肉体を強化されてると思いますが、副作用の様なものもありませんし特に問題も無いでしょう」
殺せんせーの言葉に烏間先生はそうか……と呟き視線を再びパソコンの方に向き直し、作業を再開させようとすると殺せんせーが奇妙な事を口にしていた。
「恐らくは知られてしまったでしょうねぇ…………私の急所も。
彼の加入で……ますます暗殺が楽しくなってきそうです」
殺せんせーはそう言うとネクタイを締め直してヌルフフフと笑いながら職員室を後にした。
烏間先生は殺せんせーの言葉の意味を問いただそうと思ったが、後で生徒達に聞けば良いかと判断し作業を再開させるのだった。
その後、イトナは作り上げたラジコンを床に置き試運転をしていた。
ラジコンとは思えない程スムーズに動き、音も静かであった。
イトナは少し離れた所に空き缶を置くと正確な射撃で空き缶を倒していった。
「すげぇ……殆ど音がしねぇ」
「こいつは使えるな」
菅谷と千葉が試運転を見てそう感想を言っていた。
「電子制御を多用することでギアの駆動音を抑えている。
更にガン・カメラモードはスマホの物を流用した。
銃の照準と連動しつつ、コントローラに映像を送る」
イトナの説明に一同はおぉ~と感心したような声を漏らしているとイトナが真剣な表情で皆に言った。
「…………それともう1つお前らに教えてやる。
狙うべき理想の一点…………シロから聞いたターゲットの急所だ。
奴には心臓がある。位置はネクタイの真下。
そこに当たれば1発で絶命できるそうだ」
イトナの言葉に教室にいた男子達はゴクリと生唾を飲んだ。
「今からこいつであのタコを殺す」
イトナはラジコン車をそのまま教室の外に出して職員室まで走らせていた。
教室にいた男子達は画面に釘付けになって見ていたが生憎、職員室はもぬけの殻で皆はあからさまにガッカリしていた。
「しゃーねぇ。もうちょい試運転を兼ねてそこら辺走らせて見ようぜ」
岡島の言葉にイトナは頷き走らせると廊下から女子達の声が聞こえていた。
すると次の瞬間、ラジコンの目の前を女子達が走り抜けていた。
その光景を画面越しで見ていた男子達に静寂になっていてそれを破ったのは岡島だった。
「見えたか?」
「いや……カメラが追い付かなかった…………視野が狭すぎるんだ」
いつになく真剣な表情で聞いてくる岡島に答えたのは前原だった。
悔しそうに答えているが渚や磯貝、楓、華鎌にしてみたらこの上無い位に馬鹿馬鹿しく見えていた。
そんな楓達を他所にイトナの周りではいつも以上に真面目になって話し合いが行われている。
「カメラをもっとデカくして高性能にしたらどーよ」
「それはダメだ……重量が嵩む。それに機動力が落ちて標的の補足が困難になる」
村松の案にイトナはバッサリと切り捨てる。
すると竹林がメガネを拭きかけ直しながら、思い付いた案を口にする。
「ならばカメラのレンズを魚眼にしたらどうだろうか?送られた画像をCPUを通して歪み補正をすれば小さいレンズでも広い視野を確保出来る」
「魚眼か…………ちょっと待ってろ」
そう言うと岡島は自分の鞄を取りだし中身を漁っていると…………
「…………あった。イトナこれはどうよ?」
「…………大きさも問題ない。これなら直ぐに取り付けられる」
岡島は魚眼レンズをイトナに手渡すとイトナは満足そうに頷き直ぐ様改良を始めていた。
((((と言うか何故、都合よく魚眼レンズを持ってる!?))))
離れた所から楓達は心のなかで突っ込まざるを得なかった。
しかし対照的にイトナの周りにいた奴等は岡島を褒め称えると言う変な光景が出来ていた。
「流石は岡島だ!」
「最初っから盗撮をすること前提で持ってきてやがる!」
「そこに痺れるし憧れる!!」
その言葉を聞いて楓達は目眩を覚えていた。
「彼に彼女はこの先出来そうにありませんね」
「だな。そして録な大人にはならないだろう」
楓と華鎌はそう呟くと渚と磯貝は苦笑いするしかなかった。
「気分転換に大富豪でもやるか」
「そうですね。何もせずに黙って聞いてると私達が変になります。お2人はどうです?」
「俺もやるよ」
「僕も」
4人はこうして教室の隅で大富豪を始めて岡島達のアホな会話をスルーするのであった。
そんな楓達の事はお構いなしとプロジェクトは着々と進んでいく……
「律!歪み補正のプログラムは組めるか?」
「はい!用途はわかりませんがお任せください!」
壁に寄りかかりながら律に問う。
律は男子達が何をするのか理解していないものの、岡島に言われた補正のプログラムを作るのである。
「録画機能も必要だな…………」
「あぁ……効率的な改良の分析には不可欠だ」
真面目な表情をしながらゲスい話をして改良すること数分……新たに出来上がったラジコン車を床に置きイトナは発信させるのであった。
「これも全ては盗さ……暗殺のためだ!!」
「じょ……ターゲットを追え!!」
岡島と前原が本音を漏らしそうになりつつもそう叫んでラジコン車は外に出る。
しかし出た瞬間、階段に躓きラジコン車は転倒すると言う格好の着かない発進となった。
「復帰させてくる」
木村はそう言うと素早く駆け出し、ラジコン車の所に向かう。
普段から足の早い木村だが今日は今まで以上に素早く感じたのは気のせいだろう…………
「段差に強い足回りも必要じゃないか?」
「俺が開発するわ。駆動系や金属加工には覚えがある」
木村が駆け出している時、竹林と吉田は真剣にそう話す。
「車体色が薄いカーキなのも目立ちすぎるよな……」
「戦場に紛れる色だからな……学校の景色に紛れないと標的に気付かれる」
杉野がポツリと呟くとイトナが同感するように言っていた。
「引き受けた……学校迷彩…俺が塗ろう」
菅谷はそう言うと幾つかの筆を取りだし、戻ってきたラジコン車を塗り替えていた。
「ラジコンは人間とはサイズが違うからな……快適に走り回れるよう地図を作ろう」
「そしたら俺は校庭のゴーヤで軽くチャンプルでも作ってやらぁ」
そう言うと前原と何人かで周辺の地図を作り、村松は家庭科室で料理をし始める。
「凄く馴染んでるなイトナのやつ…………っと5」
「ただ、やってることがゲスいので素直に喜べませんがね…………6です」
「…………7だ」
「あっ、楓君ダウト」
いつの間にかカルマも加わりダウトをしていた5人……
渚はそう言うと楓が出したトランプを捲って見ると10だった。
「九重ざまぁwww!」
カルマの言葉に苛つきながらも楓は山となったトランプを自分のもとに集め手に取る。
「「「「「「化けもんだーーーーっ!!」」」」」」
突如、男子達が叫んでいたので楓達はそちらの方を振り向く。
何やら「逃げろ!」だの「いや撃て!!」等と慌てた感じになっているが楓達はまぁ、いいかと放っといてトランプを再開するのだった。
岡島達が化け物と騒いでいた正体はイタチだった。
走行してる最中に出会ってしまい、逃げようとしたのだがイタチはオモチャだと勘違いしてしまい、ラジコン車は見るも無惨な姿でイトナ達の元に帰ってきた。
「次からはドライバーとガンナーを分担しないとな。射撃は頼むぞ千葉」
「……おっ……おう」
岡島の言葉にしどろもどろとだが千葉は答えると岡島はご満悦と言う表情をしていた。
するとイトナはラジコン車のボディーを手に取りマジックで糸成Ⅰと書いていた。
「開発には失敗がつきものだ。糸成1号は失敗作だ。
だが、ここから紡いで強くする。よろしくなお前ら」
イトナの言葉に教室にいる男子全員はいい笑顔で返していた。
「よっしゃ!!3月までにはこいつで女子全員のスカートの中を覗き見るぜ!!」
岡島はゲスい表情をしながら高らかに宣言する。
しかし、先程までのっていた男子が誰1人として賛同していない。
「おいおい、どうしたんだよお前ら急に黙っちゃって?」
岡島はそう男子達に言っていた瞬間、ガシッと頭を鷲掴みされていた。
え?と言う表情をする岡島、チラッと目だけを移動させると楓がいる。
と言うことは楓ではない……では誰が?と岡島は考えていると男子達の表情が青褪めていることに気付いた。
「ねぇ、岡島君。3月までには何を覗くって?私達、聞き逃しちゃったから教えてくれると嬉しいな」
その声を聞くと岡島の顔から滝のように汗が流れ落ちていた。
岡島の後ろには女子達が全員いて、片岡が岡島の頭を鷲掴みしていた。
「どうしたの岡島君?私の言ってることが聞こえなかったのかな?」
優しい声で問いかける反面、鷲掴みをしている手に力が入っていた。
「ちょっ!?頭がミシミシと音たててるんだけど!!マジで勘弁してください!!」
岡島の必死の懇願も片岡はスルーし更に力を入れる。
それを見ていた男子達はヤバイと悟ったのか急いで逃げようとしていたがドアの前には既に原と速水が逃げ場を塞いでいた。
「あんた達にも話を聞きたいから教室の外から1歩も出るな」
中村の言葉に男子達ははい!と答えていその場でじっとしていた。
「で…………誰が首謀者?今、素直に言えば軽くで済ませてあげるわ」
中村はそう言いながら指をポキポキと鳴らす。
他の女子達も各々が掃除用具を持って素振りをしたりとどう見たって軽くではすまさないと物語っていた。
「こ、九重!!あいつがやれって命じてたんだよ!」
片岡に頭を鷲掴みにされたまま岡島はそう叫んで「そうだよなお前ら?」と言っていた。
「あ、あぁ……そうだ!」
「あいつに頼まれたんだよ!!」
「俺ら断ろうと思ったけど……」
「武器持って脅されたんだよ!!」
その言葉に女子達はキッと楓の方を振り向いていた。
当の楓はいまだに渚達とトランプをしていだが、男子達の言葉に中断し異議を唱えていた。
「裁判長、意義あり!!俺は一切の関与を否定する!勿論、証人も渚や磯貝、桐もいるからコイツらに聞いて見てもいい!」
女子達の視線が渚達の方にも向くと渚は畏縮した様子で楓の言葉に肯定していた。
「ほ、ほんとだよ。楓君は一切何もしてなかったよ」
「勿論、華鎌もだ。信じてくれ」
渚と磯貝の言葉に女子達はヒソヒソと話し出す。
「人害無畜な渚は信用出来ると思う」
と茅野。
「い、磯貝君もこう言うことはしないと思うので信じて良いと思います!」
と奥田。
「と言うか九重も華鎌も彼女いるんだしまずありえなさそう」
と岡野。
「楓君がこんなゲスい事する筈がないよ」
と陽菜乃。
「本当に何も参加してないのね?」
中村が楓達にそう聞いてくるので楓はじゃあと口を開く。
「律に確認してみろ。この間、防犯用に律本体にカメラを組み込んだんだ。
ついさっきの出来事も鮮明に映ってる筈だ。そうだろ律?」
「はい!何でしたら皆さんでご確認してみますか?」
律の言葉に女子達は頷き、それに対して参加していた男子達の汗は止めどなく流れていた。
少女達確認中…………nowloading…………
結果…………
「判決を言います………………ちょっと頭を冷やそうか?」
片岡の背後には某白い悪魔のような物が見え、男子達はズルズルと何処かに引きずられていった。
「「「「「「「「「ぎゃ―――――――――――!!??」」」」」」」」」
数分後、突然悲鳴のような物が聞こえていた。
「何か面白そうだからムービーに収めようwww」
カルマはそう言うと教室を後にする。
「悪は滅びたか…………」
「当然の結果ですね」
楓と華鎌はそう呟き渚達は苦笑いする。
その後…………岡島達の行方を知るものは誰もいなかった……
「「「「「「「勝手に殺すな!?」」」」」」」