その日の夜、楓と陽菜乃は華鎌と合流して次の下着ドロが来るであろう場所に向かっていた。
立派なレンガが聳え立っており、門には監視カメラも設置されている厳重な建物。
楓達は辺りを見渡して人がいないことを確認すると楓はレンガの壁に近付きしゃがんで手を組む、すると華鎌が走り楓の手を踏むと楓は力一杯振り上げてレンガの向こうに飛ばしていた。
敷地内に着地した華鎌は警備員がいないのを確認すると鎌でレンガを叩いていた。
「いないみたいだな陽菜乃は大丈夫?」
「うん!」
陽菜乃は楓に負ぶられながら頷くと楓は駆け出して思いっきりジャンプをすると、レンガを飛び越えていた。
「相変わらず出鱈目な身体能力ですね。3メートルはある高さを難なく飛び越えるとか有り得ませんよ」
着地した楓に華鎌は呆れており楓はどや顔で返していた。
「それにしても、本当にこの場所であってるんですか?」
「唯ちゃんの話じゃな。この建物は某芸能プロの合宿施設でこの2週間は巨乳を集めたアイドルグループが新曲のダンスを練習してるって事になってるらしい」
「なってるってどういう事ですか?」
華鎌の疑問に答えたのは楓ではなく陽菜乃だ。
「えーっとね、唯ちゃんの話ではこの建物にはアイドルが来てないんだって」
昼間、楓と陽菜乃は唯の所に訪ねて聞いて見るとサイトではアイドルがダンスの練習をすると載っているが監視カメラをハッキングして調べてみると何処にもアイドルの姿がないとの事だった。
「にも関わらず堂々と下着が干されてるのはおかしいと思わないか?」
楓は歩きながら指を差しそう答えていた。
差した方には大量の女性の下着や服が干されていた。
「……!楓、倉橋さんあそこ…………」
華鎌が何かに気付いたのか小さく声をかけて指を差す。
其処には渚、カルマ、茅野、寺坂、不破の姿があった。
「あいつらもここにたどり着いたのか」
楓は感心した風に言うと殺せんせーの姿も確認できた。
殺せんせーの服装は如何にも泥棒の格好をしており、下着を見て興奮していた。
「何か殺せんせーが一番危なく感じるのは気のせーかな?」
「気のせいじゃ無いと思う、寧ろ犯人にしか見えない」
華鎌も同じことを思ってるのだろう、頻りに首を縦に振っていた。
すると楓と華鎌は何かに気付いたのかレンガの方を向いてみると黄色いヘルメットをかぶった人が軽やかな身のこなしでレンガを飛び越えて真っ直ぐ下着の方へ走って行った。
「楓!」
「わかってる!」
楓はそう言うと素早く兜角を展開して真犯人の足元目掛けて投げ込んだ。
兜角が地面に刺さってるのを見て真犯人は怯み、その隙に背後に回った華鎌は鎌を真犯人の首筋に当てていた。
「それ以上動けばその首切り落としますよ」
殺気を放ちつつ言う華鎌に抵抗を無くしたのか男はただ立ち尽くしていた。
「おめーら何でここにいんだよ」
「俺等は俺等で独自に真犯人を探してたってことさ」
寺坂の言葉に楓はそう返すと陽菜乃は渚達に手を振っていた。
すると殺せんせーが指をポキポキと鳴らしながらこちらにやって来た。
「良く捕まえてくれました。さてよくもナメたマネしてくれましたね!!押し倒して隅から隅まで手入れしてやるヌルフフフ」
殺せんせーはそう言うと真犯人に絡み付き地面に押し倒していた。
「おいおい、いくら夜だからってこの作品はR-18作品じゃ無いぞ」
「それに作者はそう言う描写は戦闘以上に難しいからアウトだよ」
「テメー等は呑気にメタ発言してんじゃねー!!」
楓と不破の発言に寺坂はキレながら突っ込みをする。
「顔を見せなさい偽物め!!」
そんな中、殺せんせーは真犯人のヘルメットを外し素顔を見ようとしていた。
「……えっ!?」
真犯人の素顔をみた一同は驚きを隠せなかった。
その人物は烏間先生の部下の鶴田。
こんな事をする人じゃないと知ってる皆からは有り得ないと言う表情をしていた時、周囲に干されていたシーツが舞い上がり四方を囲む檻のようになって殺せんせーを囲い混んでいた。
「国にかけあって烏間先生の部下をお借りしてね、この対先生シーツの檻の中まで誘ってもらった」
そう言いながら現れたのは全身白づくめの格好をした白だった。
楓達は素早く渚達の所に行き警戒していると白はお構い無しと言った感じでこちらに手を振ってきた。
「やぁ、久しぶりだね。ちょっと君達の真似事をさせてもらったよ。
当てるより囲むべしってね」
そう言うと皆はハッとした表情でシーツの檻を見る。
夏休み、水の檻を作り殺せんせーを方位したように、あのシーツで殺せんせーを逃がさないようにしたのだろう。
調度、空いている真上からイトナが触手に何かを着けた状態で檻の中に入っていった。
「今回のこれは全部お前の仕業か」
「そういう事。街で下着を盗んだのも、殺せんせーの周囲に盗んだ下着やらを色々と仕込んだのもね。
あぁ、そこの彼を責めてはいけないよ。
仕上げとなるこの場所だけは代役が必要だったもんでね」
鶴田はしゃがみこみながら皆に申し訳なさそうな表情をする。
どうやら彼は烏間先生より更に上の人からの指示によりやらされたものらしい。
「問題ない。俺等で壊せばいいんだ」
「ですね」
楓と華鎌はそう言うと兜角と鎌を構えてシーツの檻に向かって走って行った。
しかしそれは叶わず目の前に1人の女が楓達に対峙していた。
「君達にはこれ迄に、2度も邪魔されたからね。今回は用心棒を用意してみたよ」
白はそう言うと「殺っちゃって良いよ」と女に言っていた。
「華蟷螂…………俺がやる」
「……わかりました」
「OK、渚達は其処でおとなしく待ってて」
楓がそう言って振り返ると刀を持った男が目の前に迫ってきていた。
「油断は禁物」
女はそう言うとナイフを取りだして突き刺してきた。
楓は体を捻らせて無理矢理回避したが、完全には回避できず制服が切り裂かれていた。
「あっぶねぇ……反応があと少しでも遅れたらアウトだったな」
楓はおちゃらけた雰囲気ではなく殺気を放ちつつ真剣に刀を持っている女を見ていた。
「お前、何者?」
「蚰蜒」
ふーんと楓は素っ気なく返すと素早く蚰蜒の前に移動して顔目掛けて拳を振るっていたが何時の間にか楓の横に立っていて蹴りを放っていた。
「あれ?どうした?クソ鈍いけど」
「ッチ!」
楓は兜角を蚰蜒に向けて振るったが難なくかわされていた。
「あははは!とろい!とろすぎんだけど!!」
蚰蜒はお腹を押さえて高笑いをし楓に指を差していた。
「あんた蟲だっけ?複数の師を持ってるって聞いたけど……確か蜘蛛、蜚蠊、兜蟲、芋蟲、巨針蟻だったっけ?
あぁ、これはとろい筈だわこんな鈍間な奴等が師匠何て」
楓は俯きながら黙って聞いている。
それを見ていた陽菜乃は楓が馬鹿にされているのに沸々と怒りがこみ上げていた。
「まぁ、落ち着きなよ。九重がこの程度でやられるたまじゃ無いのは倉橋さんも知ってるじゃん。
それに倉橋さんがここでキレてても何も変わりはしないんだし」
「……うん。ごめんね……私が楓君を信じなきゃダメだよね」
陽菜乃は申し訳なさそうにそう言うと皆は問題ないと言って不破や茅野は宥めていた。
「ねぇ、倉橋さんゲジってどういう虫なの?」
渚の疑問に陽菜乃はんーとねと顎に指を当てながら思い出すように説明をした。
「確かクモ、ゴキブリ、ゲジの最速を誇ると言われてる3種は分類上、遠戚にあたるんだ。
瞬発力に優れたクモ、先読み行動を鍛えたゴキブリ、軽量化・代謝強化の肉体改造をしたゲジ。
まぁ、簡単に言うと走力の早い虫って事だよ」
「……成る程ね最速を誇るから九重の事をトロいって言い切れるのか」
陽菜乃の説明に合点が言ったという感じでカルマは頷いていた。
実際、ゲジは走行性能のみを見ると完全にクモとゴキブリを上回る。
迅速に状況把握を可能にする大型複眼に呼吸を効率化しエネルギー代謝を高めるため背面に並んだ気門、高速移動に特化するための無数に伸びた細長い肢。
更には無駄を省き軽量化した外骨格などと各器官の性能も尽く上回っている地上最速の捕食性節足動物である。
「まぁ、問題ないしょ。九重のやつまだ集中しきって無いみたいだし。でしよ華鎌?」
カルマはそう聞くと華鎌はニコッと笑い縦に頷いていた。
「当たり前です。速さだけが取り柄の相手に蟲が遅れをとる筈がありませんよ」
そう言うと華鎌は戦闘の方に目を向けるのである。
楓は俯きながらじっとする。
心臓の脈が段々早く鼓動するのを感じ、それに加えてヒートアップによる興奮させてより鼓動を加速させる。
(あれから練習したんだ……その成果をお前で試させてもらう)
楓は顔をあげて蚰蜒を見ると素早く蚰蜒の横に立ち裏拳を御見舞いさせる。
しかし蚰蜒の方が若干反応が早かったのか地を蹴って威力を半減させていた。
しかし、楓はそれに対して特に何も思わず静止した世界に入ると素早く蚰蜒の前に移動して腹に拳を御見舞いさせていた。
「おっ、楓は漸くものにしたみたいですね」
蚰蜒相手に圧倒している楓を見ながら華鎌はポツリと呟く。
「おい、もしかしてあの野郎……夏休みにやって失敗したやつをやってんのか?」
「そうですよ寺坂君。ですが心配は無いです。夏休みの間に同じ失敗を繰り返さない為にも完全に自分の物にしてますから」
そういって再び楓の方を見てみると余裕で立っている楓と肩で息をして如何にも疲労困憊の蚰蜒の姿があった。
「どうした?この程度の攻防で疲れたのか?」
楓のあからさまな挑発にのった蚰蜒はスピードを使って楓の周りを走り死角からナイフで楓に切りつけようとしていた。
メキッ!
しかしそれは叶わず変わりに楓の兜角が蚰蜒の顔にヒットして吹き飛んでいた。
「残念、お前がどんだけ死角から攻撃しようとも気流の流れを読めば簡単に避けれるんだよ」
楓は兜角を肩に担ぎながらそういって蚰蜒をスレッドで縛り付けていた。
「さて……殺せんせー救出に行きますか」
そう言って楓は踵を返し、シーツの檻の方に向かおうとしたら突然、強烈な衝撃がシーツの檻がバラバラになりイトナが宙に舞い上がっていた。
「なんだよ今の?」
楓の疑問に殺せんせーはイトナをキャッチしながら答える。
「先生も日々成長するんですよ九重君。夏休みの間に先生も1つ技を学習したんですよ」
殺せんせーはヌルフフフと笑った後、白の方を向いていた。
「さて、白さん。もう私にはこの手の奇襲は通じませんよ。
彼をE組に預けておとなしく去りなさい」
「おいおい殺せんせー……去れなんて酷すぎない?」
「そうですよ、ここはゆっくりお話でもしませんか?」
白の背後に楓と華鎌が其々武器を持って構えていた。
更に、少し離れて白の左右には寺坂とカルマがスタンガンを持ってかまえている。
少しでも動けば殺ると言う気迫が楓達から伝わっていた。
「い…痛い、頭が痛い脳みそが裂ける!!」
突然、イトナが頭を押さえながらもがき苦しんでいた。
そんなイトナの様子を見ていた白は淡々と答える。
「度重なる敗北のショックで触手が精神を蝕み始めたか。
ここいらがこの子の限界かな?
イトナ君の触手を1ヶ月健全に維持するのに火力発電所3基分のエネルギーがいる。
これだけ結果が出せなくては組織も金を出さなくなるよ。
君に情が無い訳ではないが、さよならだ。
後は1人でやりなさい」
白はそう言うと踵を返し楓と華鎌の方を向いて歩き始める。
「行かせると思ってるんですか!!」
「一辺吹き飛べ!!」
楓と華鎌はそう叫び、武器を白に向けて振るったが難なくかわされて歩みを止めなかった。
「「!?」」
「待ちなさい!!
あなたはそれでも保護者ですか!!」
「教育者ごっこしてんじゃないよモンスター。何でもかんでも壊すことしか出来ないくせに。私は許さない……お前の存在そのものを。どんな犠牲を払ってでもお前を殺す」
「ハッ、まるで因縁あるみたいな言い方だな」
「黙れよ2度ならず3度も邪魔して…………そのうち痛い目を見るよ?」
「上等!直ぐにでもやって見せろよ」
楓の挑発気味の言葉にふんと言い白はそのままレンガを飛び越え、壁の上に立っていた。
「それより良いのかい?大事な彼女を放っておいて」
その言葉に楓はハッと陽菜乃の方を向いて駆け付けた。
イトナが痛みのあまりに暴走して触手を振り回していた。
楓は陽菜乃の前に立ち、兜角で払いのけており殺せんせーや華鎌も寺坂や渚達を守っていた。
暫くするとイトナは悲痛な叫びを上げてレンガの塀を飛び越え、夜の街に消えていった。
それと同時に白いなくなっており、更にスレッドで縛り上げていた蚰蜒も行方を眩ませていたのであった。