プロの暗殺者は学生?   作:☆麒麟☆

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呪いの時間

2学期の始業式、夏休み気分が抜け出せない人もいたりするなかE組の多くの人が眠たそうにしていた。

昨日の肝だめしのせいで、渚達は恐くて眠りにつくことが出来なくて布団の中でゴロゴロとしているといつの間にか朝になっていたのだ。

結果、皆は寝不足で始業式に挑まないと行けなくなった。

ただでさえアウェーな本校舎と言うこともあって皆の足取りは重たいものになっていた。

 

「久しぶりだなE組ども」

 

そんな中、今は1番関わりたくない奴等の声を聞いて皆は依り一層、不機嫌になった。

声をした方を振り向いてみると其処には五英傑の奴等が立っていてニヤニヤと笑って見ていた。

 

「ま……お前らは2学期も大変だと思うがよ」

 

「メゲずにやって「お前ら邪魔くさい。退けろ」あ!?」

 

小山は言葉を遮られて怒ったように振り返ると其処にはかなり不機嫌な楓がいた。

 

「聞こえなかったか?退けろと言ったんだ」

 

楓の圧力に五英傑はたじろいでその場を後にしていた。

 

「頗る機嫌が悪いね楓くん」

 

「きのう寝れなかったんだよ…………」

 

((((あぁ……皆同じなんだ))))

 

フラフラと歩きながら列に並びに行く楓を見ながら渚達はそう思っていた。

始業式が始まるとE組の多くの人はコクリコクリと船を漕ぎながら式に参加していた。

 

「「クゥー…………クゥー……」」

 

否、2人は完全に熟睡していた。

陽菜乃は後ろにいる楓に体重を預け、その楓は片手で支えて器用に寝ていた。

陽菜乃と楓の前後の人は堂々と寝てることに怒りを通り越して苦笑いしていた。

野球部が都大会準優勝した報告を済ませると荒木が檀上の前に立ち生徒の方を向いていた。

 

『…………さて式の終わりに皆さんにお知らせがあります。

今日から3年A組に1人仲間が加わります。

その人は昨日までE組にいました』

 

「「「「「!!?」」」」」

 

荒木の発言に船を漕いでいたE組の人達も眠気が吹き飛んでいた。

楓も片目を開けながら檀上の方を見ていて、陽菜乃は「ふぁ?」と寝惚けた声を出していた。

 

『しかし、たゆまぬ努力の末に好成績を取り本校舎に戻ることを許可されました。

では彼に喜びの言葉を聞いてみましょう!』

 

荒木はそう言うと壇上から離れていった。

その元E組の人は浅野から何か渡されて壇上に立った。

その人物は…………竹林だった。

竹林の姿に皆は完全に意識を覚醒してステージにいる竹林に凝視していた。

 

「え?何で竹ちゃんがステージの壇上に立っているの?」

 

皆より後に意識がハッキリした陽菜乃からしたら今の現状は意味が解らないと言った感じだった。

 

「後で話すから今は竹林の話を聞こう」

 

楓はそう言うと陽菜乃はコクリと頷いて楓に預けていた体重を前に戻し、自分の足で立って話を聞いていた。

 

『…………僕は4ヶ月余りをE組で過ごしました。その環境は一言で言うなら地獄でした。

やる気の無いクラスメイト達は先生方にも匙を投げられ、怠けた自分の代償を思い知りました。

もう一度本校舎に戻りたい…………その一心で死ぬ気で勉強し生活態度も改めました。

こうして戻って来られたことを心底嬉しく思うとともに二度とE組に墜ちる事のないように頑張ります。

…………以上です』

 

竹林はそう言うとペコリと一礼していた。

E組の皆は勿論、他の人達も唖然としているなか浅野はパチパチと1人拍手していた。

 

「おかえり竹林君」

 

浅野のその一言に全校生徒は拍手をしていった。

 

「おかえり、よく頑張った!!」「偉いぞ竹林!!」「お前は違うと思ってたぞ!!」

 

本校舎の生徒達は口々にそう言って称賛の言葉を送ってるなか、E組の皆は呆然と立ち尽くすしか無かった。

 

 

 

 

E組の教室に戻るや否や皆は次々と先程の式についての…………いや、竹林の発言に不満を爆発させていた。

 

「なんなんだよあいつ!!100億のチャンス捨ててまで抜けるとか信じらんねー!!」

 

前原は怒鳴り散らしながらドン!と黒板を叩いていた。

 

「しかもここの事、地獄とかほざきやがった!!」

 

「言わされたにしたってあれは無いよね」

 

木村と岡野も不満を漏らしてるなか、片岡はポツリと呟いた。

 

「竹林君の成績が急上昇したのは確かだけど……それはE組で殺せんせーに教えられてこそだと思う。

それさえ忘れちゃったのなら…………私は彼を軽蔑するな」

 

「兎に角、ああまで言われちゃ黙ってらんねー!!放課後、問いただしに行くぞ!!」

 

前原は怒鳴りそう言うなか、楓は黙って静かに聞いていた。

他の人達も皆、ショックからか何時もの元気さはない。

其ほどクラスでは目立つ存在じゃ無いものの、竹林というだった1ピース欠けただけでもクラスのダメージは大きかったのである。

 

 

 

 

一方その頃、烏間先生は竹林と対面して座り話をしていた。

 

「君の進路選択は尊重するし、君を信頼して記憶消去等の措置は見送る。

だが、新しいクラスでも暗殺の事は絶対口外しないように」

 

烏間先生は念を押すようにそう言うと竹林は心外だと言わんばかりの表情をして眼鏡をクイッと上げ直していた。

 

「わかってますよ。僕がそこまで頭悪く見えますか?」

 

竹林はそう言うと失礼しますと言って後にした。

竹林が去った後、烏間先生は竹林の事を思い出していた。

 

(竹林孝太郎…………暗殺の訓練では真面目で意欲的にやってくれていたが成績は最下位。

勉強もガリ勉と言うかどこか要領が悪かった…………

しかし、医療の知識と冷静な視点で状況を分析できる生徒だったな)

 

烏間先生は一学期の時、殺せんせーと生徒の話をしたときの事をふと思い出していた。

 

「彼は勉強のコツを知らないだけです。量をこなせば成績が上がると思ってしまう典型です。彼が最小限の勉強で済むように、彼に合った理想の勉強法を見つけ出します」

 

烏間先生は殺せんせーと親密な関係ではない。

しかし教師と言う仕事上、相手がターゲットであろうと生徒の事ではどうしても話をしなければならない。

何でも解ってるような発言をしたりする殺せんせーにイラッとする時もあって相容れないが、其処は仕方がないと割りきっている烏間先生である。

 

(…………成績を伸ばした結果がこれとは皮肉なもんだ)

 

烏間先生はそう思い溜め息を吐くと。

気持ちを入れ替えて部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

更にもう一方で殺せんせーは理事長に訳を聞くべく理事長室に足を運んでいた。

 

「いつもやってる事ですよ。

ここ時期に頑張ってる生徒に接触してE組脱出を打診する。

九重君には断られたしたが竹林君は例年通り二つ返事で受けてくれましたよ」

 

「…………!!」

 

「今日の集会を見ましたか?全校生徒も私の教えんとしていることをわかってくた。

頑張った分報われるて弱者から強者になれる。

殺せんせー、私は何か間違った事を教えていますか?」

 

「…………いえ、間違ってません」

 

理事長の正論に殺せんせーは論破されてそう言うと、とぼとぼと歩き窓を開け理事長室から去っていった。

理事長はそんな殺せんせーを見て口角を上げているのだった。

 

 

 

 

 

放課後、竹林が本校舎から出てくるのをE組の皆は見つけて前原は声をかけて呼び止めていた。

 

「おい竹林!」

 

呼び止められた竹林はピタッと立ち止まり、皆の方を向いていていた。

 

「説明してもらおうか、何で一言の相談も無いんだ竹林?」

 

「何か事情があるんですよね?」

 

磯貝と奥田はそう言うも竹林は沈黙をしていた。

それに見兼ねたカルマは挑発気味に口を開いた。

 

「烏間先生から聞いたんだけど賞金100億…………殺りようによっちゃもっと上乗せされるらしいよ。

それなのに分け前いらないんだ竹林……無欲だね~」

 

その言葉を聞いた竹林は眼鏡を上げて徐に口を開いた。

 

「…………せいぜい10億円」

 

「「「「?」」」」

 

竹林の言葉に一同はどういう意味だと考えてる中、竹林の説明が再開した。

 

「僕単独で100億をゲットするのは絶対無理だ。

上手いこと集団で殺ったとして分け前は10億がいいところだね。

僕の家はね代々病院を経営している。

兄2人も揃って東大医学部だ。

10億って金はうちの家族には働いて稼げる額なんだ。

僕の家は“出来て当たり前”の家なんだ……出来ない僕は家族として扱われない。

昨日、初めて親に成績の報告が出来たんだ…………トップクラスの成績を取ってE組から抜けれる事を……そしたら『頑張ったじゃないか、首の皮一枚繋がったな』って。

その一言をもらうためにどれだけ血を吐く思いで勉強したか解るか九重?」

 

竹林に聞かれた楓は困った表情をしながら口を開いた。

 

「ごめん、正直わかんない…………俺は早々に捨てられた身だから。

まぁ、前原とかはかなり切れてるけど、竹林は自分で決めてE組を抜ける事にしたんだろ?

それなら俺はA組でも頑張ってくれってしか言えないよ」

 

楓の言葉に竹林はハッとした表情をしていた。

 

「…………すまない。失言だった」

 

竹林は顔を背けながらも謝っており、楓は気にしてないと言っていた。

 

「兎に角、僕にとっては地球の終わりや100億よりも家族に認められる方が大事なんだ。

裏切りや恩知らずとも言われても言い…………君達の暗殺が上手くいくことを祈ってるよ」

 

竹林はそう言い終わると足早にその場を去っていった。

渚は竹林を止めようと呼び止めようとしたが、それは神崎に止められていた。

 

「やめてあげて渚君…………親の鎖って……凄く痛い場所に巻き付いていて離れないの。

だから……無理に引っ張るのはやめてあげて」

 

E組の何人かの生徒には親の鎖が巻き付いていて神崎もその1人。

だからか竹林の苦悩を理解できた。

他の人達もこの一件は無闇に踏み込んでは行けないと悟り、ただ竹林の背中を見るしか出来なかった。


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