今回は犬のゆず視点で書いてみました!
E組の校舎にある犬小屋でその子の一日が始まる。
その子は飼い主に捨てられたところを楓と倉橋に拾われて一時的だがE組の一員として日々を過ごしている。
その子の名前はゆず。
E組の皆で決めた名前だ。
男の子でオレンジの短毛種が特徴のミックス犬だ。
日本犬のようにクリンと丸まった尻尾にシャキッと立っている耳にキリッとした顔立ちの生後、9ヶ月程の子だ。
今は小屋の中でぐっすり眠っているが足跡が聞こえてくると耳をピクピクと動かし、バッと起き上がると小屋から出て尻尾をこれでもかと言う程にブンブン振っていた。
「あっ!ゆず、おはー!」
現れたのは倉橋でその手にはエサの入ったお皿が入っていた。
「ゆず、お座り!」
倉橋がそう言うとゆずはバッと座っていて言うことを聞いていた。
倉橋は餌皿をゆずの前に置くと「待て」と言われていた。
「ゆず、待てだよ~!何れぐらい待てるかな?」
そう言うと倉橋はしゃがんでジッとゆずを見ていた。
一方のゆずはエサの入った皿を見てから倉橋を見る……またエサの入った皿を見るの繰返しをしていた。
10秒……20秒と待っていると段々、ゆずの口からは速く食べたいという意思表示なのかヨダレが垂れていた。
たった数秒が何分にも感じられる中、倉橋から「よし!」と言う声を掛けられたのでゆずは素早くエサにかぶりついてガツガツと食べていた。
倉橋は食べているゆずの頭を撫でると小屋の周りに落ちている糞を処理して悪臭を押さえる液のようなものを振り掛けていた。
この作業は基本的に楓と倉橋の2人がやっていて、たまに渚や片岡が率先してやることがある。
倉橋が糞の処理が終わったと同時にゆずも完食したみたいで、餌皿を咥えながらパタパタと尻尾を振りながら倉橋の元に駆け付けていた。
「あぁ、お皿持ってきてくれたの?お利口さんだねぇ!」
「ーー♪」
倉橋はそう言うとゆずの頭を撫でていて、ゆずは嬉しそうに目を細めていた。
倉橋とゆずは家庭科室に行き皿を洗うと教室に向かっていた。
ゆずは基本的にリードや鎖で繋ぐという事は一切していない。
一応、首輪は常にしているがこれはもう飾りの一部みたいになっていた。
ゆずは校舎の中ではオシッコやウンチを全くしなく、ダメな事はダメと言ったら素直に聞くので基本はフリーにさせているのだ。
教室に入ると何人か来ており、皆訓練が始まるまで談笑したり机で寝たりと好きにしている。
「あっ、ゆずも来たんだ!」
そう言ったのは矢田で、話をしていた中村や岡野もそれに気付いて撫でていた。
ゆずは甘えん坊な性格な為か女子からも非常に人気があるのだ。
抱き付かれたり撫でられてるゆずはとても幸せそうな顔をしていて、尻尾も絶えずパタパタと振ってることからご機嫌な様子が見てとれる。
「あぁ、良いよな。ゆずは……俺も犬になったら、ゆずみたいに持て囃されるのかな……エヘヘ」
女子に可愛いがられてるゆずを羨ましそうに呟く岡島は何か妄想をしながら1人で笑っていた。
岡島と話をしていた菅谷と三村の創作組は岡島の様子に若干引いていた。
「うわぁ……キモいわぁ」
中村の一言に女子達はウンウンと頷いていた。
「なーんか岡島が犬になっても今と変わらなそう」
「執拗に女子をペロペロと舐めてそう」
「て言うーか常時、発情していてメスなら何でも腰振ってそう」
「「「「「あーあり得る」」」」」
中村の一言に女子だけでなく菅谷と三村まで声を揃えて言っており、岡島は暫く立ち直れない迄にダメージを負っていた。
「そーいや、愛しの彼氏様は?」
中村のからかいに倉橋はカアッと赤面していた。
「…………何かアリスさんいるから、ギリギリまで訓練見てもらうって。学校につくのもギリギリになるって言ってた」
倉橋は恥ずかしがりながらもそう言うと成る程と頷いて赤面している倉橋の頬を突っついて弄るのであった。
時間になり、訓練の時間になるとゆずはとてつもなく暇になっていた。
この時間は誰も構ってくれないのでゆずはトコトコと歩き周ることにした。
パァン‼パパァン‼
何処かで発砲音が聞こえたゆずは其処に向かってみると、千葉と速水が黙々と的目掛けて撃っていた。
発砲音だけが響き渡っていて誰かの声は一切聞こえない状態だった。
ゆずは伏せながらその光景をジーっと眺めていること数十分後、2人は銃を降ろして休憩を入っていた。
夏の暑さか額には汗でびっしょりとしており、タオルで拭きながらスポドリを飲んでいた。
「あっ…………ゆず」
速水がふと視界にゆずを見掛けていつの間に……と呟いていた。
千葉の方も速水の言葉でゆずがいることに気付き、しゃがんで撫でていた。
撫でられてる内に、ゴロンとお腹を見せるように転がっており、千葉と速水はお腹を撫でて見ると尻尾が左右に振っていて落ち葉を掻き分けていた。
この2人はあまり表情を表に出さないのだが雰囲気からか楽しそうだとゆずは察していた。
数分後、2人はまた訓練を再開するみたいでゆずから離れていった。
パァンと発砲音がすると2人は的にだけ集中しており、ゆずはその場を後にするのだった。
校舎の方に戻ってみると日陰で寺坂が休憩しているのを見掛けた。
ったく、あちーなぁ……とボヤきながら服をパタパタと扇いでいるとゆずを視線に捉えていた。
「けっ、お気楽そうな顔しやがって……」
寺坂はそう言うと周囲を窺って、誰もいないのを確認していた。
「おら、来いよ。少し遊んでやるから」
寺坂の言葉にゆずは駆け付けていた寺坂の顔をペロペロと舐めていた。
「ベトベトするから辞めろや」
言葉では嫌々見たいに聞こえるが、表情は寧ろ逆で嬉しそうにしていた。
近くに程良い長さの木の枝が落ちていたので寺坂はそれを手にとって楓や倉橋がゆずと遊んでいたやり方を思い出しながらゆずと遊んでいた。
木で引っ張ったり、木を遠くに投げて持ってこさせたり……
満更でもない表情で楽しんでいるとカシャッ!とカメラの音が聞こえていた。
寺坂は恐る恐る振り返るとカルマがカメラを片手に何度も撮影していた。
「いやぁ、面白いものが撮れたなぁ。普段は犬なんてって言ってる寺坂が楽しそうにゆずと遊んでるなんて……皆に見せてこよーっと」
「待てやコラァー!!」
カルマはそう言うと素早く皆の居るところに走って行き、寺坂は恥ずかしさからか赤くなりながらカルマを追いかけていった。
遊び相手が居なくなったゆずはまた歩いて行くとグラウンドでジッと生徒達を見ている烏間先生の姿があった。
ゆずは構ってもらおうと烏間先生の足をちょんちょんと引っ掻いていた。
烏間先生がゆずに気付くと、わしゃわしゃっとちょっと乱暴な感じで撫でていた。
「すまんが今は相手が出来ない……後でな」
「ワン!」
烏間先生の言葉に解ったとでも言うかのように吠えるとその場から離れていった。
しかし、皆は訓練に集中しており誰も構ってくれないのでゆずは大人しく小屋に戻って半ばふて寝のような感じで眠りに付くのだった。
暫くすると賑やかな声が聞こえてきたのでゆずは小屋から出て体を伸ばすと皆の所に向かった。
「おっ、ゆず!」
楓はゆずを見掛けると同時に声をかけるとゆずは素早く飛び付いていた。
「おっとと……」
楓は飛び付いてきたゆずをしっかりとキャッチするとゆずを頭の上に乗せていた。
ゆずは楓の頭の上でまったりしていて、ゆっくりと尻尾を振っていた。
「楓と倉橋に随分懐いてるよな」
「我が子のように接してるからな」
「成る程……カップルの子供だからっと」
前原の言葉に楓はパキパキと指を鳴らしていた。
「どうやら前原はまだ余裕があるみたいだな……もう少し訓練しとくか?」
楓はそう言うと前原は無言で走って去っていった。
「でも良かったぜ。クラスではまだなのかまだなのかって皆、首を長くしてたんだからな」
「…………マジかよ」
磯貝の言葉に楓はあり得ないと言う感じで言うと磯貝は「いや、マジで」と返されてバツが悪い顔をしていた。
「未だにコクってなかったら、この作品タグに主人公ヘタレってついてたな」
杉野はクククと意地の悪い感じで言っていた。
その後も楓は弄られながら教室に戻っていくのだった。
今日の訓練は午前中で終わったので午後は皆、フリーだった。
家に帰る人もいれば何処か食べに行く人もいるし、学校に残ってる人もいた。
楓は外でゆずの毛をブラッシングしていた。
ゆずは楓の膝の上で気持ち良さそうにして、こくりこくりと眠たそうに船を漕いでいた。
やがてゆずはクーと寝息をしながら眠りについていた。
楓はブラッシングを辞めてそのまま、横になってゆずと一緒に昼寝をするのだった。
「楓くーん!…………って寝てる」
其処に倉橋がやって来て、楓が寝てることに気付いた。
頬をツンツンと突っついて見ても起きる気配が全く無かった。
「うーん、何処か買い物行こうって思ったけど…………まっ、いっか!」
倉橋はそう言うと楓の横に座り、小さくアクビをするとそのまま楓の腕を枕にして倉橋も昼寝をするのだった…………
余談だが、2人と1匹の昼寝姿を中村に写真を撮られ拡散され、皆はLINEのクラスルームの背景をその写真にされるのだった。