最上階の10階。
そこで見張りをしていた男を烏間先生は素早く首を絞めて気絶させていた。
「ふうぅ…………大分体が動くようになってきた。まだ力半分ってところだがな」
烏間先生はそう言うと華鎌と一緒に周囲を警戒していた。
「力半分ですでに俺等より倍強ぇ……」
「あの人1人で侵入していった方が良かったんじゃ……」
木村と片岡はそんな烏間先生を呆れながら呟いていた。
そんな中、楓は怪我をした腕を押さえながら気絶している男のポケット等を漁っているとカードのようなものが出てきた。
「烏間先生」
楓は烏間先生を呼んでカードを渡していた。
「恐らくこの先の部屋に入るカードキーだな」
烏間先生がカードキーを見て呟いていると最上階部屋のパソコンに侵入していた律が戻ってきた。
「皆さん。最上階部屋のパソコンカメラに侵入して上の様子を観察出来るようにしました」
律の言葉に皆はバッと自分のスマホやケータイに目をやった。
「この最上階一室は貸し切りになってるみたいで、確認する限り残るのは……この男ただ1人です」
律がそう言うと映像は男の後ろ姿を映していた。
男はタバコを吸いながら監視カメラで、感染したE組の事を楽しそうに見ていた。
「楽しんで見てやがるのが伝わってきやがる、変態野郎が」
寺坂はその映像を見て怒りでワナワナと震えていた。
皆も言葉には出ていないが寺坂と同じ気持ちだった。
「あのボスについて解った事があります。黒幕の彼は殺し屋ではない。殺し屋の使い方を間違えてます。元々は先生を殺すために雇った殺し屋……ですが先生がこんな姿になったので警戒が薄れて見張りと防衛に回したのでしょう。でもそれは殺し屋の本来の仕事じゃない、彼等の能力はフルに発揮すれば恐るべきものになります」
「確かに……さっきのコンサートホールでの銃撃戦も戦術では勝ったけど、あいつ狙った的は1cmたりとも外さなかった」
千葉と速水は先程の戦闘を思い出しながら言うと殺せんせーは頷いてカルマの方を向いた。
「カルマ君もそう。敵が廊下で見張るのではなく、日常で後ろから忍び寄られたら……あの握力に瞬殺されていたでしょう」
カルマは殺せんせーの言葉を想像したのだろう。
冷や汗を滴ながら引きぎみに笑いながら「そりゃね」と呟いていた。
「俺達1つ疑問に思ったんだけど殺せんせー良い?」
楓と華鎌は真剣な表情で殺せんせーに聞いてみた。
殺せんせーは縦に頷いてどうぞと言うと楓は口を開いた。
「気のせいかも知れないけど殺し屋の奴等……鉄腕とビックフットは置いといて、他の奴等はどうして自分の存在を知らせるように動き回ってたんだろ?」
楓の疑問に渚達は首をかしげていた。
「スモッグっていう殺し屋はあからさまに気配を消していたし……カルマと戦ったおじさんぬも吉田や矢田でも解るようにあからさまに気配を出していた。更にギロチンに至っては俺達の前に出て堂々と出てきて宣戦布告までしてきた。コンサートホールでの奴は俺達が先にいたから解るちゃ解るけど、他の奴等はやっぱり変なんだよ。気付かれずに報告をするなり始末するならもっと楽に出来た筈なのに…………」
楓は顎に手を当てながら考えていた。
華鎌も同じ疑問だったので表情はとても真剣であった。
「残念ながら先生は彼等ではありませんので彼等は何を考えているのかは解りません」
殺せんせーの言葉に楓はですよねーと苦笑いしながら答えていた。
「君の疑問は黒幕から薬を奪い取って制圧してから彼等に聞くとしましょう」
殺せんせーの言葉にそれしかないかと楓と華鎌は考えるのをやめていた。
一方の烏間先生も今気絶させた男や、7階にいた見張りの男2人について考え事をしていた。
実はこのリゾート島に来る前に何人かの殺し屋達をロヴロに紹介してもらうつもりだったのだが、その者達の連絡が一切つかず、同時に防衛省でも問題が起こっていた。
「烏間先生?」
考え事に没頭していたのを不思議に思ったのか、片岡は烏間先生に声をかけていた。
「……いや」
烏間先生そう言うと一旦この疑問は置いとこうと考え、皆に役割分担を指示していた。
そんな中、寺坂の足がガクガクと震えており踏ん張るように立っていた。
それに不信に思ったのか渚は静かに寺坂の首筋を触ってみると物凄い熱で驚いていた。
寺坂は渚の口が開く前に手で覆い隠して、誰にも聞かれないように小さく答えた。
「(黙ってろよ……俺ゃ、体力だけはあんだからよ……こんなモン放っときゃ治んだよ。俺は自分の浅はかな行動のせーで烏間の先公に……いや、それ以上にクラスの皆にも多大な迷惑をかけたこともある。こんなところで脱落してこれ以上足引っ張れるわけねーだろ)」
寺坂は荒々しい息と共にそう言うと、渚は解ったと小さく頷き答えていた。
そんな光景を見ていた楓は寺坂に近付き、誰にも聞こえないように小さく呟いた。
「(ここまで来たんだ。くたばるなよ?)」
「(はっ、あたりめーだろ)」
そう言うと楓達は皆の後に着いてくように歩いていった。
最上階の通路は1本途で奥に立派な扉があった。
烏間先生はカードキーを差し込み、静かに扉を開けると皆はナンバ歩行をして静かに接近をしていた。
手と足を一緒に歩くことで軸がぶれる無駄がなくなり、更に衣擦れや、靴の音も抑えることが出来ると隠密をするのには打って付けの歩方。
殺せんせーはその出来栄えに素直に感心すると共に、最近の暗殺では物音立てるの暗殺が減っていることを思い出していた。
(一刻を争う緊急時なのに決して焦らず悲観せず。流石は私の自慢の生徒です。…………だからこそ決して目の前の敵に屈してはいけませんよ)
殺せんせーは口には出せないが内心の中で確りとエールを送るのであった。
黒幕の背後を視認出来るぐらいの距離になると楓はナイフを取り出していた。
そのナイフの刃には昏倒蠍毒が付着されており、これが体内に入ると相手を1時間程気絶させる事が出来。
烏間先生が銃を撃ち、黒幕の腕を狙撃したあとに楓の毒ナイフを投げ刺し倒れたところを皆で確保すると言う算段になっている。
皆はジリジリと近付き、烏間先生と楓は頷き合い……今!と言う瞬間…………
「かゆい」
男の声が突如、声を発して驚いていた。
「思い出すとかゆくなる。でも、そのせいかな…………いつも傷口が空気に触れるから……感覚が鋭敏になってるんだ」
黒幕の男はバッと何かを放り投げていた。
それは何かのスイッチのようなものが無数に床に落ちていった、これがウィルス治療薬につけられている爆弾の起爆装置だと皆は瞬時に理解した。
華鎌は黒幕の男の行動に驚いているいたが代えで達は違う。
前よりも邪気を孕んでいたが聞き覚えのある声……それに楓達は驚いていた。
「……連絡がつかなかったのは何人かの殺し屋の他に身内もいた。防衛省の機密費……暗殺に使う筈の金をごっそり抜いて……俺の同僚が姿を消した。…………どういうつもりだ鷹岡!!」
烏間先生の言葉と共に鷹岡は皆に顔を見せていた。
両頬には掻き毟ったかのような傷があり、狂気と憎悪の瞳と共に楓達を見ていた。
「悪い子達だ……恩師に会うのに裏口から来るとは……父ちゃんはそんな子に教えたつもりはないぞ。しょうがない夏休みの補習をしてやろう……着いてこい」
鷹岡の言葉に皆は渋々着いていった。
命令に逆らえば起爆スイッチを押すぞ?と言わんばかりの態度をされて、皆は従うしか無かった。
鷹岡の後に着いていった一同がたどり着いたのは屋上のヘリポートだった。
「気でも違ったか鷹岡。防衛省から金を盗んだ金で殺し屋を雇い生徒達をウィルスで脅すこの凶行!!」
「おいおい、俺は至極まともだぜ!これは地球を救う計画なんだ。おとなしく2人に賞金首を持ってこさせりゃ……スムーズに仕上がったのにな。計画では茅野とか言う女に賞金首を抱いて部屋のバスタブに入ってもらう。そこには対先生弾がたっぷり入れてあるんだ。更にその上にセメントで生き埋めにする。対先生弾に触れずに元の姿に戻るには生徒ごと爆発しなきゃいけないが、生徒思いの殺せんせーは
そんな酷いことしないだろ?おとなしく溶かされてくれると思ってな」
鷹岡の言葉に皆は悪魔を見るような目で鷹岡を見て身震いをしていた。
「許されると思いますか?そんな真似が」
殺せんせーの顔は真っ黒では無いものの、その声には怒気が含まれていた。
それでも、鷹岡は気にも留めず口を開いた。
「これでも人道的さ。お前らが俺にした……非人道的な仕打ちに比べりゃな…………特に潮田渚、俺の未来を汚したお前は絶対に許さん」
そういって鷹岡が渚を指差していた。
「背の低い生徒を指定したのは渚を狙ってたのか」
「完璧な逆恨みじゃねーか!」
千葉と吉田が唸るように言うなかカルマも表情を険しくしながら口を開いた。
「その対格差で勝って本気で嬉しいわけ?俺ならもーちょっと楽しませてやれるけど?」
「イカレやがって、テメーが作ったルールの中で渚に負けただけだろーが。言っとくけどな、あの時テメーが勝ってよーが負けてよーが俺等テメーの事大ッ嫌いなんだよ」
「ジャリ共の意見なんざ聞いてねぇ!!俺の指先でジャリが半分減るってこと忘れんな!!」
カルマの後に寺坂もそう言っていたが鷹岡は叫びながらそういって黙らせていた。
「(華蟷螂、鎌1本貸してくれ。奴の手ごと切り落とす)」
「(そのコンディションで出来るんですか?)」
「(静止した世界を1回だけなら使用出来る)」
楓の言葉に華鎌は渋々だが鎌を渡して、楓は攻撃の体勢に入ろうとした。
しかし、鷹岡はそれを予期していたかのように楓の方を振り向いた。
「おっと!変な真似はするなよ?焦って押しちまうからな」
楓は苦虫を噛んだような表情をしながら手を出すことが出来ずにいた。
「潮田渚、お前は1人でヘリポートまで登ってこい」
渚は茅野に殺せんせーを渡すと寺坂を心配そうに見つめて鷹岡の言う通りヘリポートに登っていった。
鷹岡は渚が登り終えるのを確認したらはしごを倒して誰にも来させないようにしていた。
「そこにナイフがある拾え」
鷹岡が指を指しながらそう言うと渚は講義した。
「待ってください、鷹岡先生。僕は闘いに来た訳じゃありません」
「そうだろうな・・・この前みたいな卑怯な手はもう使えない・・・一瞬でやられるのは目に見えてる。…………だから謝罪しろ・・・土下座だ。誠心誠意のな・・・」
渚は黙って地面に正座をしていた。
「僕は……「それが土下座かぁ!?バカガキが!!頭擦り付けて謝んだよぉ!!」ッ!……僕は実力が無いから卑怯な手で奇襲しました。……ごめんなさい」
渚はゆっくりと地面に頭をつけて鷹岡に謝っていた。
それを見ていた茅野や磯貝達は悔しい表情をしながらブルブルと拳を振るわせてその光景を耐えるように見ていた。
「ガキのくせに生徒のくせに先生に生意気な口を叩いてしまい、すみませんでした。本当に…………ごめんなさい」
尚も渚は謝罪の言葉を口にしていた。
本音を言うなら鷹岡に謝罪をしたくない……だけどウィルス薬を手に入れるためなら、これ位どうってことない耐えて見せる。
渚はそう内心で思いながら謝罪をしていた。
「……よーし、やっと本心を言ってくれたな。褒美に良い事を教えてやろう。あのウイルスで死んだ奴がどうなるかスモッグの奴に画像を見せてもらったんだが…………笑えるぜ、全身デキモノだらけ。顔面がブドウみたいに腫れ上がってな…………見たいだろ渚君?」
鷹岡の言葉に一同はまさかと最悪の展開が頭を過った。
鷹岡はウイルス薬の入ったケースを高く放り投げて起爆スイッチを押すとウイルス薬の入ったケースは無惨にも爆発して跡形もなく粉々になってしまった。
渚だけでなく寺坂や岡野、菅谷……いや、殺せんせーや烏間先生みんなが絶望した表情をしていた。
「あはははははははは!!その顔が見たかったんだ!!夏休みの観察日記にでもしたらどうだ?お友達の顔がブドウみたいに化けてく様をよ……はははははは!!」
渚は高笑いしている鷹岡を他所に荒い息使いをしながらナイフを手に取っていた。
「殺……してやる…」
渚は殺気を放ちながらそう呟いていた。