プロの暗殺者は学生?   作:☆麒麟☆

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終業の時間

理事長室に2人の人がいた。

1人は浅野理事長、そしてもう1人はその理事長の一人息子、浅野学秀だ。

親子水入らず…………とは何とも言えない嫌な雰囲気が理事長を蔓延させていた。

 

「個人総合1位“タイ”おめでとう」

 

理事長が態と“タイ”を強調して言ったのを浅野は気付き眉のシワを寄せていた。

 

「何やらE組と賭け事をしてたそうじゃないか。そしてその賭けに君は負けた…………。全校中に賭けの話が広まった以上……E組の要求はそう簡単に断れないよ。どうする?学校が庇ってあげようか?」

 

「…………結構です」

 

浅野の言葉を聞いた理事長は「あぁ、そう言えば」と態とらしく言うと浅野の所に近寄った。

 

「君はありもしない私の秘密を暴こうとしたね。同い歳との賭けにも勝てない未熟者が良くも言えた物だね。そんな有りもしない秘密を暴こうと現を抜かす暇があるなら少しでも勉学に励むべきじゃないのかな?」

 

理事長は神経を逆撫でさせるような事を言いながら見上げるように浅野を見ており、浅野は歯軋りをしながら苛立ちを堪えるように立っていた。

 

(この屈辱は必ず返す…………父より先にまずE組………………お前らを必ず完膚無き潰す)

 

浅野は理事長の嫌味に耐えながら心の中でそう決意をしているのだった。

 

 

一方、E組の皆が喜んでいる間、カルマは木に寄りかかりテスト用紙をクシャっと握りつぶし、苛立ちを露にしていた。

 

カルマ……数学85点、学年10位

 

余裕と高を括っていた結果、手痛いしっぺ返しを喰らっていた。

そんなカルマの所に殺せんせーがやって来た。

 

「流石にA組は強い。5教科総合は1位の九重君を除いて7位まで独占。E組の総合は九重君を除いて竹林くん、片岡さんが同点8位が最高でした。当然の結果です。A組の皆も負けず劣らず勉強をした。テストの難易度も前回に比べて格段に上がっていた。怠け者がついていけるわけがない」

 

「………………何が言いたいの?」

 

カルマの言葉を聞いた殺せんせーは カルマの背後に素早く移動した。

 

「恥ずかしいですねぇー。“余裕で勝つ俺かっこいい”とか思っていたでしょ」

 

殺せんせーの言葉にカルマはビクッとして顔を真っ赤にしていた。

 

「先生の触手を破壊する権利を得たのは中村さん、奥田さん、磯貝君、九重君の4名。暗殺においても賭けにおいても君は今回、なんの戦力にもなれなかった。わかりましたか?殺るべき時に殺るべき事を殺れない者はこの教室では存在感を無くしていく。刃を研ぐのを怠った君は暗殺者じゃない。錆びた刃を自慢げに掲げた、ただのガキです」

 

殺せんせーの顔は緑のシマシマになりカルマの頭を素早く弄くっていた。

カルマはばっと触手を振り払い足早に教室に戻っていた。

 

「おい、良いのか?あそこまで言って」

 

「ご心配無く。立ち直りが早い方向に挫折させました」

 

カルマとのやり取りを遠巻きに見ていた烏間先生が殺せんせーに近付き、聞いてきた。

殺せんせーは1つ頷きそう言い再び口を開いた。

 

「彼は多くの才能に恵まれてる。だが力有る者はえてして未熟者です。本気でなくても勝ち続けてしまうために、本気の勝負を知らずに育つ危険がある。大きな才能は……負ける悔しさを早めに知れば大きく伸びます。テストとは勝敗の意味を強弱の意味を正しく教えるチャンスなのです」

 

殺せんせーはそう言うと見晴らしの良い景色の方を向いた。

 

(成功と挫折を今一杯に吸い込みなさい生徒達よ!勝つとは何か負けるとは何か力の意味を!!

――――私が最後まで気付かなかった……とても大事なことだから)

 

殺せんせーが心の中でそう呟くと心地好い風が駆け抜けるのだった。

 

 

暫くしてからカルマと殺せんせーは教室に戻って来た。

 

「さて皆さん、素晴らしい成績でした。早速、暗殺の方を始めましょうかトップの4名はどうぞご自由に(5本は予想外でしたが……まぁ何とかなるでしょう……)」

 

殺せんせーが内心、余裕でいるなか寺坂を筆頭に吉田、村松、狭間が殺せんせーの所にやって来た。

 

「おい待てよタコ。5教科のトップは4人じゃねーぞ」

 

「?4人ですよ寺坂くん。国、英、社、理、数の全て合わせ「はぁ?アホ抜かせ」……?」

 

殺せんせーの言葉を遮り、寺坂はそう言うと4人は答案を殺せんせーに見せつけた。

 

「5教科っつたら英、社、理、数…………後は家だろ」

 

寺坂達が見せた答案は4人とも100点満点の家庭科の答案用紙だった。

 

「か……家庭科ァ~~~~~~~~!?ちょっ待って!!家庭科のテストなんてついででしょ!!こんなのだけ何本気で100点とってるんです君達は!!」

 

「おいおい、お前は何も主要5教科とはだーれも言ってねーよな」

 

しれっとした顔で言う寺坂に狭間達はしてやったりといった顔でニヤニヤと笑っていた。

そんな中、千葉がカルマに言ったれと促すとカルマは先程の仕返しとばかりに追い討ちをかけていた。

 

「……ついでとか家庭科さんに失礼じゃね殺せんせー?5教科の中じゃ最強と言われる家庭科さんにさ」

 

「それに殺せんせーって美味しいスイーツやお菓子を良く食べてるよな?それって5教科のトップ、家庭科を良く学んだ人が頑張った結果じゃん。それをついでとか言うの酷くね?」

 

カルマの後に楓も付け加えるように言うと皆はそーだそーだと言っていた。

 

「と言うことは…………合計触手9本だ!!」

 

「9本!?ひぃぃぃぃ!!」

 

倉橋の呟きに殺せんせーの顔はムンクの叫びのような変顔をしており、顔色は海よりも真っ青な顔色になっていた。

 

「それと殺せんせー。これは皆で相談したんですが、この暗殺に……今回の賭けの戦利品も使わせてもらいます」

 

「…………what?」

 

 

 

 

 

程なくして期末の後は一学期の終業式を迎えた。

そんな終業式の日、体育館で五英傑の前に楓達E組全員が立ち塞がった。

 

「何か用かな。式の準備でE組に構う暇なんて無いけど」

 

浅野はそう言うと無理矢理、E組を退かして体育館に進もうとするがそれを寺坂が浅野の肩を掴んで止めた。

 

「おーう待て待て、何か忘れてんじゃねーのか?」

 

寺坂がそう言うと磯貝が浅野の前に出た。

 

「浅野、賭けてたよな?5教科を多く取ったクラスが1つ要求出来るって。要求はさっきメールで送信したけどあれで構わないな?」

 

磯貝がそう言ったのに対して浅野は無表情を貫いていたが、他の荒木達は苦虫を噛み潰したように苦しそうな表情をしていた。

 

「5教科の賭けを持ち出したのはてめーらだ。まさか今更、冗談とか言わねーよな?何ならよ5教科の中に家庭科とか入れてもいいぜ。それでも勝つけどなヘッヘッヘッ」

 

寺坂グループはそうどや顔で言っていた。

 

「五英傑の奴等に家庭科でどや顔は出来ないだろ…………これが通用するのは殺せんせーぐらいだ」

 

楓は寺坂達に聞こえないぐらいの小さな声でそう言っていた。

それを聞いていた渚や倉橋はアハハと苦笑いしているのであった。

 

その後、五英傑とのやり取りが終わって皆は列に並んでいた。

 

「そう言えば渚、良かったな。今回、50位以内に入って」

 

「うん。楓くんのお陰でね、母さんも少しだけど順位に納得してくれたよ」

 

「少しなのかよ…………大健闘したんだからもっと褒めてやれよ……親ってのは皆そうなのか?」

 

楓は頭を抱えながら倉橋に聞いてみた。

 

「うちはそうでも無かったよ?お父さんもお母さんもとても誉めてくれたし」

 

「何で俺の前後の家庭はそんな差があるんだよ」

 

楓の呟きに2人はアハハと苦笑いしていた。

 

「でも、親と過ごせるって羨ましいよ…………ほんとに」

 

楓はポツリとそう呟いていた。

一瞬、寂しそうな顔をしていたがすぐにパッと何時もの表情に戻った。

 

「ま、俺が親と再会したらまず先に兜角でフルスイングさせて病院送りにするけどな」

 

それを聞こえた2人は再び苦笑いをするのだった。

 

その後、式が始まったのだが校長や生徒会からのE組のいじりもウケが悪くE組の皆は前を向いて立つことが出来ていた。

………………1人を除いて。

 

「…………グー、グー、グー」

 

楓は俯きながら器用に立って寝ていた。

 

「楓くん、起きなよー!」

 

倉橋が小さな声で楓を起こして見るが微動だにせず式の間柄、ずっと眠っていた。

 

『続いて、E組に新たな編入生を紹介します』

 

その言葉に体育館にいる生徒達は響めく。

何故、終業式のこの日に編入生を紹介するのか解らなかったからだ。

E組の人達は烏間先生の方を見たが微動だにしてない烏間先生を見て、予め来るのを知っていたようだった。

 

『それでは華鎌桐さんよろしくお願いします』

 

校長のめんどそうな声と共にマイクに向かって歩いていた生徒がいた。

楓は編入生の名前を聞いた途端、はぁ!?と言いながら目が覚めた。

 

「今、華蟷螂って言ったか?」

 

「文字が違うよ。華鎌桐さんだって」

 

起きた楓に渚はそう言い、楓は壇上を見て頭を抱えた。

その人の用紙はダボダボな袖をした制服を着ており、長い髪を両サイドに纏めた女子のような人がいた。

 

 

「知り合い?」

 

「殺し屋」

 

倉橋の問に簡潔に答えた楓にE組の人達はやっぱりと内心思っていた。

 

『この度、椚ヶ丘中に転入した華鎌です。よろしくお願いします』

 

華鎌はそう言うとペコリと礼をして壇上を後にした。

 

 

 

式が終わって生徒は其々、自分の教室に戻っていった。

E組の皆も教室に戻り、転入生の事を烏間先生に問いただしていた。

 

「すまない。俺も今朝知ったばかりなんだ」

 

烏間先生がそう言ってるなか華鎌は教壇にいた。

 

「で何で華蟷螂がここにいるのさ?芋蟲とコンビ組んでたじゃん」

 

「その芋蟲さんに頼まれたんですよ。政府の奴等には直接交渉してくるから楓さんのバックアップしてこいとの事です。それと私のことは華鎌桐と読んでください」

 

「なぁ、華鎌って女だよな?何で男子の制服を着てるんだ?」

 

前原がそう聞いており、皆もそれに頷いていた。

 

「そいつ、女じゃなくて男」

 

そんな中、楓がクックッと笑いながら言っていた。

それに殺せんせーや生徒は驚いており、華鎌は不機嫌な顔になった。

 

「いや、そんな冗談ウケないぞ?どうみたって女だろ?」

 

「確かに茅野と同じまな板だけど顔は女だ(バキッ!)……ガハッ!!」

 

最後まで言い終わる前に岡島の顔に机が直撃し茅野は荒々しい息をしていた。

 

「よし、嘘だと思うなら男子、着いてこい」

 

楓は華鎌を抱えて廊下にいき男子はそれに着いていった…………

 

「…………まじか!?」

 

「……なんて凄まじい物を持ってるんだ」

 

「顔に似合わずとんでもない凶器を持ってるぞ華鎌のやつ」

 

廊下に行った男子達は華鎌のナニかを見てそう呟いていた。

すると…………

 

「ちょっ!!そんなの何処に隠してたんだよ!」

 

「あぶねー!」

 

「皆、教室に急いで戻れ!!」

 

急に騒ぎ出した男子達はバンっとドアを開け教室に入っていった。

楓達は冷や汗を掻きながらドアを見ているとそこには蟷螂の鎌を思わせる物で前原を抱えながら教室に入って来た。

その光景には女子達も驚いていた。

 

「取り合えず、男子達は全員この場で狩ります」

 

華鎌はそう言うと蟷螂の鎌で抱えていた前原を投げ捨て戦闘ポーズを取っていた。

 

「ちょっ!男子!華鎌のナニを見てこんなことになったの!?」

 

「尋常じゃ無いぐらい怒ってるけど!?」

 

「九重!何とか静めさせてくれ!?」

 

教室内でパニックになってるなか楓は華鎌の鞄を漁っていてあるものを取り出した。

それを急いで華鎌の口の中に入れると、先程とは打って変わり口の中の物を美味しそうに食べていた。

 

「おぉ!一瞬で……」

 

「何をしたんだ?」

 

磯貝に聞かれた楓は鞄の中にもう1つ同じのがあったのでそれを磯貝に渡した。

 

「これは……チュパチャプス?」

 

「そ。因みに味はプリンアラモード&レッドベリー味。華蟷螂が機嫌を悪くしたら直ぐにこれをあげて。そうするとこんな感じでご機嫌良くなるから」

 

「また濃い人がやって来たね…………」

 

渚の言葉に誰も否定しなかった。

その後、どたばたも落ち着いて殺せんせーは分厚い夏休みの栞を渡してきた。

皆は不平不満を言っていたが殺せんせーはそんなことはないと言っていた。

 

「これでも足りないぐらいです!さて、これより夏休みに入る訳ですが、皆さんにはメインイベントがありますねぇ」

 

そう言うと皆は学校パンフレットを開いてあるページを見ていた。

そこには椚ヶ丘中の特別夏期講習と記載されていた。

 

「君達の希望だと。触手を破壊する権利はここで使わず、この離島の合宿中に行使するとのことでしたね。触手を9本の大ハンデでも満足せず四方を先生が苦手な水で囲まれたこの島を使い万全に貪欲に命を狙う。正直に認めましょう…………君達は侮れない生徒になった」

 

殺せんせーは言葉に皆は嬉しそうな表情をした。

そして殺せんせーは紙に何かを書いていた。

 

「親御さんに見せる通知表は先程渡しました。これは標的から暗殺者への通知表です」

 

そう言うと殺せんせーは教室にその紙を投げると、教室いっぱいに二重丸の紙が舞っていた。

 

「一学期でツチカッタ基礎を存分に活かし夏休みも沢山遊び沢山学び、そして沢山殺しましょう!!………………暗殺教室基礎の一学期、これにて終業!!」

 

殺せんせーの言葉に皆は嬉しそうに教室を後にした。

………………分厚い栞を放置して。


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