プロの暗殺者は学生?   作:☆麒麟☆

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才能の時間

「殺すぞ」

 

楓の言葉を聞いた生徒たちはぞくっと背筋を震わせていた。

何時もの明るく、おちゃらけてる様子ではなく、誰も寄せ付けない雰囲気を出していた。

 

「お前は九重楓だな。確か…………あぁ、多額の借金を返済出来なくて息子のお前は売られたんだっけか?その後もたちの悪い大人たちに人体実験させられて………」

 

鷹岡の言葉に皆はえ!?という顔で楓を見た。

同時に渚達は楓が家族の事を話したがらない事に理解した。

 

「可哀想になぁ…………実の両親からは見捨てられたから父ちゃんに向かって殺すなんて事を口に出すんだ。俺が代わりに父親というのを教えてやるよ」

 

鷹岡がそう言うと楓は素早く鷹岡に近づき、顔を殴り付けた。

 

「は、はやい!」

 

「あいつあんなに速かったのか!?」

 

菅谷と杉野が驚いていた。

 

「で?それが何だ?」

 

楓のパンチが効かなかった鷹岡はそのまま楓の腕を持って強引に投げられ地に叩き付けられた。

 

「ガハッ!」

 

「お前の戦い方は過去を調べるついでに確り調べてたんだよ!糸さえ注意してれば怖くは無いんだよ!」

 

鷹岡はそう言いながら楓に近付いていた。

一方の楓は地面に投げられてからピクリとも動かず、皆ははらはらしていた。

鷹岡はそのまま仰向けに倒れている楓を殴り付けようと拳を振り上げていた。

 

「砲台固定…………重弾」

 

楓はポツリと呟くと腹筋を使って勢い良く起き上がり、その勢いにのせた拳を鷹岡の顔に殴り付けた。

鷹岡はそれをモロにくらい倒れ込んでいた。

 

「俺は蟲であって蜘蛛じゃない。場合に寄っては、殺り方を変更するそれが蟲だ」

 

楓はそう言うと足を上げた。

上げた足には太い杭が仕込まれており、それをしまっていた。

 

「なぁ、あれって昨日、烏間先生にやろうとしてたやつだよな?」

 

「あぁ、でも滑って失敗してたけど今日は成功してるな」

 

「多分、靴が違うからだと思う」

 

前原と岡島が楓の攻撃に声を漏らしていて渚は靴の違いに気付いていた。

 

「さっき靴が見えたから、あれを地面に射し込んで固定してたんだと思う」

 

渚の言葉を聞いていた皆はへぇと声を漏らし、応援していた。

 

 

(正直、ヤバイな…………徹夜の稽古に加えて飯も抜いたから睡魔と空腹でヤバイ…………ちんたらしてないで一気に畳み掛けるか)

 

楓はそう思いながら背中に手を入れ、折り畳まれた細長い棒を取り出した。

楓はその棒を振ると折り畳まれた棒が真っ直ぐになり、先端から刃が出ており、カブトムシの角に酷似した物になった。

楓はその槍を鷹岡に振るったが鷹岡はくらいながらも槍を掴んでいた。

 

「お前、父ちゃんに向かってこんなもの使いやがって…………離さないぞ!」

 

鷹岡はそう言うとガシッと両腕で押さえて槍を振るえなくさせていた。

 

「…………じゃあ離すなよ?」

 

「は?」

 

鷹岡は何を言ってるんだと言おうとした瞬間、楓はその槍を強引に持ち上げ鷹岡もろとも持ち上げていた。

 

 

「「「「!?」」」」

 

皆はそれを驚いているなか楓はそのまま地面に向けて思い切り叩き付けていた。

ドン!という音をしており叩き付けられた地面は微かにへこんでいた。

鷹岡が動けずに悶えているなか楓は槍を離し、鷹岡の上を取り隠していたナイフを首に、銃を眉間につけていた。

 

「何なんだ!その馬鹿げた力は!?」

 

「お前は俺の事を調べたんだろ?たちの悪い奴等から毎日のように体弄られて腕力や脚力が異常になったんだよ」

 

「お前、わかってんのか!?俺を殺したらお前は「わかってるさ。人を殺した罪悪感も…………で?それがどうした?それが怖くて殺し屋なんかやって無いんだよ」っ!」

 

いつのまにやら楓を応援していた声が無くなり皆は困惑していた。

 

「な、なぁ。九重のやつ何処までやるつもりなんだ?」

 

「まさかあいつ、本当に殺すつもりじゃ無いだろうな…………」

 

磯貝と木村がそんな事を言っており一層、皆は困惑をしていた。

 

「…………あの世で後悔でもしときな」

 

楓はそう言って引き金を引こうとしたとき、突如視界が揺らいで楓は顔を押さえていた。

鷹岡はそれが好機とみて首に当てられたナイフを奪い楓に向けて刺して来た。

楓は咄嗟に銃で防ぎ、鷹岡から距離を取った。

 

「はっ!さっきは良くもやってくれたな、お前には確りお返しをしないとな!」

 

鷹岡はそう叫ぶとナイフを振るって来た。

楓は躱わすが先程よりも動きが鈍く集中力が散漫で足元が覚束無かった。

鷹岡はそれを見逃さずナイフで銃を弾き飛ばし楓の腕を切り裂き、蹴り飛ばしていた。

 

「グッ!」

 

蹴り飛ばされた楓は腹部を押さえていた。

 

「お前と同じことを言ってやるよ。…………あの世で後悔しな」

 

鷹岡はそう言うとナイフを降り下ろした。

しかしその直前、烏間先生が鷹岡の手を押さえていた。

 

「それ以上……生徒達に手荒くするな。暴れたいのなら俺が相手を務めてやる」

 

「にゅや!九重君、腕は大丈夫ですか!」

 

烏間先生が鷹岡を押さえてる間に殺せんせーは楓のもとに駆けつけていた。

皆も楓の所に行き様子を見に行っていた。

 

「怪我なんて無いですよ」

 

「でもナイフで腕が切られて…………ってあれ?怪我してないと言うかこれ糸?」

 

倉橋は腕の具合を見るために制服を捲ったのだが切り傷が何処にもなかった。

代わりに腕には何重にも糸で巻かれていた。

 

「成る程、蜘蛛の糸は同じ太さであれば鋼鉄をも凌ぎます。それを何重にも巻けばその部分は鎧と成ります。九重君はそれで守ったのですね?」

 

殺せんせーの推察に楓は頷き、その後立ち上がり槍を持って鷹岡の所を向かおうとした。

 

「待ちなさい九重君。君は何をするつもりですか?」

 

「愚問だよ、殺せんせー。あのブタゴリラを殺す」

 

そう簡潔に述べると足を進めようとした楓の前に殺せんせーが高速で移動した。

 

「…………邪魔だよ」

 

「君は確かに殺し屋です。ですがここに先生がここで教師をやってる間は先生以外を殺すことは許しません。それにその寝不足+空腹の状態で満足に戦えますか?」

 

殺せんせーの質問に楓はドサッと倒れるように座り込んだ。

どうやら楓の体力も限界だったようで立つことも儘ならない状態だったらしい。

 

そんな中、鷹岡は烏間先生の手を振り払っていた。

 

「俺の教えに反対だというならここは1つ教師として対決しないか烏間?お前らも俺を認めないんだろう?九重に至っては俺を殺してまで反対な訳なんだし父ちゃんも不本意だ。烏間、お前が育てたこいつらの中でイチオシの生徒を選べ。そいつが俺と戦い一度でもナイフを当てたら…………お前の教育は俺より優れていたと認めよう。その時はお前に訓練を全部任せて出てってやる!」

 

鷹岡のその発言に生徒たちはパアッと明るい表情をし、杉野達はやる気を見せていた。

鷹岡はそれを見てニヤッと笑っていた。

 

「ただし、もちろん俺が勝てばその後、一切口出しはさせない。…………あぁ、それと言い忘れていたが使うナイフは勿論、本物だ。殺す相手が俺なんだ使う刃物は本物じゃ無くちゃなぁ」

 

鷹岡はそう言うとナイフを生徒達の足元に投げ刺した。

本物と聞いて生徒の皆からは戸惑いを隠しきれなかった。

生徒たちはてっきり対殺せんせー用のナイフを使うものだとばかり考えていたのだ。

 

「よせ!!彼等は人間を殺す訓練も用意もしていない!!本物を持っても体がすくんで刺せやしないぞ!!」

 

「おいおい、殺す訓練も用意もしてるやつが1人いるだろ?まぁ、そいつは疲労困憊の用だから満足には動けないみたいだがな。それに安心しな。寸止めでも当たったことにしてやるよ。俺は素手だしこれ以上無いハンデだろ?」

 

「はっ、良く言うぜ。お前はそれと同じことを新兵にもやらせて完膚無きまで叩きのめしてたくせに」

 

楓は昨日、見た動画を思い出し発言した。

鷹岡は恐らく“ナイフでも素手の教官に敵わない”その場の全員が格の違いを思い知り、鷹岡に心服させるのが魂胆だろう。

 

「お前はこそこそと父ちゃんの事を調べ上げたのか…………まぁいい。さぁ、烏間!早く1人選べ!!嫌なら無条件で俺に服従だ!!生徒を見捨てるか生け贄として差し出すか……どっちみち酷い教師だなお前は!!」

 

鷹岡はそう言い、馬鹿笑いしていた。

その姿を見て多くの生徒を萎縮しており、鷹岡に恐怖していた。

 

「烏間先生、少しだけなら行けるんで俺が行っても良いっすか?」

 

烏間先生が迷ってるなか、楓はふらふらと立ち上がりナイフを取った。

しかし、烏間先生はそれを良しとしなく楓からナイフを取り上げた。

 

「無理をするな。そんな状態じゃ満足に出来ないだろ」

 

「…………くっ」

 

烏間先生は楓以外に可能性があると思われる生徒に足を進めていた。

 

「渚君、やる気はあるか?」

 

烏間先生は渚を指名し他の生徒たちは驚いているなか楓はフッと笑い殺せんせーニヤニヤと笑っていた。

 

「選ばなくてはならないなら恐らく君だが、返事の前に俺の考えを聞いて欲しい。地球を救う暗殺任務を依頼した側として俺は君達とはプロ同士だと思っている。プロとして君達に払うべき最低限の報酬は当たり前の中学生活を保証することだと思っている。だから、このナイフは無理に受け取る必要はない。そのときは俺が鷹岡に頼んで報酬を維持してもらうように努力しよう」

 

渚は烏間先生の目をじっと見たあと、ナイフを受け取った。

 

「(僕はこの人の目が好きだ。真っ直ぐ目を見て話してくれる人は家族にもいない。何で僕を選んだのかはわからないけど、この先生が刃なら信頼できる。それに神崎さん、前原君、楓君の事…………せめて1発返さなきゃ気がすまない)やります」

 

渚はそう言って準備をしていた。

 

「どうして渚君を指名したんだろ?」

 

「大丈夫、渚なら問題ない。…………渚!」

 

倉橋は楓を支えながら渚を指名したことを考えていた。

楓は問題ないと言って烏間先生と話してる渚を呼び出した。

 

「楓君大丈夫?」

 

「あぁ、それより烏間先生に何かアドバイスでも貰ったか?」

 

「うん。“強さを示す必要はない。ただ1回当てれば良い”って言われた」

 

「烏間先生の言う通りだ。奴は十中八九、暫く渚に好きに攻撃させる。あのブタゴリラはそれを見切って自分の方が技術は上だと誇示させる」

 

「うん。それも聞いた。……でもどうやって当てに行けば良いのか解らないんだ」

 

「その為のアドバイスだ。奴に近づく時、当てることは一切考えなくて良い。そうだな…………何時も登校する気分で近づいてみろ」

 

楓のアドバイスに渚はえ?と言っていたが楓は行ってこいと言って背中をパンと叩いていた。

 

「楓君、あんなアドバイスじゃあの人には当てれないよ!」

 

「大丈夫だって、渚にはあれで充分対処できる。クラスメイトを信じようぜ」

 

楓はそう言ってこの試合を集中して見ていた。

 

「烏間、お前の目も曇ったなぁ、よりによってそんなチビを選ぶとは。まぁいい、かかって来い」

 

渚はナイフを持ちながら先程、烏間先生と楓に言われた事を思い出していた。

 

(戦って勝たなくても良いんだ、殺せば勝ちなんだ。そして楓君の言っていた事……多分何時も通り、リラックスした感じで行けば良いんだ)

 

渚は動いた…………

 

 

笑って普通に鷹岡に近づいていった…………

 

 

楓に言われた通り、登校するように普通に…………

 

 

鷹岡は構えたまま微動だにしない…………

 

 

近付いた瞬間、渚は躊躇無く首目掛けてナイフを振るった…………

 

 

ここで鷹岡は初めて自分が殺される事に気付いた。

鷹岡はギョッとして体制を崩していた。

重心が後ろに偏ってるのを理解した渚は服を引っ張り転ばせ背後に回って首にナイフをミネで当てていた。

 

この光景に皆は口を開けて驚いており、唖然としていた。

 

「そこまで!!」

 

突如、殺せんせーの言葉に皆ははっとして我にかえっていた。

殺せんせーは渚の背後に移動し、ナイフを奪ってポリポリと食べていた。

 

「勝負ありですね。全く……本物のナイフを生徒に持たすなど…………怪我でもしたらどうするんですか」

 

「って……ちょっと待て!!それ俺のナイフだぞ!!何勝手に食ってんだよ!?」

 

「にゅや!?す、すいません!」

 

勝手に自分のナイフを食べてることに怒る楓にそれを慌てる殺せんせー。

それを見て漸く理解した皆は渚の元に向かった。

皆が喜んでるなか、渚の背後に鷹岡が憤慨した様子で立っていた。

 

「このガキ……父親も同然の俺に刃向かって、まぐれで勝ったのがそんなに嬉しいか。もう1回だ!!今度は絶対油断しねぇ!心も体も全部残らずへし折ってやる!」

 

憤慨してる鷹岡に対して渚はゆっくりと振り返り冷静に口を開いていた。

 

「……確かに次やったら絶対に僕が負けます。……でもはっきりしたのは鷹岡先生。僕らの“担任”は殺せんせーで僕らの“教官”は烏間先生です。これは絶対に譲れません。父親を押し付ける鷹岡先生よりプロに徹する烏間先生の方が僕は温かく感じます。本気で僕らを強くしたのは感謝します。でもごめんなさい…………出ていって下さい」

 

渚はハッキリとそう言って礼をした。

周りの皆も先程とは違い、確りとした顔つきで鷹岡を見ていた。

 

「黙っ……て聞いてりゃ……ガキの分際で……大人になんて口を…………」

 

ぷるぷると震えながら鷹岡はそう言うと、渚に襲いかかろうとしていた。

しかし、烏間先生が顎に肘内をし楓が槍で鷹岡の腹を振った。

それによって鷹岡は地面に勢い良く倒れていた。

 

「あんたはもう負けてんだよ。まだやる気なら本気で殺るぞ」

 

楓は槍を地面に刺して倒れてる鷹岡にそう言っていた。

そんな中、烏間先生は皆に謝罪していた。

烏間先生は上司に脅してでも皆の教官を務めれるようにすると言っており、皆はそれに喜んでいた。

 

しかしそれに鷹岡が反発していて先にかけあうと言っていたが突如、理事長が乱入してきた。

何でも経営者として鷹岡の様子を見に来たらしい。

徐に何かを書いた理事長は書いた紙を鷹岡の口に詰め込んだ。

どうやらあれは解雇通知のようで鷹岡のクビを切ったようだ。

鷹岡は悔しかったのかそのまま走って去ってしまった。

理事長もその光景を見届けたのち、E組を後にした。

 

それを見た皆は喜び合い楓も倉橋とハイタッチをしていた。

 

「渚もお疲れさま」

 

「楓君、ありがとう。」

 

渚は笑顔で答えつつも直ぐに真剣な表情をした。

 

「お願いがあるんだ…………」

 

「俺の過去?」

 

楓がそう聞くと渚は頷いていた。

 

「うん。不躾な事だと理解はしてる……でも興味本意じゃ無く、本気で知りたいんだ」

 

渚の周りにいる皆も頷いていた。

流石の中村と岡島も真剣にこちらを見ており、楓はポリポリと頭を掻いていた。

 

「わかった、その前に暫く寝かせてくれ…………もう限界…………腹も減っ……たし」

 

そう言った楓はドサッと倒れ、ぐっすり眠りにつくのだった。


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