楓の風邪が完治して数日が経ち、1人山の中で立っていた。
風もなく、静寂が立ち込めていた。
すると、その静寂を破るかの用に楓の背後に向かって突っ込んで来た者がいた。
その者はナイフを持っていて、楓目掛けて刺してきた。
しかし楓は振り向かずにそれを躱わし、腕を掴みそのまま地に向かって投げ飛ばした。
「がはっ!」
ソイツは投げ飛ばされた時の衝撃で苦しそうな声をあげていた。
「すまん、ちょっと力入りすぎた。大丈夫か前原?」
楓は前原に手を差し出しながらそう言うと投げ飛ばされた相手、前原は手を掴み起き上がった。
「いてて……行けると思ったんだけどな」
前原は背中の土を払いながら嘆いていた。
「やっぱりダメだったか」
ガサガサと草を別けるようにして来たのは磯貝だった。
その後ろには片岡に岡野、矢田に倉橋もいた。
「誰も九重にナイフを当てれなかったわね」
岡野が悔しそうに呟いていた。
このメンバーは昨晩、磯貝からメールで連絡が来てナイフの訓練手伝ってくれと書かれていた。
楓はその頼みに一言OKを出して今に至るのだった。
「九重君、何かアドバイスのような物ってある?」
片岡に言われて楓はうーんと考えていた。
「うーん。死角からの攻めようとしたのは良かったと思うよ。ただ、攻撃するとき殺気を出しすぎてるかな?折角、死角から攻めるのに其だと自分の位置を教えちゃうから死角からの攻撃でも対処されるんだ」
片岡達は成る程、と顎に手を当てながら考えていた。
「どうしたら良いの?」
岡野が手をあげて聞いてきた。
「そうだな…………ほんと攻撃をする直前迄、何時もの自然体でいることかな?例えば普段、岡野は片岡や矢田達と話す時は殺気なんて出さないだろ?」
楓はそう聞くと岡野はうんと頷いていた。
「多分、皆は殺ろう殺ろうって前のめりになり過ぎてるんだと思う。少し、肩の力を抜いて行動するだけで殺気は抑えられると思う」
楓はそう言った後に付け加えて「あまり鵜呑みにしないでくれよ?俺は教えるって得意じゃないから」と言っており皆は苦笑いしていた。
「まぁ、後は岡野は体が柔らかいんだから、もっと伸び伸びと体を動かしても良いんじゃないか?磯貝、前原、片岡は体格や運動神経抜群なんだからもっと積極的にしても良いと思うし、矢田と倉橋も視野が広いからしっかりと周りを見て行動すればもっと良くなると思うぞ?」
楓はそう言い終わると皆は何も言わずに此方を見ていた。
「な、何?」
「いや、九重君って以外と私達の事見てるんだなぁーって」
「まぁ……クラスの長所をしっかり調べないといざと言う時、困るからな」
矢田に言われた楓はそっぽ向きながら頬を掻いていた。
「おっ、照れてんのか楓?」
前原は肘で突っつきながら言ってると楓はむすっとした顔をし……
「よし前原はまだ元気があるみたいだし、もう一回やるか」
「勘弁してくら…………」
前原は両手をあげて降参のポーズをしており、俺達はそれを見て笑い合うのだった。
その後、皆で教室に戻って帰る準備をし帰ろうとした瞬間、楓は声を荒げて叫んだ。
「みんな!急いでドアから離れろ!!」
「急にどうしたの?」
「良いから速く!」
楓は有無を言わさず言ってるのを感じてドアから離れると、ドアが開き其処には1人の年老いた男が立っていた。
「ほう……怪しい素振りは見せて無かったのだがな。参考程度に教えてくれないか?」
「教室に入ってから床に糸を張ってたんだよ。そしたら此方に向かって足音が糸を通して聞こえてたのに急に足音を消しながら歩いてたんだよ。そんなことを態々する奴は先生を含めてする奴は居ないんだよ…………其をするとすれば外部の殺し屋しか居ないんだよ」
片岡達はその時始めて楓の手に糸が巻き付けられ、床にナイフが刺さってることに気づいた。
「成る程、流石は蟲だな。私の名前はロヴロ。殺し屋を斡旋している殺し屋だ。今日、ここに来たのはできの悪い教え子を連れ戻しに来たのだが…………おもしろい」
ロヴロと言う男がそう言うと殺気や威圧を放ってきた。
「みんな!もうちょっと離れてくれないか」
楓がそう言うと皆は素早く教室の隅に行った。
それと同時にロヴロは楓の顔に向けて拳を放ってきた。
楓は其を払うと床に張っていたスレッドをロヴロに向かって放った。
しかし、ただ放ってきたスレッドは難なく躱わされて懐に入られた。
ロヴロはそのまま殴ろうとした瞬間、ロヴロの顔を何かが掠め其処から血が出ていた。
「油断しすぎじゃないの?このスレッドはただ罠を張って相手を縛るだけじゃなく、力加減次第じゃ対象者を切断したり鞭の用にも出来るんだぜ?」
楓の周りでヒュンヒュンと鞭の用に動いていたスレッドは鞘に収まっていった。
「フフフ、若いからと侮っていたよ。流石は蜘蛛達の弟子だな」
2人はそのまま動かず構えており、瞬間2人は駆け出し仕掛けようとしたその時…………
「何をやっている!」
突如、声がしたので2人は動きを止めた。
教室のドアには烏間先生がいた。
「フフフ、蟲と呼ばれているこの少年がどれだけ出来るのかを見てみたかっただけだよ」
ロヴロがそう言うと構えを解き楓から離れていった。
楓もロヴロが戦意を無くしたということでスレッドを仕舞っていた。
「ふぅ、君達はもう帰りなさい」
「…………はい」
烏間先生にそう言われ楓は皆と一緒に教室を出て学校を後にした。
「ふぅーーー。今更だけど、あの人かなりおっかねぇー」
「お前、大丈夫なのかよ?」
前原の言葉にへーきへーきと手をひらひらさせながら答えていた。
「でも、何で九重は教室に戻ってから糸を張っていたんだ?普通、何も起こらないんだから糸を張って確かめる必要は無いだろ?…………まぁ今回は起こったけど」
「E組が普通だったら俺も確認なんてしなかったよ。だけど去年までのE組と比べて今年は普通じゃない……それは理解してるだろ?」
楓の言葉に皆は頷く。
普通じゃない、それは今年は殺せんせーがいる事を意味することは皆解っていた。
「殺せんせーを狙って殺し屋、又は軍人や其に近い生業をしてる奴が来るかも知れない。もし、そいつが殺せんせーとか関係無く無差別に殺して来る奴が突然来たら対処出来ないだろ?そう言う奴等が来てないか確認のために張っていたんだ。まぁ、職業柄の癖だな」
楓はそう言って気だるそうに歩いていた。
「それにしてもビッチ先生とはまた違ったタイプの殺し屋何だな」
「うん。何か威圧感とか半端なかった」
前原の呟きに岡野は先程の事を思い出したのか腕を擦っていた。
「多分、ロヴロって人は最小限の策で殺るタイプだな。殺し屋の主なタイプは2つあると俺は考えてる。1つは攻めのタイプ。技術やスキルを用いて素早く殺るタイプだ。修学旅行の時に殺せんせーを狙撃したレッドアイやさっきのロヴロって人はこのタイプだと思う。2つ目は罠を張ったり相手が油断した所を殺るタイプ。基本的に俺はこっちのタイプだしビッチ先生もハニートラップとかで男を手玉に取ったりするから2つ目に該当するな」
「さっすが現役の殺し屋だね」
矢田の茶化しをスルーしながら楓は続けざまに口を開いた。
「ロヴロって人はさっき、殺気や威圧感は放って俺が萎縮した所を殺ろうとしたんだな」
まぁ、あのまま続けてたとしても俺が勝ったけどねと楓が言ってたのを皆は苦笑いをして、そのまま談笑しながら帰宅するのだった。
「なんだあれ?」
次の日、楓は訳が解らないと言った感じで呟くのだった。