やはり俺のネタは間違っている?   作:kue

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究極の専業主夫……それは猫になることだと思うんだ1

 クリスマスイベントも無事終了し、冬休みに入ったある日のこと。

 平塚先生にまたあの長くて恐怖を感じるようなメールで集合をかけられたので渋々、誰もいない学校に俺たち奉仕部部員はいた。

「さむ~い。早く終わらせて帰ろうよ」

「そうね……」

 俺達奉仕部が命じられたのは教員全員で行ったという学校大掃除で出た粗大ごみや使えなくなってしまった椅子や机などを粗大ごみ置き場までもっていくというもの。

 だったら他の部活動に任せろと言いたいところだがこれも奉仕活動の一環らしい。どう考えても奉仕という名の雑用活動だけどな。

 せっせせっせと壊れてしまった椅子や机などを校舎の裏手にある粗大ごみ置き場へと運んでいく。

「うぅ。今日いつも以上に寒くない?」

「今年一番の寒さだってよ……コタツで一日、ゴロゴロしてる予定だったのに」

「貴方はいつも放課後、ゴロゴロしてるでしょう。ゴロ谷君」

 なんだよそれ。俺はどこのわくわくさんのペットだ。

 そんなことを思いながらも粗大ごみ置き場へせっせと机や椅子を積み重ねていくがいくら綺麗に積み重ねられているとは言っても流石に2メートルくらいの高さにまで積み上げたらいつか崩れそうで怖いな。ていうか既に上の方とか風で揺れてるぞ。

 そんなことを思いながら使えない机や椅子が置かれている教室への階段を上がっていると机の上にさらに机を乗せて運んでいる雪ノ下が上から降りてきた。

「お前、それで前見えてんのかよ」

「ええ。見えてるわよ。それよりもそこ退いてくれないかしら」

「あぁ、悪い」

「きゃっ!」

 雪ノ下に道を譲ろうとした瞬間、上からそんな悲鳴が聞こえ、慌てて顔を上げると何かにひっかけたのか持っていた机ごとこっちに向かってくる雪ノ下の姿が視界に入った。

「っぅぉい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 目を開き、一番最初に視界に入ってきたのは部屋の扉だった。

 …………あぁ、俺ベッドから落ちたのか……通りで視線が低いわけだ。

 そんなことを思いながら立ち上がり、部屋のドアノブを掴もうとするが何故かいつも以上に高い位置にドアノブがあり、どれだけ背伸びしてもドアノブに手が…………は?

 一生懸命手を伸ばしている時にふと、腕が白い毛で覆われているのが見え、まだ寝ぼけているのかと思いつつ、掌を見てみる。

 …………肉球……うん。これはどう見てもカマクラでよく見ている肉球だ…………肉球!?

 慌ててベッドに戻ろうとするがやけにベッドが高く、助走をつけて飛び上がってベッドに戻り、枕元に置いてあるスマホの画面を覗きこんでみるとどう考えても猫の顔にしか見えないものが映る。

 …………なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!? え!? なんで俺猫になってんの!? 俺は比企谷八幡っていう霊長類人科人科目の人間だよね!? なんで……猫? そ、そうだ小町!

「にゃー!(小町ー!)…………にゃ(は)?」

 大きな声で小町を呼ぶが俺の耳に聞こえてくるのは猫の声。

「…………にゃー(あー)……」

 あ、あかん! 声まで猫になってもうた! まぁ、とりあえず落ち着こう…………うん。

 ベッドに腹這いになってこの後のことを考える。

 よくよく考えてみれば俺は猫になった⇒つまり学校に行かなくていい⇒勉強しなくていい⇒猫だからまあ大体の人には可愛がられる⇒理想のヒモ生活ができる。

 その瞬間、自分でもわかるくらいに尻尾がピーンと立った気がする。

 な~んだ! 最高じゃん! 勉強もしないで良いし、掃除なんかの家事もしなくて良い専業主婦生活ができるなんてもう最高じゃん! 腹も減ったし、じゃあさっそく小町にでも飯を貰いに行こう。

 ベッドから降り、必死にジャンプしてドアノブを掴み、グルッと回してドアを開けてルンルン気分で階段を降りていく。絶対に今の俺の尻尾は立っているだろう。

「にゃにゃ~(小町~。飯~)」

 が、小町の声が帰ってくることは無く妙に静かだった。

 おかしいな……この時間帯は小町がいる時間帯なんだが……。

「てめえ誰だ」

「っっ! ってカマクラか。脅かすなよ…………は?」

 な、なんで俺猫のカマクラの言葉が分かるんだ……ってそう言えば俺、猫になってんじゃん。

「俺だよ俺。お前のご主人様の比企谷八幡だ」

「あ? 八幡? 俺のご主人様は母様と小町お嬢様だけだボケ。八幡と親父は俺の下僕だ。いいか? ここは俺のテリトリーだ。よそ者は出て行け!」

「ひゃ、ひゃい」

 

 フシャー! と今までに見たことがないくらいの威嚇をされてしまい、リアルにビビってしまった俺は空いている窓の隙間から家の外へ出てトボトボと歩き出す。

 これからどうしようか…………まあ、夢のヒモ生活を手に入れられたし誰かに拾われて養われよう……そう言えば雪ノ下が大の猫好きだったな。由比ヶ浜はダメだ……というかあいつがダメではなくあいつの家がダメなのだ。

 あいつの家にはサブレという犬がいるからな。あいつ妙に俺に懐いてるし……よし! 雪ノ下に養われよう!

 そう考え、とりあえず彼女に出会える確率が高い総武高校へと歩いていくが慣れない4足歩行のため、所々休憩しながら、たま~に小さい子に頭を撫でられたりしながら学校へと向かって歩いていく。

 学校に到着したころにはもう凄まじく息が切れ切れになっていた。

 ぜぇ……ぜぇ……ま、まさか4足歩行がここまでしんどいとは……猫マジでパねえわ。

 俺の中で猫という種族の評価がランクアップネコチェンジしたのを思いながらもタッタッタ~と軽快に階段を上り、特別棟にある奉仕部の部室へと入ると鍵が開いているにもかかわらず、誰の姿もなかった。

 あれ? もうこの時間帯……あ、そうだ。今冬休みじゃん。そりゃ誰もいないわ……仕方がない。雪ノ下の家までレッツゴーするか。

 そう決め、くるっと振り返った時、目の前にそれはまあエデンが広がっていた。

 

 

 

 白……雪だけに白ってかっておい!

 

 

 後ろに飛びのこうとするが目の前に立っている雪ノ下に抱き上げられ、ジーッと顔を見られる。

 こ、こいつまさか俺が猫になったと言う事に気づいているんじゃ……目の腐り具合とかはそのままだし。

 雪ノ下は俺の目をジーッと見ながら足を撫で、腹を撫で、尻尾を撫でて最後に頭を撫でると”うん”と頷いたかと思えば俺をカバンに入れ、少しチャックを開けた状態でそのまま歩き始めた。

 ……ま、まあ予定は少しずれたが雪ノ下に拾われるというゴールにはたどり着けたのでいいか。

 にしても……何で俺猫になったんだ? ていうか俺、猫になる前何してた…………やっべ、思い出せねえ。でもまあいいか……。

 そう結論付け、カバンの奥底に入って目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水が流れる音が聞こえ、ふと目を開けると見覚えのあるキャラのぬいぐるみに俺は抱かれていた。

 ……何で俺、パンさんに抱かれてるわけ? まあパンさん好きのあいつのことだからこうしたらかわいいとかの思い付きでやったんだろうけど。

 

「あら、もう起きたの?」

 今までに聞いたことがない優しい声が聞こえ、入る場所を間違えたのかと思い、目を見開いてそちらを向くがやはりそこにはエプロン姿の雪ノ下が降り、さらに言えば今までに見たことがない笑顔を浮かべて濡れた手をエプロンで拭き、俺の頭を優しく撫でてくる。

 …………これが壁が一切ない雪ノ下の笑顔か。

 ある程度、雪ノ下の壁がなくなったとはいえまだ俺達に対しては少し距離があるように思うが今の雪ノ下にはそんな壁は一切感じられない。本当の意味での雪ノ下雪乃がいた。

 ひとしきり撫でて満足したのか雪ノ下はまた台所へと戻り、洗い物を始める。

 …………なんでだろうな。猫の姿の俺には見せて、人の姿の俺には見せないあの笑顔を見ていたらどこかこう……ムカムカというかイライラというかそんなものが込み上げてくる。

 その時、頭を撫でられたので顔を上げると雪ノ下がさっきの笑顔を浮かべながら俺の頭を撫でていた。

 

「……貴方の目を見ていると彼を思い出すわ……貴方みたいに目が腐ってていつも自分を犠牲にして誰かを助けて…………自己犠牲が過ぎるところもあるけれど…………それでも……私は……」

 その時、雪ノ下の目からポロポロと涙がこぼれ始めた。

 …………何泣いてんだよ。

 手を伸ばし、彼女の目から流れ出てくる大粒の涙をふき取ろうとするが何分猫のサイズなので届かず、彼女の頬のあたりまで流れてくる涙をポムポムと肉球で押さえることくらいしかできなかった。

「ふふ。慰めてくれるの? ありがと……そろそろご飯にしましょ」

 その日は雪ノ下手作りの晩御飯を食べ、眠りについた。

 ちなみに雪ノ下の料理はやはりヤバかった。良い意味で。


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