それでは
俺は比企谷八幡。総武高校2年生で奉仕部とか言う訳の分からない部活に強制入部させられたちょっとかわいそうな高校生だ。同じ部活のメンバーに由比ヶ浜結衣と雪ノ下雪乃という女子がいるんだが俺はいつもその雪ノ下に辛辣な言葉をかけられてメンタル的に見れば傷だらけの戦士だ。だから今日、反撃をしてみることにする。
今日は幸運なことに由比ヶ浜がペットであるサブレを病院へ連れて行くと言う事で奉仕部へは来ないと言う事を事前に聞いているので心置きなく仕返しが出来る。だが何も彼女を泣かすほどのことをする気はない。ただ少し、ほんの少しだけ彼女に仕返しをするのだ。
『雪ノ下に仕返ししよう。その1』
雪ノ下雪乃という完璧超人と言えど大本は1人の女の子なのであって女の子共通の弱点というものが存在する。例をあげれば彼女は犬が嫌いだ。以前、わんにゃんショーを小町と見に行ったときに雪ノ下と偶然遭遇した時、突撃してくるサブレを見ていつもでは見られないくらいのあわってぷりを見せたくらいだからな。彼女にだって犬以外の嫌いなものは1つや二つくらいはあるだろう。その1つとして考えられるのは気持ち悪い虫だ。ゴキブリ、ナメクジ、ムカデ。こんなやつらの玩具を雪ノ下の近くに置いてみようと思う。言っておくが本物ではない。この時のためにおもちゃ屋に行って吟味したのだ。
まずは女子が嫌いな虫の代表格であるゴキブリさんを玄関先にひもで吊るす。1匹じゃないぞ? 10匹だ。しかもリアルさを出すためなのかブルブルと震えて動いているようにも見える。
さて。来い……来るのだ雪ノ下雪乃!
待つこと5分。雪ノ下雪乃はまだ来ない。だがこれも想定済みだ。いくらいつも一番に来ている彼女と言えどもうすぐ受験が迫っているこの時期、国際教養科独自の行事があってもおかしくはない。こんな暇な時のために本だって今日はいつもよりも多めに5冊も持ってきたんだ。もう既にゴキブリ(おもちゃ)のセッティングは終了しているんだからな。ふっふっふ……雪ノ下が俺の目の前で叫ぶ様子が思い浮かぶわ。
ふぅ。3冊目読了した……いや~。やっぱりこの小説の作者の文章は好きだな。硬い文体なのにどこか引き込ませる魅力があるというか…………ところでまだ来ないのか。時間は…………5時ちょうどか……いつもの解散時間が大体、5時40分あたりからだから……もう少し待とう。どうせ本はあと2冊残ってるんだ。
……なんでやねん。なんであいつは来うへんねん……おっと、つい関西弁が出てしまった……ていうかなんで6時になっても雪ノ下は来ないんだよ! ふつうこんな時間になったら来てるだろ……なんかこうしてみていると雪ノ下のことが好きすぎて今か今かとくるのを待っている恋多き青年みたいに見えるがまったく違うからな……はぁ。今日はもう帰るか。
ぶら下がってブルブル震えているゴキブリを回収しようと立ち上がって扉に向かおうとしたその瞬間。
「比きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドアがガラッと開けられると同時に耳をつんざくほどの甲高い叫びが部室内に響き渡り、俺は思わず両耳を塞いで姿勢を低くする。
…………さ、最悪の人物が引っ掛かってしまった。
「ひ、ひ、ひ比企谷ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
女座りで涙目の先生に睨みつけられながら俺はとりあえず額から流れてくる嫌な汗を拭い、ブルブル震えているゴキブリたちを回収して先生の前に立つと何も言わずに両ひざを折り曲げて地面につけ、そのまま三つ指をたててお凸をぴったりと床に引っ付ける。
「すみませんでした。許してください」
「許すかこのバカ! 正座しろ正座! 今から説教だ!」
こうして雪ノ下雪乃に反撃するどころか俺が大ダメージを負ってしまった第一回雪ノ下雪乃に仕返しをしてみよう大作戦は大失敗の烙印を押されてゴミ箱へポイされた。
ちなみにその説教は夜の7時くらいまで続いたかと思えば晩飯を奢ってくれる代わりに平塚先生の結婚できない愚痴を延々と聞かされる羽目になったとさ。
ちなみに由比ヶ浜も雪ノ下も用事があって休んでいたそうな。俺に連絡が回ってこないのはボッチとして誇りを持とう。