『次のニュースです。またしてもロックシードによる事件が発生しました』
待ち合わせ場所の近くに設置されている大型モニターにそんなニュースが流れるとともに上級インベスの姿と現物のロックシード、そして俺が変身している時の姿が映し出されている。
ほんの数か月前まで若者の遊びとしかとらえられていなかったロックシードとインベスゲームは今や人々を傷つける最低最悪のものという認識に変わってしまい、ダンスチームに所属している奴らは偏見、差別の目で見られ、ロックシードを持っているだけで殺人犯だと罵倒される世界になってしまった。
俺は未だに戦国ドライバーとロックシードは所持している……他の奴らは耐え切れずに破棄したみたいだが全てのアーマードライダーが消えてしまえば今以上にインベスによる被害は増えてしまう。
…………ただそれでいいのか? 俺がアーマードライダーであることはまだ雪ノ下以外にばれていないけどいつかはばれる……まあ噂にはなってるし、由比ヶ浜にばれれば嫌われること間違いなしだ。
あいつはインベスにペットのサブレを殺されてるからな……もしばれれば奉仕部にもいられない。
「比企谷君」
「……おう」
今日はクリスマスイベントで何をやるかの取材という事で夢の国へ来たわけだ。
雪ノ下の視線がまっすぐインベス関連の話しをしているモニターへと移され、数秒それを見た後に小さくため息をついた。
「何も知らない人たちが意気揚々としゃべっているのを見るとここまで怒りが湧くのね」
「仕方がないだろ。知らないんだから」
「なら知ろうと努力するべきよ。無知であることを露呈しながら喋ることほど愚かなことはないわ……何が犯罪者よ…………ロックシードを悪用している人たちが悪いのであってロックシードその物の善悪なんて決められないわ。そもそもインベスを倒すことが出来るのはアーマードライダーだけ。それをわかったうえで排斥しているのかしら。そっちもおかしいことだけれど」
「…………」
雪ノ下に迷惑をかけないうちに奉仕部を去るべきだろうか……ただ……何も言わずに奉仕部を去れば確実に雪ノ下も由比ヶ浜も行動を起こすだろう…………最初から奉仕部に入らずにボッチを貫いていればこんなことには……今更最初のことを後悔しても仕方がないか。
「由比ヶ浜さんの様に大切なものをインベスに奪われたのならまだしも」
「興奮してるとこ悪いがもう来たぞ」
興奮気味の雪ノ下にそういうとふぅと息を小さく吐き、後ろを振り返る。
「あ、ヒッキー! ゆきのん!」
葉山達と一緒に由比ヶ浜がこちらへ向かってくる。
…………由比ヶ浜と一色が来るのは分かる……だが何故、葉山達が来るのだろうか。フルメンバーじゃねえか。
チラッと三浦がこちらを見てくる。
俺が諸悪の根源とまで言われているアーマードライダーであるという噂が流れているから仕方がないっちゃ仕方がない。むしろこれが今までの俺の生活だ。慣れてる。
「ヒッキーもきたんだ」
「おい、それどういう意味だよ」
「いやさ。ヒッキーのことだから俺は人混みが嫌いなんだよ、とか言ってこなさそうだったから」
「声似てないぞ」
「し、仕方ないじゃん!」
「イチャイチャするのは良いですが早く中入りましょうよ~」
さっさと葉山先輩とイチャイチャしたいんです~みたいな雰囲気が一色の全身から感じられるのは気のせいだと思っておこう。
夢の国へいざ入るとやはり日本有数と言われているだけあるのと同時にクリスマスも近いのでカップルや子供を連れた人でごった返している。
クリスマスシーズンなので園内の装飾もクリスマス風にされており、中に入ってすぐのところに大きなクリスマスツリーが建てられていたり、サンタクロースがいたりなど。
「すっごーい!」
「由比ヶ浜さん。今日は取材目的で来たのだからあまりはしゃがない方が良いわ」
「そう言うお前はパンさんに釘づけじゃねえか」
「こ、これはその……」
こうして恥ずかしそうにする姿もまた可愛い……何を言ってるんだ俺は。
「キャー!」
その時、甲高い悲鳴と共に聞き慣れたジッパーが開く音が聞こえ、そちらの方を向くと園内のど真ん中にクラックが開いており、そこから下級インベスをひきつれた上級インベスが2体出現した。
おいおい、ふざけるなよ。今までこんな人が密集した場所に出てきてなかったじゃねえか。しかもロックシードによる召喚は一個につき一体。
これはロックシードによる召喚なんかじゃない……いや、複数同時に開錠したか。まあ良い。
ポケットに入れてあるドライバーを取り出そうとした瞬間、後ろから手を強く握られた。
「……ダメよ」
「……何言ってんだよお前は。今目の前にインベスが」
「今ここで変身すれば確実に貴方は今の居場所にいられなくなる。貴方言っていたじゃない……本物が欲しかったって。その本物をみすみす捨てるというの?」
珍しく怒気が込められた雪ノ下の言葉に一瞬たじろぐがそれでも俺のやるべきことは変わらないことを思いだし、雪ノ下の手を軽く握り返した。
「あぁ、欲しかったさ…………でももう手に入れてたんだよ。俺が欲しかった奴は……今まで見て見ぬふりしていただけでな」
「比企谷……君」
「……じゃあな」
『オレンジ!』
「比企谷君!」
雪ノ下の手を振り払い、ドライバーをつけると同時にオレンジのロックシードを開錠し、逃げている連中とは真逆の方向へ走っていく。
俺は本物を手に入れた……それだけで戦う理由にはなる。
『ロックオン!』
俺は……俺は本物を手に入れたこの世界を護る……インベスなんかにこの世界は壊させない。
「変身」
『ソイヤ! オレンジアームズ・花道・ON・ステージ!』
走りながらドライバーのブレードを降ろすと上空に滞空していたオレンジのアームズが俺の被さり、一瞬にして展開され、アーマードライダー・鎧武となる。
「どらぁ!」
ホルスターにあった無双セイバーを抜き取り、人に掴みかかっている下級インベスを背後から切裂き、意識をこちらへ向けさせ、丸腰の連中を逃がそうとするが全ての火球インベスがこちらへ意識を向けたわけではない。
だったらこれだ。
『イチゴ!』
邪魔な下級インベスを蹴り飛ばしながらイチゴのロックシードを開錠させる。
『ソイヤ! イチゴアームズ・シュシュッとスパーキング!』
オレンジアームズからイチゴアームズへと変え、イチゴクナイを下級インベスへ投げつけ、直撃させると小さな爆発が起き、下級インベスが吹き飛んだ。
「うぉ!」
突然、離れた所から鞭の様なもので叩かれ、数歩後ろへ後ずさる。
慌てて下級インベスの後方を向くと頭から膝のところまで触角が伸び、青い体色をした上級インベスが一体と真っ赤な体色のライオンのような姿をしている上級インベスがいた。
「やっちまえ! アーマードライダーなんかぶっ殺せ!」
一人の罵倒が周囲に伝染し、あちこちから俺を罵倒する声が聞こえてくる。
「はぁ! くそが。邪魔だ」
『ロックオン! 一・十・百・イチゴチャージ!』
無双セイバーに戦極ドライバーから取り外したイチゴロックシードをはめ込み、横薙ぎに振るうとイチゴの幻影が目の前に現れ、それが破裂して凄まじい数のイチゴクナイが放たれ、下級インベスに直撃して連続で爆発を起こし、一瞬で全ての下級インベスを消し去った。
「ぐぉ!? ぐぁ!」
ライオンのような上級インベスの鋭い爪で切り裂かれ、遠距離から振るわれる鞭に数回叩かれ、数歩後ろへ後ずさった瞬間、複数の火球が俺めがけて放たれてくる。
「っと!」
『カチドキ!』
放たれてきた下級を後ろへ大きく飛びのくことで避け、現時点で最強のロックシードであるカチドキを開錠する。
『ロックオン! ソイヤ! カチドキアームズ! いざ出陣! エイエイオー!』
「ふぅ……行くぞ」
無双セイバーと火縄大橙DJ銃をドッキングさせ、一本の刀へと変形させ、二体の上級インベスめがけて駆け出していく。
たとえ周囲から悪意の声しか聞こえてこなくても……俺には守るべきものが……戦うべき理由がある。お前らみたいなやつにそんなものを。
「壊されてたまるか」
跳躍し、降下する勢いのまま剣を振り下ろし、ライオン野郎をまっすぐ叩き斬ると俺めがけて日本の鞭のように長い触角が振るわれてくる。
「これでも巻いとけ」
背中に装備されている旗を一本手に取り、それに触角を巻かせて旗から炎を噴き出すと触角を伝って奴自身に炎が映り、軽く爆発を上げて吹き飛ぶ。
「効くか」
ライオンから放たれてきた火球を片腕で止める。
「これで決める」
『ロックオン! 一・十・百・千・万・億・兆・無量大数!』
「えあぁぁ!」
カチドキのロックシードを剣にはめ込むと刀身から炎が噴き出し、それを大きく横薙ぎに振るうとライオンのインベスが横に切り裂かれ、大爆発を起こし、消滅した。
「次はお前だ。はぁ!」
『カチドキ・スカッシュ!』
「せやぁ!」
ドライバーのブレードを一回降ろすとそんな音声の後、全身から炎が噴き出す。
炎を全身に纏って駆け出し、跳躍して降下する勢いのまま相手へと蹴りを入れると火花を散らしながら吹き飛んでいき、地面に落ちた瞬間、大爆発を上げて消滅した。
「ふぅ…………」
「ひ、ひぃ!」
一息ついたその時、俺ではなく消滅したインベスの方を見ている奴を見つけ、そいつの近くにより、ポケットに手を突っ込んでみると複数のロックシードが出てきた。
「そうか……お前か」
「あ……ぁ…………感染するー! いやだぁぁぁぁ!」
そんな叫びの後、周囲の奴が悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように散っていく。
なんでも世間ではアーマードライダーに触れられたらインベスになるウイルスを流し込まれるとか言うありもしない噂が流れているらしい。
取り上げたロックシードを全力で握りつぶすと粉々になって砕ける。
ふと顔を上げた時に三浦たちに手を引かれて離れていく雪ノ下の姿が見えた。
……………何を泣きそうになってるんだ俺は。
鎧の下で必死に唇を噛みしめて涙を押し殺し、誰もいなくなり、明るい音楽が流れている夢の国の中を俺はただ一人で歩き始めた。