私の名前は八幡。ここ奉仕バーというゲイバーで働いている新人ながらNo.1のお姉さんに脅威とみなされているオカマママ。何故、私がオネエとしてここで働いているかというと……全ては私の愛しき妹の『お姉ちゃんが欲しかったな~』という些細な一言から始まったわ。ちょうどその時、高校生へ上がる春休みだったから興味本位でバイト面接に行ったら才能があると言われ、今に至るわ。
「ハチママ。あんたを指名の人よ」
「はい。ママ」
正直自分でも何やってんだよと言いたいけどまあなんかこれがそこそこ楽しいのでやめられないでいるわ……給料も良いしね。
お客さんがいるカウンターの前に立つと黒髪が綺麗でパーティー用の胸がバッサリあいているドレスを着た綺麗な女性だった。
「こんにちは。ハチママです。今日はどなたかに幸せでも?」
「うぅ……聞いてくれママ! 今日、私の友人が結婚してそのお祝いパーティーに行ったんだ! 私も早く結婚したいっていう思いを胸に秘めてだ! それでだ! そいつのことは無二の親友だと思っていたのになんて言ったと思う?」
「さあ、なんて言ったの?」
「妊娠だとさ! 結婚と同時妊娠だなんて! うわぁぁぁぁぁぁん!」
あらあら、泣き出しちゃった。
「貴方、お名前は?」
「うぅ……平塚静」
「そう。静さん。貴方綺麗でスタイルもいいのだからきっと男性は寄ってくるわ」
「でもでも! みんな最後は別れてくれって。ほら!」
涙を流しながらスマホを見せてくる。
そのスマホを拝借し、送られてきたメールを見てみると確かに別れてくれとだけ書かれており、理由も何もなかったので試しに送信メールを見てみたら別れを告げられた理由が分かった。
…………重いよ。これはさすがに重い。
おはようから始まって今日の天気から始まり、
『なんでメールかえしてくれないの?』
『まだ仕事じゃない時間だよね?』
『ねえ、あなたの声が聞きたいの』
『ねえ、ねえ……電話していい?』
『なんで電話でてくれないの?』
『 貴方の家の玄関の前にいま~す☆ 』
怖すぎる……しかも写メール付きでこのどす黒い瞳かよ……そりゃ別れられて当然だな……いくら美人でスタイルが良いって言ってもストーカー染みたことされたらそりゃ逃げていきますよ。
「みんな重いっていうんだけど私の中じゃそれが普通で……何がいけないんだろうか」
「ん~。そうね…………好きな人の声を聞きたいっていう気持ちはわかるんだけどその思いを押し付けるのはよくないんじゃないかしら」
「で、でも相手だって声を聴きたいって」
「確かにそうかもしれないけれど相手には相手のペースがあるもの。貴方のペースにキッカリ会う人は中々いないわ」
むしろ全世界を探し回ってもいないと思うぞ。魚以外は。
「うぅ。じゃあどどうすれば」
「そうね…………好きな人の声を録音して次のデートの日まではそれで耐えるっていうのはどうかしら」
「おぉ! ママナイスアイディア!」
「ふふ、ありがと」
「そうか録音か…………ぐふふふ」
あ、あれ? なんかヤバいこと言っちゃった?
「ありがとうママ! これ、お釣りはいらないから!」
そう言い、一万円を置いて静さんは店から出て行った。
「………あざーす」
お釣りの分をポケットにないないし、次のお客さんの前へと向かった。
後悔はしていない…………何を言われても後悔はしない。以上。