コードギアス オールハイルブリタニア!   作:倒錯した愛

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そして、【戦い】の準備を

「………では、お聞かせ願いましょうか、コーネリア様」

 

数分の沈黙…………コーネリアとダールトンの相談が終わったころを見計らい、ツキトは給仕の出した紅茶を一口飲み、コーネリアへと問いかけた。

 

「わかった………答える前にいくつか質問がある、良いか?」

 

「もちろんです」

 

ツキトの返しを予期していたコーネリアはそのまま言葉を続ける。

 

質問を質問で返す、というのをツキト相手にできるコーネリアの胆力は凄まじいのだが、本人はそうは思っていない様子。

 

「まず第一に、私以外でその秘密を知る人物はいるのか?」

 

「先ほど申し上げました通りユーフェミア様のみですね」

 

「他には?」

 

「誰も…………そもそもユーフェミア様にも伝える予定はなかったのですよ?機を見計らってまずはコーネリア様にお話しする予定でした…………やはりユーフェミア様の洞察力は幼少の頃から…………いえ、なんでも」

 

「む……そうであったか、しかし今言うのもなんだが…………らしくないな?お前は昔からずっと慎重を期すというか…………実力に合わない、どこか臆病な部分があったはずだ」

 

「………………数年ぶりの再会というものもあり、気が緩んでしまった私の修練不足です………マリアンヌ様が知れば失笑が返って来るでしょう……」

 

「…………」

 

ツキトの言葉にコーネリアは1人夢想する、あの優しく強いマリアンヌがツキトに言葉を投げかける場面を。

 

『あら?あなた、秘密も守れないの?』

 

冷笑、と言うべきだろうか、コーネリアの想像のマリアンヌは口元だけ笑みを作り、声音も普段通り、発した言葉も茶化すような感じの穏やかなものであったが、醸し出す空気は死んでおり、圧倒されるような威圧感で地面に縫い付けられるような感覚がした。

 

2度目の生を受け、初恋を抱き、今は敬虔な信徒が神を信仰するような目でマリアンヌを見るツキトは、コーネリアの想像の中ではいつもの毅然とした振る舞いはなく、ただ泣いて縋り付き赦しを乞う赤子のような姿だった。

 

事実、ツキトは最初の頃こそ原作通りのマリアンヌ(吐き気を催す邪悪)と思い込んでいたものの、まるで違う人格であると認識してからはルルーシュとナナリーに次ぐ優先的な保護対象に入れている。

 

さらに言えば、ナナリーと結婚した後には自身の義母ともなる人物であり、また、長年追い求め、終ぞ掴むことができなかった『剣』を知っているかも知れない人物。

 

ツキトは、自身の中身の年齢が100歳超えであれ10000歳超えであれ、剣について多くを知る知恵者であるなら恥も外見も見栄も誇りも肉体さえも厭わずに教えを乞いたいという気持ちがある。

 

より強き者、より賢い者に師事するのは当然であるからだ。

 

「…………それはそれで美味しいな」

 

「え“っっ!?」

 

「な、なんでも!なんでもございませんよ!?」

 

「そ、そうか……?」

 

ツキトが思わず溢した一言にコーネリアは若干の寒気を感じつつ、聞かなかったことにしようと思った。

 

コーネリアの隣に座るギルフォードは一瞬だけ仲間を見るような視線をツキトに向けたが、コーネリアの手前無様な真似はできないため真剣な表情を決め込んだ。

 

ツキトの隣に座るクレアはふつうにため息を吐いていた。

 

「で、では最後になるが………黒の騎士団のゼロは、お前のその秘密が私に知れ渡ってしまっても大丈夫なのか?」

 

「当初の予定では危険でありました…………しかし、状況が変わった……いえ、今の世界の情勢や、ブリタニアの内部腐敗を見れば、コーネリア様に事情を話す程度のリスクは返ってリターンにすらなるものと、私とゼロは考えています」

 

「そう、か………(中華連邦との衝突が大きく、ツキトはすでに軍上層部と内密に侵攻作戦を計画中と聞く、本国も中華連邦に対する圧力を強めるためユーロブリタニア方面軍の戦力を国境沿いへと展開しつつある………特派のランスロットの量産型機の見当がついたばかりなのに、すでに量産許可にサインがあるのも、戦争の早期決着を目指しつつ武勲を得るのが狙いか……)」

 

「(特派のランスロットはたとえ新兵であっても熟練兵のグロースターすら抑え込める圧倒的な性能がある、量産機とはいえ、あのランスロットと同等の性能であるならば、中華連邦といえど第五世代では長くは持たない………高性能量産機による短期決戦ともなれば、興味薄な陛下と言えど計画に携わったカーライル卿の名くらいは耳に入るはず……)」

 

「(ともすれば、アスプルンド伯爵と共に受勲にもなりましょう、カーライル卿はなぜか陛下に大層気に入られていると聴きます、おそらくそこで何かしらの要求をするものかと)」

 

「(ふむ……ありえる)」

 

ランスロットを基にした新鋭量産機、ヴィンセントの試作量産段階の生産許可へのサインは、無論、ツキトが書いた。

 

中華連邦のKMFに対抗するには、ランスロットと同等の量産機の生産が必要不可欠……それがツキトの出した決断だった。

 

元よりデータはふんだんにあったのだ、試作機の仮想上のスペックデータもまずまずの出来で、あとは許可さえ降りれば…………という段階で、ツキトがアンドロイドの研究をやらせたため、時期がずれ込み、研究もひと段落ついて気づいた頃には戦争間近だったのである。

 

秘密主義過ぎるツキトが特派のアンドロイド研究について特に口を酸っぱくして内々に進めさせたこともあり、特派の外に届かなかったのであるが………どこか狙ったかのようなタイミングであったことがコーネリアたちを混乱させ、変な誤解を生んだ。

 

「ところで」

 

コーネリアの一声で場の空気が変わったように感じたツキトは、妙に聡いユーフェミアの眠りの名探偵もビックリな鋭いツッコミが来るものと考え、思わず身構えた。

 

「特派のランスロット、あれの量産試作型の生産について、お前が許可を出していたんだな」

 

「いかに中華連邦相手とはいえ、KMFは現状のスザクのランスロット一機で十分!…………などと、世迷言を吐けるほど耄碌はしておりません、性能が高くなったからといって戦争のセオリーは依然変わらず『(物量)』ですので」

 

「万全を期すお前らしい考えだな…………しかし、生産計画には10機とあるが………これではどれ程大きく見積もっても一個中隊規模にしかならんのではないか?返って扱いづらいだろう」

 

指揮経験のあるコーネリアからすれば、大軍を動かす戦争においてたったの一個中隊規模の部隊は邪魔にしかならない存在だった。

 

中途半端な数ゆえに前線を張れず、後方におけるほど少なくないため、結局のところは物資輸送の護衛くらいしかできない……というのがコーネリアの考えであった。

 

もちろん、その部隊が自身の親衛隊であるグラストンナイツやギルフォードが入っているのであればまた話は変わるし、指揮する人間が変われば……例えばダールトンであればそこらの将と違って有効な運用が可能なはずだ。

 

コーネリアの懸念はまったくもってその通りで、試作型の量産機といえど試験運用するにはいささか数が足りないのだ。

 

その真意をツキトに問おうとしたが…………。

 

「10機で十分なのですよコーネリア様」

 

「たったの10機でか?……本当か?」

 

「はい、我がブリタニアはユートピアとの大戦に勝利しました、我らが祖、真なるブリテン人たちの……今は系譜途絶えし女王陛下と、偉大なる初代皇帝、ブリタニア公リカルド一世陛下の、数百年来の大悲願でありました!……それを、よもや私のような…………リカルド一世陛下と比べれば、吹けば飛ぶような軟弱な羽虫でしかないような私が、その大悲願の一助になることができたなど…………夢のようです」

 

ツキトは、演説の時もかくやというほどに興奮した様子で語る。

 

女王陛下とリカルド公の名前を言う時のその表情は、伝説の中にいる英雄や勇者の名を嬉々として口にする子供のように、大きな憧れを含んでいた。

 

だが同時に…………自身にその資格がないことを理解し、心のうちに飲み込んでなお、憧れを捨てきれない自身への落胆がその優しげと評されるツリ目気味の左目に映っていた。

 

そんなツキトを痛々しいと感じるコーネリアだが、ツキトが『しかし……』と言葉を続けたことで意識を平静に戻した。

 

「しかし…………勝利はしました、ブリテン島奪還も住民感情などはさて置き、問題なくすんだと言えましょう…………えぇ、そこまではよいのです、ここからです、いえ、『終戦と同時に、現在進行形で』国力が減り続けており、現在は国力を数年の戦争と戦後処理と1年にも満たぬ復興期間でおおよそ4割と消し飛ばしたことは覆りません」

 

「私はこっちにいたから参列できずいささか暇であったが……そうか、4割もか…………4割だとォ!?」

 

思いっきり立ち上がったことによってコーネリアの椅子が2mほど後方に飛んでいき、ガランガランと音を立てて転がる。

 

ダールトンに驚きにより『4……4割……』とうわ言のように呟いている。

 

ツキトの表情は硬い無表情であり汗一つ流さない冷静さが合間見れるが、この場面での無表情はその深刻さを伝えるには十分過ぎた。

 

「数百のKMFを失い、膠着した時期には虎の子である本国の砲兵の教導部隊(エリート)や減少しつつあった戦車部隊の投入、さらには列車砲なんて骨董品まで引っ張り出して…………ブリタニアでなければ国が死んでましたね」

 

「初期から中期にかけての攻めが甘かったのが原因と聞いたが……それがこのような結果を生むとは………」

 

頭を抱えつつ、給仕が戻した椅子に再度座るコーネリア、その心労は計り知れない。

 

最初期の侵攻プランの杜撰さが、知らぬ間にブリタニアにとって泥沼とも言える戦争の幕開けとなっていた。

 

KMFの平押しと空爆という代わり映えしない戦術が、堅牢な要塞や塹壕による防御、数々のトラップ、徹底した遅滞戦術に自爆攻撃に悩まされることになった。

 

「見返して見れば、兵を率いる将軍は軒並み20代、30代の少佐や中佐がほとんど、連隊や師団の経験もないものばかりではあるが指揮の高い若者で構成されたユーロ・ブリタニア、かと思えば、我々ブリタニア側は経験のない本国の年老いた50代、60代の将軍…………勝てたのは奇跡か偶然か……」

 

「……なんとも言えんな」

 

ツキトは溜息を吐き、コーネリアも呆れたように肩を竦めた。

 

本国の将軍、と言えば聞こえはいいが、実際は戦争経験のない処女であり、親衛隊と並ぶ『見た目だけ、名前だけは強そう』の典型だ。

 

そもそも、本国の帝都に上陸される時点で国家存亡の危機なので、お飾りでも良いと考えているのかもしれないが。

 

「とにかく、国力が衰退した今、一刻も早い回復こそ重要、となれば、サザーランドやグロースターなどの現行主力KMFの生産が急がれる中、試作量産型の大々的な量産と試験運用などは望ましくないでしょう」

 

「確かにそうだろう、だがかのランスロットと同等のスペックのKMFであるならばその限りではないはずだ」

 

「と、おっしゃいますと?」

 

「特派のランスロットの性能は私自身よくわかっているつもりだし、将兵の中でもアレの量産型の生産・配備を望む者や支持する者も多い、たとえ試作と言えど量産の目処が立っているなら、思い切って100機、もしくは帝都や中華連邦に近いエリア、研究や開発などの重要エリアに最低限防衛用に20機ずつは配備できるように整えてもよかったのではないか?」

 

ツキトは内心で身震いする。

 

コーネリアの頭の回転は時にルルーシュすら凌ぐが、それが本人の実力と経験に裏打ちされたものだと知ってはいたが、それを目にする機会がこれまでになかった。

 

だが実際に目にすればどうか?………まさしく経験豊富な歴戦の将であった。

 

その知はダールトンほどではないのだろうが、カリスマとKMFの実力は確かであり、彼女についていくと語る兵士の瞳の輝きが、彼女が人を惹きつける戦士であると気づかせてくれる。

 

しかし、とツキトは思い留まり言葉を選んで口を開く。

 

甘美な妄想はそこまでにしないとコーネリアの顔がゆがんでしまうからだ。

 

「それはまだ早計かと考えます、正式な量産機ならばともかく、試作量産型では信頼性という点においてグラスゴーにも劣り、10機の限定生産であるからこそ許可が下りたようなものなのです」

 

「一刻も早い国力の回復に努めると考えるなら、多少問題があろうと高性能な量産機を大量に配備すべきではないのか?お前が常々気にしている帝国臣民へのアピールにもなろう」

 

『なんでこんなに量産に乗り気なんだよ……』と内心呟き、顔に出さぬように辟易とした。

 

ランスロットの性能は開発者であるロイドや、パイロットであるスザク、一兵士であるツキト、敵対者として戦闘を経験した藤堂及び四聖剣、その脅威を間近で感じたルルーシュ、黒の騎士団の技術者ラクシャータ、ブリタニア軍日本エリア総督のコーネリアや同副総督ユーフェミア。

 

日本エリアの臣民はランスロットの活躍ぶりに『奇跡の藤堂』や『黒の騎士団』同様に想いを抱いている、かつての日本を取り戻す希望の光として。

 

さらに言えば本国の技術者たちや、かつてロイドの研究を敬遠した者、途中で見捨てた者までも興味を持った。

 

無論だが、洗練されたデザインや特殊兵装、基本を抑えたオーソドックスながら革新的機構など、ミリオタ的な観点から興味を抱いた者も少なくない。

 

だからこそ、ツキトは『今後の戦争においては強力なKMFが必要不可欠』と結論出しながら、『特別な想いが寄せられているランスロットを安易に量産すべきではない』とも考えていた。

 

政治的な……と言えば聞こえはいいが、要は『ランスロット神話』のようなものを民衆に植えつけようという魂胆がツキトにあったからだ。

 

そのランスロットの、いかに量産型と言えども、ランスロットという名前が付いた機体が撃破されれば軍も臣民も士気が下がってしまうのだ。

 

ブリタニアにとってランスロットとは、まさしくガンダ◯のようなものなのだ。

 

「工業中心のエリアでも生産は40機が限界なのです、ましてや今からこのプランを伝えても生産開始は半年後にずれ込みます」

 

「40機も作れるならその方が良いのではないか?」

 

「現地の作業員への教育と生産ラインの確立に『最高の条件が重なれば』半年後に生産できる『かもしれない』という程度なのです……それだけの時間があれば、たとえ生産コストが高くつくグロースターでも60機は作れます、同じ時間で考えれば新型は20機が生産可能でしょう」

 

「では、そんな時間がかかる新型をどこで作るつもりだったんだ?本国か?それとも中東のエリアか?」

 

「日本エリアで生産します」

 

「…………なるほど、つまりすでに日本エリア……キョウトにも話は通っているのか?」

 

「えぇ、彼らの協力があれば10機程度の生産はすぐにでも終わるでしょう、長く見積もって……およそ4ヶ月、調整込みで半年から7ヶ月でしょう」

 

「(すべて計算づくか……しかしよく無駄話に付き合ってくれるな、時間稼ぎとは思っていないのか?それともわざとか?まさか別の思惑が……?)」

 

「(カーライル卿自身にとっても重要な案件だからでは?ランスロットのパイロットでユーフェミア様の騎士である枢木卿とは所謂親友であるようですし)」

 

「それから…………正直なところを申し上げますと、量産型とはいえスペックが高すぎてデータをとるのに適当なパイロットがそれほどいないのです」

 

「それほどにか?」

 

「はい、軍内部の兵士の情報を集め調査させたところ、適性がありそうな者は14名、実際に戦闘行動が取れそうなのは内4名になり………10機発注した後で言うのもなんですが、予備含め6機でも事足りる状況なのです」

 

「それは…………たしかに、使いこなせなければ文鎮と変わらんだろう、しかしだ、なにもそこまで厳選することもあるまい?」

 

「コーネリア様、戦争は間近なのです、なのにブリタニア軍の戦力は十分とは気が違っても言えない状態です…………KMFもそうですが、何もかもが足りなすぎるのです」

 

ツキトはそう言って、これまで横で静かに座っていたクレアに目配せをする。

 

クレアは資料の束を取り出すとダールトンに手渡し、コーネリアとギルフォードに流すように伝えた。

 

資料を受け取り流し読みながらコーネリアは呟いた。

 

「…………やってくれるではないか」

 

「か、カーライル卿、これは……真実かね?」

 

「無論だ、私が大金を叩いてユーロピアの復興のついでに調査と回収をさせ、軍内部の信頼できる第三者調査機関に解析させた…………偽りなどない」

 

「だ、だが、報告には何も……もしや!」

 

「現地調査員としてブリタニア軍が選別した者はその大半が中華連邦の手の者、おそらくはアジア人顔の見分けがつかなかったのでしょう」

 

「ツキト、この資料はいつ上がった?」

 

「3日ほど前です、私は外出中でしたので部下にまとめさせました」

 

「……ふざけおって…………!」

 

ふつふつと湧き上がる怒りに手に力が篭る。

 

シワがよってクシャクシャになった資料に載っていたのはユーロピアに散乱する破棄されたKMFの調査報告の内容だった。

 

そこにはブリタニア製KMFとユーロピア製KMFの総数が地域ごとに分けて表記されていた。

 

その中に、コーネリアの怒りの原因である中華連邦製KMFの総数も載っていた。

 

「VIPが亡命と引き換えに大量に買い取ったのでしょう、塗装と追加の装甲で今までわからなかったようです」

 

「現地調査員を任命した者はどうした?」

 

「私の手の者に拘束を命じました、亡命していなければ、今から72時間以内に吐かせます」

 

「輸送ルートの調査と型式が載っていないが……特定はまだなのか?」

 

「魔改造によってパーツがごちゃごちゃ、砲撃によって損耗が激しい状態でして……解析を急がせますが今しばらくお待ちいただきたい」

 

「急いでくれ、結果によっては本国にKMFの生産をフルでやってもらわなければならんからな」

 

「承知いたしました…………ところで、残業代の代わりに出前を取ってもよろしいでしょうか?公務員とは言え残業代なしではモチベーションも下がります」

 

「ステーキでもなんでも経費で落とさせよう、その代わりに3日以内に資料をまとめろ、任命者の報告書も一緒にな」

 

「はい、現地調査員任命者の報告書とともに提出いたします」

 

「ダールトン、中華連邦内部に送り込んだ密偵は?」

 

「連絡がつかない状態にあります、通信機材を設置できないのか、すでに全滅してしまったのか……」

 

「…………そうか、わかった…………ツキト、中華連邦の調査を行いたい」

 

「秘密裏に、と言うことであれば私の手の者が現地におります」

 

「でかした、ではダールトンが送り込んだ密偵と協力して中華連邦の軍に関しての情報を集中的に調査させろ」

 

「会議の後すぐに命令を送ります」

 

「それと、先の新型KMFだが、私名義でもう10機分を追加生産させろ、テストついでにグラストンナイツに渡すことにする」

 

「よろしいのですか?グラストンナイツのグロースターは特注と聞きますが」

 

「新型KMFが生産されるというのに、いつまでもグロースターでは格好がつかんだろう?」

 

「わかりました、後でクレアに書類を持たせますのでサインの用意をお願いします」

 

パッパッパッ、と本題すら忘れて決まっていく、今後の動き。

 

中華連邦を徹底的にマークするための一手、二手を投じていくコーネリア。

 

今後の戦況に対応するためにテストを兼ねた実戦まで請け負うと、コーネリアは大胆にも宣言したことに驚くツキト。

 

通常、親衛隊に類する部隊に実験目的で試作品を使わせるのは愚も愚だ。

 

しかしランスロットから見てグロースターは二世代も型落ちしたKMF、世間の目、民衆の心は正直なもので、中古品より新品を好むものだ。

 

中古の型落ちよりも、新品新型最新鋭のほうがウケが良いに決まっているのだ。

 

そういう意図であれば、ツキトはうなづくより他の選択肢はなくなるし、何より、守護の代名詞たる騎士であるツキトに対し『民』という言葉は一般のそれより重く受け止めるべきことゆえに、イエス以外の答えは即刻除外した。

 

コーネリアもツキトが自分の提案を承諾する以外の選択はとらないと確信を持ったからこそ言えた、なぜか?それがこれまでの行動と長い付き合いというアドバンテージゆえだろう。

 

互いが互いをよく知るからこそ、妥協できる着地点を用意できたとも取れるし、コーネリアの作戦勝ちとも取れるだろう。

 

一応、どう転ぼうが、誰も損はしなかったことを明記しておく。

 

あらかた指示を出し終え落ち着いたところで、ようやくコーネリアが本題へと舵を切った。

 

「それでツキト、だいぶ脇道に逸れつつ大事な案件の対処を終えたところなんだが……お前の提案を受けようと思う」

 

「コーネリア様!」

 

「ギルフォード、お前の心配はわかる、だがそれでも私は知る必要があるのだ、ツキトと黒の騎士団の真意を」

 

美しい双眼でコーネリアはツキトを射抜くように見つめた。

 

対するツキトは、コーネリアの言葉と視線に笑みをもって返し、ニコニコと返事をした。

 

「それは素晴らしい、コーネリア様の英断に感謝を、私はようやく、心強い味方を得られました」

 

ツキトの表情と言葉に、一抹の不安を抱えるコーネリア。

 

吉と出るか凶と出るか…………少なくとも吉ではないのではないか、そう思うコーネリアであった。


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