コードギアス オールハイルブリタニア!   作:倒錯した愛

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お久しぶりぶりざえもん


その『願い』は『不許可』だ!

「いや無理だから」

 

「どうして!?」

 

地団駄を踏みながら詰め寄ってくるアーニャ…………いや、お前さ……。

 

「どこの世界に『元兄』の『愛人』になりたいなどという『元妹』がいるというのだ!」

 

『common sense』という言葉を辞書から引いてこい!

 

「ここに!!」

 

「だまらっしゃい!こんのドゥァ阿呆!」

 

キャラも何も吹っ飛ばして激昂する私、意外と冷静な脳みそに少しの呆れを抱きつつ、今日の朝を振り返った。

 

いつものように8時過ぎにはデスクに座り、30〜40分の間に来るクレアに紅茶を用意し、9時から仕事を始めるためにデスク周りを雑巾で拭いていた時だ。

 

小さいながらも強い意志を感じるノック音とともにアーニャが来室、追加の紅茶を淹れて普段は仮眠くらいにしか使っていない高級感あるソファにアーニャを座らせる。

 

無駄に値が張りそうなテーブルを挟んで向かい側のソファに相対するように私は座る。

 

私が淹れた紅茶をクレアが給湯室から持ってきてテーブルに置き、会釈してそそくさと自分のデスクに…………おい待て、ちょっとくらいは座る仕草しろよ、なに帰ってんだクレアコノヤロウ!

 

…………まあ、いい。

 

いやよくはない、よくはないが、もういい、諦めた。

 

紅茶を飲みながらアーニャの要件を聴いていく、それは調査団のリーダーとしての事務的な質問ばかりであり、手帳を見ながら話すアーニャはとても気だるそうに見えた。

 

私も、もちろん気だるい気分だった、質問をしに来たのがアーニャでなくヴァインベルグだったなら、ソファに座らせず紅茶も出さず入り口でつっ立たせておき、私は椅子で踏ん反り返って紅茶を啜りながら面倒な質問に適当に応えていただろう。

 

そもそも名ばかりでポーズだけの調査団のために割く時間などないのだ。

 

本気で疑われているのなら話はそれこそ360°…………180°変わるが、元妹のアーニャとそれなりに顔は知っているヴァインベルグが調査団のリーダーという時点で、もうね…………まあこの話は前にもしたが、要するに、うるさい臣下に囲まれる皇帝陛下も大変、ということだ。

 

事務的な質問を終えたアーニャは手帳をしまい、紅茶をチビチビと飲みながらモジモジとし始めた。

 

かわいい………………ではなく……いや、かわいいことは間違いようがないこの世の真理である、『ではなく』、というのはあくまで仕切り直しの意味を持つということで、アーニャがかわいいという事実を否定したわけではない。

 

そこは勘違いしないでくれたまえ諸君、『アーニャはかわいい』、これは覆しようのない心理であり真理なのだ、いいね?

 

それで、えぇっと……………あぁ、そこで私はクレアに広報部に書類を届けるように言ったんだ。

 

クレアが書類を持って部屋を出ると、それまで話しづらそうだったアーニャが、少しずつ話し出した。

 

まず、先日のお願いは有効かどうかについて。

 

ここで『なにそれ?(笑)』と言って断ってもよかったが、私は妹のガチ泣きを見たいわけではない…………おい待て白い神なんだその目は、私がそんな鬼畜外道に…………見えるよな、そうだよな………で、まあ、一応、有効期限内だと伝えた。

 

すると嬉しそうなオーラ全開で『お願い』を口にした。

 

「お兄ちゃんの……愛人にしてください」

 

どこで習ったのか、綺麗な土下座付きで。

 

もう死んでもいいかな?

 

ダメ?あ、そう………。

 

どうしてこうなった……?

 

『第3者による干渉行為等の疑いの余地なし、100%に限りなく近い値であなたの責任です』

 

黙れ!黙れ黙れぃ!!

 

久しぶりの出番だからといってシャシャリ出てくるな!

 

『知っていますか?作者的には私も攻略対象のようですよ?』

 

そんなこと当たり前だろうが、むしろお前が私にとっての攻略対象(ぶっ殺す相手)じゃなかったらおかしいだろ。

 

『…………』

 

まあ、そんなことはいい、よくないけどいい。

 

今は目の前のアーニャの対処だ。

 

やはりここは、王道の難聴系ラノベ主人公(え?なんだって?ちょっと聞こえなかった)、でいくよりほかないだろう!

 

いz

 

「愛人にしてくd「いや無理だから」

 

「どうして!?」

 

そして、冒頭に至る。

 

いや無理だろう、普通に考えて、常識的に考えて、倫理的に考えて。

 

あらゆる方面から考え、そのすべてからNOと返ってくるのを感じる。

 

絶対神とタイマン張るより厳しいとかシャレにならんぞ…………まだタイマンのほうが救いがある(ただし魂的な意味で)ように思えて謎の有情感を感じている自分に気味の悪さを感じた。

 

込み上げてくる吐き気のようなものを抑えながら、強烈な倦怠感を感じて思考を放棄し始めた脳という電動機のスイッチを蹴り上げるように入れる。

 

思考を始める脳の中であらゆる考えが回転し始めた、濃い紫色の液体をぶちまけながら加速度運動を続ける様は、ミキサーの中に放り込まれた葡萄を連想させるが如くグロテスクな絵だろう。

 

脳みそがフルーツとは、まったく笑えん冗談だ、スイーツよりかはマシだがな。

 

パソコンの冷却ファンのように思考を回して考える、高速回転で空も飛べそうだ。

 

暴走熱で吹っ飛びそうな脳みそでアーニャとの愛人関係を持った場合をシミュレートする。

 

……………………案外悪くなくて死にたくなった、このまま脳みそが空中分解したら私は幸せに死ねるはずだ。

 

「せめて…………肉体関係だけでも」

 

それを許さないようにアーニャが口を挟んできた、正直疲れたから休みたい、人生を。

 

だがルルーシュからの王命がある今、勝手に死んでは不忠も良いところ、生き恥晒しても生きねばならぬ。

 

「論外だバカモノ…………陛下によって我々は赤の他人となってはいるが、世間は私とお前を未だに兄妹として見ているのだぞ?血だって繋がっているのだ、それで愛人関係など……………」

 

「じゃあ、体だけでも」

 

「それがいかんと言っているのだろうが!」

 

「ゴムつければいいでしょ!?」

 

「Aの時点でアウトだというのだぞ!Cなど斬首モノだ!」

 

「キスしてくれた!テレビの前でも!」

 

「ケースバイケースだ愚か者!平時であれば、あのような真似するものか!そもそもだ、あれは新年を迎える瞬間を陛下とともに過ごすことで、忠誠を示す儀式のようなものなのだぞ?そんな大事な日に、無礼講とはいえあのような…………」

 

「分からず屋………」

 

「言葉を遮るな!……ちっ、こんなところで暇があるなら、さっさと茶を飲んで出て行け」

 

「………………じゃあ、変更する」

 

「まともかつ実現可能なものを頼むぞ…………本当に」

 

「…………」

 

返事を待つ、が、返ってこない、顔を上げて見れば、アーニャが手を合わせて次のお願いを考えている様子が見えた。

 

時間がかかるだろうと思い、アーニャと自分のカップに新しく紅茶を注ぎ、目を閉じて考え込むアーニャの顔を暫し見つめ、デスクにもどる。

 

デスクの時計の針は09:16を指し示し、本来始めるべき仕事が16分も開始が遅れていることを告げていた。

 

そして、クレアが30分以上返ってこないことも、暗に告げていた。

 

行き場のない感情の放流をコンクリートの壁で囲ってダムとしてせき止める。

 

アーニャが再起動するまで、今日の仕事を減らしつつ待つことにした。

 

………はぁ、なぜだ、なぜなんだ。

 

アーニャなら、それこそ引く手数多だろうに…………よりによってこんなクソみたいな性悪チビ男なんか…………。

 

冷たく当たってたほうがよかったかも………………無闇矢鱈に優しさを振りまいて自業自得に陥っている今となっては、タラレバの話に過ぎないが。

 

いっそ開き直って…………ナナリーに嫌われること必至だな、だがこれくらいしか方法がない……。

 

100歩譲って重婚でもまあ良いとしよう、条件としてアーニャと一切の肉体関係を迫ることを禁止してくれるのであれば、一考の余地ありだ。

 

…………何でこのことをあの時に聞かなかったんだ私は!?阿呆か!?考えなしと変わらんじゃないか!!

 

もしあの時の寒そうな服装と危ない行動、そして冷える夜中という状況が、ナナリーとアーニャが私の心をかき乱すための作戦だとしたら、私にはもうどうすることもできぬ。

 

気づけなかった私が悪いのだ、2人を責めてよいというものではない。

 

むしろ出し抜いたことを褒めるべきで…………いや、2人にはいつも出し抜かれてるし、やり方も特別褒められたことじゃないな。

 

私にできることは…………今からでも嫌われるように努力することだが………具体的に何をすれば良いのか検討もつかん。

 

…………これからはもっとキツくあたるべきだろう、今まではキツくといってもどこかで優し過ぎた、容赦しない方が良いだろう。

 

身内に甘いようではこれから先、枢機卿となった後が大変だからな。

 

「お兄ちゃん、決めたよ」

 

「そのままでいいから言ってみろ」

 

意外と早かったな…………悩んで時間食ってくれた方が楽だったのに。

 

「心身のケアをするパートナーになって」

 

「…………どう言う意味だ?」

 

私の理解力が足りないせいか、ちょっと意味が掴めなかった。

 

「文字通り、言った通り、お兄ちゃんに頭を撫でてもらったり、ハグしてもらったりするの……そして私もお兄ちゃんの頭を撫でたりハグしたりする、どう?」

 

「…………極めて健全な肉体接触のみであるならば一考の余地ありと認めよう」

 

罠は無さそうに見えるが…………飛び込むには私の警戒心が強くて無理だ。

 

「健全に決まってるのに………何ならお試しする?」

 

「…………具体的には?」

 

「例えば、何か大事な試合の前、落ち着けない私の頭を撫でたり、ハグしたりして落ち着かせるの」

 

「そういうことか」

 

「で、お兄ちゃんがそうなった時は、私が撫でたり抱いたりする」

 

「言葉のニュアンスに恐怖を感じたが…………まあ、それくらいなら……」

 

「…………っし」

 

小さく呟いてガッツポーズするのはやめろォ!

 

やっぱりこれも罠か?本命より厳しいものを先に提示して、本命を後出しするアレか!?

 

恐ろしいな私の妹!

 

「終わりだな?なら、さっさと部屋から出て調査団らしく『調査』でもするのだな」

 

「お試ししないの?」

 

「する必要がない、終わったらさっさと帰れ」

 

「ん、近くでじっくり観察するから大丈夫」

 

「視界に入るだけで邪魔だ」

 

「じゃあ後ろに回ってる」

 

「チッ…………後ろに回られると虫唾が走るからそこにいろ」

 

いい加減帰れよ…………あとクレアは帰ってこいよ、仕事溜まってんだぞ。

 

まあ…………いや良くない、何納得しかけているのだ私は。

 

しかし、こうなればアーニャはテコでも動かない。

 

アーニャ自身の仕事はあらかた終わってるようだし、私の仕事も少ない、なら、ロイドの様子でも見に行くか。

 

脚の骨はもうそろそろ繋がったろう、セシルの補助が必要なものの、もう特派の研究室に通えるくらいだからな。

 

アーニャは…………無視してさっさと行くか。

 

椅子から立ち上がるとアーニャも同時に立ち上がった。

 

部屋から出ると後ろからひょっこり着いてきた。

 

「………………」

 

待て、ツキト・カーライル。

 

激しては意味が無い、冷静になれ。

 

ただ、元妹が無言で後ろにぴったり張り付いてついてきてるだけのこと。

 

ここはただ黙って歩くのみ…………なんて、そんな胸中、アーニャは知らんだろうが。

 

すれ違う職員や兵士に妙な眼で見られながらロイドのいる特派へ歩く。

 

ラボに入ると、そこにはいつもの光景があった。

 

モニターにしがみつくようにしてキーボードを叩き続けるロイド、レポートをまとめるセシル、そして大量の機械。

 

懐かしい頃の特派そのままだった。

 

「だいぶ調子が良いようではないか、ロイド」

 

「あれ?ツキトくんじゃないか、どうしたのさ、こんな朝早くから」

 

電動車椅子を動かして体ごとこちらに向けるロイド、固定具もないと言うことは脚はだいぶ治ってきているようだな。

 

「もうとっくに10時前だぞ…………お前がラボに戻ったと聞いてな、しばらく寂しかったんで顔を見にきた」

 

「すっごく稀にだけど、意外と可愛いこと言うよねツキトくん…………とりあえずありがとう」

 

「どういたしまして、ところで不躾にすぎる質問だが…………進歩状況は?」

 

「さっぱり!暴走事故の一件でラボに調査が入るって聞いてさ、セシル君に燃やしてもらったんだ」

 

「そこは私の落ち度だから気にするな、また一からになるが………やってくれるか?」

 

「もちろん!やっと、人類の役に立てるかもしれない研究を始められたんだ、僕は逃げないよ」

 

「私も凡人ながら手伝っていきますよ」

 

「…………すまない、愚問だったな」

 

まったく、こいつら2人の決意は眩しいにもほどがある。

 

その光度は太陽すら目を細めるだろうな。

 

「いえいえ、私もちょっと嬉しかったものですから………あ、ツキトさんにはココアを、アールストレイム様にはコーヒーをお持ちしました」

 

あ、そう言えばアーニャがいたんだったな、背中に引っ付いたままだったか。

 

「あぁ、ありがとうセシル……いい加減に離れろアールストレイム」

 

ココアとコーヒーを受け取り、後ろに引っ付いたままのアーニャに離れるように言う。

 

「……………………もうちょっと」

 

「匂いなど嗅ぐでない!犬か貴様!」

 

もしくは猫か!?

 

「貴様それでも貴族か?ラウンズか?」

 

「お兄ちゃんの愛人」

 

「………私にも堪忍袋の尾は存在するのだぞ?」

 

「ひぅ…………ごめんなさい」

 

睨み付けるとやっと離れた…………はあ、疲れるぞこいつ本当。

 

「わかればよい、そら、貴様のコーヒーだ、例のひとつでも言うことだ」

 

「うん……ありがとう」

 

「いえ、お口に合えば良いのですが」

 

にこやかに話すセシル…………そういえば、今日のココアからは何も変な匂いがしない気がする。

 

とりま、一口。

 

「…………ほぉ」

 

普通、普通のココアだ。

 

色、香り、味、すべてが物語っている。

 

これは普通のノンシュガーココアだ。

 

セシルが普通の飲み物を持ってきたことに驚きつつ、もう一口。

 

「うむ、うまい」

 

普通とは、実に良いものだな。

 

まあ、チリパウダーココアもなかなかにいけたがな。

 

「ふぅむ…………して、どんな状況だ?」

 

「結構遅れちゃったし、この前と同じくらいの時間が必要だと思うよ」

 

「ドナーは?」

 

「健康そのもの、仮にも僕が信用してる機関だ、ま、完成が遅れるって言ったら膨れちゃってたけど」

 

「被験体は?」

 

「バイタルチェックはしておいた、セシル君がまとめて保管してある」

 

「当たりはいたか?」

 

「………………いない、1人もいなかった……誰1人として適性のある被験体はいなかった、もしくは、何らかの理由ですでに処分されていた」

 

「うむ、私好みの回答だ、100%、満点をつけてやろうロイド」

 

「満点ねえ…………言っとくけどここからだからね、君があいつに突きつけて交渉するのはいいけど、あんま派手にやられるとドナーを連れてかれちゃうんだよ」

 

「心配するな、結果的に言って、最後に残るのはドナーか、それとも私の首か…………その程度のことはいくらでも体験してきた、ただ渡すだけだ、『お望みの資料ですどうぞご覧ください』ってな」

 

「それだけで済めばいいんだけどねぇ…………あいつは結構な腹黒で、その部下も一目見た時から全く読めない奴だったし、罠のひとつはあると思った方がいいんじゃない?」

 

「罠か…………なるほど、他ならぬお前の忠告だ、肝に銘じよう」

 

「いやに殊勝じゃないかツキトくん、心変わりでもしたの?」

 

「たわけ、柄にも無くビビってるだけだ、膝も笑ってるさ」

 

「あの人を前にしてビビる程度で済む、って言えるのは君くらいじゃないかなぁ?…………まあ何も感じないよりはいいけどね」

 

「もっと怖い人を知っているからな…………」

 

ナナリー、アーニャ、コーネリア、ユーフェミア、ゴッドバルト、マリアンヌ、シャルル、後宮のコック長とその娘さん…………改めて羅列すると意外と多かったな。

 

別の意味で怖い、というとオデュッセウス辺りだろうか?あの善良さと穏やかな性格は実に得難い、私が思うに、ルルーシュが皇帝となる道程で、もっとも大きな障壁となり得た可能性があったからだ。

 

何せオデュッセウスは産まれる時代と国を致命的なまでに間違えただけで、【民が考え得る上で最上の統治者】として理想的な人格者なのだから。

 

善良で、慈悲深く、穏やかで、争い事を嫌い、妬み恨みからも遠く、犠牲を許さない。

 

御伽噺に出てくる王国の王様か王子様がそっくりそのまま出て来たような人物、それがオデュッセウスだろう。

 

彼のような人格者が、ユーロピアにいたなら、きっと戦争などせず、対等な統一された一国家として統合することを選んだはずだ。

 

無能無能と、私自身も言ったような気がするが、個人的には好きな人物だ。

 

凄惨な後継者争いが絶えないブリタニア皇族の中にあってそれらと無縁、『清涼剤』『ブリタニア最後の良心』と兵士の間で囁かれるのも頷ける。

 

そう言う意味では…………。

 

「……おそらく一番怖いのは、オデュッセウス殿下は」

 

「オデュッセウス殿下が?それまたどうして?」

 

「『何も無い』から怖いのだ」

 

「どうしてさ?僕がこう言うのもなんだけど、第2位ほど頭は良くないし冷酷でも無いんだよ?むしろ人が良すぎると言うか」

 

「ロイドの言うとおり、殿下にはそれらの『強み』は一切ない、だが逆に、『弱み』がない、要するに『弱点』や『隙』がない…………これほど恐ろしい相手はそうそういないぞ」

 

いくら密偵に調べさせても、上がってくる情報は否応にも『聖人らしさ』漂うものばかり。

 

朽ちかけた教会や修道院の修繕に大金を払い公共の事業として労働者へ仕事と賃金を与えたり。

 

裏稼業の人間や犯罪者をただ罰するのではなくボランティアなどに従事させ更生させたり。

 

国民の負担軽減のための福祉を充実させようといくつか案を提出したり(なおシュナイゼルに却下される)。

 

正直言ってやりにくい。

 

「攻めにくいし守りにくいってこと?」

 

「あぁ、害を成そうとしても、成そうとする側の良心を串刺しにしてくる、かと思えば向こうは善意100%で近寄ってくる…………恐ろしいにも程があるぞ」

 

シュナイゼルを殺し、ルルーシュが皇帝となった後、もっとも扱いに困りそうなのが策謀に疎いオデュッセウスというのが、何ともまあ皮肉のようであまり嬉しくない。

 

「シュナイゼル殿下が人を操ることに長けているなら、オデュッセウス殿下は人に好かれることに長けている…………シンパの数で言えばオデュッセウス殿下は圧倒的だ、特に、今の国内情勢においてはな」

 

「『反戦ムード』ってやつ?」

 

「あぁ、民草を思えば、当然の雰囲気ではあるがな…………」

 

ユーロピアとの戦争が終わり、もう2ヶ月以上が経った。

 

双方に残した傷跡はあまりに多く、そして深いことを、世界は知った。

 

ユーロブリタニアは、その体制を維持できる権力━━━━その源泉たる騎士団を全て失った。

 

そう、すべてだ、騎士団に所属していた騎士(貴族)たちは、最終決戦の地、あの城塞に穴を穿つためだけに捨て駒として使われ壊滅した。

 

生き残りがいたとしても、直後の大砲撃から逃げられたとは考えにくい、従って実質的に騎士団は消滅した。

 

騎士団という求心力を失ったユーロブリタニアは、それまでの己の贅を極めた行動のツケを払わされるように、ユーロピア、ユーロブリタニア双方の民によって食い千切られた。

 

ある者たちは、身体中をあらゆる動物によって齧られ、喰われる様を、動物園のショーケースのような場所に監禁され、それを観客が、『四肢のうちどこの部位から先に喰われるか、それとも腐り落ちるか?』という賭けを行い、用が済めば生きたまま骨も残らず燃やされた。

 

またある者たちは、両腕両脚を切断されダルマになり、両目をくり抜かれて下を切り捨てられた上で、生きた性欲処理機として馬小屋に設置され、この世に生きる人間とはまかり間違っても思えない呻き声をリズミカルに奏でているとか。

 

そしてある者たちは、好き者たちによって腹を切り開かれ、引きずり出された臓物をオナホールとして使用され、死んだ後は冷たくなった口内や肛門、女は女性器にブツや樹脂製の棒をねじ込み死姦を楽しんだ、最後は洗浄して部位ごとに切り分けてバーベキューをしたのだとか。

 

苦の先に終わることができた者たちは幸運だった、今も馬小屋にいるかもしれない奴は、まあ、頑張ってくれたまえ。

 

戦時下にあって貴重な物資を湯水のように使いパーティーを開きまくり、未来ある若者たちに『死ね』と命じて引きこもり続けたツケだ。

 

潔く全額カラダで払って逝け。

 

しかし…………本当の地獄はそこからだった。

 

若者はほとんどが英雄として名を刻んだ、その代償に、復興に手を出せる現地の人員のほとんどが40以上の男性と、10代〜30代の女性しかいなかった。

 

経済が立ち行かなくなってしまうほどに多くの若者が英雄となってしまったのだ。

 

復興支援のボランティアに人員を募っていなかったら、今頃無政府状態のユーロピアが地図上から消しとばされていたことだろう。

 

人口はこれから長い時間をかけて少しずつ修正していくより他ないのがもどかしい。

 

先の話をぶり返すが、実を言うとオデュッセウスも少なからず復興に出資している。

 

私ほどではないが、それでも数10人が死ぬまで遊んで暮らせる金だ、バカにはできない。

 

話を戻そう、とかくユーロピアは厳しい状況にあるわけだが、ブリタニアもそうも言っていられない。

 

先の戦争による反戦ムード、そこについ最近に起きた中華連邦の戦闘機による体当たり事案が、大きな亀裂となっている。

 

反戦ムードを推している反戦派としては、体当たり事案を事故と見せて、戦争を起こしたい主戦派の頭を押さえつけている状況だ。

 

本国では皇帝陛下が何も言わないのをいいことに『皇帝陛下は悩んでいるんだ!僕たちがなんとかしないと!(意訳)』と躍起になって反戦デモやら主戦デモやらをやらかす始末。

 

陛下も大変だろう、デモ騒ぎはクッソうるさいし臣下たちはあーだこーだと行き場の無い会議()を続けているしで…………いやホント七面倒臭そう(ラウンズ並感)。

 

その波がどうやらユーロピアにまで来ているようで、厄介なことにあっちは反戦派優勢ムードらしい。

 

せっかく戦争ができると思っていたのに!クソが!!

 

「僕としてもあんまり人が死ぬのは嫌だね、君は職業柄仕方ないかもしれないけど、きっと君のことをスザク君から聞いてなかったら、友達になんてなってなかったろうね」

 

「私も、お前の作るものはどれもこれも有用だと知っていたし、何よりスザクの上司と聞いて顔くらいは見ておこう程度にしか思っていなかったさ…………ランスロットを見るまではな」

 

「そんな早い段階でよく知らない僕を高く評価できたね?もっと慎重だと思ってたんだけど?」

 

驚いたような顔を向けて私にそう言うロイド、しかしその手は休めない。

 

「スザクを血筋や人種ではなく能力で評価し、惜しげも無く最新鋭機のテストパイロットに任命する思考、その時点で私にとってのお前の評価はかなり変わった」

 

「それは、良い方にかな?」

 

「無論だ、『顔見せして帰ろう』から『小一時間話してみたいと思う』に変わった」

 

「…………君らしくないね、ランスロットはたしかに高性能で、スザク君は最高のパイロットだと判断してそうするように手を回しただけの僕なんかと、話をしたいなんて言うとはね」

 

「おいおい、ロイド、お前はスザク(親友)の能力を誰よりも早くに見抜いた男だぞ?その時点で興味津々でたまらなかったぞ?」

 

正直ちょっとあの模擬戦は滾った、いやー、ランスロットも素早くて強かったが、スザクの勘が良すぎて、あそこまで戦いづらいとは…………それがメチャクチャ楽しかったのだがね。

 

「…………君はもうちょっと自覚したほうがいいね、率直に言葉を話すことの危険性をさ」

 

「ほう?なんだ?私に惚れたかな?」

 

「正直、君の人間性のようなものには惹かれるところがあるね…………君がアカデミーの同級生だったら、もっと早くからいろんな研究ができて、意見を言い合ったりできたんだろうなって、思うことはあるかな」

 

「ロイドと同級生か、なるほど、それも面白いifだな、私もちょっと確かめてみたいことがあるな、交友関係とか」

 

「ボッチだったけど何かある!?」

 

思わず手も止めて怒るロイド、何気に怒った表情はレアだ。

 

処刑部隊構想を持ち込んだ時くらいだからな、キレたのは。

 

「ハハハハハ!そうかそうか!いやそう怒るな」

 

「全く君は、デリカシー無いよね本当……」

 

「いや、だが少し嬉しくもあるな」

 

「何がさ?」

 

「もしかしたら、ロイドの友人第一号になれたかもしれないからな」

 

「…………………………僕のこと口説いてない?」

 

「さあ?口説いているかもしれないし、からかってるのかもしれないぞ?」

 

「その口調は絶対からかってるね!僕の昼食をかけてもいい!」

 

「それ私が勝っても結局負けじゃないか…………まあ、からかい半分、口説き半分だがね」

 

「君ってやつは………本当に………はぁ…………噂以上の『魔性』っぷりだよ」

 

「『魔性』だと?」

 

「テレビとか見ないの?ネットは?」

 

「暇があれば」

 

「見てないってことだね…………今の君のネットでの評価、結構ヤバめだよ」

 

「なに?」

 

どういうことだ?情報操作はC.C.がしっかりと見ているはずだ、何かあればすぐに報告があるはずだ。

 

「ツキト君の信者を名乗る若者が、ツキト君が如何に凄いのかっていう演説を「あぁもういいわかった聞きたくない」

 

「ついでに4時間ぶっ続けでやってたよ」

 

「止めろよ警察!」

 

「来てた警察も聴いてたそうだよ」

 

「たぶん職務放棄だと思うんだがねぇ!?」

 

「さほど車の通りもないシティの路地裏近くだったから通行妨害とかの法には抵触してないし、今のところ訴えもないらしいね」

 

「まるで私が根回ししたかのような私の巧妙なダイマじゃないか!面倒なことをしてくれる!これでは計画が……」

 

「計画って?」

 

「え?……あっ…………」

 

まずった、そう言えばアーニャが居たんだった。

 

「計画ってなに?いたずら?」

 

「いや、そういうわけではない、ただ少し…………人には言えんことだ」

 

ど、どう誤魔化せばいい!?そこらの凡人なら容易いが、アーニャはさすがに厳しい……!

 

「誤魔化す?……犯罪の計画なの?」

 

「そ、そういうわけではない、ただ、私もラウンズとして、日本エリア防衛の要たる猟犬部隊のトップとして、今後の世論や状況を鑑みた行動を取らねばならんと考えていただけだ」

 

「…………嘘じゃないんだ」

 

「当たり前だ、だいたい、貴様に何がわかるというのだアールストレイム、他人の分際で心を覗き見るような真似は決して許されんのだぞ」

 

「元とは言え兄妹、世間がどうであれ、私にとってはお兄ちゃんはお兄ちゃん、理想の人」

 

「みみっちぃ理想もあったものだ、こんな性悪なんぞに近づいて脳細胞が半死でもしたか?お花畑もいいとこだ」

 

「お兄ちゃんのそばに居られるなら、私はどんなに馬鹿になってもいい、お兄ちゃんさえいてくれたら、それだけで十分すぎるほど幸せ」

 

「っ………………お、愚か者…………そんなだから彼氏の1人もできんのだ……」

 

「…………ツキト君さぁ…………そういうとこだと思うなぁ、僕」

 

「な、なにがだ?なんだというのだロイド?」

 

「探してみなよ〜、僕は仕事に戻るから、兄妹仲良くねぇ」

 

くっ、なんだというのだ……ロイドめ、あんなにニヤニヤとしよって……。

 

「いったい、何が悪いというのだ?」

 

結局、何が悪いのかはわからなかった。




神格補正で勝手にモテちゃうツキト君ですが、幼少から……神格が無かった頃から親しかった人からは純粋に好意を寄せられています。
ナナリーやアーニャ、ルルーシュにスザクはもちろん、コーネリア姉妹に咲世子、ナナリーの親友のマリーも含まれます。
ツキト君が信者にとって神に等しい、もしくはそれよりも上位と思考して付き従うのも、神格の影響とそれを活用した洗脳術によるものなので、それがないときに接触していた彼ら彼女らは一切影響を受けていません。

なお、あくまで神格の影響を受けないだけで、外側からの干渉や影響は防ぐ手立てがない限り受ける。

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