コードギアス オールハイルブリタニア!   作:倒錯した愛

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ついに始まるアーニャ・アールストレイムとナナリー・ランペルージの真剣勝負ッッ!!!
勝敗を決すは技か!?力か!?それともッ!愛なのかッッ!?
2人の少女の想いの交差が!ドラマを呼ぶ!!!

cv.千葉さん


『少女達』が求めしもの、『城壁』に求められしもの

決闘当日。

 

アーニャとナナリーを散々に貶し、煽ったあの日から1週間。

 

アーニャとは宣言通り一度も顔を合わせることなく、学園とクラブハウスから離れナナリーとも距離をとり、ついにその時はやってきた。

 

晴れ渡る空、夕方も近い時間帯であるが、小鳥たちはまだ広場の噴水に集っていた。

 

小さな観客たち数10匹、大きな観客たち数100人、そして、特別席にユーフェミア、護衛として騎士であるスザクがやや後ろに立ち、ユーフェミアの隣にクレアが座っている。

 

そして━━━━━━全ブリタニアの臣民たちが、世界中から国営放送を通し、その瞬間を待っていた。

 

中心人物であるアーニャとナナリーは、すでに騎士甲冑を見に纏い、剣を腰に下げ、兜を外した姿で広場の中心に集っていた。

 

その最中、私は審判として2人を横から眺めている、いるのだが…………正直、目をそらしたい気持ちでいっぱいだ。

 

もう数分も経てば剣を交える相手同士、睨み合いや心理戦のひとつもするだろうと思っていた。

 

最初の数分こそ睨み合いが続いていたが、私が広場に現れると同時に首が戦車の砲塔のように『キュィィイイン!』と旋回、その目力を私に向けた。

 

もう怖すぎて怖すぎて、2人を眺めてはいるがそれは2人の間の虚空を見ているだけであって、少しでも左右に視線をズラせばあの眼力にロックオンされてしまう。

 

そらしたいと言ったのは訂正しよう、スザクの家に帰りたい。

 

ちくしょう、何が『調停役はツキトしかいないでしょ?』だ、クレアめ!

 

そもそもこんだけビックなイベントなら予知くらいしろ!使えん能力だなまったく!!

 

まあ、あれだけ散々煽って貶した結果だ、多少の怒りは受け止めるがこれは許容外だぞ!

 

しかし!しかしだ…………2人にもっとも近い場所で観戦できるというのは実に良い!

 

同じ視点から見ることができるならば、それはもはや特等席と大差ない、いやむしろ特等席以上に価値がある!

 

かたや私が仕込んだ剣士、かたやマリアンヌが仕込んだ剣士、その2人が剣を交えるというならば、それはまさしくドリームマッチ!

 

それを生で見られるなんて…………1人のファンとしては勃◯ものだ。

 

2人から刺さる濃厚な殺気と、これから始まる決闘に興奮が隠しきれず、すでにハーフ・エレクトしている!

 

2人と視線が少しでも掠ったりでもして、あの殺気を眼で受けて意識してしまったら…………隠しようがないほどエレクトしてしまうのは想像に易い。

 

怖いものは怖いが、怖いもの見たさという言葉がある通り、私はそのスリルと恐怖感で、すでに4分の3ほどエレクトしてしまっている状態だ。

 

フッ、もはや2人にどれほど変態と罵られようと構うまい。

 

これはもはや、私のサガのひとつ!世に数ある性癖のうちのひとつ!すなわち私そのもの!

 

フハハハハ!興奮し過ぎて何を考えているのかすらわからなくなってきたが、そんなものもうどうでもよいことだ!

 

………えぇい!まだ始まらんのか!?…………って120秒以上もあるのか!くそぅ待ち遠しい!!

 

秒刻みでエレクトしてイきつつある私の『エクス………カリバァァァァ !!!』は、もう収まりがつかぬほどだ!

 

マントより守備範囲の広いローブに近いラウンズの旧制服を着ていなければ、即バレ不可避であったところだぞ。

 

まったく困る、私をこれほど興奮させるなんて…………おっと、いけないいけない、自然に腰の剣に手が伸びかけていた。

 

危うく剣を抜いて2人に飛びかかっていたやもしれん、いやはや、理性というものも、あまり役に立たんな。

 

崩れるは容易く、積み上げるは難い。

 

「カーライル様、間も無く親善試合開始です」

 

「…………あぁ、もうそんな時間か」

 

背中越しにクレアの声が聞こえてきた。

 

振り向いて答え、視線を元の位置まで戻してから腕時計を確認する。

 

あと70秒弱………そろそろ良いか。

 

「此度の親善試合は、神聖ブリタニア帝国において長い歴史を持つ、伝統的で最も古風な決闘ルールによって行われる」

 

懐から巻物を取り出して広げ、読む…………振りをするようにして続ける。

 

「決闘の地はここ、『アッシュフォード学園の噴水広場』である」

 

「剣は一振り、神聖ブリタニア帝国最高の鍛治職人の拵えた『ロングソード』である」

 

「決闘を執り行う者、右の者…………神聖ブリタニア帝国第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニア皇帝陛下直轄騎士、ナイトオブラウンズ所属、第6の騎士(ナイトオブシックス)、『アーニャ・アールストレイム』」

 

「決闘を執り行う者、左の者…………神聖ブリタニア帝国エリア11、アッシュフォード学園高等部フェンシング部所属、『ナナリー・ランペルージ』」

 

「以上の事を、審判であるこの私、ツキト・カーライルの名において宣言するものである」

 

巻物を綺麗に巻いて戻し、懐にしまう。

 

あとは、ユーフェミアが開始の宣言を行えば良いだけだ。

 

「ユーフェミア・リ・ブリタニアの名において、この決闘を見届けます…………その剣で、自らの正義を貫きなさい」

 

その声がアッシュフォード学園中に響き渡る。

 

静寂の広がる噴水広場の中心で、アーニャとナナリーは兜を被り、鞘からロングソードを引き抜き、構えて向かい合った。

 

距離を図りつつジリジリと動き合う、まさに『静』の動きと体現できる高次の読み合い。

 

それは唐突に終わりを迎え、同時に踏み込んだ2人は激しく打ち合いを始める。

 

右へ、左へ、上へ、下へ、正面へ、剣先が斬り結び、金属の残響音が耳に心地良い。

 

…………まずいな。

 

「ハァァッ!」

 

「セヤァァァッ!」

 

2人ともスピードはそうでもない、そうでもないが…………私以上に、剣を扱えている。

 

甲冑の重さ込みで考えれば中々のスピードだと言えるだろう。

 

動きが鈍る中であれだけ自在に剣を、手足のように取り回せるとは……!

 

正直驚愕だ、ナナリーの適応能力はただただ異常だ。

 

そうとしか思えない、たった1週間の練習で、ただそれだけで、常日頃から鍛錬を重ねるアーニャに迫っている。

 

あの、才能のスープを飲ませた私の判断は間違ってなどいなかった!

 

あれはただ、アーニャとナナリーの同等の斬り結ぶ剣閃を見たいだけだった…………だが!今は違う!

 

脳内麻薬が過剰分泌されているのを感じる!『楽』の感情で細い神経が渋滞を起こし、歓喜が洪水のように溢れて飽和している!

 

全身の至る所をパレードが歩いて行く、どこまでも、どこまでも、私の身を蹂躙して行く!

 

あぁ、何と甘美なことか……!

 

あの剣の打ち合いが、まるで、おとぎ話に出てくる森の妖精たちのじゃれ合いに見えてくる。

 

心が踊って仕方がないというのに、何と心休まる光景だろうか…………。

 

自称常識人どもはきっと言うだろう、『武器を振り回す人を見て心休まるなんて正気ではない』と、そう言うのだろう。

 

だが、私は2人の剣戟の応酬に、ギリシャの彫刻すら嘲笑う美しさを感じている。

 

あれはまさしく、英雄たる者たちの…………。

 

カチカチッ…………

 

「ん?」

 

おっと…………まただ、勝手に右手が………。

 

意識していないと危険だな…………私の身体なのに、私ではない別の意思で動いているような……………気味が悪いな。

 

それに、危うく決闘になりかけたあの日、いやに怖がられていたが…………。

 

まさか…………外側からの干渉?それこそまさか!ありえ…………いや、否定してかかるのは良くないな、足元を掬われるどころじゃ、床板を引っこ抜かれかねん。

 

あるいは、おおよそ、この場所に、神聖なる決闘の場にふさわしくない者が紛れ込み、身体が反応したか…………。

 

ふむ、観客は校舎の窓から防弾ガラスと窓ガラスを挟んだ向こう側にいる、ともすれば割って入るなどということはできないはずなのだが………。

 

私は審判ゆえこの場から動けない、校舎内や学園周辺を警備中の猟犬部隊(ハウンド)の鼻を信じる他にないのが歯がゆい。

 

まったく……………すっかり覚めてしまったではないか、あれほど気持ち良い余韻に浸っていたというのに、冷や水を浴びせられた気分だ。

 

萎びた小松菜もびっくりなしなしなっぷりだが、目の前に繰り広げられている剣戟はそんな気分すら消しとばす勢いだ。

 

剣を振るい、互いに咆哮する。

 

獣のようのがむしゃらに、しかし剣術と己の技巧をもって、理性的に攻める。

 

身体は熱く、頭は冷めて冴え渡る。

 

今の2人はそんな感じだろう、身体は火照って熱く、甲冑が重くて邪魔で仕方ないと思うことすら振り払い、眼前のライバルめがけて剣を振る。

 

がむしゃらな棒振りでは敵わない、防御しにくい角度、受け流せない方向、致命的な弱点を探りつつ、またそれが相手にバレてしまわないように、冷静に理性的に立ち回る。

 

「ゼア“ァァァッッ!!」

 

「シャァァアアアッッ!!」

 

カチカチッ……カチカチッ…………

 

だから剣に触るな右手ぇ!

 

我が身ながらこれっぽっちも堪え性がないとは………まだ数分も経たないうちからこうではな………。

 

いや、試合はもう勝敗が決しそうだ…………。

 

ッッ!…………これはッ!!

 

「そこまで!此度の親善試合、勝者は…………」

 

口に出しつつ、複雑な気持ちがぐるぐると回っていた。

 

どちらにも勝ってほしいと願ってはいたが、こうしてどちらかが勝ち、どちらかが負けるという瞬間に安心を覚える傍らで、どこか、こんなにもすぐに決着がついてしまうのかと、奇妙な物足りなさを感じていた。

 

確実に言えることは、私が観客であったなら、我を忘れてしばらく座席で放心していただろうことは、想像に容易かった。

 

こうして、アッシュフォード学園における親善試合は、その幕を下ろした。

 

ユーフェミアが所感を述べるのを聴きながら、私はただ黙って試合の様子を反芻していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も粛々と、決まった流れの通りに閉会式が執り行われ、大きなアクシデントもなく、平和なまま表向きの親善試合は終了した。

 

厳格な式も全て終え、最後にユーフェミアが内々に2人の健闘を讃え、本当の意味で親善試合の全日程が終了した。

 

猟犬部隊とスザクにユーフェミアの護送を任せ、私は別件で別れると伝えた。

 

別件とは言え、ゼロと少し話しをするだけだ。

 

しかし、荒れていく騎士団の現状に対する対応が追いつかないことから、ブリタニア側の人間を招き密会を開き、今後について協議する…………という建前だ。

 

もちろん、この建物もコーネリアやユーフェミアにバレた時に話すホラである。

 

密会と言っても、私とルルーシュとC.C.の3人で話し合うというだけであり、実質的に騎士団幹部の会議と変わらない。

 

猟犬部隊から報告はなかったが、試合中に感じたあの気持ち悪い感覚…………背信・裏切りの匂いを感じ取れた。

 

騎士団はすでに限界寸前、なあなあな処置で済ませていたせいで、派閥は巨大化、対立構造はより一層深まってしまった。

 

今更会議?………と思うかもしれない、私も実際に思ったことだ。

 

しかし、騎士団のリーダーはツキト・カーライル(わ た し)でも、謎の女エリー(ワ タ シ)でもない。

 

リーダーはゼロ…………エリーとC.C.はあくまでその副官にすぎず、騎士団を管理する役目を負ってはいるが、全権を持っているわけではない。

 

それに、C.C.はともかく、私自身はルルーシュから助けをこわれない限りは不干渉でいるつもりだった。

 

そして、今回ルルーシュに呼ばれたということは…………いよいよ、強硬策を実行するか否かの話し合いになるだろう。

 

学園の最終的な検査………爆発物や毒物などのテロ対策の検査………を終えた猟犬部隊が帰投した後。

 

私も荷物をまとめてトウキョウシティにある騎士団本部へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツキトさん!」

 

「お兄ちゃん!」

 

学園から出ようと歩き、校門の前にいたナナリーとアーニャに呼び止められる。

 

2人ともデザインも色も違うがスポーツウェアにスパッツという非常に薄い格好だ。

 

『ナナリー、もう夕飯の時間のはずだ、咲世子が心配しているぞ?』とか、『アーニャ、仕事はどうした?』とか、そんな言葉が浮かんではくるものの、なぜか、声が出せない。

 

驚きのあまり声が出ないのかと思ったが、自分の頭は客観的に見ても冷静なほうだ。

 

ならばなぜ?…………そんな疑問が生じる、その答えを得るため思考の海に潜る。

 

だが、その前に、呼び止められたのなら返事は返さねばならない。

 

そして、数々の侮辱行為を行ってしまったのだ、頭を下げ、謝らねばならない、許しを請わねばならない。

 

「ナナリー、アーニャ………すまなかった」

 

煽り、貶したことを謝罪する、いかにやる気を出させるためとはいえ、あれはやり過ぎだった。

 

「私は2人の騎士として、そして剣士としての誇りを傷つけた………言葉だけの謝罪では到底許し難いことは重々承知している…………私に出来る限りのことなら、なんでもしよう」

 

許してもらえずとも、これくらいのことは安いものだ。

 

もとより私に、許してもらえるほどののとができるかどうか、また、それをやらせてもらえる価値があるのかどうか………。

 

ナナリーとアーニャの顔を見る、暗がりでよく見えないが、少なくとも怒っている様子には見えない。

 

「…………アーニャさんと話し合って決めたことがあります」

 

「それを、私たち2人にして欲しい、それでチャラにしよ?」

 

ナナリーとアーニャがそう切り出す。

 

そうか、ただ憎しみ合う敵ではなく、友人、もしくはライバル同士になったのか。

 

嬉しいことだ、と喜ぶ心がゴムボールのように跳ね回るのを押さえつけ、2人の『して欲しいこと』というものが一体なんなのか、その答えがくるのを待つ。

 

「私とアーニャさんで話し合いました、その結果…………ツキトさんと結婚しようと決めました…………3人で一緒に」

 

……………………?

 

「ナナリーはお兄ちゃんが好き、私もお兄ちゃんが好き、お兄ちゃんは私とナナリーが好き…………何も問題ない」

 

……………………??

 

「最初は私も嫌でした、ツキトさんに重婚させるなんてこと、それも、こうしてお願いとして無理やりさせることも」

 

……………………???

 

「だから、条件をつけた、これでお兄ちゃんの同意を得られなかったら…………この件はなかったことにして、2人別々の願いを言うから、そっちを叶えてくれればいい」

 

…………………………あっ、夢じゃないのか。

 

なんだ、元妹と主と重婚するか否かの決断を迫られた夢を見ていた気がしたが………………現実かよ、ちくしょう。

 

「…………別々の願いというのは?」

 

「ごめんなさいツキトさん、それは言えません……」

 

「ズルすぎると思うけど…………お兄ちゃんには、重婚を選ぶか、答えのわからない別解を選ぶか、その2択しか用意できない」

 

やっぱりダメか……。

 

私の性格を知ってて、わざとさっきの説明の時にふたつめの別々の願いを明かさなかったわけか。

 

とりあえず、クラブハウスに2人を連れて行こう。

 

春とはいえ、さすがに夜はかなり冷え込む、ただでさえ下着よりマシという酷く薄い服装なのだ。

 

男として、ナナリーとアーニャに風邪を引かせてはならない。

 

「夜で暗いし寒い、それに立ち話では落ち着けない、クラブハウスに入ってココアでも飲みながらゆっくり話そう」

 

とりあえず、咲世子に温かい飲み物や食べ物の準備をするようにメールを送って、1人になったタイミングを見計らってルルーシュに遅れると電話を…………。

 

「やだ」

 

「いやです」

 

「…………すまない、もう一度言ってくれないか?疲れて耳が遠くなったのかもしれない」

 

「では…………いやです、ここで答えてください」

 

「答えない限り絶対ここを動かない」

 

ケータイでメールを打とうと取り出した状態で固まる。

 

よもや否定されるとは露ほども思っていなかったが故、動揺のあまり表情筋まで凍ってしまう。

 

考える、考える。

 

脳をコンピュータとして高速で演算を処理していく。

 

答えを、答えを、答えを。

 

納得させられる言葉はないのか?

 

ない、ありえない、不可能、無理、無駄、無意味…………更なる要求を提示される可能性あり。

 

どうすればいい?どうすればいい!?

 

落ち着け!落ち着け!!

 

私はツキト・カーライルだ!ツキト・カーライルなんだぞ!

 

カーライル(城 壁)は揺るがない!揺るぎはせぬ!!絶対に!!

 

そうだ!まずは条件の確認をやっていこう。

 

「…………わかった、ではいくつか質問があるのだが、構わないか?」

 

「はい」

 

「うん」

 

まずは…………。

 

「ひとつめの願いと、個別の願い………これらは繋がりや関連性のあるものなのか?それとも否か?」

 

「ありません、完全に個人的なお願いで、重婚のお願いとは関係はありません」

 

「被らないように何度も話し合って確認したから、心配しなくていいよ」

 

「個別の願いを叶えると言ったら、重婚をすることになっていた…………ということはないのだな?」

 

「はい、ツキトさんが私とアーニャさんと重婚する、ということは絶対にないと保証します」

 

「お兄ちゃん、どうしても信用できないなら、私の命を賭けてもいいよ」

 

「そこまで言うのなら信じよう…………それと、命の張りどころを(たが)うでない、アールストレイム」

 

これで、ふたつめの選択肢を選んでも重婚することになる、ということはなくなった。

 

「では次に、2人の個別の願いはそれぞれどのようなものか、抽象的に教えてもらえるか?」

 

「それはできない」

 

「私も、できません」

 

むぅ……ガードが硬い、攻めにくいな。

 

一旦距離を取ろう、このまま攻めても崩せない、ジリ貧だ。

 

「わかった、では次に、2人はひとつめの願い(3人で重婚)ふたつめの願い(個別のお願い)、選ばれるなら……どっちを選んでほしいのか、教えてもらえるか?」

 

「…………ふたつめです」

 

「私もふたつめを選んでほしい」

 

となれば、本命はふたつめ、2人それぞれ別々の願いを叶えてもらいたいと思っているわけか。

 

ひとつめの願いの重婚という無理難題が叶えばラッキーだが、それはないと踏んでふたつめを本命にして内容を隠した。

 

どちらかを選べと言われたら、多少不安はあってもふたつめを選ぶ可能性が高いからな。

 

これで、私にとって重婚よりふたつめの願いのほうが安全なものだと確信が持てた。

 

「最後に、願いを拒んだ場合はどうする?」

 

「その時は…………ここが私の墓場になるだけです」

 

「ナナリーの墓のとなりに私の墓ができるだけだよ」

 

どこに隠していたのか、ナナリーはカッターナイフを、アーニャはナイフを取り出して己の首筋に近づけた。

 

命を引き合いに出されては…………私に拒否の選択肢はないわけか。

 

ふたつめの願いのほうが若干でも安全とわかっている、そしてほかに選択できるものはないのなら、実質1択と変わらなかったわけか。

 

…………致し方あるまい、それしかないのなら、それを選ぶほかないであろう。

 

「そんな物騒な真似はよせ、場合によっては貴様ら2人の腕を引きちぎらねばならんことになる」

 

「なら…………選んでください」

 

「…………」コクコク

 

「わかったから、今答えるからすぐにそれをやめろ、心臓に悪い」

 

言うと素直に刃物を下ろした2人だが、鼻息が若干荒い気がする。

 

「はい!そ、それでツキトさん、どっちを選んでくれたんですか?」

 

「ふたつめのほう?それとも重婚?」

 

「待て待て刃物を持ったまま近づくな…………いや、本当にやめてくれ、怖いから、頼む」

 

夜中に刃物を持って近づいてくるのはやめろぉ!!怖いんだぞ!凄く怖いんだぞ!!

 

「はぁ…………2人の個別の願いを聞き、叶えると誓う」

 

そう言った瞬間、2人は笑顔でうなづきあった。

 

とても嬉しそうで、私も笑顔になりそうだったが、それより早くため息がでた。

 

中身不明、しかし確実にプラスではないことが確定している箱を開けるような気分に陥り、これからに不安しか感じられない。

 

いっそ、第3者からの作為的なナニカを感じざるを得ないほどだ。

 

「はぁ……」

 

ため息をつくと幸運が逃げる、とは言うが、マイナスにならない限り、幸運の値が0であっても私はため息をつくだろうな。

 

それで少しでも気分が良くなればいい…………なんて、叶いもしない願いを込めて。




〜試合後〜

アーニャ「お兄ちゃんが大好き!愛してる!」

ナナリー「ツキトさんが大好きです!愛してます!」

アーニャ「そして、お兄ちゃんは私とナナリーが好きで、愛してる」

ナナリー「つまり…………実質重婚しているようなものですよね?」

アーニャ「お兄ちゃんが謝ってきたら交換条件で提案しよう」

ナナリー「そうしましょうアーニャさん!あっ、断られた時用に別のお願いも準備しておきましょう!」

アーニャ「ベストアイデア、ふふふ…………これはもう、実質セッk『次回を待て!!』




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