TKTNK「貴族に逆戻りしちゃったんだぜ!側近帰ったら絶対ブッコロゾ!」
急ブレーキ
TKTNK「あああぁぁああぁあぁああぁぁあああっっ!!!」
ヘンゼル「はぇ〜、すっごい制動」
グレーテル「ブリタニアの技術力ぅ……ですかねえ?」
ヘンゼル「誇らしくないの?」
TKTNK「捕まれや阿呆!!」
ツキトが操縦室のドアを開ける。
ドアの向こう側、後方車両の方には親衛隊の者たちが武装して集結していた。
いきなりドアが開いたことに驚いてサブマシンガンやショットガンを構える親衛隊達だが、出てきたツキトの姿を確認して構えを解いて敬礼した。
「カーライル卿!ご無事でしたか!」
「私は、無事だが……」
威勢の良い40代半ばの隊員が声をかける、ツキトはやや言いづらそうにかぶりを振ってから話し始めた。
「………運転手がやられてしまった、着いた時にはすでに肩にでかいのをぶち込まれたあとだった」
「刺し傷による出血、ですか……」
「残念ながら手の施しようがない、弔ってやりたいがいつまた襲撃を受けるかわからん、一刻も早く平原を抜けなければならない」
「わかりました、外部通信機で運転手を呼びます」
ツキトの声に呼応して先ほどの隊員より若い、30代前後の男が通信機を取りに行くため、敬礼して後ろに振り向いた時だった。
「待て」
ツキトの呼び止める声に驚き、身構える親衛隊達。
これまでの声のトーンとは違い、一層深く低い声音だったからだ。
「な、なんでしょうか?」
「…………先程なんと言った?」
「は、はぁ、先程と言いますと……」
「運転手の傷のことだ」
「あぁはい、ただの推測ですが、刺し傷による出血、と……」
「………………なあ」
ツキトはリボルバーを抜いてハンマーを起こし、言った。
「ぶち込まれた…………と言った時、普通は大口径の拳銃か、散弾銃を連想すると思うんだが?」
「!!!!」
そう言って隊員の男を見据えるツキトの目は、濁りきったドブ川のように真っ黒で、同時に、極彩色が万華鏡のように不規則に回転しながら乱反射しているように見える。
気圧された男は後ずさりながら反論を考える、混乱する頭で何とかひねり出そうと模索する。
「操縦室の狭さを考えますと、銃器より刀剣類の方が取り回しやすいため、とっさにその基準で考えました」
「そうか、なるほど、ではもうひとつ…………なぜ、貴様だけ銃剣を腰につけていない?」
「邪魔になるかと……」
「阿呆か貴様?私が親衛隊の事情を知らぬとでも?」
「…………」
ツキトの言葉に口をつぐむ男、その表情は青ざめていた。
無理もない、よもやツキトが親衛隊にのみ配布される教範を読破していようとは思いもよらぬ誤算だった。
『親衛隊が嫌いだからケチつけようと思った』、という不純極まりない理由があったことは気にするな!
「【親衛隊は騎士である、故に儀仗隊としての役割を持ち活動する場合がある、いかなる状況下であっても銃剣だけは常に携行するべし】…………まあ、そんな一文があったと思うんだが」
迂闊、理不尽にすぎるツキトの記憶力に為すすべを失う男。
「どうだったかなあ………ん?どうした?ほら、答えろよ、『親衛隊』」
「…………死ねえ!!」
回答は銃弾となって帰ってきた。
ショットガンから放たれた小さな鉄の粒が、ツキト目掛けて飛んでくる。
距離はたったの4、5メートル、いかに剣の天才とも言われるツキトであれ、この距離からの散弾を躱しきれはしまい……と、男は思い、引き金を迷いなく引いた。
そう、いかにツキトといえども全弾のうち自身に当たる分だけを切り落とすとしても、厳しいだろう、そう、とっくのとうに判断していた。
それで何の対策もなしに突っ込むほど、ツキトは馬鹿ではない。
男にとってもうふたつほど誤算があったとするならば、ひとつ目は…………。
「そうは床屋が卸さない、ってね!」
射線上に飛び込み、すべての散弾をその身で受け止めた銀髪の女がいたこと。
そして、ふたつ目は…………。
「『問屋』でしょそこは…………あぁそうだ、お兄さんさあ、『マーシャルアーツ』って知ってる?」
「なん…………ぁぁあああああ“あ”あ“あ”あ“あ”!!!!!!」
見事な体捌きと足運びからくる縮地にも似た高速移動で男に接近し、あっという間に制圧してしまった、これまた1人目によく似た銀髪の女がいたことだ。
「いや〜、まさか本当に盾になるなんて思わなかったよ」
散弾を全て腹部で受け止めておきながら、痛む様子も見せない銀髪に女に言い知れぬ不気味さを感じずにはいられない親衛隊達。
「それがお前の役目だからな、果たしてもらわねば困るのだ」
そんな親衛隊達を他所にツキトが何の心配もせず平然としているという、恐怖を煽るようなことしてしまった。
もちろん、親衛隊だけではなく、今も組み伏せられ身動きできない状態にある男は、さらに大きな恐怖の中にあった。
「…………!」
散弾すら平然と受け止めて身じろぎさえしないバケモノ女と瓜二つの女が、自分を組み伏せているのだから。
「グレーテル、そいつから出来る限り吐き出させろ」
「りょーかーい」
痛みで失神した男を軽々と持ち上げる銀髪の女、グレーテル。
テキトーに持ち上げたまま空いている個室のドアを開けて放り投げた。
そのままグレーテルも個室に入り、ドアが閉められた。
「あぁ、そうだ」
ふいに、ツキトがそうこぼし。
「ヘンゼル、そこの男も同じ部屋に連れて行け」
「アイアイサー!」
「え!?自分がですか!?なぜ自分が……」
急に指を指されたと思うといきなり先程男が放り込まれた個室に連れて行けというツキトに、困惑を隠しきれない親衛隊達の中でもっとも若い男。
「あいつが銃を構えた時、皆が押さえ込もうと動いていた中で、貴様だけ反対方向の出口に向かったからだ」
「なんですと!?本当かヘンリー!?」
「い、いえ、自分はっ……!」
「お仲間さんが騒ぎを起こしてる時に自分だけ逃げようとしたんじゃないの〜?オリジナルの暗殺の成功、失敗に関わらずさ」
言い逃れすら許さないと、ヘンゼルがこの状況ではもっともらしい理由を突きつける。
若い男を囲むように親衛隊達が銃を構えた。
「お……俺は違う!違うんだ!」
焦燥し、喚き散らして自分は違うと叫ぶ若い男。
親衛隊達も『やはり違うのでは?』とにわかにも思えてきてしまい、銃口が下を向き始める。
「ヒュー、真に迫る演技だねえ」
「プロのアサシンは潜入がバレた時、相手の油断を誘うような演技をすると聞くが…………なるほど、騙されるわけだな」
だが、ここにいるのは鬼畜の権化、ツキト・カーライル。
そしてその人格をコピーしたtypeBアンドロイド【ヘンゼルとグレーテル】なのだ。
追撃の手を緩めるはずもなく、親衛隊達は今度こそしっかりと銃を構えて包囲した。
「諦めたまえ、悪いようにはせんよ…………まあ、いつ気が変わるかは知らんがな」
「う……くっ………」
若い男は膝を床につけ、肩を落として力なくうな垂れた。
「ヘンゼル、連れて行け」
「ほいほーい」
ズルズルと男を片手で引きずって行くヘンゼルに畏怖の目を向ける親衛隊達。
仕方がない、人ならざる奇妙なモノとしか認識ができない、いや、日本エリアの特派と本国の凡技術者の技術では格差があるせいで、認識が追いつかないのだろう。
「列車を動かすためにその手の資格を持っている者はいるか?」
「私とこいつが電気系の資格を少々……」
「君達は私と来い、他の者たちはさっきの銀髪の女……グレーテルとともにアイツらから何でもいいから吐かせろ」
指示を出したツキトが、小さく呟いた。
「…………皇帝陛下の威光に泥を塗るなど……………許さん」
顔を覗くものがいなかったのはツキトにとって幸いであり、そして覗こうとした者がいた場合、その者は深く後悔しただろう。
「絶対に…………許してなるものか………っ!!」
伝説の中にある鬼の醜い顔面を思わせる、怒りで歪んだ表情をしていたのだから。
しかし、それでもツキトは覗かれても構わないと考えていた。
忠誠こそ誉たるブリタニアにおいて、それを怒りとして表している自身の姿を見せれば、株があがると考えているからだ。
打算的な考えをやめられないツキトを、いったいどこまで民は信じてついて行くのだろうか?
ツキト・カーライルの思想を理解しようという行為そのものが、狂信者のような無意味な殉教へと誘うのだろうか?
ただ一つ言えること。
それは、ツキトが決して正義ではないということだ。
ツキトside
「結局、延期になっちゃったねぇ」
ある程度復興が進んでいる地区の、安全が確認できたパリの高級ホテルの一室に着いて早々、ヘンゼルがつぶやいた。
「『皇帝陛下の専用列車を止めてまで重要人物を暗殺しようとした、暗殺者はなんと親衛隊だった』なんてことになれば延期も無理もないでしょ」
キングサイズのベッドに腰掛けたグレーテルがそう返しつつ、カモフラージュのための服を脱いだ。
「今頃本国のほうじゃ極秘裏の取り調べの真っ最中かな、または、事実の隠蔽に動くか……」
ヘンゼルも同様に服を脱いで全裸になり、グレーテルのとなりに腰かけた。
「『親衛隊隊員の大粛清』、『皇帝陛下専用列車での暗殺未遂』、どっちもバレたら大変だし、情報操作でてんやわんわ、ってとこでしょうね」
「私もそれについて召喚されそうだ…………まったく面倒な」
腰かけるヘンゼルとグレーテルの後ろの方の空いたスペースに寝っ転がる。
今日はもう疲れた、さっさと寝るに限る。
「はぁ………ヘンゼル、グレーテル、私はもう寝る」
もう一ミクロンも思考したくない…………。
だいたいなんで列車を止めたんだ、修理のために前から後ろまで工具持ってシャトルランなぞ…………到底ラウンズの仕事じゃないな。
日曜大工のラウンズ……なんて呼ばれそうだ。
日曜大工でもやらんぞ、あんな専門技師のやるような電気系の修理は。
「はぁ…………あ〜……ヘンゼル、グレーテル」
「んー?なになにオリジナルぅ?おっぱい揉む?」
「それとも、挟んだほうがいいかしらね?」
「間に合ってるからソンナノハイラン」
3………5か。
「部屋の外、5人……臓物の匂いがする、刃物持ちだろう、殺れ」
「「アイアイサー(あいよ〜)」」
応えたヘンゼルとグレーテルはビシッとふざけた敬礼をして全裸で……【一糸纏わぬ全裸】で、ホテルの廊下へと飛び出そうとした。
「待て、服を着てから行け」
「えーせっかく脱いだのに〜……」
「しゃーないでしょ、オリジナルの趣味なんだし」
「おいこら、私には脱衣観察趣味も視姦趣味もないぞ」
せめてあるとすればナナリーが趣味…………うっわ、私、キモすぎ。
「あっ、そだ、どうせなら面白くいかない?」
下着をつけながらヘンゼルはニヒルな笑みでそう言った。
「……あー……察したわ」
「で?どうよ?」
「もち、やるに決まってるでしょ」
「お前らなあ……」
いい顔で笑いやがって…………この性格の悪さはまさに私だな。
「ふむ…………よし、お前たちに任せる」
自発的な行動は良いデータが取れそうだ。
ま、修学旅行的に言えば、眠る前の枕投げのようなものだ。
「お!ノリいいじゃんオリジナルぅ〜」
「実はこの状況を楽しんでるんでしょ?」
「ふふっ………まあな」
命を狙われる感覚というものは、マイナスGがかかった時のような、臓物が上に引き上げられる『キュッ』という感覚……言うなれば浮遊感に通じる、なんとも言えない心地よさがある。
などと、マゾのようなことを思ってしまったが…………実際、ジェットコースターの下りは謎の気持ちよさがあるだろう?
「好きなようにやれ、必要があればリンクは無理だが共感覚ならいいぞ」
ヘンゼルとグレーテルは顔を見合わせるとうなづきあい、同時に私を見つめてきた。
「よぅーっし!やっちゃうぞ〜!」
「ほんじゃ、ヘンゼルは逃げるほうで、オリジナルはラフな格好でちょい乱しといて」
「ほう…………なるほど」
そうかそう来るか。
たしかに、人目は十分に引けるだろうな。
…………本当、嫌なとこ似るなぁこいつら……。
一難去ってまた百難!
止まることのないアサシンラッシュ!
ネロ祭りの翁地獄がごとく!(なお脱落者のみのもよう、消化試合ってレベルじゃねーぞ!)