コードギアス オールハイルブリタニア!   作:倒錯した愛

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前回のアラシズィ!!

皇神楽耶ネキ「やはり、純愛は最高や!NTRはNG」

ツキトニキ「わかる(天上天下唯我独尊天下無双百鬼夜行)」


『列車』は『止まらない』

『ジークフリートについては隠蔽できたよ、改装の方もツキト君のおかげでスムーズに運びそうだよ』

 

「わかった、アンドロイドについてはどうなっている?」

 

『ほとんど終わってたんだけど、まだ残骸の中にログが残っていたから、そこから各駆動部の動作や可動限界を調べてるところ』

 

ふむ、意外と残ってしまうものだな、機械相手に完璧な隠蔽は厳しい、ということか。

 

「さすがだ、試作品はいつごろになる?」

 

『モノはすぐにできるよ、ツキト君が帰って来る頃には出来てると思う、ただ人体に影響を与えない・与えにくい物質でパーツを作る必要があるからねえ……早くても1ヶ月かな』

 

ふむ、1ヶ月か、遅くなってもざっと2、3ヶ月程度…………いいじゃないか、慎重に行こう。

 

私だけのことじゃないからな、臆病なくらいでいいだろう。

 

「ドナーのほうは?」

 

『ちょっと興奮気味かもしれないね、睡眠時間が足りないのかたまーに長い時間お昼寝してるみたいだね』

 

「落ち着かせるために大体の完成時期を教えてやれ、それから、体調管理を厳にするように頼む、だがあまり強制はするな」

 

『難しい注文をしてくれるねえツキト君は、ドナーはまだ………』

 

「言うな、わかっている…………しかし、望んだのは本人だ」

 

『わかってるよ………』

 

ロイドを押し黙らせる、沈黙が流れ、言葉がしばらく出なかった。

 

「………後手に回るが、再生手術の研究も行う、その地盤を確保するための重要な研究であることはお前も知っているだろう?」

 

『わかってるって、これが成功して有用性を実証できれば、晴れて日本エリアに巨大研究施設を作って僕に再生手術の研究をやらせてもらえるんだよね?』

 

「私の権限フル活用で出来る限りのものを用意する、だから今は目を瞑って研究を進めてくれ、責任は私が……」

 

『ちょっとちょっと!何カッコつけてんのさ!』

 

突如会話を切られて少したじろぐ、一体なんだという言うんだ?

 

『僕にも噛ませてよね!おんなじ仲間なんだからさあ!』

 

「…………ふっ………了解だよ」

 

そうだったな、お前は飄々とした見た目と人間に興味のない内面を持つふりをして、その実、意外と親身だったりするんだよな。

 

さて、じゃあ私の思うままに世界の医療の最先端をひっくり返してやろう。

 

これまでの医療の常識の全てが過去になる、神経電位接続システムを応用した技術がそれまでの当たり前を変える。

 

日本エリアを、新たな研究特区とするために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前……。

 

 

「アンドロイドの実戦データと、神経電位接続システムの応用さえあれば、理論上最高の同調率を保つ義肢の開発ができるはずだよ」

 

「神経電位接続システム…………ジェレミア卿の背中のアレか?」

 

「そう、あれの技術を応用すれば、ジェレミア君とジークフリートが神経を通して高度に接続するように、ドナーと義肢を高い同調率で接続することが可能なんだ」

 

「具体的には?」

 

「従来品と比較する方がわかりやすいかな?………神経を電気を通して接続するわけだから、脳からの命令に応じるまでのラグはほとんどない、ただ、義肢の中はシステムでほぼ埋まっちゃうから、駆動に必要なバッテリーの空間の確保が課題かな?」

 

神経電位接続システム……恐ろしい性能だ、KGFの操縦に使われるのも納得だ。

 

そのために全身に施すのは、人柱と変わらん外道だがな。

 

「数十分でも数時間でも、とりあえず動くものを作ってくれればいい、初期段階で完璧なものは求めない」

 

「そう言ってもらえると気が楽だね」

 

「先ずは作ることからだ、それでドナーを通して動くかどうかの確認だ、それが終わったら、すぐに特許申請だ」

 

「特許申請?……あー、邪魔が入ると嫌だしね」

 

「この研究を確実に日本エリアで進めるためにもな、そこかしこでやられては困るし、未成熟な技術の拡散ほど恐ろしいものはない、やり方はアレだが、可能な限り我々で技術の独占を行う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは言ったが……。

 

「こんな技術を真似できる組織はほとんどないだろうけどなあ」

 

ま、未成熟な技術を拡散して、混乱を招いてはいけない。

 

しかし、神経電位接続システムという画期的な装置は、精神感応波と同様、未だ底の知れない技術の結晶。

 

原石から削り取っている途中の宝石のようなもので、それがルビーなのか、サファイアなのか、それすらまだ判別のついていないのが現状だ。

 

なにせ、どちらの技術も【使えるものにしかわからない技術】であるからだ。

 

神経電位接続システムがどのようなものか想像することは容易いが、その正体は恐ろしく、言葉に出すことすら憚られる業によって誕生したもの。

 

精神感応波は文字通り人の精神性に左右されるもので、私はそれをなぜかほぼ十全に使えているが、使う時のこの感覚は、使えない・知覚できない人間にとっては理解できない不気味なものなんだろう。

 

そもそもの話、メリットばかりではないのが技術というものの常。

 

神経電位接続システムは特殊な手術が必要になる、それが義手を取り付けるためであれば、その腕の先端部に埋め込むようにして取り付ける必要があり。

 

少なくとも数週間以上に渡って患部を激痛が襲う、当然だ、なにせ切り開いて異物を突っ込んで閉じ込めているのだから、馴染むまでは相当の時間と耐え抜く精神が必要だ。

 

私の精神感応波は手術は不要で、思い描くままに反映できる。

 

その反面、使用時は脳に常に激しい負荷がかかり続け、より優れた精度・速度を求めれば負荷は倍々に増加する。

 

その果てにあるのは、脳死だ。

 

私は運良く過労でぶっ倒れた程度で済んだが、コードがなければもっと酷い……たとえば仮死状態になってもおかしくはなかった。

 

これらのうち神経電位接続システムにのみ、デメリットに対する回答はすでに為されているのが救いだろう。

 

術後の痛みは投薬によって個人差はあれどある程度の減少が見込める、馴染むまでの時間は装置部の改良によって数%の向上が見られた。

 

私的に残念なことだが、精神感応波の技術的なデメリット軽減策は今のところ装置部の巨大化によって行われているが、その影響で熱量が上がり、冷却が追いつかない場面も見られる。

 

ガウェイン の改修案のテスト中に発覚したものだから大変だ、神経電位接続システムと精神感応波、そこにプラスでガウェイン の改修案の書き直しという業務まで足されたのだ。

 

まったくもって笑える状況でもなんでもないのが腹立たしい、しかしそれでもやらねばならんのが技術職の辛いところ。

 

しかし、一番辛いのは、ドナーだ。

 

ドナーは………あの研究所、いや、実験場のカプセルから救助され、里親が見つかり次第引き取ってもらっていた。

 

しかし、どうしても見つからない者もまたいた。

 

意識が回復しても人体実験のせいで諸々の反応が薄く、未だ人並みの生活が送れないと判断された者。

 

復帰し、社会生活が送れると判断されても、心の奥底で人間に怯えてしまい、踏み出せない者。

 

そして…………なぜか、私を名指しで里親に指名する者まで……。

 

「どうして、こうなるのだ……!」

 

なぜ顔も知らない性別も知らない、性格も体格も知らない尽くしの私を名指しする!?

 

現場の兵士か!?それとも入院先の看護師か!?

 

どこだ、どこから私の名前が漏れた!?

 

「私はそんな………【子供が大好きな優しいお兄さん】、じゃあないんだぞ!!」

 

どう湾曲すれば私のイメージがそうも捻じ曲がって患者に伝わるんだ…………。

 

しかも……しかも……。

 

「いや、それただの情報管理の不徹底じゃん?」

 

「うっさいわ!そんなこと百も承知じゃ!」

 

「お〜こわ!ヘンゼルお姉さんは退散するわ〜」

 

「ちょっとオリジナル?そううるさいと眠れないんだけど?」

 

しかも!!!

 

「なぜユーロピア行きの皇帝陛下専用列車に、貴様ら(ヘンゼルとグレーテル)がいるのだ!」

 

クソが!付いてくるなら棺桶にしておけと……。

 

「ロイドが『いーじゃない、両手に花だよツキト君』って言うし」

 

あんのボケがァァ!

 

拗れるだろうが!大事な会談なんだぞ!?アホかあいつ!?……いや普通にアホだったわあいつ!

 

「そうカッカしないでよ〜、オリジナルの情報を患者に言ったの私達だけど」

 

「貴様ら………貴様らァァ………!」

 

絶対……絶対に!いつかスクラップにしてやる!!!

 

「あー……マジスんませんっした」

 

「ぐっ…………まあいい、私のイメージは崩れたが悪くない方向だったから良しとしておく」

 

「いえーっす!オリジナルってマジ太っ腹!」

 

「マジリスペクトっすわー、マジパネエッスわー」

 

「調子にのるな、このポンコツアンドロイドめが」

 

誰に似やがったこいつら…………私じゃないか……。

 

「まーまー…………それで?会談ってのは何が目的なのさ?」

 

「まあ、無難に、教科書にあるような敗戦国と戦勝国のやり取りさ、賠償金に領土割譲、あらゆる利権と人的資源のぶっこぬき………いろいろだ」

 

「やっぱさ、分捕るだけ分捕る感じ?」

 

悪どい顔でグヘヘ、なんて笑いながら言うヘンゼルの顔にイラっときたのでチョップを喰らわせてから話す。

 

「いいや、いくら賠償金をもらっても、いくら土地を分捕っても、もう取り返しのつかないほど国土を荒らしてしまったわけだ、金も土地も、人間も、もうほとんどいやしない」

 

「じゃあ何しに行くわけ?」

 

「復興支援の取り決めのための合同会議、っていうのが一応の題名だったか」

 

「復興支援?してるじゃん」

 

グレーテルの言葉にうなづきつつ、続ける。

 

「今の簡易的な瓦礫の除去程度では到底ではないが、安心して人が住めるようなものではない、道路の舗装や水道管の工事、送電網の配備といったインフラ整備はもちろん、景観の再現も大切だ」

 

「ふーん、なんでそこまでやるの?」

 

「人がいないからだ」

 

「人がいない?ちょっとちょっと、仮にも首都のパリだよ?いくらオリジナルがめちゃくちゃにしたとはいえ、復興支援もやってるんだし、住んでた人は戻ってきてるでしょ」

 

「それが、そうでもないのだ、実に厄介なことでな」

 

ブリタニアとユーロピアの終戦後…………否、戦争直前から多くのユーロピア連合国の国民が中華連邦へと亡命していたのだ。

 

ユーロピアは大国ではあったが、初戦から続く連敗で不安が募った国民から中華連邦へ亡命していったらしく、すべて合わせると総人口の約4割にも及ぶ。

 

この亡命していった者たちこそ、ブリタニア領ユーロピア自治区の目下の不安要素だった。

 

ほとんどが一般人ではあるもの、中には大企業の重鎮やVIPも含まれている彼らだが、終戦後に戻りたいと声が上がった。

 

これに反発したのは当然、国と運命を共にする覚悟を背負った元

ユーロピア現ブリタニア国民だった。

 

『国を捨て、中華連邦に尻尾を振った雌犬風情が今更……』という風に不満が勃発、空港等にデモ集団が押し寄せ、帰国予定者を乗せた旅客機が発進できずにいるのだ。

 

ユーロピア自治区のトップとしては、VIPだけでも何とか帰国させ復興への援助を受けたい一心なのだが、元が民主体制であるゆえ、数千万の元国民を置き去りに数十人だけを特例で連れ帰るなど不可能だった。

 

ブリタニアも対策を練っていたが、なにぶんユーロピア自治区はこれまでの占領地と違い、最初から自治区の異例の優遇処置を受けている、まさしく日本エリアの目指すべき特区の姿だ。

 

終戦後のごたごたで反乱の兆候がチラホラと合間見え、絶対数の不足から未だに駐留部隊がいない地方さえ存在する。

 

それだけユーロピアは広大だった。

 

そんな、いつ爆発してもおかしくない火薬庫…………いいや、いつ爆発してもおかしくないサクラダイト数千トンの山のような場所に、喜び勇んで行けるほどの皇族はいなかった。

 

無論、貴族も同じだった、皇族の嘆願だから……と言っても、怖いものは怖い、それまでの縁を切ってまで拒否した諸侯も多いそうな。

 

これでは神聖ブリタニア帝国の威厳はないも同然、早急に、何でもいいから大使でも送れとばかりに陛下の側近がパニックに陥り、結果として私に白羽の矢が立ったわけだ。

 

終戦に導いた、というより、勝ち戦を取り逃がした元凶たる私を送るのはわかる、わかるが………。

 

「気が乗らん」

 

「まあまあ、そう言わずにさあ、ね?ツキト・カーライル卿!」

 

「卿はつけるな!虫酸は走る……」

 

そう、たかが大使としてラウンズを送るだけなのに、見た目を気にし過ぎる側近が私を『貴族』にしてしまったのだ。

 

もちろん諸侯は猛反発、『貴族位を捨てた若造を今更……気でも狂ったか!?』という感じに、ものすごい大荒れだったようだ。

 

当事者の私のいない本国で、だが。

 

しかし、それでも結局は『じゃあお前代わりに行くか?』という脅し文句には引き下がるしかなく、すごすごと反対派の運動は沈静化していった。

 

そしておととい、皇帝専用列車に搭乗する直前、私宛に届くファックス。

 

【お前を貴族ってことにしとくから!会談よろちくびー!(意訳)】

 

ざっけんなゴルァ!!!(バァン!)

 

という叫びを堪えて列車に揺られること2日、そろそろ窓から叫んでもいいんじゃないかな?

 

私の一世一代の決意をさあ……こんなミソッカスみたいな理由で…………こんちきしょう!あの側近帰ったら絶対にコロs

 

 

 

ギャギャギャギャギャギャアアアアアアアアンンンッッッッ!!!

 

 

 

「急ブレーキ!?」

 

「うっそまじで!?」

 

「動物でもひいた!?」

 

「まずいなそれは大問題……じゃない!何かに掴まれこのアホアンドロイド!」

 

突如、急ブレーキがかけられて反動で身体が宙に浮く、急ぎ身を捩って座っていたソファの飾り部分を掴んで床に降りる。

 

次いで衝撃に対する体勢、対ショック姿勢を取る、守るべき部位は当然頭だ。

 

しかし列車は停車、予想していた衝突などの衝撃はこなかった。

 

なんだ?何が起きた?

 

窓の外を見る…………わからん、広大な草原が見えるだけだ。

 

「ヘンゼルは内線を繋げろ、グレーテルは鞄から武器を取り出してドアの前に立て」

 

「「了解」」

 

リンクせずとも異常な事態と察したか、ヘンゼルとグレーテルはすぐに行動を開始した。

 

ヘンゼルは内線を繋げようと受話器を取って番号を入力し始める。

 

グレーテルは持ってきたカバンの中からサブマシンガンを取り出してマガジンを挿しこみ装弾した。

 

私はというと、華やかな装飾ゴテゴテの服を脱ぎ、防弾性能の高いKMFのパイロットスーツを着込み、防弾チョッキを装着する。

 

万が一に備えて、前に一度ユーロピアに持ってきたあの装置を起動させておく。

 

「…………どこも通じない、呼び出せてるから断線じゃない」

 

ヘンゼルの最悪の報告を受け取ったのはグレーテルからサブマシンガンを受け取っている時だった。

 

状況が読めんが、とにかく。

 

「私の権限で緊急事態の発生と断定する、列車の機能はわかる部分では電気が通っている程度、それ以外は不明だ、籠城は得策ではないため部屋から出て散策を行う、異存は?」

 

「「なし」」

 

「列車前方の操縦室へと向かう、お前たちは私を守れ」

 

「元よりそのつもりよ、あと、オリジナルはできるだけ身軽にしといて、応戦は私とグレーテルがやるから、オリジナルは隠れることを優先して」

 

「マガジンは私とヘンゼルが多く持ってく、そうすれば防御力を確保しつつ動き回れる程度には重量を抑えられる…………まあオリジナルにとっちゃあるのもないのも同じかもね」

 

「頼む、では…………出るぞ」

 

ドアをゆっくりスライドして開け、ヘンゼルが前方と後方をクリア、部屋から出て列車前方の通路の警戒を行う。

 

同時に、グレーテルも列車後方の通路を警戒、ヘンゼルが前の車両のドアに近付くまで後方の安全を確保する。

 

リンク無しに私の思った通りの行動を取る…………まさに、私の想い描く理想の兵器、そのイメージが形として目の前にあるようだ。

 

ヘンゼルが車両前方のドア前まで近づいたところで止まって反転、後方の確認を始めると同時に、グレーテルが車両の後方のドアまでをクリアリングする。

 

ハンドサインを部屋の中から鏡を使って覗き見る、2人が言うには、この車両には何も無いそうだ。

 

人気(ヒトケ)も、不審物も、何も無い、ということらしい。

 

信じて部屋……皇帝専用列車の中でも特に広い個室から出て、ヘンゼルの近くまで音を立てぬように歩いて近づく。

 

そうやって少しずつ前の車両へ、前の車両へと進み、操縦室に入った。

 

「………ちっ」

 

思わず舌打ちが出る。

 

「…………死んでるわね」

 

操縦室には運転手とその補佐役の2人が常駐しているが、どちらも席に座ったまま死んでいた。

 

頑丈な防弾ガラスは無傷、何故か開いている外への出入り口………どんな方法かは知らんが、厳重で分厚い装甲を持つ操縦室の外への出入り口を開けて入ってきたわけか。

 

グレーテルに操縦室の外への出入り口を閉めさせる、狙撃されてはかなわんしな。

 

「左肩と首元の間に刺し傷、だいたい……12cm以上のかなり頑丈な刃物」

 

「サバイバルナイフよりかは、銃剣のほうが妥当か」

 

「抵抗した様子はないね、拳銃はそのままだし、シートベルトも締めたままだったみたい」

 

「ますますわからんな………」

 

列車を止めたということは、何かしら列車の外で異変があったと言うことだ、出なければ列車を停車させるなど………。

 

「………もしかして!」

 

「あぁ、おそらくそれだ」

 

「オリジナル、それまじで考えてる?」

 

「正直一番ありえないと思うんだけど?」

 

「だが、状況はそれが一番だと言っている」

 

くそったれ………。

 

「犯人は内部……そんなの当たっても嬉しく無いんだけど〜」

 

私もだよまったく、くそが。

 

「チェックは万全なはずよね?」

 

「運転手とその補佐以外の乗員は皆、親衛隊だ、チェックといっても軽いものだったんだろう」

 

グレーテルにそう返しつつ、苛立ちを鎮める。

 

私ともあろう者が、敵を見抜けぬとは、不甲斐ない。

 

「仕事しっかりして欲しいんですけど……まじで」

 

「まったくだ……しかし起こってしまった以上は解決せねばならん」

 

死体の瞼を閉じさせて2人の方を向く。

 

「列車後方にて待機しているはずの兵士から音沙汰が無い今、そちらも全滅していると考えていいだろう、あるいは全員が敵の可能性もある」

 

「3人での確認は危険だし、突破は非常に困難、私とグレーテルが盾になればサブマシンガンくらいは全弾通さない自信がある」

 

「ライフルはもちろんだけど無理、そこまでこのボディは硬くない、加えて、道が狭く一直線だからオリジナルが回避しつつ突撃するのも困難」

 

「積荷は全てチェックしてあるからライフルはないだろう、警戒すべきは散弾銃だ」

 

「全体の武装はどんな感じ?」

 

「4丁だ、親衛隊は16人、弾種は散弾のみ、ほかはサブマシンガンと全員オートマチックを持ってる」

 

「スラッグやサボットがないだけまだマシね、対してこっちは……」

 

「私とヘンゼルはサブマシンガンが1丁ずつ、オートマチックが1丁ずつ、ペッパーボックスが1丁ずつ」

 

「リボルバーが1丁と、剣が1本、それと………使い物にならないショートの散弾銃が1丁だ」

 

そう言って服の内側から取り出したのは細長い短筒、グリップなどと言うものはないただただ垂直な見た目に、無骨を通り越して『犯罪者が密造しました』という雰囲気が半端じゃ無い。

 

この、装飾のついた鉄パイプとホームセンターで売ってる日曜大工の部品で作った感溢れる散弾銃は、実はれっきとした正式採用の銃器だったりする。

 

「えっ……何それ?単眼鏡?」

 

「……に見せかけた護身用の散弾銃でな、ぱっと見ではレンズもはまっていてそれっぽい装飾もある、指揮官が持ってそうな単眼鏡だが、中には1発だけ散弾が装填されている隠し銃だ」

 

「また変に凝ったものを作るねぇ…………最悪はそれも使うことを考えたほうがいいかもね」

 

困った顔で言うヘンゼルに『まったくだ』と返そうとした時だった。

 

小さな、本当に小さな足音が聞こえた。

 

締め切ったドアの向こう側から。

 

複数人の足音が。

 

認識したと同時に一時的にヘンゼルとグレーテルと精神感応波でリンクし、行動をイメージとして送る。

 

すぐに行動を、しかし物音を立てずに行うヘンゼルとグレーテルを見ながら、私はリボルバーを抜く。

 

撃鉄をゆっくりと起こしながら、タイミングを待つ…………。




皇帝専用列車の中で人殺すとか…………犯人はすっげえ不敬罪ゾ、ってかむしろ大逆罪ゾ。

・単眼鏡型短散弾銃

名前通り、指揮官用の単眼鏡に酷似した見た目を持つ散弾銃。
マッドマックスや北斗の拳等で人気のダブルバレルの半分以下の超短銃身で威力・射程に難があることをもってしても、それさえ補って余りある傾向性能と隠蔽性能、そして不意打ちの成功率が、ブリタニア軍の高級士官向け護身武器として正式採用へと至った。
配備直後から多くの指揮官がコメントを残した、中でも多かったのが【兵器局仕事して、どうぞ】であったとか。

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