ツキトside
「面会、ですか?あのキョウトのスメラギが?」
「あぁ、この前しつこくせがまれたんだ」
久しぶりに私とルルーシュとC.C.の3人での情報共有の時間がとれたた。
クラブハウスのルルーシュの部屋に来てみたら、いきなりそんな話題を振られた。
「あのキョウトの小娘曰く『ゼロと旧知の中であるツキト・カーライルを見極めたい』のだそうだ」
「小娘風情に私を見極められるものか……………しかしルルーシュ様、いささか急ですな」
「ツキトもそう思うか?」
「はい、何か急いでいるような、今でなければならない、という焦りを感じます」
時期がそもそも怪しい、ルルーシュにはすでに伝えたが、ユーロピアとの会談がもう3週間を切っているのだ。
加えて、騎士団は内部で完全な二分化が進んでいる状況だ。
何かある、というのは素人でもわかる。
「俺はユーロピアとの会談についてだと思う、大穴で騎士団の荒れ様についてか…………ツキトはどうだ?」
「時期的にユーロピアとの会談の線が濃厚かと、騎士団については、キョウトが現状を把握しているか定かではありませんので、なんとも」
「C.C.は?」
「そうだな………案外、少し前の新兵器の暴走事故の蒸し返しかもしれん」
「新兵器の暴走、それも怪我人が出た騒動だ、何かやっかみを入れてくるかもしれないな」
「そうなると厄介です、日本は従来より加工貿易により栄えた国家、今後の発展のためには、新兵器に使われている技術は必須のもの、ここで失うわけには………」
擬似的な人工知能(AI)の製造技術、人型電子機械(アンドロイド)の製造技術、どちらもブリタニアの科学者だけでは手に余る。
より多くの優秀な科学者が必要なのだ。
そのための枠作りを邪魔させてなるものか。
「新兵器の実験データさえ集まれば、それを医療技術に繋げることができる…………まだ多くの民が苦しんでいる、そのためにも、何としても邪魔立てだけは許してはいけない……!」
アンドロイドの実験データが多く集まれば、歩行補助の装置や義手・義足などの技術は革新的に飛躍する。
それを日本エリアで起こすことで、ブリタニアの上層部にはっきり、明確に、日本エリアの重要性を認識させることができる。
成功すれば、自治区化など難しいことではなくなる、むしろ自治区化を促す可能性すらある。
これを足掛かりに、医療技術の研究を日本エリアに集中させる、そうすることで日本エリアはより大きな価値を得るのだ。
下衆で下世話な話だが、人間は価値あるものにしか金を出さない……しっかりと価値を提示すれば、多くの出資を募ることができよう。
副次効果として、日本エリアの頂点として立つ予定のアッシュフォード家に【箔】と大きな貸しを作れることだろう。
私自身の評価も大きく向上することは間違いない、私の影響力が大きくなれば皇帝陛下への口添えも非常に容易なものになろう。
ルルーシュが皇帝として返り咲く頃になったら、『すべてルルーシュ様の指示でした』と発表する。
するとどうだ?次期皇帝に相応しい賢人がだれか…………素人でもわかることだろう。
長い時間がかかってきているが、まだまだ下地の準備段階、もう少し、もう少し念入りにこねなければ、極上の演出はできない。
「ツキトがその研究に心血を注いでいるのはわかった、だが、あまり足踏みをしていては獲物が逃げてしまうぞ」
「承知しております、これは言わば下準備、彼奴の喉元に短刀を近づけるための…………喉笛を搔き切る瞬間は一瞬です、ゆえに、懺悔の暇なく絶望の中で殺すためには、必要な演出なのです」
「…………俺はただこの手で殺せるなら別に……」
「いいえ、ルルーシュ様、彼奴は帝国の実質的ナンバー2、ルルーシュ様が彼奴を殺す正当な『理由付け』が無ければ、その後に影響が出ます」
「それもそうか、それで、ツキトはその理由付けをしているのか?」
「正確にはその下準備です、ルルーシュ様とナナリー様が皇族へと復帰なされた後、彼奴の悪虐非道の罪を列挙し、ルルーシュ様自らが彼奴の命を断つ…………そのための準備でございます」
「…………何から何まで、お前には苦労をかける」
「ははは、もちろん私も下賎な人間ですから、ルルーシュ様とナナリー様のお褒めの言葉さえ頂ければ幸い、という気持ちもありますが」
いや、本当にこの2人の後についていけば人生安泰コースだしな。
「もっと欲を出せツキト…………そうだな、よし、皇族に復帰してナナリーと結婚したら、ツキトを皇族に加えよう」
「は、はっ!?」
いきなり何を言いだすんだこのイケメン!?
私を皇族に!?面倒ごとのタネを蒔くんじゃない!
「ずっと考えていたんだ、ツキトに恩を返す方法を……だが、俺ともあろうものが全然思いつかなくてな、さっきのツキトの言葉でピンと来たんだ」
んなもん来なくていいんだよ!!ホントにやめろぉ!
「いいんじゃないか?私はアリだと思うぞ、ナナリーと結婚すればツキトは義弟になるわけだし、家族なのだから皇族であっても不思議はないだろう」
C.C.この野郎……うぐっ、あかん私の胃が…………痛すぎて溶ける!消滅するぅ!!
とりあえず適当な返事を返し、もう一度漏れがないか確認しあって解散となった。
スメラギとの面会については、来週にお忍びで行くことをゼロから伝えてもらうことにした。
私から手紙なり書いても良いのだろうが、向こうは少なくとも私とゼロの関係をわかっててやっているはず。
口頭で伝えればその情報はゼロとスメラギしか知らない情報になる、わざわざ文章に起こしてどこかで漏れた時、面倒だからな。
それに今回のはゼロを通じた強引なアポ取りだ、向こうが少しでも不遜な態度で応じるようなら……即白紙に戻す。
侮られてはならん、私も忙しいのだ、暇なのか、などと思われてはいかん。
そもキョウトはブリタニアの傘下、こちらが下手に出る必要はない、常に上から目線で仁王立ちするくらいの覚悟を持っておかなければ。
no side
ツキト・カーライルの持ち得た神格は、ツキト・カーライル自身の想い、願いによってその本質が変動し、より強固になっていく。
これは他の転生者が神格を持ち得た場合も例外なく変動し強固になっていく。
しかし、ツキトの神格はそもそもが特異な条件で発生している。
常人では殺せない存在を殺すための能力を持ちながら、常人では殺せない存在の能力を獲得し、相反する状態が長く続いた。
結果、融合を繰り返しながら変質、不老不死にして神すら殺し得る力をその身に宿したのだ。
通常ならば、強力な転生特典が御都合主義で謎変化して超低級の神格へと変わるもの。
さらに、神格にかける願いも違った。
最強でありたい、無敵でありたい、モテたい、ハーレムしたい…………そんな俗な願いを受け取った神格は、そこから伸びることはなく、ただただ怠惰な道を進むだけだ。
しかしツキトの願いは『万象あらゆるものと戦いたい』、『ただ1人の愛する人を包みたい』というものだった。
どの転生者も願いに差はあれど、その本質は同じ、『最初から(生まれた時から)1番がいい』という傲慢に満ちたものだ。
『〇〇のアニメキャラの〇〇の能力が欲しい』…………などという転生特典が、傲慢でなければなんなのだろうか?
ツキトの本質も似てはいるが、それは1番に『なりたい』というものであり、スタート地点が最下位からでも構わないのだ。
ツキトが他の転生者と違って外側と接触を得られて今まで健在であることは、ある意味運命だったのだ。
ほとんどの転生者はそもそも外側など知覚できない、知覚できた者たちは傲慢さ故に即座に存在ごと
消滅させられるのだ。
それでも多少の我慢をして、神界に押し入り存在を消された者もそれなりにいたが、その者たちは『今の神を殺し、自分が最強無敵の最高神になりたい』という傲慢から驕りを招いた。
ツキトは自身の力量を把握している、いかに自身が強かろうと相手は神、転生特典もらってウハウハな他の転生者と違い、慢心などできようはずがなかった。
まあ、ここまで転生者を傲慢だ傲慢だと酷評したが、その気持ちがわからないでもない。
前世で勉強できず、良い就職先も見つけられず、親友人と疎遠になり、モテず、未来に不安を抱えながら生きて行く………そんな時、突然に転生のチャンスを得た。
どうせ転生するなら?………スパコン並みの頭脳、博愛に満ち、未来への不安も微塵もないエクセレントイケメンフェイス、最強無敵超絶怒涛のスーパーチート能力…………それらを望むのだろう、望んでしまうのだろう。
どれもこれも、前世ではろくに触れることなく、遠い遠い存在であり、手を伸ばしても伸ばしても届かない先にあったものなのだから。
先程傲慢だと言った転生者たちの願いは、裏を返せば『もうあんな人生は歩みたくない』という、究極の臆病からきているのだ。
モテない人生よりモテる人生のほうがいい…………当然だ。
ボッチ人生よりも友達がたくさんいて両親や親戚共仲良くしていられる人生のほうがいい…………当然だ。
頭が悪くてロクな就職ができない人生より、頭が良く要領も良く、企業側からスカウトがくるような人生がいい…………当然だ。
平々凡々な人生より、刺激に満ちた人生のほうがいい…………当然だ。
当然、当然のことだ、今の自分よりも良い状態を願うことは至極真っ当で当然、当たり前のことなのだ。
だからこそ…………転生する時、願うものは皆んな同じ『セットメニュー』を選んでしまうのだ。
それが悪いとは言わない、それで誰かに迷惑をかけるようでなければ、誰だって文句は言わない、むしろ讃えるだろう。
しかし彼らは…………チート能力を得て転生した彼らは、転生した先の世界に馴染むように平々凡々な生活を送れるのか?
否だ、ではなぜか?
試したくなるに決まっているからだ。
己のモテ度!どれくらいモテるのか?世界一モテるのか?それとも二位か!?
己のチート能力!本当にチートなのか?この世界ではありふれたものじゃないのか!?
己の頭脳!誰よりもI.Qは高いはずだろう?世界一なんだろう!?
大きな力を得たのに、心のどこかで不安が募り、だんだんと試したくてたまらなくなる。
そして使ってしまう、さあ大変だ、チート能力の味を占めてしまった。
イケメンフェイスで女を侍らせ男を侍らせ、チート能力で難敵を軽々滅相、快楽のままに暮らしましたとさ。
なんてことにはならない、そうしようとすれば、外側が修正を試みる。
それが原作キャラの死亡、敵の強化に繋がり、回り回って転生者が最大の自業自得を正面から搔っ食らう羽目になるのだ。
ではツキトもそうなのでは?
実はそうだ、本来なら強力な修正力が働くはずであった。
しかしツキトは最初から原作キャラを殺害している、それがユーフェミアを生かすという原作崩壊にたいする修正力を弱めることになり、結果として釣り合いが取れてしまった。
外側も別に嫌がらせで修正をしようとか運命力を変化させようなどとは思っていない。
世界が壊れてしまいかねないからこそ、修正を働かせるバランサーなのであって、釣り合いさえとれれば良いのである。
扇の死とブリタニア軍クーデター兵200人余りの死は、ユーフェミアの生存と釣り合いが取れた、そう外側は結論を出し、以来修正力を発揮することはなかった。
ナナリーの目と足、アーニャの記憶は、マリアンヌの失明によって釣り合いが取られた。
天秤は水平を保ったまま、だからこそ外側の神々はツキトに接触はすれど、過度な干渉は行なっていない。
そんな外側の状況を知ってか知らずか、今日もツキトの願いが意図せずに、神格を成長させていることにはまったく気づいていない。
チート特典もらって転生してモテモテ人生エンジョイチャンスがあるなら、したいですか?
↓
したいに決まっとるやろ!
見てる側、転生を司る外側の神からすれば『やっぱりな♂』もしくは『またかよ……』っていうようなお決まりの特典貰って転生して、人生スタート直後に原作崩壊起こして強制的にインセインモードにさせられてるわけですもん。
で、ツキトがやったことはみんながハッピーセットを頼む中、1人だけチーズバーガーとポテトを頼むようなもので、そこで外側に目をつけられてしまうという…………幸か不幸かで言えば本人的には超幸運でしょうが。
驚いたでしょうねえ、ツキトの転生特典、基本的に役に立つことないんですもん。
転生特典が効く相手が実質2人でそのどちらもラスボスでもなければ中ボスですらないっていう、身体能力だってKMFに乗ったら関係ないし。
そりゃあ目も付けられますわ、最初は『何言ってんだこいつ』レベルだったのに今じゃ『こっちくんな』レベルで外側からやべえやつ認定食らってますからね。
そして肝心の神格、イメージで成長・進化するバトルものなら超熱い展開ですけども……………ツキトに勝てる存在、というか肉薄できる存在がいないので冷えっ冷ですわ。
ナナリーとアーニャが剣で対等になりそうに見えますが、それはあくまでツキトが『人間』だからある程度拮抗できるのであって、人間の枷を外したら一気に外側の存在になるので、まず触れることすらできなくなります。
ツキトは人間として生きているうちは外側に行くことはありません、理由は…………まあ、ツキトの気持ちになればきっとわかるのではないかと。
次回を待て